容姿にステータス全振りした“顔面強すぎ”転生者は望まぬ異世界ハーレムに苦労する。〜最弱男が最強【乙女騎士団】創設までのキセキ〜

小林一咲

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1話

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 ──死んだ。

 正確に言うと、交通事故だった。
 横断歩道、青信号、左右確認ヨシ。そこまでは完璧だったのに、最後に「ヨシ」と心の中で言った瞬間、ヨシじゃない物体が時速六十キロで突っ込んできた。

 次に目を開けた時、タモツは雲の上にいた。

「……あ、これ天国だ」

 根拠は三つある。
 一つ、地面がフワフワしている。
 二つ、空がやたらキレイ。
 三つ、目の前にいかにも神様ですという格好の人物がいる。

「ようこそ。照岡 全くん……あ、今後はタモツでいいかな?」

「名前勝手に略されましたけど、まあいいです。えっと……神様、ですよね?」

「そうそう。神様。最近多いんだよね、異世界転生希望者」

 神様は軽かった。ノリが完全に役所の窓口職員だ。

「ではさっそく、転生特典の説明をしよう。君には一万五千ポイントをあげる。これを各ステータスに振り分けてね」

 空中にウィンドウが表示される。

 筋力、耐久、敏捷、魔力、知力、運、容姿。

 ……ん?

「ちょっと待ってください。“容姿”ってステータス、あるんですか?」

「あるよ? 重要だよ? 世界を円滑に生きるために」

 タモツは腕を組んで考えた。

 正直に言おう。
 前世のタモツは、強さに憧れたことがない。剣で無双? 魔法で殲滅? いやいや、痛そうだし疲れそうだ。

「最強になんて、なりたくないんですよね」

「ほう?」

「どうせなら……この際だから」

 タモツはニヤリと笑った。

「超イケメンにしてください」

 神様が固まった。

「……え?」

「顔面。顔面ステータス。ここに全部突っ込みます」

「ちょ、ちょっと待って!?」

 だがタモツは止まらない。

 容姿:MAX
 容姿:MAX
 容姿:MAX

 ポイントがゴリゴリ減っていく。

「ほら! ほら! まだ入る! 上限ないんですかこれ!?」

「いや、あるけど……ちょ、他は!? 他のステータスは!?」

「最低限で!」

 筋力:最低限
 耐久:最低限
 魔力:ゼロに近い
 運:そこそこ(生きたい)

 最終確認。

 容姿だけが、異様な輝きを放っていた。

「……君、本当にそれでいいの?」

 神様が真顔で聞いてくる。

「ええ。顔が良ければ、なんとかなる気がします」

「ならない世界もあるよ?」

「でもなった世界もあるはずです」

 神様は深いため息をついた。

「……まあ、本人の希望だしね。じゃあ転生だ。あ、一応プレゼントとして小さな一軒家を用意しておくよ」

「え、家付き!?」

「井戸もある。ただし食料は自分で調達してね」

「……そこは文明くださいよ」

「はい転生~」

 光。

 次の瞬間、タモツは異世界の大地に立っていた。

◇◆

 家は、本当に小さな一軒家だった。
 木造、質素、でもキレイ。井戸もちゃんとある。

「……住む分には十分だな」

 問題は、腹だった。

「食料……ないな」

 冷蔵庫? ない。
 パン? ない。
 非常食? もちろんない。

「……森、行くか」

 狩りなんて無理だ。自分の筋力ステータスは自覚している。
 だから目標は低い。

「木の実……なんか食えるやつ……」

 そう思って森に入ったのが、運の尽きだった。

 ガサッ。

 嫌な音。

 ドスン。

 出てきたのは、巨大なボアだった。

「……あ、これ死ぬやつだ」

 タモツは冷静だった。
 逃げようとする。
 転ぶ。
 起きる。
 追ってくる。

「ちょ、待って待って待って!」

 握力20の腕で何ができるというのか。

「また死ぬ!!」

 その瞬間。

 ――ドンッ。

 衝撃音。
 ボアが横から吹き飛んだ。

 現れたのは、猫耳の獣人の少女だった。

 しなやかな体、鋭い爪、一瞬でボアを仕留める。

「……助かった……」

 少女はタモツを一瞥した。

「人間。弱い。森に入るな」

「ぐうの音も出ません……」

 冷たい視線。
 完全に軽蔑。

 だが、タモツが顔を上げた瞬間。

 少女の動きが止まった。

「……?」

 目が、揺れる。

「……顔……」

 理解している。
 この人間は弱い。
 武器も持てない。
 戦えない。

 それでも。

 視線が、離れない。

「……なに、この……」

 タモツは困惑した。

「えっと……?」

 少女は首を振る。

「違う。弱いのは事実。でも……」

 もう一度、顔を見る。

「……顔が……反則……弱いのは分かってる! でも!」

 少女は深く息を吐いた。

「……ボア肉、一緒に食べよう」

「話飛びすぎじゃないですか!?」

 だが、答えはそれだけだった。

 こうしてタモツは、
 最弱であることを理解されたまま、顔面だけで異世界の運命を狂わせ始めたのだった。

◇◆◇◆

 ボアは死んでいた。
 事実として、横たわっていた。
 さっきまでタモツの人生を終わらせかけていた相手が、今は完全に肉塊である。

「……本当に倒したんだな」

 タモツが呟くと、猫耳の獣人少女は首を傾げた。

「? 倒したけど」

 当たり前のように言う。
 タモツは改めて彼女を見る。

 猫耳。尻尾。しなやかな体。
 そして――瞳孔が開きっぱなしの目。

「えっと……」

 目が合う。
 外れない。

 近い。

「あの……?」

「……」

 無言。
 瞬きなし。

 怖い。

「……自己紹介、しません?」

 そう言うと、少女はようやくハッとしたように瞬きをした。

「……あ。そう」

 一呼吸。

「私はミーニャ。猫獣人。狩りが得意」

「えっと、オレはタモツです。ただの人間で、見ての通り弱いです」

「知ってる」

 即答だった。

「ですよね……」

 そのままミーニャは、じっとタモツの顔を見る。

 目が合う。
 逸らせない。

 ミーニャの瞳孔は、相変わらず開ききっている。

「……あの、ミーニャさん?」

「なに」

「さっきから、目……」

「?」

 ミーニャは自分の目を指でなぞった。

「普通」

「いや、捕食者のそれなんですよ」

「……顔が悪い」

「悪いのはオレですか!?」



「それで……このボア肉、どうします?」

 タモツが話題を変えると、ミーニャは即座に反応した。

「食べる」

「ですよね」

 問題はその次だった。

 タモツはボアの前にしゃがみ込み、しばらく考え込む。

「……どうやって捌くんです?」

 ミーニャが、ゆっくりとタモツを見る。

「……知らない?」

「はい」

「……本当に弱い」

「今さらそこ強調しなくていいですから!」

 ミーニャは深いため息をついた。

「仕方ない」

 そう言って、腰のナイフを抜く。

 手際は鮮やかだった。
 無駄がなく、迷いがない。

 皮を剥ぎ、肉を切り分ける。

 タモツは思わず見入った。

「すごいな……」

「生きるため」

「オレ、完全に生きる力がないな……」

「知ってる」

 二度目だった。

 肉を抱えて家へ戻る。

 家の中を見回したミーニャが言う。

「……火は?」

「え?」

「火」

「……コンロ、ないです」

「……」

 無言。
 ジト目。

「焚き火しかない」

「ですよね」

 外で焚き火を起こし、肉を焼く。

 ジュウ、という音と香ばしい匂いが広がる。

「……うまそう」

「うまい」

 断言だった。

 二人で黙々と食べる。

 沈黙。

 タモツが先に口を開いた。

「ミーニャさんは……どうしてオレを助けてくれたんです?」

「人間が死にそうだった」

「それだけ?」

「それだけ」

 間。

 そして、ミーニャは続けた。

「……あと」

 ちらりと、タモツを見る。

「顔」

「やっぱりそれかー!」

 叫ぶタモツ。

「弱いのに?」

「弱い」

「戦えないのに?」

「戦えない」

「じゃあなんで!?」

 ミーニャは少し考えた。

「……分からない」

「分からないんですか!?」

「頭では選ばない。でも、目が離れない」

 そう言って、また瞳孔が開く。

「本能、うるさい」

「それ、オレが悪いんですかね……」

「顔が」

「顔が悪い!?」



 気づけば、夜になっていた。

 森は暗い。

 タモツが言う。

「もう遅いですし……ミーニャさん、帰れます?」

 ミーニャは即答した。

「無理」

「え?」

「夜の森、危険」

「あなたなら大丈夫では?」

「一人なら」

 間。

「……一人、じゃない」

 そう言って、タモツを見る。

 嫌な予感。

「……え?」

「ここで寝る」

「え?」

「人間、弱い。放っておくと死ぬ」

「オレの家、守るためですか?」

「……それもある」

「“それも”!?」

 ミーニャは迷いなく家に入り、布団を見る。

「これ」

 そして――

 潜り込んできた。

「ちょっと!?」

「寒い」

「いや今夏ですよ!?」

「気分」

「気分で布団共有しないでください!」

 だがミーニャは動かない。

 近い。
 顔が近い。
 瞳孔、全開。

「……顔、強い」

「それオレのセリフじゃないですからね!?」

 タモツは天井を見つめ、静かに悟った。

 ――ああ、これ。

 眠れないやつだ。
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