凡夫転生〜異世界行ったらあまりにも普通すぎた件〜

小林一咲

文字の大きさ
4 / 108
第1章 オームの大災害

第4話 意外な一面

しおりを挟む
「ま、まあそんなに落ち込むことはないよ」

 いつもは何事があっても笑い飛ばしてくれる父でさえこの表情。母も母で馬車の外から見える景色を右から左へ受け流すようにして見つめている。
 
 女神の言うプレゼントがコレだったのなら……いやステータスは全て同年代の平均値だったし、普通に考えればプレゼントというのはこのスキル『普通』としか考えられない。
 
「父さん、母さん本当にごめんね」
「謝ることはないぞ。お前はそれだけ器用だということだ」
「そうよバルト。スキルを授かっただけでも尊いことなんだから」

 両親にここまで気を遣われると逆に申し訳なさが募る。
 ふと顔を上げ車内を見回すと行きで出会った(というか、一方的に見ていた)竜人族の少女がいないことに気がついた。教会がるのは港町から少し内陸部に入った小さな町だ。滅多に来られない場所だろうから観光でもしているのだろう。

 馬車に揺られうとうとと睡魔に襲われかけていた頃、ようやくオームの街に到着した。乗合馬車の集まる広場には留守番をしていた兄の姿が見えた。どうやら迎えにきてくれたらしい。

「お疲れさん」

 兄は僕の荷物を持ってくれ、それ以上は何も言わなかった。3人の顔色から吉報か凶報かなんとなく察したのだろう。
 それからしばらくはステータスを開いては閉じを繰り返し、その普通すぎる運命に落ち込む日々が続いた。近所に出掛けてはクスクスと笑われる始末。本来ならスキルを与えられたことは名誉であるはずなのに、どうして嘲笑されなくてはならないのか。僕の中にもやもやと感情が渦巻いていた。

 我がオーム領では10歳から納税の義務が発生する。だからずっと落ち込んでいるわけにもいかず、漁師である父の手伝いをしながら慣れない仕事もそれなりに頑張っていた。
 そんなころ、オームの領主であるピグレット伯爵が何の前触れもなく突然船着場に現れたのだ。当然、漁師たちは大慌てで船小屋に皆を集め領主を歓迎した。

「7日後、インヒター王国の王女シュリア嬢がこの町へ視察に来る」

 数秒間が開いた後、一同は悲鳴にも似た驚きの声を上げた。普通ならひと月前から聞いていてもおかしくはない話を数日前の今聞かされたのだから無理もない。

「今から準備なんて……」
「私も先程手紙が来たばかりでな。驚いているところだ」

 伯爵も内心大慌てだったようで、威厳も何もない困り顔を浮かべた。
 海産物でもてなすにしても大物が釣れる時期ではない。沖に出たとしても釣れる保証は無いし、とても数日では用意ができない。

 その日、役職を持つ者と漁師たちは徹夜で作戦会議をしていた。町の母たちは宿屋や食堂と協力しながら今ある食材で何か作れるもの、王女殿下に出せるものはないかと試行錯誤していた。

「ちょっといいか?」
「どうしたの兄さん」

 両親が大忙しな夜、僕の部屋にボルト兄さんが神妙な面持ちで入ってきた。兄さんは「ずっと聞けていなかったから」と僕のステータスについて尋ねてきた。正直忘れかけていたことだったけど、兄も兄なりに弟を心配してくれていたようだ。

「ステータスオープン」

*****

名前:バルト・クラスト
年齢:10
レベル:1
腕力:15
器用:15
頑丈:20
俊敏:15
魔力:15
知力:20
運:20
スキル【普通】

*****


「凄いな。こんなスキルは見たことも聞いたこともないよ」

 兄さんは分厚い本を取り出すと「これじゃないし、これでもない」と呟きながら何かを探し始めた。僕が不思議そうに見つめているのに気がつくと少々照れ臭そうにその本を見せてくれた。
 
「これは教会が出している【スキルブック】というやつなんだ」

 【スキルブック】とはその名の通り今までに神託の儀を受けた者たちに現れたステータスの中から、他者と被りの少ないスキル、いわばレアスキルをまとめている専門書だそうだ。
 何を隠そう兄の趣味はこの本に書かれていないスキルを見つけることだという。

「こんな身近に超レアスキルを持っている人がいるなんてラッキーだよ」
「な、なるほど……」

 専門的な用語や早口になるところを見ると、かなりオッタッキーな匂いがしてくる。この世界にオタクなんて言葉は存在しないけど、間違いなく彼はそれだろう。

「そのスキルのことで何かわかったら教えてな!」

 そう言うと、兄さんは自分の部屋へと帰っていった。
 普通が珍しいのは分かったけど、このスキル本当に使えるのかな。

 逆に不安が増すばかりである。

 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

最初から最強ぼっちの俺は英雄になります

総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!

コンバット

サクラ近衛将監
ファンタジー
 藤堂 忍は、10歳の頃に難病に指定されているALS(amyotrophic lateral sclerosis:筋萎縮性側索硬化症)を発症した。  ALSは発症してから平均3年半で死に至るが、遅いケースでは10年以上にわたり闘病する場合もある。  忍は、不屈の闘志で最後まで運命に抗った。  担当医師の見立てでは、精々5年以内という余命期間を大幅に延長し、12年間の壮絶な闘病生活の果てについに力尽きて亡くなった。  その陰で家族の献身的な助力があったことは間違いないが、何よりも忍自身の生きようとする意志の力が大いに働いていたのである。  その超人的な精神の強靭さゆえに忍の生き様は、天上界の神々の心も揺り動かしていた。  かくして天上界でも類稀な神々の総意に依り、忍の魂は異なる世界への転生という形で蘇ることが許されたのである。  この物語は、地球世界に生を受けながらも、その生を満喫できないまま死に至った一人の若い女性の魂が、神々の助力により異世界で新たな生を受け、神々の加護を受けつつ新たな人生を歩む姿を描いたものである。  しかしながら、神々の意向とは裏腹に、転生した魂は、新たな闘いの場に身を投じることになった。  この物語は「カクヨム様」にも同時投稿します。  一応不定期なのですが、土曜の午後8時に投稿するよう努力いたします。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。

暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一
ファンタジー
異世界に転生したが、欲に目がくらんだ伯爵により嬰児取り違え計画に巻き込まれることに。 流されるままに極貧幽閉生活を過ごし、気づけば暗殺者として優秀な功績を上げていた。 しかし、暗殺者生活は急な終りを迎える。 同僚たちの裏切りによって自分が殺されるはめに。 ところが捨てる神あれば拾う神ありと言うかのように、森で助けてくれた男性の家に迎えられた。 新たな生活は異世界を満喫したい。

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

転生特典〈無限スキルポイント〉で無制限にスキルを取得して異世界無双!?

スピカ・メロディアス
ファンタジー
目が覚めたら展開にいた主人公・凸守優斗。 女神様に死後の案内をしてもらえるということで思春期男子高生夢のチートを貰って異世界転生!と思ったものの強すぎるチートはもらえない!? ならば程々のチートをうまく使って夢にまで見た異世界ライフを楽しもうではないか! これは、只人の少年が繰り広げる異世界物語である。

処理中です...