凡夫転生〜異世界行ったらあまりにも普通すぎた件〜

小林一咲

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騎士学校編

第33話 訓練に次いで

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 夜の帳が降りる頃、僕は騎士学校にある鍛錬室の奥、ツキミヨの泉と呼ばれる大きな水晶の前にいた。
 ゆっくりと目を閉じれば、月明かりが水面を染めるように幻想的な風景が広がり、讃美歌のように爽やかな歌声が聞こえてくる。

 深く息を吸い込み、冷たく清々しい夜気が肺に満ちるのと同時に、心のざわめきが徐々に和らぐのを感じた。そうしてひとつ、ふたつと呼吸を重ねていけば体内にエネルギーが流れ込んで、また吐くたびに心の中の不安や緊張が解けていく。

「はい、目を開けて。これで瞑想の訓練は終わり」

 イシュクルテは優しく僕の肩に触れ、そう言った。

「本当に魔力は増えているのかな。あまり実感が湧かないんだけど」
「一度見てみましょうか」

 あれから約半年が過ぎていた。
 騎士学校の生活も残すは卒業試験を迎えるだけ。それをパスすれば僕たちは晴れて騎士の称号を得ることができる。訓練や勉強について来れず、志半ばで辞めていく者も何人かいたが、きっと彼らもどこかで、また違う形で己の正義を貫いていることだろう。

「ステータスオープン」

*****

名前:バルト・クラスト
年齢:10
レベル:10
腕力:40
器用:38
頑丈:40
俊敏:51
魔力:75
知力:65
運:33
スキル【普通】

*****

 レベルはこの8ヶ月余りで10に到達。腕力や俊敏といったその他のステータスも入学時より格段に向上している。鍛えれば鍛えただけ成長する――これは普通のことだ。
 そうして、僕は次の訓練を始めることになった。

「魔力枯渇の訓練……?」
「そう、文字通り魔力が枯渇するまで使い続けるの。そうすれば自分の限界も知れるし魔力量の底上げにもなるわ」

 確かに、今までの模擬戦やら魔物討伐やらでは例のスキルが自動的に発動していたせいか、魔力が底をつくということは無かった。今回の目的はグラウスとバジリを霊魂から実体化させることではあるが、魔力の向上によって戦闘の幅を大きく変え、戦況を優位に進めることができるだろう。


 僕は広々とした訓練場の真ん中に立っていた。周囲には練習用の魔道具や標的が点在し、彼の目の前には巨大な石の柱がそびえ立っている。訓練場の端には、魔力を測定する装置が設置されていた。

「魔力を枯渇させるのは、簡単なことではないわ」と、隣に立っているイシュクルテ先生が言った。

「まずは全力で魔法を使い切り、魔力量をゼロにすることが重要よ。その後、自然に魔力が回復する過程で魔力量が増えることを目指すわ」

 深呼吸をし、集中力を高めた。彼の中で渦巻く魔力が感じられる。手を前にかざし火の魔法を発動した。「ファイアボール!」と叫ぶと、巨大な火球が柱に向かって飛んでいった。爆発音とともに火の粉が舞い上がり、柱は黒く焦げた跡を残した。

「もっとよ! 枯渇するまで続けるの!」

 僕は滝のような汗をかきながら、次々と魔法を繰り出した。火属性魔法、水属性魔法、風属性魔法、そして闇属性魔法。それぞれが柱に炸裂し、訓練場は一時的に嵐のような状態になった。それでも僕は止まらなかった。魔力が尽きるまで、自分の限界を超え続けた。

 やがて、本当の限界を迎えた僕は膝をつき、息を荒くしながらも笑みを浮かべた。

「やった、完全に枯渇した。魔力量がゼロだ」

 イシュクルテはうなずき、彼の肩に手を置いた。

「よくやったわ。魔力が自然に回復する過程で魔力量が増えることを実感するはず。だけど、無理はしすぎないように。体と心を休めながら、この訓練を続けることが重要よ」

 回復薬《ポーション》を飲んでから深呼吸をし、心を静める。
 卒業まであと僅か。それまでになんとかグラウスとバジリを霊魂から解放してやりたい。

『王手ですわ』
『またまた負けちまったかあ! なんでそんなに強いんだよお』
『旦那様の意識の中では私の方が一枚 上手《うわて》のようですね』

 バルト・クラストの潜在意識の中、彼らは楽しそうに将棋を嗜んでいた。
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