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王都・近衛騎士団編
第76話 損失
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「何か私の顔に付いていますか?」
まさかそんなことが……?いや、顔も出立ちもそのままの姿だし、偶然似ているだけなのか、それとも――
「バルト? どうしたのです?」
「い、いえ何も」
ここで「魔族に似ている」なんて言ったら大問題になるだろうし、ヘタをしたら処刑もあり得る。
確かに容姿は酷似しているが、明らかに雰囲気が違う。そんなアヤフヤな感覚で片付けるのは危険だと思うけど、彼の反応から見ても似ているだけの別人か。
「本当に大丈夫?」
「すみません。よく似ている人物を知っているので……つい」
「そうか、ならば自己紹介といこう。私の名はユーア・リッチ・インヒター。シュリアの兄で、便宜上はこの国の第一王子さ」
王子?この国に王子がいたのか?
そんな話は全く聞いたことがなかったけど。
「『王子なんていたのか?』って顔だね」
「い、いえそんなことは……」
「良いんだ。それが正しいんだよ」
「と、言いますと?」
「兄上は確かに現国王と王妃の子どもで、私の兄ですが、王位継承権はありません」
第一王子なのに継承権無し?何かやらかしたのだろうか。
「私は王位より研究の方が性に合っていてね。自ら継承権を破棄したんだ」
「なるほど」
この世界の人は実に自由だ。それは王家においても変わらないらしい。
「兄上が『王にはならない』と言い出した時、国王がどれだけ頭を悩ませたか……」
お天馬――ジャジャ馬と言うべきか。彼らの自由ぶりは一体どちらに似たのか。
「さて、団欒はこの辺にして――」
ユーア王子は軽く咳払いをすると、僕に正対して深く頭を下げた。
「王子?!」
「随分前にシュリアを、我が妹の命を救ってくれたと聞いた。心から感謝を申し上げます」
「そんな!! 僕は何もしていなくて、騎士団の皆様のおかげなのです」
「そうか。しかし、君がいなかったら騎士団の到着前に妹は殺されていたかもしれない。本当にありがとう」
更に腰を曲げる王子に対して、僕はただただ慌てることしかできなかった。
◇
「さて、兄としての勤めは果たした。次は研究者兼この国の王子として尋ねたい」
頭を上げたユーリ王子の目は鋭く僕を睨みつけていた。
この飴と鞭には、甘やかされた舌を麻痺させた後で鋭い刃を突きつけるような容赦のなさがあった。
「君は魔族か?」
「は?」
冗談を言っている表情でも空気でもない。
まるで解剖台の上に乗せられた蛙のように、僕は冷たい視線に晒された。
ユーリ王子の目には、ただの疑念ではない。確信めいたものが宿っていた。
「……どういう意味でしょうか?」
自分でも驚くほど硬い声が出た。
心臓が一瞬跳ね上がり、喉の奥がひりつく。
「そのままの意味だよ、バルト・クラスト。君は人間か? それとも――」
静寂が落ちる。
城の一室、薄明かりの中で、僕はただ息を詰めた。
「兄上、いい加減にしてください!!」
張り詰めた空気を打ち破るように、シュリアが声を上げた。
「バルトは私の命の恩人です! そんな失礼な疑いをかけるなんて……!」
彼女の顔は紅潮し、今にも剣を抜きそうなほど怒りを露わにしていた。
しかし、ユーリ王子は微塵も動じず、ただ静かにシュリアを見つめた後、再び僕に視線を戻した。
「君が妹を救ったのは事実だ。だが、それとこれとは別の話だ」
低く抑えられた声が、余計に威圧感を強める。
「聞けば君は先の大災害で魔物と対話し、更に退けたらしいではないか」
王家にはどのような報告がなされているのか。僕が海洋騎士団から近衛騎士団に転属となったのも疑われているからなのだろう。
「ユーリ王子、そろそろ……」
秘書か侍女か、その言葉を聞いたユーリ王子はゆっくりと瞼を閉じると、真っ直ぐ目線を上げ部屋を後にしようとした。
「ユーリ王子。僕はこの国の港町で産まれた、ただの人間です。それ以上でも以下でもありません」
彼は僕の言葉に少し足を止めると、後ろを向いたまま小さく呟いた。
「王家が君を信じても、俺はまだ君を信用していない。例え地の果てに行こうとも、君の周りには“目がある”ことを忘れるな」
冷たく扉が閉まる。
信用されていないこと……それと、彼が王位継承権を破棄したことは、僕はもちろん、国にとっても実に損失だと思えた。
まさかそんなことが……?いや、顔も出立ちもそのままの姿だし、偶然似ているだけなのか、それとも――
「バルト? どうしたのです?」
「い、いえ何も」
ここで「魔族に似ている」なんて言ったら大問題になるだろうし、ヘタをしたら処刑もあり得る。
確かに容姿は酷似しているが、明らかに雰囲気が違う。そんなアヤフヤな感覚で片付けるのは危険だと思うけど、彼の反応から見ても似ているだけの別人か。
「本当に大丈夫?」
「すみません。よく似ている人物を知っているので……つい」
「そうか、ならば自己紹介といこう。私の名はユーア・リッチ・インヒター。シュリアの兄で、便宜上はこの国の第一王子さ」
王子?この国に王子がいたのか?
そんな話は全く聞いたことがなかったけど。
「『王子なんていたのか?』って顔だね」
「い、いえそんなことは……」
「良いんだ。それが正しいんだよ」
「と、言いますと?」
「兄上は確かに現国王と王妃の子どもで、私の兄ですが、王位継承権はありません」
第一王子なのに継承権無し?何かやらかしたのだろうか。
「私は王位より研究の方が性に合っていてね。自ら継承権を破棄したんだ」
「なるほど」
この世界の人は実に自由だ。それは王家においても変わらないらしい。
「兄上が『王にはならない』と言い出した時、国王がどれだけ頭を悩ませたか……」
お天馬――ジャジャ馬と言うべきか。彼らの自由ぶりは一体どちらに似たのか。
「さて、団欒はこの辺にして――」
ユーア王子は軽く咳払いをすると、僕に正対して深く頭を下げた。
「王子?!」
「随分前にシュリアを、我が妹の命を救ってくれたと聞いた。心から感謝を申し上げます」
「そんな!! 僕は何もしていなくて、騎士団の皆様のおかげなのです」
「そうか。しかし、君がいなかったら騎士団の到着前に妹は殺されていたかもしれない。本当にありがとう」
更に腰を曲げる王子に対して、僕はただただ慌てることしかできなかった。
◇
「さて、兄としての勤めは果たした。次は研究者兼この国の王子として尋ねたい」
頭を上げたユーリ王子の目は鋭く僕を睨みつけていた。
この飴と鞭には、甘やかされた舌を麻痺させた後で鋭い刃を突きつけるような容赦のなさがあった。
「君は魔族か?」
「は?」
冗談を言っている表情でも空気でもない。
まるで解剖台の上に乗せられた蛙のように、僕は冷たい視線に晒された。
ユーリ王子の目には、ただの疑念ではない。確信めいたものが宿っていた。
「……どういう意味でしょうか?」
自分でも驚くほど硬い声が出た。
心臓が一瞬跳ね上がり、喉の奥がひりつく。
「そのままの意味だよ、バルト・クラスト。君は人間か? それとも――」
静寂が落ちる。
城の一室、薄明かりの中で、僕はただ息を詰めた。
「兄上、いい加減にしてください!!」
張り詰めた空気を打ち破るように、シュリアが声を上げた。
「バルトは私の命の恩人です! そんな失礼な疑いをかけるなんて……!」
彼女の顔は紅潮し、今にも剣を抜きそうなほど怒りを露わにしていた。
しかし、ユーリ王子は微塵も動じず、ただ静かにシュリアを見つめた後、再び僕に視線を戻した。
「君が妹を救ったのは事実だ。だが、それとこれとは別の話だ」
低く抑えられた声が、余計に威圧感を強める。
「聞けば君は先の大災害で魔物と対話し、更に退けたらしいではないか」
王家にはどのような報告がなされているのか。僕が海洋騎士団から近衛騎士団に転属となったのも疑われているからなのだろう。
「ユーリ王子、そろそろ……」
秘書か侍女か、その言葉を聞いたユーリ王子はゆっくりと瞼を閉じると、真っ直ぐ目線を上げ部屋を後にしようとした。
「ユーリ王子。僕はこの国の港町で産まれた、ただの人間です。それ以上でも以下でもありません」
彼は僕の言葉に少し足を止めると、後ろを向いたまま小さく呟いた。
「王家が君を信じても、俺はまだ君を信用していない。例え地の果てに行こうとも、君の周りには“目がある”ことを忘れるな」
冷たく扉が閉まる。
信用されていないこと……それと、彼が王位継承権を破棄したことは、僕はもちろん、国にとっても実に損失だと思えた。
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