凡夫転生〜異世界行ったらあまりにも普通すぎた件〜

小林一咲

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王都・近衛騎士団編

第80話 罠に、罠と

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 夜が更け始めた頃、薄れていた霧が急に濃くなった。地面が揺れ、不気味な振動が響く。僕とイシュクルテが剣を抜くと、自称援軍の男が不敵な笑みを浮かべる。 

「悪いな、この森はもうのものだ」

 そいつの目が赤く光り、霧の中から魔物が複数現れる。男の背後に巨大な影が浮かび、角が生え、黒ずんだ肌の魔族の眷属としての姿に変貌する。  

「封印を解く生贄として、お前らの命をいただこう」  

 イシュクルテと背中を預け合い、剣を構える。だが、魔物の数と魔族の圧倒的な気配に押される。イシュクルテは傷が響いてか、動きが鈍い。 

「バルト、このままじゃまずい!」  

 イシュクルテの声が焦る。魔族が巨大な爪を振り上げる瞬間――  

「オラァ! その汚ねえ爪、しまっとけよ!」  

 霧を裂くように、ブルワーの戦斧が魔族の腕を弾き飛ばす。リノが素早く魔物を斬り、シェスカが光球を放って霧を照らす。昨夜の冒険者パーティーが、絶体絶命のタイミングで駆けつけてきた。  

「バルト、イシュクルテ!  死ぬには早えぞ!」  

 ブルワーが豪快に笑い、戦斧を振り回す。リノは魔族の動きを冷静に観察し、シェスカが防御魔法を展開。  

 ◇

 ブルワーたちの加勢で戦況が変わる。ブルワーの一撃が魔族を後退させ、リノの剣技が魔物を次々と仕留める。シェスカの光球が霧を薄くし、魔族の動きが見えるようになる。僕はイシュクルテを支えながら、近衛騎士の剣技で反撃。  

 シェスカが叫ぶ。

「この魔族、胸の結晶が核! あれを壊せば霧も弱まるはず!」  

 ブルワーが突進し、魔族の注意を引く。リノが横から隙を突き、僕とイシュクルテが連携して結晶を狙う。

 魔族が咆哮を上げ、霧をさらに濃くするが、シェスカの魔法がそれを抑える。

「これでも喰らいやがれーっ!」

 剣が結晶を突き刺すと、魔族が苦悶の声を上げ、霧が一気に晴れる。魔物は力を失い、次々に倒れていった。

 ◇

 戦闘後、肩の傷を手当てしながら、ブルワーたちに礼を言う。

「本当に助かったよ、ブルワー。けど、なんでこんなタイミングで現れたんだ?」  

 ブルワーがニヤリと笑う。 

「昨夜の話が気になって、森の奥を調べてたんだよ。魔族の気配、俺の鼻は誤魔化せねえ!」 

 リノが冷ややかに突っ込む。

「鼻じゃなくて、シェスカの魔導書のおかげだろ」  

 シェスカは照れながら魔導書を抱きしめる。

「えへ、でも、私、戦うの怖かったけど……バルトさんたちが無事でよかった!」  

 イシュクルテが疲れた笑顔で言う。

「ありがとう、みんな。けど、魔族の眷属は封印のことを知っていたようだった」  

 僕は頷き、ブルワーたちを見る。

「これからどうする? この先、もっとヤバいことになりそうだけど」  

 ブルワーが豪快に笑い、戦斧を肩に担ぐ。 

「ハハッ! 面白そうな話じゃねえか! 俺たちも乗ったぜ。一緒にその封印ってやつ――」  

 そう言いかけた時、リノが静かに遮った。  

「待って、ブルワー。そろそろ本当のことを話すべきだろ」  

 ブルワーがため息をつき、シェスカがバタバタと手を振る。  

「え、え、待って!  敵じゃないよ! ただ、うそ、ちょっとだけ……」  

 リノが冷静に続ける。

「俺たちは冒険者じゃねえ。シャイン帝国軍の密偵だ。黒の森で魔族の動きを調査してた。王国の近衛騎士が動いてるって聞いて、様子を見に来た」  

 ブルワーが頭を掻きながら付け加える。

「まぁ、ぶっちゃけ、お前らが信用できるか試してたってわけだ。悪く思うなよ!」  

 シェスカが慌ててフォローする。 

「でも、でも!  助けたのは本心だよ!  魔族の核のこと、私たちの任務にも関わるから……ね?」  

 僕とイシュクルテは顔を見合わせる。イシュクルテが鋭い声で言う。  

「シャイン帝国? じゃあ、昨夜の気さくな態度も全部演技だったってこと」
 
 ブルワーが苦笑する。  

「半分な! 一緒に飲んだ酒はマジで美味かったぜ!」  

「飲んでいたのはブルワーだけ」

「あ、そうだったか?」

 ◇

 地面から微かな振動が響く。シェスカが魔導書をめくり、震える声で呟く。

「封印が完全に解かれる前兆かも。もっと大きな魔族が現れる可能性すらあり得る……」

 彼女の言葉に、まるで奈落に飛び込むような気分に陥った。
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