官能小説 雨の夜に

キシマニア

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雨の夜に

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 雨が降る夜。
 窓から差し込む電灯の灯りなのか、エアコンの風が原因なのかはわからないがふと目が覚めた。
 掛け布団から出ていたのだろう。二の腕がとても冷えている。私はてのひらで温めるように数度擦りながら、静かに鼻をすすって、夢うつつにゆっくりと振り返った。

 私の頭に頬を寄せるようにして、彼氏が穏やかな寝息をたてている。髪で顔を擽るようにしてしまって、僅かに焦る。しかし彼はしっかりと寝入っているようで、身動ぎひとつしなかった。
 今はもう見慣れた部屋に置いてあるのは、シングルでも事足りるものの、彼の好みで買ったセミダブルのベッド。それでもやや窮屈そうに、私の背にぴたりと身を寄せて彼は規則的な寝息をたてている。
 今夜は、久々にお泊りだ。

 時計の針の音と、窓の外の雨音。
 穏やかでも、男の人のものだとわかる寝息。
 それらだけが聞こえる静かな部屋は、物音がよく響く。
 布擦れで起こさないように、慎重に体勢を変える。暗闇になれた目でその顔を眺めた。
 女性よりも綺麗な肌と、癖のない髪質が羨ましい。しかし対照的な喉仏や、顔の近くに置かれた大きな手は彼が男の人だと主張している。寝息で上下する胸板も、私よりはるかに分厚い。
 私の彼は、寝ていてもとても素敵だと、うんうんと一人頷いて、再度その寝顔を見つめる。
 疲れているのか、依然ぐっすりと寝入る彼。
 湧き上がる穏やかな愛しさのままに指の背で頬を撫でて、寒くないかなとお布団を鎖骨近くまで引き上げる。そして私自身は肩まで掛け布団に潜り込み、彼の二の腕に額を寄せた。
 目蓋を閉じてゆっくり呼吸すれば、石鹸と彼の匂い。
 長年片想いをしていた私は、この距離の近さがとても嬉しくて一人微笑む。
 もう一度目を開くと、横顔を眺めて浮かんできた悪戯心と出来心に、そうっとその頬に口付けた。

 寝室に響いたのは、小さな小さなリップ音。

 短い時間ののち、耳に雨音が戻ってきて、我に返った。
 柄にもない事をしている自覚はある。
 照れ臭さに自嘲して、さて寝直そうと彼に背を向けた途端、腰に腕がまわされた。
 ああ、起こしてしまった。申し訳ない気持ちと、同じくらい嬉しい気持ちが湧き上がる。
 体温の高い腕が、ギュッと私を抱き込んだ。
 私の襟足に顔を埋めたまま、掠れた声で問いかける。

「眠れないの……?」

 寝てたけれど、雨の音が聴こえて起きたことと、もう寝ると答えれば「んー」と力の抜けた返し。
 その声の甘さにキュンとしつつも、起こしてしまった私は、平然を装いながら内心ほんの少しだけ慌てて、先ほどのキスをどう言い訳しようかと考えを巡らせていた。
 いい考えも言い訳も浮かばないまま、しばらく固まっていると、しゅるりと布擦れの音。それとほぼ同時に、石鹸の香りがする手が私の顎を掬う。

 擽ったさに思わず笑って身を捩りながら仰向けになると、肘をついた彼の顔が間近にあった。

 カーテンから漏れる街灯の仄暗いベッドの上で、私を見下ろす二つの目。
 その眼差しに秒で引っ込んだ笑い。中途半端に仰向けな私の身体をそのままに、片手で顎を固定したまま彼はゆっくりとキスを落とした。
 学生時代、柔道を嗜んでいた彼が、気配に疎い筈がない。
 先ほどの私の拙い触れるだけのキスでも、否。その前の私の動く気配が、彼をしっかりと起こしてしまったらしい。

 物理的にも、雄の本能的にも。

 唇のすぐ近く。
 唇に触れるだけ。
 唇を少し舐めて。
 それから口内へ潜るように。

 段階を踏んで進む口付けに、お腹の底がぎゅっと締まる。どうやら男の人のスイッチを押してしまったらしい事を、意識より先に、彼の手で開かれたからだが認識する。
 キスを続けながら彼は、私の身体を完全に仰向けにし、その手で頬を撫でながら私を跨ぐようにのしかかってきた。
 苦痛ではない重みに、心がざわつくのは女の性なのか。
 つい流されそうになっているが、元々こんなつもりでは無かったと、キスの合間に懸命に伝える。
 頬を撫でた手が、私の手を取って指が交差するように握る。所謂恋人繋ぎってやつだ。
 若干寝惚けているのか、それとも目が座っているのかわからない表情で私の訴えに「ふーん?」と低い声が返す。

 やわやわと握られている手にキュッと力が入る。
 まるで逃がさないと言っているかのように、握っているその手は離れず、むしろ身体ぴったりと寄せてきた。
 その時はじめて、太ももに当たっている硬い熱に気づく。
 もしこの部屋が明るかったなら、私の赤い顔は直ぐにバレていただろう。
 否、私からでさえ彼の表情がわかる位だから、もう分かっているかもしれない。
「ダメ?」と口で問いながら、嫌と言えないように繋いだ手の力を強め耳元にキスをする。
「仕掛けたのはそっちでしょ」と言わんばかりの目で私を見ている。

 ダメっていうか……

「嫌?」

 嫌ではないけど……

 そうモゴモゴと言葉を濁してしまう。

 その、そういう行為をする時は多少の覚悟がいるのだ。
 体力的にはもちろんだが、恋人になれた事に未だに慣れない私には些か刺激が強すぎる。彼の仕草はキャパシティをすぐに超えていくのだ。精神的な意味で。
 煮え切らない返答に片眉を上げた彼が、狼狽え続ける私を見てフッと笑った。
 カーッと羞恥から頬に熱が集まる。
 僅かに滲む視界に映るそれは、ひどく妖艶でクラクラした。

「そんな顔で渋られてもね」

 どこか嬉しそうに、彼は軽く笑う。

「逆に煽ってるようなもんだよ」

 嫌じゃないんだよね?と急に笑みを解いて、熱もった真剣な眼差しで念を押された私は深く考えられずに思わず反射的に頷いていた。好きな人にそんな顔されたら、もうお手上げである。
 そんな私を満足そうに見て、頭をひと撫でした彼は私の首元に顔を埋める。
 首筋に熱い吐息と、唇の感触。
 ぢゅっと感じる分厚い舌に、つい疼く下腹部。
 それらに私の口から震えたため息が零れていった。

 グリグリと膝で私の股間を押し上げる。
 大きな手が私の耳を塞いで、首元から唇に顔が戻ってくる。
 今度ははじめっから唾液を分け合うような深いキスだった。
 耳が塞がれた所為で、口の中の水音がダイレクトに頭に響く。
 ゾクリと身体を走る疼きに思わず、その背に添えていた手に力が入ってしまった。
 離れた唇の先にいる彼の顔を伺う。
 引っ掻いてやしないだろうか。

 その視線に気づいて、大丈夫だよと返す彼が服の中に手を入れてきた。
 暖かい手のひらが、微かに触れる優しい手つきで私の脇腹を滑ってゆく。

「余裕あるみたいだね」

 そんな訳ないだろうと、半目で彼を睨むけれど、彼はただ眉を下げて笑うばかりだ。左腕で私を支えて密着する。
 空いた右手が私のTシャツを捲り上げた。
 そのまま親指を使って、左胸の先を刺激する。
 泊まるにあたって借りた襟ぐりの広いTシャツから私の肩を口で器用に出して、そのまま優しく歯を立ててきた。
 色々な箇所に与えられる、色んな刺激に頭が溶けていく。
 鼻にかかった甘い声が、抑えられない。
 余裕のよの字もないくらい翻弄されているのに、彼は全く愛撫することを緩めない。
 むしろその様子をうっとりした目で眺めてくるもんだから、いたたまれなさに内心途方に暮れた。
 観念したように目を閉じる私の首筋を舐めながら、キスしながら、乳首を絶妙な力加減で弾く。
 触られているのは胸なのに、積もる焦ったさは腰の奥、子宮の入り口に響くのが不思議だ。
 腰を緩く捩るうちに、気がつけば、短いズボンと共に下着が抜き取られていた。

 股がスースーするのは、はしたなく濡れてしまっているから。
 そこへ迷いなく進む大きな手を、はしっと掴む。
 無駄な抵抗なのはわかっているけれど、いかんせん恥ずかしいのだ。
 溶けた顔で、懇願する様に見つめると彼は掴まれた手をくるりとひっくり返して、私の手を握ってその口元へ持っていく。
 それから見せつけるように指を口に入れた。

 指の股を、濡れた舌が這っていく。
 その間も欲を孕んだ目が、私を射抜いて動けない。

 擽ったさに手を引いて、指を舐められて感じる事自体に羞恥を覚えて。
 酷いことは何一つされていないのに、つい逃げたくなる腰。それは教え込まれる新しい感覚に対する戸惑いを如実に表しているようだった。
 胸への愛撫が止んで、その手が徐々に下へ降りていく。
 肋骨、脇腹、腰、恥骨へと、まるで舐めるように、そして何かを試すように肌を撫でては私の反応を確かめる。

 太ももの付け根を触られたところで、半分泣きそうな喘ぎ声を出した私。
 すぐに一番恥ずかしいところへその手が届いて、ギュッと目をつぶった。

 彼の肩に顔を押し付けるようにして身構える。
 そしてついに下の方からツプンと小さく水音がした。ぬかるみを確かめるように、暖かい指が溝を撫で擦っている。くちくち聴こえる音が自分由来の粘液だと思うと、正直どこかに隠れてしまいたい気持ちになった。

「ふ、……すご……」

 掠れた声が耳朶の間近で漏れる。
 どう言う意味あいにせよ、笑われれば恥ずかしさが増す。イヤイヤと顔を横にふる私に構わず、私のものより一回り太い指が入ってきた。
 息を詰めて、こわばってしまう身体。
 無意識にもじもじと動いていた膝を止めた事で、指の進行がありありとわかる。
 彼の指が、胎内だと見た感じよりも長く太く感じられて少し辛い。
 私は冬に手先をあたためる息の吐き方をして、内部の圧迫感を逃すことに努めた。
 首すじへの愛撫が、指を入れられる前よりほんの少しだけ強くなる。気を紛らわせるようにする為の、彼なりの措置なんだろうけれども。それはあまり効果がない。
 吸われた感覚的に、これは跡がついているだろう。
 鎖骨の上を甘噛みされればもう、どんどん高まるばかりだ。
 指を抜くことなく、むしろ徐々にはやくなる指を、いったん止めるか加減してくれた方がこちらとしては嬉しいのに。
 私の吐息を確認しながらお腹の内側を丁寧に擦られる。
 思わず脚に力が入る箇所にアタリをつけて、重点的にせめられた。
 腰が浮き、自身でコントロールできない蜜が、溢れてソコをしとどに濡らしていく。

 引きつるように息を吸いながら、その手を汚してしまう事を心配した。途切れ途切れになった私の声を聞いた彼は、目だけで笑って私に深いキスをする。

 くぐもった嬌声が、ふたりの口の中で響いた。
 丹念に丹念に解されて、あの海のような、女の匂いが満ちた部屋を背景に、彼の目の色が、どんどん深く鋭くなっていく。
 経験が浅くて、まだナカでイク事に慣れていない私。だけれど、すでに気怠くて億劫な身体の奥がひどく疼くことに気づいていた。

 今夜は、何かが違う。

 それは今までの経験で完成されたようであり、今までしてきた中で今日が一番ねちっこい愛撫だった事が原因でもあるだろう。
 女の期待感を隠しきれず、服を脱ぐさまを目で追う。
 Tシャツから頭を抜き、軽く首を振った彼と目が合った。

「……えっろ」

 本来聞かせるつもりじゃなかったのだろう。
 本当に小さく、私がギリギリ聞き取れるくらいの声量で彼が呟く。
 そこで自分がどんな顔をしていたかに思い当って、熱くなった。
 目線を泳がせて、でもはやく欲しくて。
 恥ずかしさに俯いていたが、覚悟を決めて、私も自分で着ていた服を脱ぐ。

 借りた大きいTシャツ
 カップ付きのキャミソール
 片足に引っかかっていた短パンと、下着。

 上から順に、微かな布擦れの音をならして衣類が床に落ちていく。その間、纏わりつくような視線を感じてぞくぞくした。

 覚悟を決めたと言いつつも、経験値の低い私としては本当に思い切った行動である。
 脱ぎきったところで彼と目を合わせられずに俯き、手元を見ていたけれど、そこにふと影が落ちた。

 ギシリと軋む音がして顔を上げると、視界に飛び込んで来たのははち切れんばかりの陰茎だった。
 つるりとした先端を時々跳ねさせて、血管の浮いた彼の分身が目の前にある。
 こんなに間近で見るのは初めてかもしれない。息をのんで、ベッドに膝立ちになる男の顔を見あげる。

 目元を赤く染めた彼が、切なげな顔で問うてきた。

「…できる…?」

 口で。

 後頭部を、片手が支える。
 顎にも大きな手が添えられて、まるでキスする時のように
 ソコに、誘導された。
 陰茎を見て、ちらりと彼の顔を見てを繰り返す。
 撫でるように髪を滑る手のひらは、決して押し付けたりはしてこない。強制させるつもりは無いようだ。
 ただ、はかるように、するりするりと時々耳をくすぐってくる。
 期待がありありとわかる蘇の目線。
 情事で湧いた頭は、自制心を溶かして私を大胆にさせる。
 私に出来ることは叶えたくて、目を伏せた。
 猛りに近づいて気付く石鹸と、雄の匂いにクラクラする。

 そうっと、まるで王冠を貰うように
 恭しくそれに口付ける。

 自分でわかるほど、ドキドキしていた。

 頬を支える手に自身の手を添えて、鈴口の先にキスをする。
 びくりと跳ねる陰茎の逞しさ。女にはない器官。
 小さく口を開いて、歯を立てないように亀頭の先を咥えると頭上から聞こえる熱いため息がきこえた。
 目だけで彼の顔を見ると、赤さを増した目元と、切なさを堪えるような表情だ。それは妖しくて、何処となく綺麗で。
 その顔をもっと見たい。
 出来るなら崩れて行くところも。
 そんな本能に従って、私は陰茎に手を添えて舐め始めた。

 重い吐息が、部屋に響く。

 時々目を上げて顔を見上げると、切れ長の瞳が少しだけ溶ける。
 クシャッと、掴むような仕草をしながら髪を撫でる彼が愛しい。

「どこで、覚えたの。そんなの、」

 吐息混じりの、掠れた声もとてもいい。

 舐めて、吸って。
 時々先端にキスをして。
 夢中で動いていると、手のひらが私の胸をくすぐっていった。
 ゾワッと、無警戒だった場所への刺激に身を捩り、頭上を睨む。

「……その顔も、いいね」

 彼は余裕を取り戻したかのように、ニヤリと笑うと私の胸にもっと手を伸ばしてきた。

 そしてすぐ荒くなる私の息。集中して口を動かせない。
 だらしない顔で咥えたまま、与えられる刺激に耐えていると、彼が腰を動かし始めた。
 片手が後頭部を支えていて、後ろに逃げられない。
 喉奥までゆっくりと押し込まれて、反射で唾が口内に溢れた。
 滑りを得てスムーズに動くようになった陰茎が、えずくギリギリのところまで出し入れされる。
 生理的に滲む涙。
 その先に、気持ち良さそうな彼の表情。

 好きな相手だからこそ許される行為に、隠していたM心を刺激されて密かに興奮していた。
 やがて彼の眉間のシワが深くなったと思うと、グッと口内奥深くに根元まで陰茎が押し込まれる。

 苦しさに身体がこわばる。喉の奥に粘度高めな熱い飛沫を感じた。
 鼻につく独特の、苦い、海の様な匂いと、私の頭を覆う大きなてのひらの熱に酔う。

「……ッふ……。は……」

 この時初めて押さえつけるように動いてしまった手を誤魔化すように、何度も頭を撫でて謝ってきた。
 弾んだ息と、欲情に浸った顔がとってもエロい。
 溢れてしまった私の涙を親指で拭いながら、ゆっくりと自身を引き抜く。
 量の多さに少しだけ噎せて、思わず飲み込んでしまった。
 目尻にあった親指が、そのまま頬をスライドさせて私の口を開く。
 中が空っぽなことに気付くと、ティッシュに伸ばされていた手がとまった。

「……飲んだの?」

 コクリと首を縦にふる。
 依然舌を撫でていた親指をゆっくり引き抜いて、私の脇下に手を入れ持ち上げた。
 そんな仕草にもときめいていると、
 彼に対して背中を向ける形で膝に乗せられて、顔が至近距離にくる。

 背中に数段熱い体温を感じる。
 両腕で抱きしめられて嬉しくなった。こんなご褒美があるなら苦しかったけれど、また挑戦してもいいかもしれない。
 私の肩ごと包むように回された腕に思わず頬ずりする。
 しなやかな筋肉が素敵だ。私より少し温度の高い二の腕にそっと口付けた。

 同時に、晒したようになっている首筋に彼の口が吸い付く感触。それから耳、こめかみにも口で触れて、手で顔だけ後ろを向かされた。
 顎を緩くつかむ大きな手が愛しい。
 体勢をずらして、求められた口付けを受ける。
 穏やかに、ゆっくり。
 口内を擽られるように舐められて、燻ったままの下腹部が締まった。
 つい熱っぽく見つめると

「俺、その顔……好き」

 たまんね。そう耳元で囁いて。
 再度キスをするとギュッと抱きしめてくる。
 密着するとお尻に擦り付けられた陰茎が再び熱く、硬くなっているのを感じた。時折びくつくそれが、彼の興奮度合いを示していて嬉しくなる。
 私は私で、普段柔らかい口調の彼がもらした乱暴な言い方にときめいている。
 独り言だろうけれど、耳元で言われたら効果は抜群だ。

 もっともっと夢中になってくれたらいいのに。
 私と同じように。

 彼はゆっくり息を吐いて、呼吸を落ち着ける。
 それから私を片腕で少し持ち上げると、潤んだままの膣にその剛直を突き立ててきた。
 小さく声を漏らした私のうなじに口付けが降ってくる。
 思わず背を反らせると、粘度の高い水音とともに、最初から大きなソレがナカを擦り上げながら侵入してきた。
 普段やる正常位とは異なる場所に反り立つ陰茎がゴリゴリ刺激を与えてきて、私は高い声で唸った。
 重力のままに私が降りていくと、亀頭が奥に、奥にと進んでくる。

 圧迫感と、待ち望んだモノに震える私。
 身体を支える太い腕をつい引っ掻くと、ナカでその太さが増し、そこからぐいっと根元まで一気に入れられて目の奥で星が飛んだ。
 ぱちゅんと、肌が液体を挟んで触れ合う音と共に、彼が全て収まった。
 首筋に熱い吐息がかかる。
 それに反応して、私の肌がぞくりと粟立った。

 首から上だけ捻って彼を見ると、先ほど一度果てたからかいくらか余裕のある笑みを浮かべていた。だらしない顔で喘ぐ私に
「ぬるぬるだ」
 そう嬉しそうに言う。
 筋肉質な彼の太ももを股がされ、閉じる事が出来ない股。お腹の内側から圧迫されて、呻き声がでる。
 彼はそれを聴くと、節くれだった指を結合部に伸ばして、蜜を掬い取ると花芯に塗り、そのまま揉みしだいてきた。
 力の強弱が絶妙だ。
 呻き声が甘く高いものに代わり、くすぐるような愛撫に腰と、脚がふるえた。

 身体の横に腕をおろし、気をつけの姿勢のまま腕で巻かれた私は、身動きが出来ない。
 早くその腰を動かして欲しいのに、ただ甘んじて彼のする事を受けるだけだ。
 ビクビクと、全身を震わせる私の言う事をまるっと無視して花芯だけを弄る。
 過度な刺激に自ら腰が揺れて、小刻みに出し入れされる事に耐えられる女性はそうそういないだろう。

 ナカがぎゅうぎゅううねって、分身を締め付ける。

 そのまま胸も愛撫されて、情報量の多さに訳が分からなくなってきた頃、本当にいきなり。手での愛撫がとまった。
 あと少しで大きな波に乗れそうだった私は、軽く絶望感を覚えながら後ろを振り返る。
 腕を緩め、手が自由になったかと思いきや、背中を優しく押されて、素早くうつ伏せにされた。

 体勢が変わった事で、亀頭が最奥から少し手前に下りた。
 その新しい刺激に、ついつい甘い声が漏れる。

 顔の横に太い腕。
 肘をついて、私を押さえ込むように包む体勢にグッときた。目の前に回された右の手のひらを、恋人繋ぎの要領で左手で握る。
 それから身体をねじって振り返り、彼の顔を見上げた。
 はやく、はやくと心の声が目に出てしまう。
 私を見降ろす彼の口から、笑うような耐えるような声が漏れたあと。
 枕を下腹部に通され、その高さ分突き出すようにあげたお尻に向かって荒々しく腰を打ち付けた。
 いきなりのハイスピードに、私は顔を枕に埋める。
 力の限り掌を握りしめて、彼の欲を受け止めた。
 望んでいたとはいえ、膣の許容を超えて出し入れされる感覚に耐えられず、声を出すことで圧迫感を逃す。

 恋人繋ぎの手のひらを、好きな人が握り返してくれる。
 それが愛しくて、喘ぎつつも顔をあげると深く深く口付けされた。
 キスの間は、あえて腰を動かさず、だけれど奥に奥に押し込んでくる。
 グイグイと子宮口を押し上げられる感覚に、膝から下を二、三度バタつかせてしまった。
 キスを続けながら髪を優しくなでる。
 お腹の中では凶器的なソレがゆっくりと抉りだす。
 中と外で異なる刺激のギャップに、もう訳がわからなくなるほど理性がとけていく。
 くたりとした私の背中に身体を寄せて、首筋に口付けを落とした。そうして「大丈夫?」なんて艶のある声で問いかけてくる。悔しいが、彼はまだまだ平気そうだ。
 いつもより長く繋がっているのは、先ほどの口淫のおかげだろう。
 私の最奥を亀頭でくすぐるように、腰を小刻みに動かしながら、うっそりと微笑んで私を見る。

 先ほど彼を口で咥えていた時にみた、あの顔だ。最上級の色っぽい表情に、背中がゾクゾクした。

「さっき頑張ってくれたからね。俺も、がんばろうかと思って」

 そんな声と同時に
 グイッと、右の太ももを持ち上げられた。
 それに合わせて、ナカで分身が擦れ、呻き声が口から漏れる。
 反射的に枕をぎゅっとにぎり込んだ。
 それを見届けて、速いストロークで腰をゆすり始める。

 可愛らしさのかけらもない、野太い声で喘ぎながら、必死に空気を取り込む。私にはもはや、それしか出来なかった。

 背中にパタパタと落ちる汗。
 彼の呼吸と、ベッドの軋む音を私の声が搔き消してゆく。
 そんな状況でも、彼の声は耳が捉えていくから不思議だ。
 彼は弾んだ息で、「可愛い」「ねぇ、気持ちいい?」だとかを肩に口付けながら囁いていく。
 返答を期待していないだろうその声色が小憎らしい。
 前戯のときまでは感じられていた石鹸の香り。
 今はもう事情特有の、生き物の匂いだけが部屋にたゆたっている。

 バツバツと、激しい抽送に与えられる刺激が私の許容範囲を超えていたため、中々イけなかったがそれも終わりのようだ。
 中心が痙攣し、腰が浮く。
 声の艶が一段と高まった事に彼が気付いた。
「あ……イきそう?」
 イくなら言って、教えて。と、
 此の期に及んでそんな意地悪を仕掛ける彼の手を力の限り握った。これで許して欲しいと切実に願いながら。

 もう、ダメだ。

 顔を枕に押し付ける。
 まぶたの裏に飛ぶ星を散らすようにギュッと瞑って、身体を大きく震わせた。今まで体感した事のない程大きな波にさらわれる。
 私の喉奥から猫の様な声が漏れて、彼が小さく笑う気配がした。
 また何かのスイッチが入ってしまったのだろう。
 私がイッてる最中も抽送は止まない。
 過ぎた快感は逆に苦痛だ。
 意地悪のつもりだろうが、こちらとしては正直とてもしんどくて、制止を懇願したが止めてはくれなかった。
「だぁめ」
 だなんて。
 甘ったるい声で言われたら拒否できない。
 荒くなった吐息も、力んで普段より筋張った腕も、そんな些細な部分も魅力的に映る私には彼を拒否することなんて出来っこないのだ。

 触れ合った箇所から、肌の熱にグズグズに溶けていく様な錯覚に陥っていく。

 そのまましばらく翻弄されていたものの、おもむろに太ももから手が離れた。
 そして彼は私の腰を抱き込みながら、強めに腰を打ちつけ自身も性を放つ。
 うわごとの様に私の名前を何度か呼んで、耳元で「好き」と低い声で囁いて、奥に種を送る雄の仕草に心が震えた。

 何度かナカでビクリと脈動する陰茎を感じて事情特有の満足感を十二分に得た私は、半ば気を失う様に眠りに落ちた。


 髪を撫でる感覚に意識が浮上した。
 まだまだ寝たい。
 このまま温もりに身を預けていたいような感情に浸るも、昨夜の名残りで後頭部を滑る手のひらの熱に鼓動がちょっとだけ速まる。
 薄く目を開けると、視界いっぱいに広がる肌色。
 何も考えずに目の前の胸筋に顔を埋める。
 力を入れていない筋肉のふかっとした弾力に頬をすり寄せ堪能していると、頭上からクツクツと笑い声がした。

「おはよ。よく寝てたね」

 俺のせいか。と付け足しながら、満ち足りた笑顔でこちらを見る瞳に朝の挨拶を返す。
 私の彼氏は寝起きまで素敵だ。
 徐々に回転し始めた頭で、ちらりと窓に目をやる。
 寒色系のカーテンから漏れる太陽の光からして、お昼近くまで眠っていたようだ。
 頬に、こめかみに、ちゅちゅと可愛くキスをして、量の腕で私を抱きこみ直す。

 今日は久しぶりの休みだからか、彼の纏う空気がふわふわ柔らかい。
「今日は何しようか」と、警戒心のかけらもない声に愛しさが胸にあふれて、彼の腕から抜け出しそうっと唇に自らキスをした。
 驚きつつも、それを口に出す事なく見守っていた。
 私の髪がその頬をさらりと撫でる。
 それを擽ったそうに私の耳にかけて、彼が微笑んだ。
 嬉しくなって、私も自然に微笑みを返した。

 さて、休日だ。
 一緒に居られる時間を大切にせねば。
 上半身だけ起き上がり、脱いだままの服を目で探す。
 あれもしたい。買い物に行くのもいいかも。と、緩む頬をそのままに、頭の中で計画を組み立てながら足元に丸まっている服に気付いた私は手を伸ばした。

 …はずだったのだが。
 視界が急に変わって、ほとんど力を入れずに私をベッドに引き戻した彼が私に覆いかぶさり見下ろしている。

 にっこりと、凄くいい笑顔だ。
 今度は笑顔を返さず、目線だけを下げていく。
 するとそこにはやはり…元気のいい小さな彼がいる。
 ゆっくりと顔を寄せた彼が唇を重ねる。
 そしてどんどん深くなっていくキスに、計画が成り立つ間も無く破綻していくのを確信した。

 この後、まずはシャワーだな。

 そうキスの最中に頭の端で考えていた私は、その様子を
「まだまだ余裕がある」
 と認識した彼に抱き潰されて、休日が終わる事になるなんて。

 全く予想も出来なかった。


 おしまい


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