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フォートシュウロフ防衛戦
もう1人の大砲
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作戦が決まり、ちょっと経ったあと。度重なる攻撃で今にも崩壊しそうな大門の前で私たちは所定の陣形を組んで待ち構える。
「突破されるぞー!」
防壁の上から声が降ってくる。
「最終防衛隊、前へ」
私の号令で町中から集めた最後の戦闘職の皆が大盾を構えた。でも、プレイヤーは全体の半分ぐらい。残りのメンバーは有限リソースであるNPCだ。
すぐに大門の一部が割れて、合板が石床に叩きつけられガーンっと鈍い鐘の様な音を響かせる。
「ぜっっっっっっったいに死守して!」
「うぉー!」
「いけぇぇぇぇええ!!」
大門を抜けてくるゴブリン達を大盾が取り囲んで足止めしているのを確認して、私は隣に佇む金髪幼女エルフのシュクレちゃんの頭を撫でる。
「シュクレちゃん、一直線に貫通する感じのよろ」
「は……はいっ!」
正直、私はシュクレちゃんの実力について懐疑的だったけど、彼女のステータスを見て説明を聞き、考えを改めた。
シュクレちゃん、ヤバイ。
「黄昏來て闇が全て飲み込もうと瞬き続ける星屑よ、今、我が元に集いて暁の如く闇を切り裂く閃光とならん」
「射って」
詠唱中のシュクレに発射方向を指差す。大門の正面、今まさにゴブリン達とNPCプレイヤー混合の戦闘職が激突している地点だ。
「ふぁっ!? で、でも……」
うん、言いたい事はわかるよ。でも、NPCは所詮NPC。それに、参加してくれたプレイヤーは全部覚悟の上だ。
「はよ」
「ふえぇ……シャイニング・スレイライト!」
シュクレが杖を掲げ前方に突き出す。
彼女の周囲を無数の小さな光が明滅しながら杖の先端に螺旋を描いて収束し……放たれる。空気の焼ける音が響き、周囲に一瞬の静寂が訪れた。
あまりに威力が高すぎて"吹き飛ばされる"という現象が発生しない。触れた先から物質が消滅して行く為にもたらされる静寂だ。
「ひうっ……なんか色々不穏な称号を入手しちゃいました……」
「これでシュクレも立派なPKプレイヤーだね」
「うぅ……」
PK系の称号は有用なのが多いもんね。
泣いて喜ぶその気持ち、わかるよ。
「特攻部隊、突撃!」
「おう!」
「行くぞおらぁ!」
「ふえぇぇ」
私の号令で12人のトッププレイヤーが動き出す。シュクレちゃんの魔法で生み出された一瞬の空白地帯を突き破り、大門の出口を通り抜ける。
「皆、作戦通りに壁を作って! シュクレちゃんの詠唱時間を稼いで!」
「まかせろ!」
大門を出てすぐのところで、タンク役の6人が大盾を構えて壁を作る。ゴブリン達が押し寄せてくる中、その攻撃を押し返した。
「シュクレちゃん、次は放射状になるべく遠くまで吹き飛ばす感じで、今度は味方を巻き込まないようにね」
「はいぃぃ……えぇっと」
私の言葉にシュクレちゃんは少し考えるように虚空を見つめてから、詠唱を開始した。私が彼女にスキル名じゃなくて現象でお願いするのには理由がある。
それは、彼女がこの世界で魔法スキルという概念から自由になった唯一のプレイヤーだからだ。
「朱く燃ゆる星々は悪魔達の再臨を告げる兆し」
ゴブリン達の奇声、剣戟の音。それらもどこか遠くに感じる様に、朗々とシュクレちゃんの詠唱が響く。
シュクレちゃんが使っている様な大きくて遠くに届く魔法は、詠唱が必要になる。これは魔法を自分好みにカスタムしても変わらず、カスタムするたびに詠唱の内容を変わってくる。
「煉獄の大地に眠りし破滅の軍勢よ」
そして、シュクレちゃんは解き明かしてしまった。
カスタムによる詠唱変化、図書館の文献や壁画、NPC達の詠唱に対する認識から……詠唱の真理と、その法則を。
「悠久の時は流れ、牢獄の檻は朽ち果てた」
やってる事、普通に考えて太古の文明の謎を解き明かす考古学者か、未開の地の民族の言葉を解明する高名な言語学者とかのレベルなんだよね。
何をどう間違っても子供がどうこうする次元の話じゃないんだけど。この世界はゲームだって言う認識があるから、本人はちょっと難しいナゾナゾとパズルぐらいにしか思っていない。
ある意味ではそれが秘訣なのかな。
「今こそ覚醒の時」
つまり、シュクレちゃんはその場で自由に詠唱を即興で作って何種類でも使い分けることができる。レベルアップで強い魔法を覚えるみたいな、この世界《ゲーム》にも普通に存在するそういう制限を踏み倒せる。
控えめに言ってヤバイ。皆が共通で守っている世界の制限ぐらいは普通に守ってほしい。詠唱時間を稼ぐ味方の護衛は必須だけど、この範囲呼応撃破あまりにもバランスブレイカーすぎる。
「我が旗に集え!」
シュクレちゃんが手に持った大きな杖をまるで旗の様に掲げて、地面へと勢い良く突き立てる。
「カラミティ・ディストラクション!」
地面から5つの赤い球が打ち出されて、放物線を描きながら放射状に飛んでいく。それらは前衛の頭上を飛び越えて再び地面へ着地して、真の姿を表した。放射状に放たれた光球から一直線に大地が裂け、奥から強烈な火柱が上がってゴブリン達を吹き飛ばしていく。
「や、やべー……」
前衛の誰かが呟いた。その気持ち、わかる。なんて言うか、ゲームバランスの壊れる音が聞こえるよね。
まぁこのゲームにそんな物は無いんだけどさ。
「第一部隊はここを死守、その他は前進!」
私の指示に従って、前衛2人と後衛1人がこの場に残る。他のメンバーはシュクレちゃんの作った空白地帯を進んでいく。
「おうよ!」
「達者でな!」
「後は頼んだぞー!」
この場に残される3人の横を通り過ぎる時、彼らがそれぞれ私達に声をかけた。彼らはこの場で死ぬまで戦う事になる。
生き残りのゴブリンを前衛が蹴散らしながら敵陣の更に奥へ進んでいく。ゴブリンの一団と衝突したタイミングでまた前衛が壁を作る。
「シュクレ、おなしゃす」
「もうMPがっングッ」
杖を持っていて両手が塞がっているシュクレの口に灼熱フランクフルト突っ込み顎を押さえて閉じさせ、そのまま串だけを引き抜く。
「ンフッーーーーーーーー!!!!!!」
シュクレはその場で激しい足踏みをしながら回転する。そんなに嬉しかったのかな?
「はよ」
「リピーツッ!!」
シュクレが乱暴に杖を振り下ろす。
詠唱は違うけど、起きる現象は同じだ。
彼女が発見した隠しジョブ”スペル・プロフェッサー”のスキルだ。直前の詠唱を省略して放つ事ができる。
「第二部隊はここを死守、それ以外は突撃」
再び前衛2人と後衛1人をここに置いていき、他のメンバーで先に進む。当然、置き去りにされたメンバーは全包囲されて遠からずキルされる事になるだろう。だけどその間、私たちは後方からの追撃を免れる。
つまりシュクレちゃんを安全に運搬できた。
「勝ってくれよ!」
「やれるだけはやってみるよー」
また束の間の空白地帯を走り抜け、数の減った前衛が壁を作る。シュクレが杖を振り下ろす。
「リピーツッ!」
ゴブリン達が吹き飛ぶ。
「シュクレちゃん」
「はい……私の番ですね」
「うん、はいアーン」
「うっ……あーんっ!」
私が突き出した灼熱フランクフルトをシュクレが咥える。彼女の瞳は涙に濡れていた。
「かあいです……」
シュクレはその言動から察するに、多分リアルでは小学生ぐらいなのだろう。本来であればトップ層に入ってくる様な年齢じゃ無い。
だけど彼女はこのゲームでは敬意を払うべき人物だ。それだけの能力がこの世界の彼女にはある。
「うんうん、帰ったらまた作ってあげるね」
あーあー、可愛い顔でこんなに泣いて喜んでくれるなんて。嬉しくなっちゃうなぁ。
「突破されるぞー!」
防壁の上から声が降ってくる。
「最終防衛隊、前へ」
私の号令で町中から集めた最後の戦闘職の皆が大盾を構えた。でも、プレイヤーは全体の半分ぐらい。残りのメンバーは有限リソースであるNPCだ。
すぐに大門の一部が割れて、合板が石床に叩きつけられガーンっと鈍い鐘の様な音を響かせる。
「ぜっっっっっっったいに死守して!」
「うぉー!」
「いけぇぇぇぇええ!!」
大門を抜けてくるゴブリン達を大盾が取り囲んで足止めしているのを確認して、私は隣に佇む金髪幼女エルフのシュクレちゃんの頭を撫でる。
「シュクレちゃん、一直線に貫通する感じのよろ」
「は……はいっ!」
正直、私はシュクレちゃんの実力について懐疑的だったけど、彼女のステータスを見て説明を聞き、考えを改めた。
シュクレちゃん、ヤバイ。
「黄昏來て闇が全て飲み込もうと瞬き続ける星屑よ、今、我が元に集いて暁の如く闇を切り裂く閃光とならん」
「射って」
詠唱中のシュクレに発射方向を指差す。大門の正面、今まさにゴブリン達とNPCプレイヤー混合の戦闘職が激突している地点だ。
「ふぁっ!? で、でも……」
うん、言いたい事はわかるよ。でも、NPCは所詮NPC。それに、参加してくれたプレイヤーは全部覚悟の上だ。
「はよ」
「ふえぇ……シャイニング・スレイライト!」
シュクレが杖を掲げ前方に突き出す。
彼女の周囲を無数の小さな光が明滅しながら杖の先端に螺旋を描いて収束し……放たれる。空気の焼ける音が響き、周囲に一瞬の静寂が訪れた。
あまりに威力が高すぎて"吹き飛ばされる"という現象が発生しない。触れた先から物質が消滅して行く為にもたらされる静寂だ。
「ひうっ……なんか色々不穏な称号を入手しちゃいました……」
「これでシュクレも立派なPKプレイヤーだね」
「うぅ……」
PK系の称号は有用なのが多いもんね。
泣いて喜ぶその気持ち、わかるよ。
「特攻部隊、突撃!」
「おう!」
「行くぞおらぁ!」
「ふえぇぇ」
私の号令で12人のトッププレイヤーが動き出す。シュクレちゃんの魔法で生み出された一瞬の空白地帯を突き破り、大門の出口を通り抜ける。
「皆、作戦通りに壁を作って! シュクレちゃんの詠唱時間を稼いで!」
「まかせろ!」
大門を出てすぐのところで、タンク役の6人が大盾を構えて壁を作る。ゴブリン達が押し寄せてくる中、その攻撃を押し返した。
「シュクレちゃん、次は放射状になるべく遠くまで吹き飛ばす感じで、今度は味方を巻き込まないようにね」
「はいぃぃ……えぇっと」
私の言葉にシュクレちゃんは少し考えるように虚空を見つめてから、詠唱を開始した。私が彼女にスキル名じゃなくて現象でお願いするのには理由がある。
それは、彼女がこの世界で魔法スキルという概念から自由になった唯一のプレイヤーだからだ。
「朱く燃ゆる星々は悪魔達の再臨を告げる兆し」
ゴブリン達の奇声、剣戟の音。それらもどこか遠くに感じる様に、朗々とシュクレちゃんの詠唱が響く。
シュクレちゃんが使っている様な大きくて遠くに届く魔法は、詠唱が必要になる。これは魔法を自分好みにカスタムしても変わらず、カスタムするたびに詠唱の内容を変わってくる。
「煉獄の大地に眠りし破滅の軍勢よ」
そして、シュクレちゃんは解き明かしてしまった。
カスタムによる詠唱変化、図書館の文献や壁画、NPC達の詠唱に対する認識から……詠唱の真理と、その法則を。
「悠久の時は流れ、牢獄の檻は朽ち果てた」
やってる事、普通に考えて太古の文明の謎を解き明かす考古学者か、未開の地の民族の言葉を解明する高名な言語学者とかのレベルなんだよね。
何をどう間違っても子供がどうこうする次元の話じゃないんだけど。この世界はゲームだって言う認識があるから、本人はちょっと難しいナゾナゾとパズルぐらいにしか思っていない。
ある意味ではそれが秘訣なのかな。
「今こそ覚醒の時」
つまり、シュクレちゃんはその場で自由に詠唱を即興で作って何種類でも使い分けることができる。レベルアップで強い魔法を覚えるみたいな、この世界《ゲーム》にも普通に存在するそういう制限を踏み倒せる。
控えめに言ってヤバイ。皆が共通で守っている世界の制限ぐらいは普通に守ってほしい。詠唱時間を稼ぐ味方の護衛は必須だけど、この範囲呼応撃破あまりにもバランスブレイカーすぎる。
「我が旗に集え!」
シュクレちゃんが手に持った大きな杖をまるで旗の様に掲げて、地面へと勢い良く突き立てる。
「カラミティ・ディストラクション!」
地面から5つの赤い球が打ち出されて、放物線を描きながら放射状に飛んでいく。それらは前衛の頭上を飛び越えて再び地面へ着地して、真の姿を表した。放射状に放たれた光球から一直線に大地が裂け、奥から強烈な火柱が上がってゴブリン達を吹き飛ばしていく。
「や、やべー……」
前衛の誰かが呟いた。その気持ち、わかる。なんて言うか、ゲームバランスの壊れる音が聞こえるよね。
まぁこのゲームにそんな物は無いんだけどさ。
「第一部隊はここを死守、その他は前進!」
私の指示に従って、前衛2人と後衛1人がこの場に残る。他のメンバーはシュクレちゃんの作った空白地帯を進んでいく。
「おうよ!」
「達者でな!」
「後は頼んだぞー!」
この場に残される3人の横を通り過ぎる時、彼らがそれぞれ私達に声をかけた。彼らはこの場で死ぬまで戦う事になる。
生き残りのゴブリンを前衛が蹴散らしながら敵陣の更に奥へ進んでいく。ゴブリンの一団と衝突したタイミングでまた前衛が壁を作る。
「シュクレ、おなしゃす」
「もうMPがっングッ」
杖を持っていて両手が塞がっているシュクレの口に灼熱フランクフルト突っ込み顎を押さえて閉じさせ、そのまま串だけを引き抜く。
「ンフッーーーーーーーー!!!!!!」
シュクレはその場で激しい足踏みをしながら回転する。そんなに嬉しかったのかな?
「はよ」
「リピーツッ!!」
シュクレが乱暴に杖を振り下ろす。
詠唱は違うけど、起きる現象は同じだ。
彼女が発見した隠しジョブ”スペル・プロフェッサー”のスキルだ。直前の詠唱を省略して放つ事ができる。
「第二部隊はここを死守、それ以外は突撃」
再び前衛2人と後衛1人をここに置いていき、他のメンバーで先に進む。当然、置き去りにされたメンバーは全包囲されて遠からずキルされる事になるだろう。だけどその間、私たちは後方からの追撃を免れる。
つまりシュクレちゃんを安全に運搬できた。
「勝ってくれよ!」
「やれるだけはやってみるよー」
また束の間の空白地帯を走り抜け、数の減った前衛が壁を作る。シュクレが杖を振り下ろす。
「リピーツッ!」
ゴブリン達が吹き飛ぶ。
「シュクレちゃん」
「はい……私の番ですね」
「うん、はいアーン」
「うっ……あーんっ!」
私が突き出した灼熱フランクフルトをシュクレが咥える。彼女の瞳は涙に濡れていた。
「かあいです……」
シュクレはその言動から察するに、多分リアルでは小学生ぐらいなのだろう。本来であればトップ層に入ってくる様な年齢じゃ無い。
だけど彼女はこのゲームでは敬意を払うべき人物だ。それだけの能力がこの世界の彼女にはある。
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