【野生の暴君が現れた!】忍者令嬢はファンタジーVRMMOで無双する【慈悲はない】《殺戮のパイルバンカー》

オモチモチモチモチモチオモチ

文字の大きさ
39 / 149
幻夢境街戦略バトル

戦慄するタイプのシェフ

しおりを挟む
 アニーちゃんが配信に登場するといつもより接続数が増えて大変ありがたい。配信も終わってシュクレちゃんとヨイニも帰った後、俺だけ店に残った。今回の件で、どうしても聞きたいことがある。

「なあ、アニーちゃん」

「なぁーにー?」

 俺の言葉に、アニーちゃんが緩い感じで聞き返す。150cm程度の小柄な体型とその言動だけを切り抜いてみれば普通の可愛らしい少女の様に聞こえるが、その裏側には強大な力が秘められている。

 彼女の黒髪には赤いメッシュがほどこされ、その先端は肩まで落ちている。下半身はティラノサウルスのそれを彷彿ほうふつとさせ、尻尾の付け根からは雄大な翼が生えていた。
 額の片方から突き出た捻れた角は彼女の卓越たくえつした力と狂気性を象徴しているかの様だ。
 服装はゴブリン系のレアドロップで固められて民族的なテイストになっていて、それが彼女の異形の体と不思議と調和している。

「シュクレちゃんの料理、一体どこまで考えて作ったんだ?」

「全部だよ?」

 何気なく、アニーちゃんが首をかしげて答える。シュクレちゃんの喜びは、尋常じんじょうではなかった。感動的な、それどころか奇跡的な瞬間だ。その全てが、考慮の結果として実現されているなんて、とても現実の話とは思えなかった。

「全部って……」

 驚きのあまり、聞き返してしまう。
 アニーちゃんは何気ない様子で続ける。

「包丁の入れ方や下処理、炒める時の手順とか、シュクレちゃんのためじゃない工程なんて1つも無いよ」

 ああ、アニーちゃんの言う"全部"というのは、本当の意味での"全部"なんだろう。所作しょさの1つ1つ、動くこと、動かないこと、呼吸も含めた、全ての瞬間を相手の為に使うと言う事だ。
 口で言うのは簡単だが、真の意味でそれを実現するなんて、およそ常人には不可能だろう。

「実は俺も本業で料理人をやっているんだが、俺じゃシュクレちゃんの力になってあげられなかった」

 シュクレちゃんの相談に対して、自分なりに色々と考えた。だけどこのゲームでMPを回復させようと思ったらどうしても料理を辛くする必要があった。アニーちゃんの料理は味を度外視で回復効果を求める物ばかりだったからダメ元だったんだが、結果は真逆だった。

「あー、それで私の所に来たんだね」

 アニーちゃんが何でもない様に納得する。今回のことは、本当に彼女にとって何でもないことらしい。

「なあ、どうやったらアニーちゃんみたいな、人を感動させられる料理が作れるんだ?」

「……その"誰かを感動させる料理がつくりたい"って言う感情を捨てることだよ」

「ハァ!?」

 アニーちゃんの何気ない発言は、世界中の料理人へ挑戦状を叩きつけるかの様だった。驚きのあまり、思わず声を上げる。

「でも……料理に愛情を込めること、お客さんに料理を楽しんで貰おうと考えるのは悪い事じゃないだろ?」

「もちろん、料理に愛情を込めると美味しくなるよね。じゃあその愛情って何かっていうと、無意識のうちに料理人の注意力や丁寧さが上がって、結果として料理の質を高める事とか、そもそも調理する人と食べる人が愛情を込められるだけの関係性があるっていう心理効果が料理の味を高めるわけじゃん?」

「ま、まぁ……科学的に分析するなら、そう言う表現になるのかな」

 アニーちゃんの言葉に、ちょっと理解が追いつかないながらも首を縦に振る。確かに経験則として、料理を食べてくれる人の事を思って作る料理は美味しいが、その原理についてまで深く考えたことは無かった。彼女の言う"全部"と"愛情を込める"には通ずる部分がある様に感じる。

「だから"料理へ愛情を込める"って言うのは実際に効果はあるよ、ある程度までは」

「ある程度……?」

「そもそも愛情がもたらす効果の内、料理人の能力に関係する部分は料理人に最初からその水準以上の技量があれば必要無いでしょ?」

「そ、そんなの、不可能だ……! そんなことが可能ならそもそもの前提が崩壊するだろ!」

 サーっと全身から血の気が引いていく感覚が全身を駆け巡る。VRMMOはプレイヤーの身体機能を完全に再現するはずなのに、至極当然の事を述べている風のアニーちゃんの瞳に、何1つ感情が読み取れない。

「愛情を込めて料理を作る事が悪い事とは言わないよ。むしろ大多数の人にとってはそれが正解。だけど、その先があるの」

「それが、愛情を捨てるって事なのか?」

 俺の質問に、アニーちゃんは首を左右に振る。
 そして優しくて、感情を感じさせない声音で続けた。

「愛情云々が関係なくなる次元になるの。感情は人の感覚を狂わせるから、無くてもそのクオリティが出せるなら"無い方が良い"。そもそも"相手に喜んで欲しい"って感情は料理人側の感情で、食べる人の為じゃなくて作る人が求めちゃってるでしょ?」

 アニーちゃんの言うそれは、無償の愛とも違う……フィクションの世界で言われる様な、無我の境地に類する物じゃないだろうか。
 
「そ、そんな……」

 今、俺が会話している存在は本当に人間か? 凄いとか凄く無いとか、良し悪しとはまた違う違和感。精神の構造が、人としての造形が異なっている。これではまるで、人間という皮を被った怪物だ。

 異形の姿をしたアニーちゃんのゲームキャラクターが、今は人の形に収まりきらなかった彼女の内面が溢れ出しているのを象徴している様に感じられた。
 
「誰かを感動させたいとか、笑顔になって欲しいとか、美味しい料理を食べて欲しいとか。それって料理を作る人の都合なんだよ、本当に全てを尽くして相手に料理を作るなら自分の中にある美味しさの定義とか、料理を食べた人にどう思って欲しいとか、そう言うバイアスは必要無いの」

「じゃ、じゃあ料理をする人は! 何1つ望んじゃダメだって言うのか? そんなの、あまりに……」

 あまりに、救いが無さすぎる。
 最後の言葉は、恐怖で口にできなかった。何も求めず、何も願わず、ただ相手の為だけに全ての工程を思いを込めて正確に行う。それが、俺にはできなかった事を可能にした料理人が言う料理の最終到達点なんて、到底……受け入れられる物では無かった。
 アニーちゃんの定義で言えば、こんな事を思ってしまう時点で、俺の作る料理には"余計な物"が混ざっている。

 俺の言葉に彼女は再び首を左右に振って答えた。

「料理をする人だって、報われて良いよ。誰かの為に誰かに喜んでもらいたくって料理をすることは素敵なことだし、実際、そう言う料理は美味しい。だけど、もし優劣をつける競技的な比較をするなら……理屈上、より自分を捨てている方が強いってこと」

 アニーちゃんの概念が言葉を通して鼓膜を振動させ、脳を侵食する。1ミクロンも共感はできないけれど、理解した……理解できてしまった。4年前、俺が料理人としての俺に見切りをつけたトラウマが蘇る。

「……あははは、勝てない訳だよ」

「シマーズさん?」

「4年前、俺は世界的な料理コンテストに出たんだけどな? 小学生に負けちゃってさ。ずっと、どうして勝てなかったんだって、俺に何が足りないんだって考えてたんだ」

 当時を思い出す様に視線を上げると、優しい光を放つシャンデリアが目に入った。

 俺は俺の料理で誰かが喜んでくれるのが好きだし、今でもお店に来たお客さんには幸せな時間を過ごして欲しいと思っている。
 もし、世界一の称号がそういった思いを全て捨てた先にしか無いのなら、俺にそんな称号は必要無い。
 こんなの、勝てる訳ないじゃ無いか。子供だってわかる簡単な理屈で……人は、化け物には勝てない。
 俺は料理が好きだ、その気持ちは今も変わらない。だから、俺の限界はここで良い。俺は人間でいたい。

「シマーズさんは、その子よりずっとずっと、大切な物を沢山持っていたから……だから、勝てなかった」

 俺が呆然ぼうぜんとシャンデリアを眺めていると、アニーちゃんが慰めてくれた。ここまでの会話で俺が彼女のリアルを察したのと同様に、彼女も俺と面識があったことに気がついたんだろう。
 まあ俺にとってはトラウマの相手だが、彼女にとって俺は路傍ろぼうの石も同然だったろうけど。

「なんか、諦めが付いたらスッキリしたよ。ありがとう、アニーちゃん」

「シマーズさん!」

 去り際に、背後からアニーちゃんに声をかけられて振り返る。

「その子は、もうそういう大会には出てこないよ」

「どうして?」

「世界一料理が上手なのは、世界一料理の好きな人……その方が、きっと素敵だから」

「……またね、アニーちゃん」

 それだけ言って、俺はアニーちゃんの喫茶店を後にする。建物の外から看板を見上げた。

「喫茶dreamer夢見る者か……電脳世界の暴君はどんな夢を見るんだろうな」
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

神樹の里で暮らす創造魔法使い ~幻獣たちとののんびりライフ~

あきさけ
ファンタジー
貧乏な田舎村を追い出された少年〝シント〟は森の中をあてどなくさまよい一本の新木を発見する。 それは本当に小さな新木だったがかすかな光を帯びた不思議な木。 彼が不思議そうに新木を見つめているとそこから『私に魔法をかけてほしい』という声が聞こえた。 シントが唯一使えたのは〝創造魔法〟といういままでまともに使えた試しのないもの。 それでも森の中でこのまま死ぬよりはまだいいだろうと考え魔法をかける。 すると新木は一気に生長し、天をつくほどの巨木にまで変化しそこから新木に宿っていたという聖霊まで姿を現した。 〝この地はあなたが創造した聖地。あなたがこの地を去らない限りこの地を必要とするもの以外は誰も踏み入れませんよ〟 そんな言葉から始まるシントののんびりとした生活。 同じように行き場を失った少女や幻獣や精霊、妖精たちなど様々な面々が集まり織りなすスローライフの幕開けです。 ※この小説はカクヨム様でも連載しています。アルファポリス様とカクヨム様以外の場所では公開しておりません。

聖女なんかじゃありません!~異世界で介護始めたらなぜか伯爵様に愛でられてます~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
川で溺れていた猫を助けようとして飛び込屋敷に連れていかれる。それから私は、魔物と戦い手足を失った寝たきりの伯爵様の世話人になることに。気難しい伯爵様に手を焼きつつもQOLを上げるために努力する私。 そんな私に伯爵様の主治医がプロポーズしてきたりと、突然のモテ期が到来? エブリスタ、小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...