43 / 149
幻夢境街戦略バトル
2人の出会いと再会、そして。
しおりを挟む
初めて奏音にあったのはまだ男女の区別も無い様な幼い頃だった。皆が一緒に遊んでいる中、1人だけ公園の端っこで蟻の行列を眺めている彼女が気になって僕から話しかけたのが最初だ。
「君、なにしてるの?」
「蟻さんにせんそーさせてるの」
「は???」
子供が蟻の行進を見つめるのは……わかる。同様に子供が蟻の巣へイタズラをするのも……ギリギリわかる。
だけど別の蟻の巣同士が衝突する様に誘導して戦争を勃発させるのは分からない。
「それ、楽しい?」
「すごく楽しい」
そいって嬉しそうに蟻の巣を見つめる女の子に、僕は子供ながらに恐ろしい何かの片鱗を感じていた。
「これ、その後どうするの?」
「生き残った方をまた別の巣とぶつけるの」
「む、向こうで皆と遊ばない?」
とりあえず、公園の片隅でひっそりと行われている恐ろしい何かを止めないといけない。
そんな使命感で僕は奏音を遊びに誘った。
「……良いよ?」
奏音は僕の誘いに対して首を傾げて不思議そうに応える。その仕草は直前までの行為を抜きにすれば、10人中100人が可愛いと感じるものだった。
奏音は何をするのか分からない。そう考えていた僕は遊びに誘った責任として彼女が変な行動を起こしてもフォローできる様に注意して見ていたけど、それはほとんど杞憂だった。
「与一が連れてきたあの子、ヤバいな」
いつも公園で遊ぶメンバーの1人が僕に話しかけてくる。少年の言葉に僕も苦笑いを浮かべて頷く。
「まさかこんな事になるとは思ってなかったよ」
「運動神経もやばいけど、なんて言うかそれ以前の問題で勝てないんだよな」
奏音は僕達のグループに入るなり、大いに無双した。
卓越した運動神経は男子に混ざっても他を圧倒し、ルールの穴を突く様な戦術を次々に生み出す。
どう考えても小学生が勝てる相手じゃなかった。
「……もしかして、奏音を仲間に入れたの嫌だった?」
心配になって聞くと、少年は笑顔で僕の肩を叩いてきた。
「全然! 他のヤツだったらムカついたけど、アイツはなんて言うか、見ていてワクワクするだろ?」
「分かる! あれ、なんなんだろうな?」
「ほら、上級生とかが混ざるとさ……俺たちを馬鹿にしてくるじゃん? だけど奏音はそう言うの全然ないって言うか、普通にやっても勝てるのに毎回、面白いこと考えてくるじゃん? それじゃね?」
「あー! それだな! 何するか分からなくて目が離せないんだよな」
「偶にメチャメチャ抜けてるしな」
そう、奏音は普段”一体どこまで先を読んでいるんだ?”と言いたくなるぐらい人智を尽くす。
「それな! 昨日も校長のズラ取ってきてメチャメチャ叱られてたし」
だけど偶に、それをやったら後で絶対ヤバイって言うのが分かりきっている事が分かってなかったりする。それがまた面白いんだけど。
いつしか奏音は目の離せない存在から、ちょっと特別な存在へ変わっていった。責任感はやがて好奇心に代わり、そして……。
だけど小学生だった僕は、その感情が何なのかを理解していなかった。だから奏音が中学から別の学校へ行ったの知った時、僕は深く後悔した。
高校生になって、同じ高校に風間家の人間が入ったと言う噂を聞いた時、真っ先に奏音の事を思い浮かべた。
中学からの友達からクラスを聞いて、必死に彼女を探す。
「おい、奏音か?」
「はい、私が成績悪すぎて私立に落ちた風間奏音です」
「なっ……いや、そう言うんじゃなくて! ほら! 小学生の時一緒だった与那覇与一だよ!」
三年ぶりに会う奏音は何だかとても弱々しくて。小学生の頃に感じていていた、鮮烈な眩しさが感じられなくなっていた。
「私もね、頑張ったんだよ? でも、色々な期待とか、よく分からない感情で頭グチャグチャで……両親も、もう何も期待しないってさ」
「奏音……一緒にゲームでもしてみないか?」
奏音の話を聞いて、何とかしてやりたいと思った。彼女は、彼女の家族が言う様な無能じゃない!
僕は……僕たちは、それを知っている。
「無責任に聞こえるだろうけど、今の奏音は余裕が無さそうで……俺なら、そんな状態だったらとても勉強にならないよ」
あの時……あの公園で奏音の鮮烈な眩しさに当てられた人間の1人として、それを証明してやりたい。
そんな自分勝手な理由で、彼女をゲームへ誘った。
「……分かった、1回だけやって見る」
「与一君、おはよー」
奏音がIAFを始めてもうすぐ一ヶ月。
いつもの様に登校時間に彼女と会話をする。
彼女は小学生の頃に感じていた輝きをほぼ完全に取り戻している様に感じる。メチャメチャ抜けてる部分も復活している気もするけど。
「おはよう、奏音」
初めはただの正義感だった。
それはやがて好奇心に変わって、今はもっと違う感情に変化している。
「なあ、奏音」
「なーにー?」
「放課後、あの公園でちょっと話さないか?」
「今じゃダメなの?」
「んー、そうだな」
「チャットも?」
「ダメ」
奏音は不思議そうに首を傾げる。
「うーん、良いよ?」
もう、小学生の頃とは違う。
今はこの感情の名前を知っている。
もうあの時と同じ間違いは犯さない。
「ありがとう! じゃ、放課後な!」
今は奏音と顔を合わせるのが恥ずかしい。
走って先に学校へ向かった。
「君、なにしてるの?」
「蟻さんにせんそーさせてるの」
「は???」
子供が蟻の行進を見つめるのは……わかる。同様に子供が蟻の巣へイタズラをするのも……ギリギリわかる。
だけど別の蟻の巣同士が衝突する様に誘導して戦争を勃発させるのは分からない。
「それ、楽しい?」
「すごく楽しい」
そいって嬉しそうに蟻の巣を見つめる女の子に、僕は子供ながらに恐ろしい何かの片鱗を感じていた。
「これ、その後どうするの?」
「生き残った方をまた別の巣とぶつけるの」
「む、向こうで皆と遊ばない?」
とりあえず、公園の片隅でひっそりと行われている恐ろしい何かを止めないといけない。
そんな使命感で僕は奏音を遊びに誘った。
「……良いよ?」
奏音は僕の誘いに対して首を傾げて不思議そうに応える。その仕草は直前までの行為を抜きにすれば、10人中100人が可愛いと感じるものだった。
奏音は何をするのか分からない。そう考えていた僕は遊びに誘った責任として彼女が変な行動を起こしてもフォローできる様に注意して見ていたけど、それはほとんど杞憂だった。
「与一が連れてきたあの子、ヤバいな」
いつも公園で遊ぶメンバーの1人が僕に話しかけてくる。少年の言葉に僕も苦笑いを浮かべて頷く。
「まさかこんな事になるとは思ってなかったよ」
「運動神経もやばいけど、なんて言うかそれ以前の問題で勝てないんだよな」
奏音は僕達のグループに入るなり、大いに無双した。
卓越した運動神経は男子に混ざっても他を圧倒し、ルールの穴を突く様な戦術を次々に生み出す。
どう考えても小学生が勝てる相手じゃなかった。
「……もしかして、奏音を仲間に入れたの嫌だった?」
心配になって聞くと、少年は笑顔で僕の肩を叩いてきた。
「全然! 他のヤツだったらムカついたけど、アイツはなんて言うか、見ていてワクワクするだろ?」
「分かる! あれ、なんなんだろうな?」
「ほら、上級生とかが混ざるとさ……俺たちを馬鹿にしてくるじゃん? だけど奏音はそう言うの全然ないって言うか、普通にやっても勝てるのに毎回、面白いこと考えてくるじゃん? それじゃね?」
「あー! それだな! 何するか分からなくて目が離せないんだよな」
「偶にメチャメチャ抜けてるしな」
そう、奏音は普段”一体どこまで先を読んでいるんだ?”と言いたくなるぐらい人智を尽くす。
「それな! 昨日も校長のズラ取ってきてメチャメチャ叱られてたし」
だけど偶に、それをやったら後で絶対ヤバイって言うのが分かりきっている事が分かってなかったりする。それがまた面白いんだけど。
いつしか奏音は目の離せない存在から、ちょっと特別な存在へ変わっていった。責任感はやがて好奇心に代わり、そして……。
だけど小学生だった僕は、その感情が何なのかを理解していなかった。だから奏音が中学から別の学校へ行ったの知った時、僕は深く後悔した。
高校生になって、同じ高校に風間家の人間が入ったと言う噂を聞いた時、真っ先に奏音の事を思い浮かべた。
中学からの友達からクラスを聞いて、必死に彼女を探す。
「おい、奏音か?」
「はい、私が成績悪すぎて私立に落ちた風間奏音です」
「なっ……いや、そう言うんじゃなくて! ほら! 小学生の時一緒だった与那覇与一だよ!」
三年ぶりに会う奏音は何だかとても弱々しくて。小学生の頃に感じていていた、鮮烈な眩しさが感じられなくなっていた。
「私もね、頑張ったんだよ? でも、色々な期待とか、よく分からない感情で頭グチャグチャで……両親も、もう何も期待しないってさ」
「奏音……一緒にゲームでもしてみないか?」
奏音の話を聞いて、何とかしてやりたいと思った。彼女は、彼女の家族が言う様な無能じゃない!
僕は……僕たちは、それを知っている。
「無責任に聞こえるだろうけど、今の奏音は余裕が無さそうで……俺なら、そんな状態だったらとても勉強にならないよ」
あの時……あの公園で奏音の鮮烈な眩しさに当てられた人間の1人として、それを証明してやりたい。
そんな自分勝手な理由で、彼女をゲームへ誘った。
「……分かった、1回だけやって見る」
「与一君、おはよー」
奏音がIAFを始めてもうすぐ一ヶ月。
いつもの様に登校時間に彼女と会話をする。
彼女は小学生の頃に感じていた輝きをほぼ完全に取り戻している様に感じる。メチャメチャ抜けてる部分も復活している気もするけど。
「おはよう、奏音」
初めはただの正義感だった。
それはやがて好奇心に変わって、今はもっと違う感情に変化している。
「なあ、奏音」
「なーにー?」
「放課後、あの公園でちょっと話さないか?」
「今じゃダメなの?」
「んー、そうだな」
「チャットも?」
「ダメ」
奏音は不思議そうに首を傾げる。
「うーん、良いよ?」
もう、小学生の頃とは違う。
今はこの感情の名前を知っている。
もうあの時と同じ間違いは犯さない。
「ありがとう! じゃ、放課後な!」
今は奏音と顔を合わせるのが恥ずかしい。
走って先に学校へ向かった。
21
あなたにおすすめの小説
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。
癒し目的で始めたVRMMO、なぜか最強になっていた。
branche_noir
SF
<カクヨムSFジャンル週間1位>
<カクヨム週間総合ランキング最高3位>
<小説家になろうVRゲーム日間・週間1位>
現実に疲れたサラリーマン・ユウが始めたのは、超自由度の高いVRMMO《Everdawn Online》。
目的は“癒し”ただそれだけ。焚き火をし、魚を焼き、草の上で昼寝する。
モンスター討伐? レベル上げ? 知らん。俺はキャンプがしたいんだ。
ところが偶然懐いた“仔竜ルゥ”との出会いが、運命を変える。
テイムスキルなし、戦闘ログ0。それでもルゥは俺から離れない。
そして気づけば、森で焚き火してただけの俺が――
「魔物の軍勢を率いた魔王」と呼ばれていた……!?
癒し系VRMMO生活、誤認されながら進行中!
本人その気なし、でも周囲は大騒ぎ!
▶モフモフと焚き火と、ちょっとの冒険。
▶のんびり系異色VRMMOファンタジー、ここに開幕!
カクヨムで先行配信してます!
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件
さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ!
食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。
侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。
「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」
気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。
いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。
料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!
俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!
くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作)
異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる