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剛輪禍工業革命-1:機関車チェイス
剛輪禍へ辿り着くタイプのJK
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全国模試も終わり、夏休みの真っ只中。当然外に出るわけもなく、今日もInequality&Fairにログインする。
「なに、これ?」
いつもの様に幻夢境街のクラン拠点、喫茶ドリーマーを訪れるとカウンターの上になんかお洒落な雰囲気のトロフィー? みたいな物が置かれていた。
「えっと、良くわからないんですけど、なんとか組合? の人が"おめでとうございます!" って言いながら置いて行きました」
私の質問に、私以上の廃プレイヤーであるシュクレが答える。彼女も少し困惑した表情で、小さく首を傾げた。
うーん、どう言うわけか分からないけど、インテリアとしてはそんなに悪くないデザインだしグラス棚の所に置いておこうかな?
「新しい街にアクセスできるのって今日からだよね?」
謎のトロフィーをグラス棚の端っこへ移動させながら、今一番気になる話題についてシュクレに尋ねる。
「そうですね、ちょうど後1時間ぐらいで解放されて、明日からイベント開始です。今回は街の公開からイベントまでの期間が短いですね」
「そっかー、新しい街、一緒に回る?」
「私は良いんですけど……ヨイニさんと回らなくて良いんですか?」
私の誘いに、シュクレが疑問を投げかける。
「あっ」
シュクレの言葉に私の大親友にして……恋人の顔がパッと浮かぶ。中性的でボーイッシュな彼女が苦笑いを浮かべながら笑っていた。
「――アニーさん?」
私の様子を見て、シュクレが責める様な視線を向けてくる。わわ、忘れてたわけじゃないよ? ほんとだよ?
「あれ、でもシュクレに言ってたっけ?」
「いいえ?」
「察しの良い子供め……!」
私は悪ふざけで言った。
「察しの良い子供は嫌いですか?」
シュクレがちょっと戯けながら聞いてきた。私はそれに小さく笑って彼女の頭を撫でる。
「嫌いじゃないよ」
賢さは時に悲劇を産むけど、それ以上に希望たり得るもんね。
それはそうと、早速ヨイニへ連絡を取ってみる。フレンド情報をみると、IAFにはログインしているらしい。
*「もしもーし! 新しい街、一緒に回らない?」*
彼女のキャラクター名をクリックして、フレンドチャットを起動する。メッセージを送ると、返事は直ぐに帰ってきた。
*「良いよ! ちょうど僕からも誘おうと思っていたんだ!」*
*「それじゃ、ドリーマーで待ってるね!」*
*「了解! 色々と準備したら行くよ」*
幻夢境界からの転移が完了して、目を開く。視界を通して、膨大な情報が脳に吸収されてきた。
「え……なにこれ?」
古びたコンクリートと木造が合わさった建物、歪んだ剥き出しの鉄の柱、石畳の道、そして煙突から登る煙。
街角のガス灯がぼんやりと揺らめく中、半壊した部分に目をやる。瓦礫や焼け跡がそのままになっていた。
「公式の情報によると、明治時代の日本をイメージした街並みらしいよ?」
「あー」
言われてみれば、日本史の教科書に添付されていた2Dの画像に似ている様な気がする。
「でも、なんでこんなにボロボロなんだろうね?」
「えっと確か公式ホームページの世界観に何か書いてあった様な……」
ヨイニはそう言うと、半透明のウィンドウから公式ページを確認しながら口を開く。
「あー、モンスターの襲撃を受けてその傷がまだ癒えて無いんだって」
「あ! 今回のイベントってそう言う事だったんだ!」
ヨイニの言葉に私はなるほどと頷く。今回のイベント名は"シティ・リビルド・チャレンジ"だ。多分、この半壊した街、剛輪禍を再建すると言う趣旨のイベントなんだろう。
「確か最初は蒸気機関車でレースをするんだっけか?」
「そうだね! またクラン対抗系だけど、今回は"幻夢境街"と"実夢境街"の戦いでもあるらしいよ?」
第1回イベント以前にキャラメイクを完了したプレイヤーは最初にリスポーンする街を4つの中から選ぶことになる。4つの街はそれぞれオーディアス、クロノシア、エターナルシア、そして私たちが選択したフォートシュロフだ。
この内、オーディアスとクロノシアを選んだプレイヤーが実夢境街で合流して、エターナルシアとフォートシュロフを選んだプレイヤーが幻夢境界で合流している。
「剛輪禍でついに初期プレイヤーが全員合流するんだね」
「そうそう! 今回は、一緒に協力プレイできたら良いね」
私とヨイニはそれぞれ、別のクランのクランマスターを勤めている。イベントだとあまり協力できなかった。
「そうだね! クラン規模で考えたら、僕が協力できる部分ってそんなに大きく無い気もするけど……」
「いや、確かに総数でいえばそうだけどウチは統率とか無いし、実質的な戦力で言えば大して変わらないよ?」
「そうかなぁ、なんだかんだ言って、メメントモリのメンバーはアニーがお願いしたら聞いてくれる気がするけどね」
「あはははは」
ヨイニの発言に、乾いた笑いを返す。
イベントの度にクランメンバーから暗殺を仕掛けられたり内乱を起こしている私のクランに限ってそれは無い。
「確か、レースの順位によって"再建ポイント"が貰えるのと、再建するエリアを優先的に指定できるんだっけ?」
「そうだねー、他にも蒸気機関車レースの後に用意されている工場奪還フェーズでも優先的に入らせてもらえるらしいよ」
「なに、これ?」
いつもの様に幻夢境街のクラン拠点、喫茶ドリーマーを訪れるとカウンターの上になんかお洒落な雰囲気のトロフィー? みたいな物が置かれていた。
「えっと、良くわからないんですけど、なんとか組合? の人が"おめでとうございます!" って言いながら置いて行きました」
私の質問に、私以上の廃プレイヤーであるシュクレが答える。彼女も少し困惑した表情で、小さく首を傾げた。
うーん、どう言うわけか分からないけど、インテリアとしてはそんなに悪くないデザインだしグラス棚の所に置いておこうかな?
「新しい街にアクセスできるのって今日からだよね?」
謎のトロフィーをグラス棚の端っこへ移動させながら、今一番気になる話題についてシュクレに尋ねる。
「そうですね、ちょうど後1時間ぐらいで解放されて、明日からイベント開始です。今回は街の公開からイベントまでの期間が短いですね」
「そっかー、新しい街、一緒に回る?」
「私は良いんですけど……ヨイニさんと回らなくて良いんですか?」
私の誘いに、シュクレが疑問を投げかける。
「あっ」
シュクレの言葉に私の大親友にして……恋人の顔がパッと浮かぶ。中性的でボーイッシュな彼女が苦笑いを浮かべながら笑っていた。
「――アニーさん?」
私の様子を見て、シュクレが責める様な視線を向けてくる。わわ、忘れてたわけじゃないよ? ほんとだよ?
「あれ、でもシュクレに言ってたっけ?」
「いいえ?」
「察しの良い子供め……!」
私は悪ふざけで言った。
「察しの良い子供は嫌いですか?」
シュクレがちょっと戯けながら聞いてきた。私はそれに小さく笑って彼女の頭を撫でる。
「嫌いじゃないよ」
賢さは時に悲劇を産むけど、それ以上に希望たり得るもんね。
それはそうと、早速ヨイニへ連絡を取ってみる。フレンド情報をみると、IAFにはログインしているらしい。
*「もしもーし! 新しい街、一緒に回らない?」*
彼女のキャラクター名をクリックして、フレンドチャットを起動する。メッセージを送ると、返事は直ぐに帰ってきた。
*「良いよ! ちょうど僕からも誘おうと思っていたんだ!」*
*「それじゃ、ドリーマーで待ってるね!」*
*「了解! 色々と準備したら行くよ」*
幻夢境界からの転移が完了して、目を開く。視界を通して、膨大な情報が脳に吸収されてきた。
「え……なにこれ?」
古びたコンクリートと木造が合わさった建物、歪んだ剥き出しの鉄の柱、石畳の道、そして煙突から登る煙。
街角のガス灯がぼんやりと揺らめく中、半壊した部分に目をやる。瓦礫や焼け跡がそのままになっていた。
「公式の情報によると、明治時代の日本をイメージした街並みらしいよ?」
「あー」
言われてみれば、日本史の教科書に添付されていた2Dの画像に似ている様な気がする。
「でも、なんでこんなにボロボロなんだろうね?」
「えっと確か公式ホームページの世界観に何か書いてあった様な……」
ヨイニはそう言うと、半透明のウィンドウから公式ページを確認しながら口を開く。
「あー、モンスターの襲撃を受けてその傷がまだ癒えて無いんだって」
「あ! 今回のイベントってそう言う事だったんだ!」
ヨイニの言葉に私はなるほどと頷く。今回のイベント名は"シティ・リビルド・チャレンジ"だ。多分、この半壊した街、剛輪禍を再建すると言う趣旨のイベントなんだろう。
「確か最初は蒸気機関車でレースをするんだっけか?」
「そうだね! またクラン対抗系だけど、今回は"幻夢境街"と"実夢境街"の戦いでもあるらしいよ?」
第1回イベント以前にキャラメイクを完了したプレイヤーは最初にリスポーンする街を4つの中から選ぶことになる。4つの街はそれぞれオーディアス、クロノシア、エターナルシア、そして私たちが選択したフォートシュロフだ。
この内、オーディアスとクロノシアを選んだプレイヤーが実夢境街で合流して、エターナルシアとフォートシュロフを選んだプレイヤーが幻夢境界で合流している。
「剛輪禍でついに初期プレイヤーが全員合流するんだね」
「そうそう! 今回は、一緒に協力プレイできたら良いね」
私とヨイニはそれぞれ、別のクランのクランマスターを勤めている。イベントだとあまり協力できなかった。
「そうだね! クラン規模で考えたら、僕が協力できる部分ってそんなに大きく無い気もするけど……」
「いや、確かに総数でいえばそうだけどウチは統率とか無いし、実質的な戦力で言えば大して変わらないよ?」
「そうかなぁ、なんだかんだ言って、メメントモリのメンバーはアニーがお願いしたら聞いてくれる気がするけどね」
「あはははは」
ヨイニの発言に、乾いた笑いを返す。
イベントの度にクランメンバーから暗殺を仕掛けられたり内乱を起こしている私のクランに限ってそれは無い。
「確か、レースの順位によって"再建ポイント"が貰えるのと、再建するエリアを優先的に指定できるんだっけ?」
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