【野生の暴君が現れた!】忍者令嬢はファンタジーVRMMOで無双する【慈悲はない】《殺戮のパイルバンカー》

オモチモチモチモチモチオモチ

文字の大きさ
82 / 149
剛輪禍工業革命-1:機関車チェイス

もう一回空を飛ぶタイプのJK

しおりを挟む
「いくぞー!」

 掛け声と共に、機関車の前方へ向かって全力で走る。冷たい風が頬を打ち、髪を後に乱れ飛ばす。全身の力を込めて斜め前方へと飛び出した。

 眼前には、ゴングマンさんによって機関車から切り離された貨物車両が見える。その速さと、自分の高さからの風景の変化を頭の中で計算していく。遠くの山々の風景がぼやけて流れていった。

「よっと!」

 腰の翼を大きく広げ、風を捉える様にして高く舞い上がる。空気の抵抗を全身に感じながら、目の前に迫る貨物列車の屋上へ着地を目指して空を切る。そして、ギリギリのタイミングで屋上に辿り着く。

 後方では、地面の砂塵が舞い上げられ落ちていくプレイヤーの叫び声や怒鳴り声が響いていた。

「うわぁぁあああ!」

「届くわけねぇだろー!」

「ふざけんなー!」

「と、届いた……」

 意外な事に、貨物列車の側面えへばり付く様にして私の他にも数名のプレイヤーが車線移動に成功していた。

「さあ、あとはドンドンいくよ!」

 車線移動はできたので、後は追いつくだけだ。

 眼前には一定間隔で切り離された貨物列車が次々と接近してくる。その上を疾走しっそうし、ガタンゴトンという音と共に次の車両へと乗り移る。

「これは流石に……!」

 最後の貨物列車に乗り移った先には、まだ距離のある機関車。諦めた様な声を漏らすプレイヤーを他所に、私は声を張り上げた。

「シュクレ!」

 私の呼びかけに応じて、機関車が一瞬の間、その勢いを鈍らせる。その瞬間、前方へと勢いよく飛び出す。

「*******!」

 ボイラー室の窓から金髪の幼女エルフ、シュクレがひょっこりと顔を出して大きな杖を掲げる。直後、急速に響く詠唱の声が溢れ、それによって魔法が完成する。彼女の杖から赤く脈打つ光球が放たれた。

「届けぇええ!」

 光球は熱を放ちながら私の足元へ急速に近づいてきた。地面から上がる煙と焦げた匂い、そして瞬時に体を包む熱気。それと同時に、強烈な爆風によって、私は前方へと力強く押し出された。

 タイミングを合わせて腰の翼を開き、その風圧を翼に受けてさらに推進力を得て加速する。

「っと!」

 一瞬の不安と期待が交差し、時間がゆっくりと進む中で、ヘッドスライディングを思わせる流れる様な動きで機関車に接近。息を止め、伸ばした手が、ギリギリで冷たい手すりを掴み取る。

 その瞬間、全ての緊張が解け、安堵の息を吐く。

「ふぅー! なんとかなった!」

 装備や称号、ステータスでプレイヤートップレベルにAGI運動性を伸ばしている私が翼まで使ってギリギリ届くラインだ。

 当然、他のプレイヤーが届くはずもない。

「やっぱり無理だったぁああー!」

 ここまでたどり着いた数少ないプレイヤー達が、途中で脱落したプレイヤーと同じ様に叫びながら地面へと転がっていく。

 まぁ彼らの役目はもう終わっている。正直帰って来てもやること無いだろうしどっちでもいい。

「シュクレ、ただいま!」

 ボイラー室まで戻って、ぶっこぬいたクリスタルの代わりにMPを注ぎ込み続けるシュクレへ話しかける。

「アニーさん、おかえりなさい」

 シュクレは私の方を見てホッとした様な笑みを浮かべて答えた。彼女は元々クリスタルが有った位置を見つめながら口を開く。

「さっきは良く分からなかったんですけど、結局の所、これってどういう理屈でまだ走っているんですか? 流石に私のMPが動力って事じゃないですよね?」

「このイベントってさ、機関車のHP耐久値が減ると速度が落ちる設定だったじゃん?」

「はい、そうですね」

「でも実際の所、燃料炉と駆動系が生きていれば車体がどれだけベコベコになっても理屈の上では速度が著しく落ちる理屈はないじゃん?」

「えぇっと、はい」

「簡単に言うと、あのクリスタルが機関車のHPの減少に合わせて自動的に移動に必要なエネルギーの量を制限していたんだよ」

「えっじゃあ今やっているのって燃料炉の代わりに私のMPを使っているってことですか?」

 シュクレの質問に、私は首を左右へ振った。

「今シュクレがMPを注いでいるのは、どれぐらいのエネルギーを供給するかを制御する管だよ。実際にこの機関車を動かすエネルギーはあのボイラーっぽい所から供給されてる」

「そう言うことだったんですね。でも、よくあの瞬間にそこまで分かりましたね。流石はアニーさんです!」

 シュクレがキラキラした目で私を見つめてくる。なんと言うか、こうやってストレートに褒められると恥ずかしい。

「べ、別に大したことじゃないよ……」

 顔が赤くなるのを自覚しつつ、そっぽを向く。だけど、シュクレのベタ褒め追撃は止まない。

「私なんて、この配線を見てもチンプンカンプンです!」

「こ、これは1つづつ追って行くと複雑に感じるかもだけど、特定の目的に対して必要な回路のテンプレートってある程度決まっているから、それに合わせて回路の集合をブロック化して捉えれば案外シンプルだよ……」

 シュクレが軽く笑いながら、次の質問をぶつける。

「それでこれ、止まる時にはどうしたら良いんですか?」

「……あっ」

 ニコニコしながら聞いてくるシュクレに対して、私は気がついたことの重要性に驚いて、返事というか、ただの感嘆符を返す。

「――アニーさん?」

 シュクレがニコニコしながら私の名前を呼ぶ。だけど、その笑みはさっきまでと真逆の温度を持っていた。

「ごめーん! この機関車もう止まれなーい!」
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

癒し目的で始めたVRMMO、なぜか最強になっていた。

branche_noir
SF
<カクヨムSFジャンル週間1位> <カクヨム週間総合ランキング最高3位> <小説家になろうVRゲーム日間・週間1位> 現実に疲れたサラリーマン・ユウが始めたのは、超自由度の高いVRMMO《Everdawn Online》。 目的は“癒し”ただそれだけ。焚き火をし、魚を焼き、草の上で昼寝する。 モンスター討伐? レベル上げ? 知らん。俺はキャンプがしたいんだ。 ところが偶然懐いた“仔竜ルゥ”との出会いが、運命を変える。 テイムスキルなし、戦闘ログ0。それでもルゥは俺から離れない。 そして気づけば、森で焚き火してただけの俺が―― 「魔物の軍勢を率いた魔王」と呼ばれていた……!? 癒し系VRMMO生活、誤認されながら進行中! 本人その気なし、でも周囲は大騒ぎ! ▶モフモフと焚き火と、ちょっとの冒険。 ▶のんびり系異色VRMMOファンタジー、ここに開幕! カクヨムで先行配信してます!

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!

くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作) 異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」

処理中です...