【野生の暴君が現れた!】忍者令嬢はファンタジーVRMMOで無双する【慈悲はない】《殺戮のパイルバンカー》

オモチモチモチモチモチオモチ

文字の大きさ
105 / 149
オーディアス攻略作戦

ついに現実世界で地獄を作るタイプのJK

しおりを挟む
 それは、まるで砲弾の直撃を受けた塹壕ざんごうのような有様だった。あちこちへグチャグチャに散らばった人体のパーツたち。白を基調とした部屋が、今は彼らによって極彩色ごくさいしきに染め上げられている。

「えへ、えへへ……!」

 部屋の惨状さんじょうを他所に、私はこれから待っているイベントへの期待が抑えられず、思わず笑みを溢してしまった。

 視線の先には、古風で繊細せんさいな装飾のある立ち鏡があり、真っ赤な胴体がまるで生贄のように吊り下がっている。そんな地獄のような部屋で、私は生贄の吊るされた鏡の前でクルリと1回転。

「……この服で大丈夫かな?」

 鏡には、白いワンピースに身を包んだ黒髪の華奢な少女が写っている。頭には深めのチャコールグレーの帽子をかぶっていた。帽子の縁はやや広く、そこに細かいスティッチが施されている。

 まぁ、私なんだけど。

「与一は、どんな格好でくるのかな」

 立ち鏡に掛けてあった赤い服を後ろに放り投げた。これで、鏡の中に私全体がしっかり映る。

 鏡に映る私の表情は少し不安げに見えたけど、瞳には期待とワクワクした気持ちが宿っていた。






 夜のヴェールが街をそっと覆う。私は人々が集まる花火会場へ足を運び始めた。息が詰まるほど理路整然とした都会から逃れ、少しの時間だけ特別な空間に浸かるのは心地よい。

「お待たせ」

 私は待ち合わせ場所の公園に着くと、一際目を引く背の高い少女、与一へ声をかけた。そのスタイルは、誰もが羨むようなスリムで、どこかボーイッシュな雰囲気を放っている。

 男の子っぽい言葉使いや態度が、その特徴を一層、際立たせていた。

「いいや、僕も今来たところだよ」

 与一は私に気がついて、口角を優しくあげる。

「浴衣、似合っているね」

 与一が身に纏っているのは、鮮やかな青い着物。その色は夏の空を彷彿とさせ、彼女の若々しいエネルギーとマッチしている。

「ありがとう。奏音も可愛いよ」

「あ、ありがとう……」

 与一はなんの気負いもなくそう言って、私の方へ手を差し出してきた。私が躊躇ためらいがちに伸ばした手を彼女は力強く握る。

「それじゃ、いこっか!」

 2人で手を握って歩き出す。提灯のほのかな光が私たちの足元を照らして、色とりどりの露天が目の前に広がる。

 焼きそばの香ばしい香り、わたあめの甘い匂いが鼻をくすぐった。周りには浴衣姿の人々で賑わっている。

「そろそろだね」

 与一の言葉に時計をみると、もう時間だ。皆が空を仰ぎ、期待に胸を膨らませる。静寂せいじゃくが続く中、突然、音とともに夜空に鮮やかな光が放たれた。赤や青、黄色が舞い上がる。

 その美しさに心が揺れ、周囲から歓声が上がった。

「(テレビで見た時は、何も感じなかったんだけどな)」

 そんなことを考えながら与一の手をギュッと握り返すと、彼女は何も言わずに握り返してきた。

 1つ1つの花火が消えていくと、私は少しの間、空を見上げてこの思い出の余韻よいんを楽しんだ。






「そういえば、IAFの新しいプロモーションムービーが公開されたらしいよ?」

 花火大会の帰り道、待ち合わせをした公園の前で与一が思い出した様に空を見上げながら口を開いた。日頃から遊んでいるVRMMOの新プロモーションムービー、確かに気になる。

「それじゃ、一緒に見てみようよ」

 2人で公園のベンチに座り、お互いの携帯端末を接続してAR機能を共有する。眼前には直ぐに動画再生画面が表示された。

*「ここは、どこまでも公平で、そして不平等な世界――」*

 真っ白な背景に、いつもログイン画面でお世話になっているAIの声が源界明朝と共に表示され、直ぐに場面転換。

「ぎぃぃいいあ!」

 野蛮な声が響く。

 目の前に飛び込んできたのは、重厚な金属の鎧に身を包んだゴブリンの大群が、中世ヨーロッパを彷彿とさせる城砦都市に侵攻している場面。

「フォートシュロフだね」

 与一の言葉に頷き、この後の展開を予想して嫌な汗をかき始めた。この場面は、ゲームが始まって最初のイベントの場面だ。

黄昏來たそがれきたりて闇が全て飲み込もうと瞬き続ける星屑よ、今、我が元につどいてあかつきごとく闇を切り裂く閃光とならん」

 一瞬の場面転換、今度は城砦都市の内側の様子が映し出される。その中では、ゴブリンの侵攻を防ぐ冒険者風の男たちの後ろで、大きな杖を掲げた金髪の小さなエルフが長い詠唱を唱えていた。

 後に大詠唱教授アーク・スペルプロフェッサーよ呼ばれるプレイヤー、シュクレの姿だ。

「シャイニング・スレイライト!」

 シュクレが杖を振り下ろされると同時に、極太の光線が解き放たれ、冒険者ごとゴブリンの一段を吹き飛ばした。

 せ、セーフ! 彼女の活躍は影響範囲が大きい分、見栄えが良い。この調子なら私が映る事は無い、はず!

 さらに場面転換。

「キヒヒヒッ……こっからはアクションゲームだよ」

 眼前にはティラノサウルス足と尻尾、猛禽類の翼を腰から生やし民族的な装備に身を包んだ私のアバター、アニーキャノンが獰猛どうもうな笑みを浮かべてゴブリンの一段へ突っ込んでいく姿が映し出された。

 許されなかった……。

「……なんて言うか、すごくクローズアップされてたね?」

 動画を最後まで見終わって、項垂れている私に与一が苦笑いを浮かべながら声をかけてくる。

「うう、不平等だー!」

 動画では、他にも大規模イベントでの名場面や、関係ない見どころシーンが散り見事に編集されてた。

 そしてなぜか、な・ぜ・か! その大体の場面において現実の私とは対照的に狂喜乱舞しながら圧倒的な身体能力によって敵を粉砕する私こと、アニーキャンの姿。

「でも、僕はちょっと誇らしいな」

「何が!」

「奏音が、実はすごいんだって自慢できるみたいでさ」

「う……私は恥ずかしいよ!」
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

癒し目的で始めたVRMMO、なぜか最強になっていた。

branche_noir
SF
<カクヨムSFジャンル週間1位> <カクヨム週間総合ランキング最高3位> <小説家になろうVRゲーム日間・週間1位> 現実に疲れたサラリーマン・ユウが始めたのは、超自由度の高いVRMMO《Everdawn Online》。 目的は“癒し”ただそれだけ。焚き火をし、魚を焼き、草の上で昼寝する。 モンスター討伐? レベル上げ? 知らん。俺はキャンプがしたいんだ。 ところが偶然懐いた“仔竜ルゥ”との出会いが、運命を変える。 テイムスキルなし、戦闘ログ0。それでもルゥは俺から離れない。 そして気づけば、森で焚き火してただけの俺が―― 「魔物の軍勢を率いた魔王」と呼ばれていた……!? 癒し系VRMMO生活、誤認されながら進行中! 本人その気なし、でも周囲は大騒ぎ! ▶モフモフと焚き火と、ちょっとの冒険。 ▶のんびり系異色VRMMOファンタジー、ここに開幕! カクヨムで先行配信してます!

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!

くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作) 異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」

処理中です...