119 / 149
オーディアス攻略作戦
蛙化するタイプのJK
しおりを挟む
「うっおえぇぇええ」
立ちあがろうとして腹に力を入れた瞬間、チクリと痛みが走る。次の瞬間、抑え切れない吐き気が迫り上がってなんの抵抗もできずに胃の内容物が吐き出される。まるで胃がひっくり返ったみたいだ。
蛙は胃をひっくり返して洗えるって学校で習ったけど、これが遥か昔にJKで流行った蛙化現象ってやつか。
「やはり、できるんだな」
何故か追撃されることなく、父の声が私へ投げかけられる。なんで追い討ちしてこないんだろう?
「へ?」
「今の技は、鷹穿ちだろう」
「そっか、今、現実……」
現実世界の私は、風間流の技を1つも習得できなかった。IAFで散々使えていたのはゲーム内キャラクターのアニーが持つ現実を超越した身体能力があったからだ。その、はずだった。
「謝らないといけないことがある」
父は私から一定の距離を空けて構えたまま、淡々とした口調で語りかけてくる。私はゆっくりと立ち上がって構え直した。
「奏音、お前が風間流の技を習得できなかったのは、私がちゃんと教えなかったからだ」
「なんで? いじめ?」
なんかもう、敬語とかめんどくさくなって来た。こんなガチ殴り合いしておいて今更、機嫌とかとっても無意味じゃん。父は私の口調に少し驚いた表情を浮かべて、首を左右へ振る。
「いいや、当時のお前の言動を見ていて……少しでも、他者を害する事へのハードルを高くしたかったんだ」
「うーん?」
私がよく分からなくて首を傾げると、父は一度だけ構えを解いて、頭を下げながら言葉を続けた。
「お前の異常な戦いと風間流の才能を間近で見て……ある日、なんでも無い様子で取り返しのつかない事をしてしまうんじゃ無いかと思ったんだ」
父は静かに語った。その声には、後悔の色が深く滲んでいる。他人を守る為だけじゃない、まだ世の中の事を分かっていない幼い私が、間違いを犯す事を危惧した、私を守るための言葉だった。
「(そんなの、今更言われたって……!)」
私の胸中には、やり場の無い怒りが渦巻いていた。どれだけ言葉を尽くされても、幼い私が感じた絶望や、喪失感が無くなる訳じゃ無い。
何も言わない私を他所に、父はさらに言葉を続ける。
「その時は……風間家を、お前を守る為に仕方のない事だと考えた。だが、私はお前がその力をどう扱うかを知る前に、勝手に選択した。い、今では、他に、もっと良い選択があったんじゃ無いかと感じる」
父はそこで言葉を切って。
「すまなかった」
父が深く息を吐きながら続ける。
「お前を守るためだと思った行動が、実際はお前から大切なものを奪っていた。今まで、その事に気が付かなかった。お前の成長を信じて、正直に向き合うべきだった」
父の言葉には、過去の決断に対する深い後悔がこもっていた。私の中にあった怒りの渦が、少しずつ和らいでいくのを感じる。
大きく、大きく息を吐き出す。
一緒に胸の中の怒気を追い出す様に。
「いいよ、不満はあるし納得もしてないけど……理解はできる」
私の言葉に、父は頭を上げて驚いた表情で私の方を見つめる。構えもとっていない父へ、私は言葉を続けた。
「あのゲームを始めるまで、私は私が他の人と違う点について、すごく無自覚だった。もし、当時の私に"風間流"っていう選択肢があった時に、何をしたか、しなかったかは私にも分からない」
家族、それも自分にとって絶対的な存在である父親からの"無能"というレッテルは幼い頃の私に深い傷を残した。その痛みは、とても言葉に言い表せる物では無く、今も私の心を深く抉っている。
だけど……納得はできないけれど、父も父なりの苦悩と理由があったことを感じる取ることができた。それは、私の心にあった重い鎖が少しだけ軽くなる様な感覚だった。
「そう、か」
父はそういって、私と視線を合わせた。さっきまで後悔で曇っていた目が、少しだけ晴れやかになった様な気がする。
「奏音、お前は無能なんかじゃ無い。ちょっと周りと考え方が違ったり、苦手な事があるだけで、文武共に、凄まじい才能を持っている。自信を持ってくれ」
そして、父は再び構えを取った。
立ちあがろうとして腹に力を入れた瞬間、チクリと痛みが走る。次の瞬間、抑え切れない吐き気が迫り上がってなんの抵抗もできずに胃の内容物が吐き出される。まるで胃がひっくり返ったみたいだ。
蛙は胃をひっくり返して洗えるって学校で習ったけど、これが遥か昔にJKで流行った蛙化現象ってやつか。
「やはり、できるんだな」
何故か追撃されることなく、父の声が私へ投げかけられる。なんで追い討ちしてこないんだろう?
「へ?」
「今の技は、鷹穿ちだろう」
「そっか、今、現実……」
現実世界の私は、風間流の技を1つも習得できなかった。IAFで散々使えていたのはゲーム内キャラクターのアニーが持つ現実を超越した身体能力があったからだ。その、はずだった。
「謝らないといけないことがある」
父は私から一定の距離を空けて構えたまま、淡々とした口調で語りかけてくる。私はゆっくりと立ち上がって構え直した。
「奏音、お前が風間流の技を習得できなかったのは、私がちゃんと教えなかったからだ」
「なんで? いじめ?」
なんかもう、敬語とかめんどくさくなって来た。こんなガチ殴り合いしておいて今更、機嫌とかとっても無意味じゃん。父は私の口調に少し驚いた表情を浮かべて、首を左右へ振る。
「いいや、当時のお前の言動を見ていて……少しでも、他者を害する事へのハードルを高くしたかったんだ」
「うーん?」
私がよく分からなくて首を傾げると、父は一度だけ構えを解いて、頭を下げながら言葉を続けた。
「お前の異常な戦いと風間流の才能を間近で見て……ある日、なんでも無い様子で取り返しのつかない事をしてしまうんじゃ無いかと思ったんだ」
父は静かに語った。その声には、後悔の色が深く滲んでいる。他人を守る為だけじゃない、まだ世の中の事を分かっていない幼い私が、間違いを犯す事を危惧した、私を守るための言葉だった。
「(そんなの、今更言われたって……!)」
私の胸中には、やり場の無い怒りが渦巻いていた。どれだけ言葉を尽くされても、幼い私が感じた絶望や、喪失感が無くなる訳じゃ無い。
何も言わない私を他所に、父はさらに言葉を続ける。
「その時は……風間家を、お前を守る為に仕方のない事だと考えた。だが、私はお前がその力をどう扱うかを知る前に、勝手に選択した。い、今では、他に、もっと良い選択があったんじゃ無いかと感じる」
父はそこで言葉を切って。
「すまなかった」
父が深く息を吐きながら続ける。
「お前を守るためだと思った行動が、実際はお前から大切なものを奪っていた。今まで、その事に気が付かなかった。お前の成長を信じて、正直に向き合うべきだった」
父の言葉には、過去の決断に対する深い後悔がこもっていた。私の中にあった怒りの渦が、少しずつ和らいでいくのを感じる。
大きく、大きく息を吐き出す。
一緒に胸の中の怒気を追い出す様に。
「いいよ、不満はあるし納得もしてないけど……理解はできる」
私の言葉に、父は頭を上げて驚いた表情で私の方を見つめる。構えもとっていない父へ、私は言葉を続けた。
「あのゲームを始めるまで、私は私が他の人と違う点について、すごく無自覚だった。もし、当時の私に"風間流"っていう選択肢があった時に、何をしたか、しなかったかは私にも分からない」
家族、それも自分にとって絶対的な存在である父親からの"無能"というレッテルは幼い頃の私に深い傷を残した。その痛みは、とても言葉に言い表せる物では無く、今も私の心を深く抉っている。
だけど……納得はできないけれど、父も父なりの苦悩と理由があったことを感じる取ることができた。それは、私の心にあった重い鎖が少しだけ軽くなる様な感覚だった。
「そう、か」
父はそういって、私と視線を合わせた。さっきまで後悔で曇っていた目が、少しだけ晴れやかになった様な気がする。
「奏音、お前は無能なんかじゃ無い。ちょっと周りと考え方が違ったり、苦手な事があるだけで、文武共に、凄まじい才能を持っている。自信を持ってくれ」
そして、父は再び構えを取った。
10
あなたにおすすめの小説
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。
癒し目的で始めたVRMMO、なぜか最強になっていた。
branche_noir
SF
<カクヨムSFジャンル週間1位>
<カクヨム週間総合ランキング最高3位>
<小説家になろうVRゲーム日間・週間1位>
現実に疲れたサラリーマン・ユウが始めたのは、超自由度の高いVRMMO《Everdawn Online》。
目的は“癒し”ただそれだけ。焚き火をし、魚を焼き、草の上で昼寝する。
モンスター討伐? レベル上げ? 知らん。俺はキャンプがしたいんだ。
ところが偶然懐いた“仔竜ルゥ”との出会いが、運命を変える。
テイムスキルなし、戦闘ログ0。それでもルゥは俺から離れない。
そして気づけば、森で焚き火してただけの俺が――
「魔物の軍勢を率いた魔王」と呼ばれていた……!?
癒し系VRMMO生活、誤認されながら進行中!
本人その気なし、でも周囲は大騒ぎ!
▶モフモフと焚き火と、ちょっとの冒険。
▶のんびり系異色VRMMOファンタジー、ここに開幕!
カクヨムで先行配信してます!
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件
さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ!
食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。
侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。
「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」
気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。
いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。
料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!
俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!
くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作)
異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる