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オーディアス攻略作戦
蛙化するタイプのJK
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「うっおえぇぇええ」
立ちあがろうとして腹に力を入れた瞬間、チクリと痛みが走る。次の瞬間、抑え切れない吐き気が迫り上がってなんの抵抗もできずに胃の内容物が吐き出される。まるで胃がひっくり返ったみたいだ。
蛙は胃をひっくり返して洗えるって学校で習ったけど、これが遥か昔にJKで流行った蛙化現象ってやつか。
「やはり、できるんだな」
何故か追撃されることなく、父の声が私へ投げかけられる。なんで追い討ちしてこないんだろう?
「へ?」
「今の技は、鷹穿ちだろう」
「そっか、今、現実……」
現実世界の私は、風間流の技を1つも習得できなかった。IAFで散々使えていたのはゲーム内キャラクターのアニーが持つ現実を超越した身体能力があったからだ。その、はずだった。
「謝らないといけないことがある」
父は私から一定の距離を空けて構えたまま、淡々とした口調で語りかけてくる。私はゆっくりと立ち上がって構え直した。
「奏音、お前が風間流の技を習得できなかったのは、私がちゃんと教えなかったからだ」
「なんで? いじめ?」
なんかもう、敬語とかめんどくさくなって来た。こんなガチ殴り合いしておいて今更、機嫌とかとっても無意味じゃん。父は私の口調に少し驚いた表情を浮かべて、首を左右へ振る。
「いいや、当時のお前の言動を見ていて……少しでも、他者を害する事へのハードルを高くしたかったんだ」
「うーん?」
私がよく分からなくて首を傾げると、父は一度だけ構えを解いて、頭を下げながら言葉を続けた。
「お前の異常な戦いと風間流の才能を間近で見て……ある日、なんでも無い様子で取り返しのつかない事をしてしまうんじゃ無いかと思ったんだ」
父は静かに語った。その声には、後悔の色が深く滲んでいる。他人を守る為だけじゃない、まだ世の中の事を分かっていない幼い私が、間違いを犯す事を危惧した、私を守るための言葉だった。
「(そんなの、今更言われたって……!)」
私の胸中には、やり場の無い怒りが渦巻いていた。どれだけ言葉を尽くされても、幼い私が感じた絶望や、喪失感が無くなる訳じゃ無い。
何も言わない私を他所に、父はさらに言葉を続ける。
「その時は……風間家を、お前を守る為に仕方のない事だと考えた。だが、私はお前がその力をどう扱うかを知る前に、勝手に選択した。い、今では、他に、もっと良い選択があったんじゃ無いかと感じる」
父はそこで言葉を切って。
「すまなかった」
父が深く息を吐きながら続ける。
「お前を守るためだと思った行動が、実際はお前から大切なものを奪っていた。今まで、その事に気が付かなかった。お前の成長を信じて、正直に向き合うべきだった」
父の言葉には、過去の決断に対する深い後悔がこもっていた。私の中にあった怒りの渦が、少しずつ和らいでいくのを感じる。
大きく、大きく息を吐き出す。
一緒に胸の中の怒気を追い出す様に。
「いいよ、不満はあるし納得もしてないけど……理解はできる」
私の言葉に、父は頭を上げて驚いた表情で私の方を見つめる。構えもとっていない父へ、私は言葉を続けた。
「あのゲームを始めるまで、私は私が他の人と違う点について、すごく無自覚だった。もし、当時の私に"風間流"っていう選択肢があった時に、何をしたか、しなかったかは私にも分からない」
家族、それも自分にとって絶対的な存在である父親からの"無能"というレッテルは幼い頃の私に深い傷を残した。その痛みは、とても言葉に言い表せる物では無く、今も私の心を深く抉っている。
だけど……納得はできないけれど、父も父なりの苦悩と理由があったことを感じる取ることができた。それは、私の心にあった重い鎖が少しだけ軽くなる様な感覚だった。
「そう、か」
父はそういって、私と視線を合わせた。さっきまで後悔で曇っていた目が、少しだけ晴れやかになった様な気がする。
「奏音、お前は無能なんかじゃ無い。ちょっと周りと考え方が違ったり、苦手な事があるだけで、文武共に、凄まじい才能を持っている。自信を持ってくれ」
そして、父は再び構えを取った。
立ちあがろうとして腹に力を入れた瞬間、チクリと痛みが走る。次の瞬間、抑え切れない吐き気が迫り上がってなんの抵抗もできずに胃の内容物が吐き出される。まるで胃がひっくり返ったみたいだ。
蛙は胃をひっくり返して洗えるって学校で習ったけど、これが遥か昔にJKで流行った蛙化現象ってやつか。
「やはり、できるんだな」
何故か追撃されることなく、父の声が私へ投げかけられる。なんで追い討ちしてこないんだろう?
「へ?」
「今の技は、鷹穿ちだろう」
「そっか、今、現実……」
現実世界の私は、風間流の技を1つも習得できなかった。IAFで散々使えていたのはゲーム内キャラクターのアニーが持つ現実を超越した身体能力があったからだ。その、はずだった。
「謝らないといけないことがある」
父は私から一定の距離を空けて構えたまま、淡々とした口調で語りかけてくる。私はゆっくりと立ち上がって構え直した。
「奏音、お前が風間流の技を習得できなかったのは、私がちゃんと教えなかったからだ」
「なんで? いじめ?」
なんかもう、敬語とかめんどくさくなって来た。こんなガチ殴り合いしておいて今更、機嫌とかとっても無意味じゃん。父は私の口調に少し驚いた表情を浮かべて、首を左右へ振る。
「いいや、当時のお前の言動を見ていて……少しでも、他者を害する事へのハードルを高くしたかったんだ」
「うーん?」
私がよく分からなくて首を傾げると、父は一度だけ構えを解いて、頭を下げながら言葉を続けた。
「お前の異常な戦いと風間流の才能を間近で見て……ある日、なんでも無い様子で取り返しのつかない事をしてしまうんじゃ無いかと思ったんだ」
父は静かに語った。その声には、後悔の色が深く滲んでいる。他人を守る為だけじゃない、まだ世の中の事を分かっていない幼い私が、間違いを犯す事を危惧した、私を守るための言葉だった。
「(そんなの、今更言われたって……!)」
私の胸中には、やり場の無い怒りが渦巻いていた。どれだけ言葉を尽くされても、幼い私が感じた絶望や、喪失感が無くなる訳じゃ無い。
何も言わない私を他所に、父はさらに言葉を続ける。
「その時は……風間家を、お前を守る為に仕方のない事だと考えた。だが、私はお前がその力をどう扱うかを知る前に、勝手に選択した。い、今では、他に、もっと良い選択があったんじゃ無いかと感じる」
父はそこで言葉を切って。
「すまなかった」
父が深く息を吐きながら続ける。
「お前を守るためだと思った行動が、実際はお前から大切なものを奪っていた。今まで、その事に気が付かなかった。お前の成長を信じて、正直に向き合うべきだった」
父の言葉には、過去の決断に対する深い後悔がこもっていた。私の中にあった怒りの渦が、少しずつ和らいでいくのを感じる。
大きく、大きく息を吐き出す。
一緒に胸の中の怒気を追い出す様に。
「いいよ、不満はあるし納得もしてないけど……理解はできる」
私の言葉に、父は頭を上げて驚いた表情で私の方を見つめる。構えもとっていない父へ、私は言葉を続けた。
「あのゲームを始めるまで、私は私が他の人と違う点について、すごく無自覚だった。もし、当時の私に"風間流"っていう選択肢があった時に、何をしたか、しなかったかは私にも分からない」
家族、それも自分にとって絶対的な存在である父親からの"無能"というレッテルは幼い頃の私に深い傷を残した。その痛みは、とても言葉に言い表せる物では無く、今も私の心を深く抉っている。
だけど……納得はできないけれど、父も父なりの苦悩と理由があったことを感じる取ることができた。それは、私の心にあった重い鎖が少しだけ軽くなる様な感覚だった。
「そう、か」
父はそういって、私と視線を合わせた。さっきまで後悔で曇っていた目が、少しだけ晴れやかになった様な気がする。
「奏音、お前は無能なんかじゃ無い。ちょっと周りと考え方が違ったり、苦手な事があるだけで、文武共に、凄まじい才能を持っている。自信を持ってくれ」
そして、父は再び構えを取った。
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