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オーディアス攻略作戦
ホットサンドを提供するタイプのJK
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「それに! 影響力とか強さで言うならアニーさんの方がとんでもないことになってるじゃないですか!」
話題を自分から逸らそうと必死のシュクレがそう言って私の方を指差す。咄嗟のことに私は首を傾げて聞き返した。
「私?」
「そうです! IAF内最大規模のクラン"メメント・モリ"のクランマスター! "暴君"や"バロンロード"など数多の異名を持つアニー・キャノンさんです!!」
「確かにメメントモリは数だけは多いけど……多分私が号令かけても50人ぐらいしか集まらないよ?」
シュクレの言う通り、メメントモリのメンバー数はそろそろ300名を超える勢い。それだけ聞けば凄そうだけど、コンセプトは"各自が好きなことを好きなようにやる"だ。
指示系統とか、統率という概念がそもそも無い。一応、呼び掛ければ興味がある人は顔出すだろうけど……。
「いいや、それは過小評価だな。多分、150人ぐらいはいけるだろ」
声の方へ視線を送ると、筋骨隆々のスキンヘッドなマッチョの男が立っていた。メメントモリの内部組織、PVPガチ勢を集めた"ブルーバロン"の取りまとめをしてくれているゴングマンさんだ。
「おかえり、ゴリラマンさん!」
私は椅子に座ったまま、小さく手を振る。
「ゴリラじゃねぇ! ゴングだ!!」
私の返事にゴングマンさんがいつもの様にツッコミを入れる。その後ろから、今度は恐ろしく着崩した修道女の風の小柄な女性が現れた。
「というかボスが号令をかけるならシュクレ師匠が動くわけだし、そしたらもう200人以上は確実っすよ?」
やたらと後輩ムーブが似合う、ムエルケさんだ。彼女のシュクレ教の1人なんだけど、メメントモリでは貴重な回復担当でもある。
「後は、クダンちゃんかな?」
それぞれが挨拶をすると、ヨイニが視線を右端へ移しながら口を開く。私たちには見えないけど、彼女の視界にはその位置に時計か何かが表示されているんだろう。
「あ、あの……もういます……」
ヨイニの言葉に、どこからともなく声が返ってくる。皆で周囲をキョロキョロと見回すと、ヨイニの背中からちょこっと顔を半分だけ見せた。
「えっいつから……?」
「アニーさんの次ぐらいです」
しかも、結構最初の方からいたらしい。プレイヤーはログインすると光リングのエフェクトがあるはずなんだけど、全然気が付かなかった。
「全然気が付かなかった!」
ヨイニが驚いて椅子から立ち上がり、クダンちゃんの姿がやっと見える。黒髪ボブカットの少女で、忍者装束に身を包んでいる。
「わっわ」
一瞬だけ姿を見せてくれたクダンちゃんだけど、またすぐヨイニの背中へと隠れてしまった。
「俺らはともかく、真後ろにいたヨイニが気が付かないのは流石にどうなんだ……?」
困惑した様子で問いかけるゴングマンさんに、ヨイニが苦笑いを浮かべながら頬をポリポリとかく。
「ま、流石は"フォートシュロフ神聖騎士団"のお庭番ってことで」
クダンちゃんは、ヨイニがクランマスターを務める"フォートシュロフ神聖騎士団"のお庭番という役職になっている。
実際にはダンジョン攻略をする時に索敵、罠感知と解除なんかを専門に担当するプレイヤーだ。なんで騎士団にお庭番があるのかと言うと、その場のノリで決まったらしい。
「あっご飯できたよー」
タイミングよく、さっきから焚き火で暇つぶしに作っていたホットサンドが完成した。
「お、具材はなんだ?」
私は黙々とホットサンドメーカーを取り出したあたりから何の料理かは分かっていたであろうシマーズさんが具材を聞いてくる。
「灼熱ウィンナーをメインにチーズとか野菜とか色々」
灼熱ウィンナーにはMP回復、野菜にはAGI上昇、チーズには効果総量上昇、パンには効果時間延長の作用がある。
私がホットサンドメーカーをシマーズさんへ向けると、彼はそれを一枚取って口へと運ぶ。
「お、やっぱり美味いな」
ホットサンドを口にしたシマーズさんが嬉しそうに頷く。現実では料理人をしているらしい彼からの高評価は嬉しい。
「アニーは料理が上手だよなー」
今度はヨイニがホットサンドメーカーからホットサンドを一枚取って、美味しそうに頬張る。
「シュクレも、これはそんなに辛く感じないから」
「あ、いえ私は……」
シュクレが遠慮するように手のひらを見せる、その手は僅かに震えているのが分かった。
IAFでは辛い料理程MP回復効果が高いけど、彼女は辛い物が苦手だ。特にMP回復量と即効性に優れる反面、相応に理不尽な辛さを誇る灼熱ウィンナーは天敵だったりする。
「ちなみに、もし戦闘中にシュクレのMPが亡くなった場合は灼熱ウィンナーの現物を無理やりお口に捩じ込むけど?」
私は真顔で、冷静かつ合理的な事実を伝える。ちなみに、もしホットサンドを食べた上でMPが足りなくなっても同じだ。
シュクレには悪いけど、彼女の魔法攻撃はそれだけ変えの効かない重要な戦力なんだよね。
伊達に教祖やってない。
「た、食べます!」
シュクレはか細く、しかし決意を持って答える。彼女が震える手でホットサンドを受け取ると、私たちの視線が彼女へ集中した。
そしてちょっと、いやだいぶ警戒しながらそれを口へ運ぶ。一口食べると、彼女の顔の緊張が和らいて、ほっとした表情に変わった。
「あっこれ美味しいです!」
シュクレの驚いた声が焚き火の周りに響いた。彼女の笑顔を見て、全員が安堵の笑みを浮かべる。
「やったね! シュクレ!」
「よく頑張った!」
「流石は師匠っす!」
ヨイニ、ゴングマンさん、そしてムエルケさんが口々にシュクレを褒めちぎった。
「このホットサンド、灼熱ウィンナーの辛さをチーズと野菜、そしてパンで極力和らげているんだな」
料理人のシマーズさんが、関心したように解説してくれる。私は自慢げに胸をそらして頷いた。
「えっへーん!」
話題を自分から逸らそうと必死のシュクレがそう言って私の方を指差す。咄嗟のことに私は首を傾げて聞き返した。
「私?」
「そうです! IAF内最大規模のクラン"メメント・モリ"のクランマスター! "暴君"や"バロンロード"など数多の異名を持つアニー・キャノンさんです!!」
「確かにメメントモリは数だけは多いけど……多分私が号令かけても50人ぐらいしか集まらないよ?」
シュクレの言う通り、メメントモリのメンバー数はそろそろ300名を超える勢い。それだけ聞けば凄そうだけど、コンセプトは"各自が好きなことを好きなようにやる"だ。
指示系統とか、統率という概念がそもそも無い。一応、呼び掛ければ興味がある人は顔出すだろうけど……。
「いいや、それは過小評価だな。多分、150人ぐらいはいけるだろ」
声の方へ視線を送ると、筋骨隆々のスキンヘッドなマッチョの男が立っていた。メメントモリの内部組織、PVPガチ勢を集めた"ブルーバロン"の取りまとめをしてくれているゴングマンさんだ。
「おかえり、ゴリラマンさん!」
私は椅子に座ったまま、小さく手を振る。
「ゴリラじゃねぇ! ゴングだ!!」
私の返事にゴングマンさんがいつもの様にツッコミを入れる。その後ろから、今度は恐ろしく着崩した修道女の風の小柄な女性が現れた。
「というかボスが号令をかけるならシュクレ師匠が動くわけだし、そしたらもう200人以上は確実っすよ?」
やたらと後輩ムーブが似合う、ムエルケさんだ。彼女のシュクレ教の1人なんだけど、メメントモリでは貴重な回復担当でもある。
「後は、クダンちゃんかな?」
それぞれが挨拶をすると、ヨイニが視線を右端へ移しながら口を開く。私たちには見えないけど、彼女の視界にはその位置に時計か何かが表示されているんだろう。
「あ、あの……もういます……」
ヨイニの言葉に、どこからともなく声が返ってくる。皆で周囲をキョロキョロと見回すと、ヨイニの背中からちょこっと顔を半分だけ見せた。
「えっいつから……?」
「アニーさんの次ぐらいです」
しかも、結構最初の方からいたらしい。プレイヤーはログインすると光リングのエフェクトがあるはずなんだけど、全然気が付かなかった。
「全然気が付かなかった!」
ヨイニが驚いて椅子から立ち上がり、クダンちゃんの姿がやっと見える。黒髪ボブカットの少女で、忍者装束に身を包んでいる。
「わっわ」
一瞬だけ姿を見せてくれたクダンちゃんだけど、またすぐヨイニの背中へと隠れてしまった。
「俺らはともかく、真後ろにいたヨイニが気が付かないのは流石にどうなんだ……?」
困惑した様子で問いかけるゴングマンさんに、ヨイニが苦笑いを浮かべながら頬をポリポリとかく。
「ま、流石は"フォートシュロフ神聖騎士団"のお庭番ってことで」
クダンちゃんは、ヨイニがクランマスターを務める"フォートシュロフ神聖騎士団"のお庭番という役職になっている。
実際にはダンジョン攻略をする時に索敵、罠感知と解除なんかを専門に担当するプレイヤーだ。なんで騎士団にお庭番があるのかと言うと、その場のノリで決まったらしい。
「あっご飯できたよー」
タイミングよく、さっきから焚き火で暇つぶしに作っていたホットサンドが完成した。
「お、具材はなんだ?」
私は黙々とホットサンドメーカーを取り出したあたりから何の料理かは分かっていたであろうシマーズさんが具材を聞いてくる。
「灼熱ウィンナーをメインにチーズとか野菜とか色々」
灼熱ウィンナーにはMP回復、野菜にはAGI上昇、チーズには効果総量上昇、パンには効果時間延長の作用がある。
私がホットサンドメーカーをシマーズさんへ向けると、彼はそれを一枚取って口へと運ぶ。
「お、やっぱり美味いな」
ホットサンドを口にしたシマーズさんが嬉しそうに頷く。現実では料理人をしているらしい彼からの高評価は嬉しい。
「アニーは料理が上手だよなー」
今度はヨイニがホットサンドメーカーからホットサンドを一枚取って、美味しそうに頬張る。
「シュクレも、これはそんなに辛く感じないから」
「あ、いえ私は……」
シュクレが遠慮するように手のひらを見せる、その手は僅かに震えているのが分かった。
IAFでは辛い料理程MP回復効果が高いけど、彼女は辛い物が苦手だ。特にMP回復量と即効性に優れる反面、相応に理不尽な辛さを誇る灼熱ウィンナーは天敵だったりする。
「ちなみに、もし戦闘中にシュクレのMPが亡くなった場合は灼熱ウィンナーの現物を無理やりお口に捩じ込むけど?」
私は真顔で、冷静かつ合理的な事実を伝える。ちなみに、もしホットサンドを食べた上でMPが足りなくなっても同じだ。
シュクレには悪いけど、彼女の魔法攻撃はそれだけ変えの効かない重要な戦力なんだよね。
伊達に教祖やってない。
「た、食べます!」
シュクレはか細く、しかし決意を持って答える。彼女が震える手でホットサンドを受け取ると、私たちの視線が彼女へ集中した。
そしてちょっと、いやだいぶ警戒しながらそれを口へ運ぶ。一口食べると、彼女の顔の緊張が和らいて、ほっとした表情に変わった。
「あっこれ美味しいです!」
シュクレの驚いた声が焚き火の周りに響いた。彼女の笑顔を見て、全員が安堵の笑みを浮かべる。
「やったね! シュクレ!」
「よく頑張った!」
「流石は師匠っす!」
ヨイニ、ゴングマンさん、そしてムエルケさんが口々にシュクレを褒めちぎった。
「このホットサンド、灼熱ウィンナーの辛さをチーズと野菜、そしてパンで極力和らげているんだな」
料理人のシマーズさんが、関心したように解説してくれる。私は自慢げに胸をそらして頷いた。
「えっへーん!」
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