【野生の暴君が現れた!】忍者令嬢はファンタジーVRMMOで無双する【慈悲はない】《殺戮のパイルバンカー》

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電脳暴君はまだまだ夢の中

失われた女神像

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 暗転が解け、視界が開ける。かつて明治時代の日本を意識して設定された街並みは、前回のイベントで大きく様変わりしていた。

 瓦屋根が連なる伝統的な建物の間には、中世ヨーロッパ風の煉瓦造りの建物や中華風の建物、さらにはキノコをくり抜いた家までが混在している。

「うーん、今日もカオスだ」

 街の中心へ進むと、城のような巨大な建物が見えてくる。ここは剛輪禍のランドマークであり、最終防衛ラインだ。

 四方には文明レベル完全無視の砲台や重機関銃が整然と配置され、どんな事があってもこの場所を守りたいと言う、運営の強い意志を感じる。

「おい、あれもしかして……」

「ああ、この通りを堂々と歩くカオスシェイプなんて1人しかいねぇ」

 怪訝な視線を送るNPCとは別に、冒険者風の姿をしたプレイヤー達の話し声が私の耳にも入ってくる。

「よう暴君ぼうくん! またアレ壊すのか?」

 冒険者風の姿をしたプレイヤーが私へおどけた様子で声をかけ、ニカっと笑いながら背後の城を親指で指し示す。

「べー!」

 私はそれに、舌を思いっきり出して返事をする。確かに、前回のイベントであの城をぶっ壊しちゃったけど、アレは不可抗力だったじゃん!

「止まれ!」

 城門の前まで進むと、衛兵らしきNPCの男に強い口調で呼び止められる。その声に従って止まると、彼は続けた。

「カオスシェイプが何の用だ」

 衛兵はまるで汚物でも見るかの様な、不快感を隠さない表情で私を見下してくる。私の種族であるカオスシェイプは、何故かNPCからめちゃくちゃ嫌われるんだよね。

「中で友達が待ってるんだよね」

 このゲームを初めてそろそろ1年が経とうとする私にとってはもうそんなのは慣れたものだ。

 衛兵の態度へ何も感じる事なく、友達に話しかけるぐらいの気軽さで返事をする。

「友達だぁ? 何を」

 私の態度に激昂げきこうした様子の衛兵が語気を強めて喋り出す。それに構わず、深めに被ったフードを角でちょっとだけ上げて、彼を見上げる形で顔を見せる。

「いっ……て……」

 私の顔を見た衛兵の声が尻すぼみに小さくなって、沈黙が流れる。彼の表情は驚きから恐怖へと変わっていった。

「良いよね? 通って」

 人は、早すぎる動きには反射的に反応してしまう。かといって、遅い動きも意図が分かってしまえば対応される。
 早過ぎず、遅過ぎない。まるで学校の登下校でもするみたいに自然体に、衛兵の胸へ手を伸ばした。

 金属質の鎧に覆われた私の指先が彼の胸の鎧とぶつかってコツコツと小さな音が響く。

「あ、あぁ……きょ、許可は出ている」

 衛兵の男が恐怖で声を上擦らせながら返事を返す。どうやら彼は、私の代名詞とも言えるスキルがどこから出てくるかを知っているらしい。

 彼の返事を聞いてから、そのまま城の中へと歩みを進める。上がったままの左腕を後ろへ向かって左右へ振った。




 城の回廊を進み、上層部へ辿り着く。石畳の廊下が終わると、まるで別世界に踏み入ったかのような神聖な空間が広がっていた。天井は高く、壁には異形の戦士たちのレリーフが刻まれている。僅かな光が彫刻を照らし、荘厳な雰囲気を醸し出していた。

 最奥には大きな祭壇が見えるが、その上には何も置かれていない。冷たい石作りの祭壇の前には、金髪の少女が立っている。

「シュクレ」

 何かを思案するように虚空を見つめていた少女、シュクレに声をかけると、彼女は私の方を振り向いた。

「アニーさん!」

 シュクレは目を輝かせて微笑んだ。黒いローブは星屑のように輝き、その長い裾が床を掠めていた。右腕には身長を超える大きな杖がしっかりと握られていて、その杖の先には魔力を帯びた結晶が輝いている。

「それで、直接相談したい事って?」

 私たちのプレイしているゲーム、IAFInequality&Fairは当然の様に個人チャット機能が搭載されている。わざわざ呼ぶ必要があるってことは、言葉で相談する以上の何かが必要という事だろう。

 私の質問に、シュクレは視線を再び祭壇の方へと向ける。その瞳は神秘を知るかのように深い青さで光っていた。

「えっと、私ってこのゲームの世界観とか、神話について多少は詳しいんですけど……」

「いや、シュクレが'多少'だったら、このゲームの考察勢は全員、何も知らない状態になるけどね?」

 IAFの世界観考察の最前線を独走するシュクレは、今や考察勢と魔法使いビルドのプレイヤーにとって崇拝すうはいの対象になっている。通称、シュクレ教はIAFにおける一大派閥だ。

「……ここには、女神像があるはずなんです」

 私のツッコミを華麗にスルーして、シュクレは再び視線を祭壇の方へと移した。確かに祭壇は中心へ向かって様々な装飾が施され、真ん中がぽっかりと空いている。

「いや、シュクレに分からないなら私には無理じゃ無い?」

 シュクレとは対極に私は世界考察とか全然、分かっていない。難しい話が苦手なわけじゃないけど、相手はこのゲームにおいて崇拝の対象になっているレベルの権威けんいだ。

 流石に相手が悪い。

「アニーさんは、いつも私が思い付かなかった発想力と、独特の洞察力を持っています」

 まぁ道徳的にどうよ? という問題を完全に無視した発想という意味では確かにシュクレを超えている自負はあるけれども。

「それ、めてる?」

 私が語尾をあげて聞いてみると、シュクレは苦笑する。

「もちろん、褒めてますよ?」

「そうかなぁ?」

「今日は、この場所に入れる最後の日です」

 それぞれの街には、プレイヤーが侵入を禁止されているエリアがある。剛輪禍においては、この場所がそうだ。

 今、私たちがこの場に入れるのは私たちのクラン"メメント・モリ"がこの城の再建を担当していて、町の復興に際して莫大な貢献ポイントを稼いだからに他ならない。この城の再建も、今日で終わる。

「だから、この一度きりの機会に、アニーさんの直感に頼りたいんです」
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