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電脳暴君はまだまだ夢の中
教会の女神像
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シュクレの言葉に、周囲を見回す。うん、なーんも分からない。彼女も多分、私からいきなり答えが出てくるとは思ってないだろう。
求められているのは、発想の手がかり。そう思って、目についた物、気になったことをそのまま口に出してみる。
「そういえばここ、椅子が無いよね」
「椅子、ですか?」
私の言葉に、シュクレが不思議そうに周囲へ視線をめぐらせる。彼女の視線が戻ってきたタイミングで、素直な疑問をぶつけた。
「ほら、昔の資料に出てくる教会とかって、演説台を中心に左右へ椅子が並んでたりしない?」
「ああ、確かに……ここは少しチグハグな空間ですね」
シュクレはそういうと、うんうんと頷きながら周囲を散策するように歩き出した。その歩みに合わせて彼女の持った杖が石造りの床にぶつかり、コツコツと響いている。
「様々なコンテンツで多様されて一般化した'教会'という施設は、宗教施設としては固有の様式なんです」
一度、思考のスイッチが入ったシュクレは止まらない。マシンガンの如く、思考が口から溢れ出す。
「教会は主に教えを伝える場所です。内部は牧師や司祭が信者へ向けて容易に説教できるよう、デザインされています」
シュクレはそう言いながら、祭壇の前に立って私の方へと振り向いた。
「ここが教会なら、この位置に教壇があって、牧師や司祭が信者へ向かって教えをときますよね?」
「う、うん。そんな感じだったかも」
「長方形の内部構造は教会的と言えますが、内装に関してはどちらかというと神殿的と言えます」
「神殿だとどうなるの?」
「神殿は祭祀を行う場所として設計されています。一般的には神像や聖なる物が中心となり、信者はこれらを拝むことで神への感謝を表します」
「つまり、ここは教会みたいな作りの神殿ってこと?」
「そうですね」
「このエリアを担当したエンジニアがその辺の事、あんまり気にしてなくってごっちゃに作っちゃったのかな?」
私の言葉に、シュクレは首を左右へふる。
「現代のVRMMOにおいて、人の力で世界をデザインするのは不可能です。世界生成AIが設定を元に、合理的にデザインされていると考える方が自然です」
「それで言うとさ、そもそも何でこの世界に教会があるの? 割とちょくちょく見た気がするけど」
「……どう言うことですか?」
首を傾げるシュクレに、私は率直な感想を続ける。
「現実世界ならともかく、この世界における神々って物理的に存在するし、信者は"スキル"って形で明確に恩恵を得られるでしょ?」
「はい、そうですね」
「信者が直接神と対話ができて、その恩恵が得られる世界において、人が人に神の言葉を届ける必要性って何かあるの?」
「……」
私の質問に、シュクレは一瞬言葉を失い、考え込むように天井を見上げた。彼女の瞳は遠くを見つめるように光っていた。
「当事者たちがどれぐらい認識していたかは定かでは無いですが"教会"という建造物の発明が絶大な効果を発揮したのは歴史が証明しています。逆に言えば、その発明を強いられるような状況だった」
シュクレが誰に語るでもなく、ポツポツと言葉をこぼす。
「私は、教会の女神も他の神々と同じく、具体的な力を持つ存在だと思っていました。だから、この場所には女神への祝詞が隠されていて、それさえあれば詠唱で女神の力を借りられると思っていました」
シュクレの言葉に、私は納得した様に頷く。
この世界において、より強い魔法の詠唱には必ず、この世界の神々に関する節が存在する。
詠唱の法則を解明して自力で詠唱すれば魔法スキルの習得にポイント使わなくて良いからその分、魔法攻撃力やMPにリソースを割く、通称シュクレビルドの開祖である彼女なら、女神の祝詞を探すのは当然のことだろう。
「つまり?」
「教会の女神はこの世界で唯一、何の恩恵もない、人々の心の中だけに存在する女神ということです」
「……要するに、無駄骨ってことでいーい?」
メメントモリは、この場に私とシュクレを送り込むのに相当量の貢献ポイントを消費している。彼女がこの場所を見ることで新しい魔法を発見することを期待したからだ。
私がドスの効いた声で微笑むと、彼女は慌てた様子で両手を左右に振って半歩、後退りした。
「い、いえいえ! まだ、まだあります!」
「ほーう?」
「以前、IAFは古い別のVRMMOと構造がそっくりだって話しましたよね?」
「ああ、覚えてる覚えてる。構造は同じだけど、ゲームの進行方向が逆向きってやつだよね?」
「はい、そのゲームにおいては、女神は確かに実在したんです」
「ふーん……で、そのゲームの女神はどんなスキルをくれたの?」
「いえ、そのゲームにおける女神の役割は、プレイヤーの精神面に関するサポートです。当時はVRMMO自体が前例の少ないジャンルだったので、色々と手探りだったみたいですね」
「その昔のVRMMOって、最後はどうなったの?」
「私たちが生まれる前にサービス終了していますね。人気はあったらしいですけど、ゲームが進行不能になってしまったらしくて」
「どういうこと?」
私が首を傾げると、シュクレが得意げに口を開く。
「VRMMOのAIは設定さえ与えればそれに基づいて世界を作り、人を作り、内部時間が進むことによってNPC達が自発的に街を立てたりしますよね?」
「ああ、うん。よく知らないけどそうらしいね」
私が頷くと、シュクレがさらに続ける。
「でも、その世界へプレイヤーを放り込んでも、それってゲームじゃなくて、ただの異世界サバイバルじゃないですか」
「ああ……そうだね」
シュクレの回答に、私は納得して頷く。
中にはそういう物が好きな人だっているけど、大多数のプレイヤーに取ってモンスターを倒したらゲーム的に経験値が欲しいし、街を移動する為に数ヶ月かけたりしたくない。
「なのでVRMMOは少なからず矛盾を抱えることになるんです」
「ああ、モンスターを倒したら経験値が溜まって強くなる世界ならNPCはどうしてモンスター牧場をつくらないのか、とか?」
「え、ええ、そうですね。ちょっと発想が流石アニーさんって感じですけど」
私の回答に、シュクレが頬をひきつらせてちょっと引き気味に頷く。だけど彼女ももう慣れたのか、すぐに立ち直って話を続けた。
「それで、AIはそう言った矛盾をなるべく自然な感じで誤魔化してくれているんです」
「はえー、AIすごい」
「ですが、ゲーム内時間が進んだり、プレイヤーの極端な行動によって矛盾が大きくなると、AIの処理能力が矛盾を処理しきれなくなります」
「そうなるとどうなるの?」
「おしまいです。人間だけの力では世界を創造するのは不可能な以上、運営会社にも制御不能で、ゲームとして成立しなくなるか、そもそも世界が崩壊してしまいます」
求められているのは、発想の手がかり。そう思って、目についた物、気になったことをそのまま口に出してみる。
「そういえばここ、椅子が無いよね」
「椅子、ですか?」
私の言葉に、シュクレが不思議そうに周囲へ視線をめぐらせる。彼女の視線が戻ってきたタイミングで、素直な疑問をぶつけた。
「ほら、昔の資料に出てくる教会とかって、演説台を中心に左右へ椅子が並んでたりしない?」
「ああ、確かに……ここは少しチグハグな空間ですね」
シュクレはそういうと、うんうんと頷きながら周囲を散策するように歩き出した。その歩みに合わせて彼女の持った杖が石造りの床にぶつかり、コツコツと響いている。
「様々なコンテンツで多様されて一般化した'教会'という施設は、宗教施設としては固有の様式なんです」
一度、思考のスイッチが入ったシュクレは止まらない。マシンガンの如く、思考が口から溢れ出す。
「教会は主に教えを伝える場所です。内部は牧師や司祭が信者へ向けて容易に説教できるよう、デザインされています」
シュクレはそう言いながら、祭壇の前に立って私の方へと振り向いた。
「ここが教会なら、この位置に教壇があって、牧師や司祭が信者へ向かって教えをときますよね?」
「う、うん。そんな感じだったかも」
「長方形の内部構造は教会的と言えますが、内装に関してはどちらかというと神殿的と言えます」
「神殿だとどうなるの?」
「神殿は祭祀を行う場所として設計されています。一般的には神像や聖なる物が中心となり、信者はこれらを拝むことで神への感謝を表します」
「つまり、ここは教会みたいな作りの神殿ってこと?」
「そうですね」
「このエリアを担当したエンジニアがその辺の事、あんまり気にしてなくってごっちゃに作っちゃったのかな?」
私の言葉に、シュクレは首を左右へふる。
「現代のVRMMOにおいて、人の力で世界をデザインするのは不可能です。世界生成AIが設定を元に、合理的にデザインされていると考える方が自然です」
「それで言うとさ、そもそも何でこの世界に教会があるの? 割とちょくちょく見た気がするけど」
「……どう言うことですか?」
首を傾げるシュクレに、私は率直な感想を続ける。
「現実世界ならともかく、この世界における神々って物理的に存在するし、信者は"スキル"って形で明確に恩恵を得られるでしょ?」
「はい、そうですね」
「信者が直接神と対話ができて、その恩恵が得られる世界において、人が人に神の言葉を届ける必要性って何かあるの?」
「……」
私の質問に、シュクレは一瞬言葉を失い、考え込むように天井を見上げた。彼女の瞳は遠くを見つめるように光っていた。
「当事者たちがどれぐらい認識していたかは定かでは無いですが"教会"という建造物の発明が絶大な効果を発揮したのは歴史が証明しています。逆に言えば、その発明を強いられるような状況だった」
シュクレが誰に語るでもなく、ポツポツと言葉をこぼす。
「私は、教会の女神も他の神々と同じく、具体的な力を持つ存在だと思っていました。だから、この場所には女神への祝詞が隠されていて、それさえあれば詠唱で女神の力を借りられると思っていました」
シュクレの言葉に、私は納得した様に頷く。
この世界において、より強い魔法の詠唱には必ず、この世界の神々に関する節が存在する。
詠唱の法則を解明して自力で詠唱すれば魔法スキルの習得にポイント使わなくて良いからその分、魔法攻撃力やMPにリソースを割く、通称シュクレビルドの開祖である彼女なら、女神の祝詞を探すのは当然のことだろう。
「つまり?」
「教会の女神はこの世界で唯一、何の恩恵もない、人々の心の中だけに存在する女神ということです」
「……要するに、無駄骨ってことでいーい?」
メメントモリは、この場に私とシュクレを送り込むのに相当量の貢献ポイントを消費している。彼女がこの場所を見ることで新しい魔法を発見することを期待したからだ。
私がドスの効いた声で微笑むと、彼女は慌てた様子で両手を左右に振って半歩、後退りした。
「い、いえいえ! まだ、まだあります!」
「ほーう?」
「以前、IAFは古い別のVRMMOと構造がそっくりだって話しましたよね?」
「ああ、覚えてる覚えてる。構造は同じだけど、ゲームの進行方向が逆向きってやつだよね?」
「はい、そのゲームにおいては、女神は確かに実在したんです」
「ふーん……で、そのゲームの女神はどんなスキルをくれたの?」
「いえ、そのゲームにおける女神の役割は、プレイヤーの精神面に関するサポートです。当時はVRMMO自体が前例の少ないジャンルだったので、色々と手探りだったみたいですね」
「その昔のVRMMOって、最後はどうなったの?」
「私たちが生まれる前にサービス終了していますね。人気はあったらしいですけど、ゲームが進行不能になってしまったらしくて」
「どういうこと?」
私が首を傾げると、シュクレが得意げに口を開く。
「VRMMOのAIは設定さえ与えればそれに基づいて世界を作り、人を作り、内部時間が進むことによってNPC達が自発的に街を立てたりしますよね?」
「ああ、うん。よく知らないけどそうらしいね」
私が頷くと、シュクレがさらに続ける。
「でも、その世界へプレイヤーを放り込んでも、それってゲームじゃなくて、ただの異世界サバイバルじゃないですか」
「ああ……そうだね」
シュクレの回答に、私は納得して頷く。
中にはそういう物が好きな人だっているけど、大多数のプレイヤーに取ってモンスターを倒したらゲーム的に経験値が欲しいし、街を移動する為に数ヶ月かけたりしたくない。
「なのでVRMMOは少なからず矛盾を抱えることになるんです」
「ああ、モンスターを倒したら経験値が溜まって強くなる世界ならNPCはどうしてモンスター牧場をつくらないのか、とか?」
「え、ええ、そうですね。ちょっと発想が流石アニーさんって感じですけど」
私の回答に、シュクレが頬をひきつらせてちょっと引き気味に頷く。だけど彼女ももう慣れたのか、すぐに立ち直って話を続けた。
「それで、AIはそう言った矛盾をなるべく自然な感じで誤魔化してくれているんです」
「はえー、AIすごい」
「ですが、ゲーム内時間が進んだり、プレイヤーの極端な行動によって矛盾が大きくなると、AIの処理能力が矛盾を処理しきれなくなります」
「そうなるとどうなるの?」
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