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第4章
第62話 なんのために目覚めたのか
しおりを挟む朝から濃厚過ぎる時を過ごしたその日の午後。
俺と真世さん、雪さん、咲夜さんは、ヘリコプターで星奈さんの元へと向かっていた。
星奈さんの意識はまだ戻っていないが、容態が安定したということでうちの近くの病院へと移すためである。
付き添ってくれているミコさんも寂しがっているに違いないし。
「飛行機などを民間で使用する場合には国の許可が必要なんだぞ。安全のために長い時間をかけて使用目的や内容を慎重に精査し、不許可とするんだ」
結局不許可なんかい。
「どうだ! 私は役に立つだろう!」
「あ、ありがとう」
「旅客機などが実質禁止されている理由は、国境付近と同様に、一定の高度を超えると電子機器が一時使用不能となるからなのですよ」
真世さんの説明によると、どうやら空にも境界があるらしい。
「てつ……うく……なぜ……こわい……」
そういう訳で、この世界の人間は飛行機というものに慣れがなく、雪さんのように絶望の表情を浮かべることになるんだとか。無表情だけど。
「あそこです。あの病院にいるはずです」
とはいえドクターヘリはこの世界でも活躍しているようで、病院の屋上には発着陸できるようなスペースがちゃんとある。
「ふむ、滋賀県か。完全に危険区の隣に来るとは……星奈の奴め」
「彼女にとって思い入れのある場所だったみたいで……」
「いや、すまない。あまり口煩わしく言わないようにしたいのだが……」
午前中の件から、理事長――咲夜さんの雰囲気が変わった気がする。なんとなく張り詰めていたものから解放されたみたいに。
「りおっち! それに……あっちゃぁ~……」
ヘリコプターから降りた俺達をミコさんが出迎えてくれる。
咲夜さんを見たミコさんが、まるで梅干しを食べたかのように渋い顔になってしまった。
「その話はもう済んでいる。早速星奈の元へ案内してくれないか?」
「え? あ、はい」
心底安心した顔で階下へと続くドアを開けるミコさん。
エレベーターを使っていくつか下った後、星奈さんの部屋へと辿りついた。
「……嘘みたいでしょ? 死んで――」
「縁起でもないこと言わないの!」
看護婦さんに頭を叩かれるミコさん。さすがミコさん、もう現地の人と仲良くなったらしい。
「左腕及び肋骨の粉砕骨折。左足腿から膝にかけて複雑骨折、頭蓋骨と背骨にヒビ。内臓の一部破裂。だけど一応生きてます。意識こそありませんが」
それ本当に生きてるの……?
「第2聖句までの身体能力向上スキル型の覚醒者だからな。体も常人より遥かに頑丈になる」
「魔法のスキルを持つ人は魔力系統が強くなる傾向にあるんですよ」
真世さんがまた補足説明をしてくれた。さすが頼りになるぜ!
「……うぅっ」
「星奈さん!」
星奈さんが呻きながら目を薄っすらと開けたのを見て思わず叫ぶ。今まで意識がなかったというのだから当然だ。だから看護婦さん、睨まないで欲しい。
「……凜音、さん……よかった、ご無事で……」
「そんな……星奈さんのおかげだよ」
自分はこんな状況になっても俺の心配をしてくれるとは……。
「……星奈」
「……む? 咲夜さん、ですか……申し訳ない、凜音さんを危険な目に合わせてしまった」
「彼がいいと言っている。もう何も言うまい……いや、お前が無事で何よりだ」
「私は役目を全うしただけ……それよりも、危険な場所と知りつつ――」
「星奈さん、もういいから。今はただ安静にね」
本当全身バッキバキだったんだから。筋肉痛とか比じゃないレベルで、文字通りに。
「凜音さん……本来守るべきあなたに救って頂いて……面目ない……」
「いいさ。仲間でしょ?」
だから頼むから黙ってて!
「まさかあなたが『漆黒何とか騎士』だったとは……ふふ、実力を隠したかったのも頷けます」
「……」
おい……おいっ!
だから黙ってろって言ったのにぃぃぃ!
まずいまずいまずいっこのままでは1番バレちゃまずい人にバレてしまうッッ!
「それなのに、私を救うために正体を……我が盾、生涯をあなたに捧げさせてください」
「……あ、あぁ……」
そう言って再び寝息をたてる星奈さんこの野郎。
冷や汗が止まらない。今の俺は何としてでも誤魔化さなければならないからだ。
政府側の人間である理事長に万が一にでも俺が黒騎士だということがバレてしまっては今後の活動に支障をきたしてしまう。
緊張と不安に震える体をどうにか押し殺し、重要にして最高の一言を絞り出すんだっ!
「へ、へへ変な寝言だったね? 幻覚でも見ていたのかな? 看護婦さんモルヒネの打ち過ぎじゃなぁ~い?」
「そそそそうだよ。ここここれだから脳みそまで筋肉でできてる人間は困る」
「せせせ星奈さんったらっ★ 昨日道端の変なキノコ食べてたからなぁ~っ★」
いける! おそらく同じ気持ちだった雪さんとミコさんも援護射撃をしてくれてる! 微妙に噛み合ってないけど!
これなら何とか誤魔化せ――。
「凜音さん、ちょっとだけいいかな? 別室でゆっくり話をしようじゃあないか。そう、ゆっくりと……な」
「……はい」
失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した。
失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した。
失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した。
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