あのときは泣きたかった。

さとなか達也

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エピソード129

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 中学に入れば、成績が主になる・・。中学の受験生ではなかったけれど、ホエールズの一員として、チームに影響の出るほどのショックの成績は出したくなかった・・。
 堀と山口は塾に通い、中学の定期テストの勉強をしていた・・。ごく普通の中学生である。

 「えっ?やっぱり、山口君のクラスには入れないかな・・。」

 「願えば、勉強だってできるようになる・・。」
 「なわけないだろ、努力の見つけ所が増えるということじゃないか?」
 「ホリー。」
 
 「そこを考えなきゃ成績は上がらないんだ・・。」

 「確かに、その通りだ・・。説明されればわかる・・願いはわからない・・。」

 「はは、野球のし過ぎだよ。」
 

 そして、トレーニングもあるのだから、その合間に遊びがてら、勉強を山口は指導していた・・。これでも、国際大会経験者の二人、山口は4年から、ホリーは3年から英会話を習っている・・。
 
 「8×3Xは?」
 「24Y?」

 「ホリー。」

 「Yはまだ出てこないだろ。」

 「すまん、康太、春期講習と、トレーニングで頭が混乱してるんだ・・。数学って難しいな。」

 「いや、出ていないアルファベットを出してくる方がかなり難しい・・。」
 「3×9は?」
 「27?」
 「OK、大丈夫。」
 

 ・・やはり、出てくるアルファベットに混乱している典型的なタイプだ・・。学習を進めればいずれ変換もできるようになっていくだろう・・。

 「わかった、じゃ次英語。」

 「よっしゃ、さすが。」

 「英語でこんにちは。」

 「ハロー。」
 「正解。」

 「定期テスト必須、自己紹介、英語で。」
 「ハーイ、マイネームイズ正明、堀、ナイステウミー―チュー。」

 「OK、百点。その次の自己英文。」

 「アイムフロムアシカタ・・。」
 「ホリー。」

 「まずかった?」


 「足賀田じゃ、地元の人しかわからない・・。」


 「そうか、俺達が人気の都市にしなくては、名前を売るには地元から・・。」

 ・・よし、英文、国語説明文、また、理論的な思考のまとめ方・・。もう少しすれば、塾での得点も伸びるだろう・・。

 「しかし、あれだな。桜の散る度、X、Yって思ってるんだな。俺達はこの勉強をして入学式の後の桜を思い出してたら、きっとその割合で桜が散って行くのだと思ったよ。」

 グループワーク、評価S、有名私立中学の面接を突破する並の説明力と吸収力、並びに、関数を得意とする美術派・・。

 俺にそっくりだな・・。教えながら、山口は思っていた。
 


 「ホエールズの新一年生で横浜旅行?」


 「俺のおばさんの実家、旦那さんの、横浜に住んでるんだ・・。何しろ、横浜にでも珍しい、3代のラーメン通り5軒が軒を連ねる・・横浜のラーメン通りらしい。」

 ホリーは言った。

 「10年前に現在の通りにして、最初は6軒だったけど、4年前に一軒無くなって、それから、5軒で回しているラーメン通り・・。」


 「私の話は通してあるから、部員最初の一杯全員無料にしてくれるって・・。」

 「まじか・・?」

 山口の計算も乱れる・・。

 「雑誌とかにも一度二度、紹介された通りらしい・・。」


 ・・聞いた話だと、かなり、経営的に寂しいかもしれない・・。しかし、ラーメンが一杯無料で、5軒軒を連ねるなら行く価値はある・・。

 結局、横浜の高校や野球場を観光しながら、一杯ラーメン通りでおごってもらって、東京から、帰路に着くことで、チームのまとまりはついた。

 北し羅監督も一年目、ここで一年生で旅行に出かけていくのも、他の地区からホエールズに来たチームメートとも、話をする、まとまりをする、いい機会だ・・。
 やはり、一年生になるとキャプテンがいなくなるから、山口にも、多少の不安はあった・・。
 しかし、そこで野球の強い横浜、次期に様々な環境でプレーする学校や、球場もあり、山口は自分の人間力を高めるものだと思った。

 ・・本来、それが旅行なのだろう・・。
 ホリーは思っていた・・。
 3×8エックスは24エックス・・。
 よし、いける・・。
 

 「ホリー。」
 「すまん、やっぱり、単語帳とラーメンの値段の税金を電卓持って雑誌見ていくのは無し?」
 「はは。いいさ。」
 珍しく、北し羅監督は笑っていた・・。


 このチームは中々、まとまりとバランスに富んだチームだ・・。
 ・・さすが、全国に行っただけのことはある・・。

 北し羅監督は思っていた・・。
 

 横浜のラーメン通り、選手達一行は、何故か羽田空港から東京見学ではなく、電車を乗り継ぎ、約一日をかけ、横浜ラーメン通りに向かった・・。

 「確か、この辺のはずだったんだけど・・。」

 大丈夫なのか、ホリーとそのお母さん・・。

 「こののれんの店じゃないですか?」
 山口は言った。
 「そう、これだわ。」
 横浜ラーメン通り、「相堂堂」
 さすが、ラーメンの本場横浜・・売れそうな名前だ。
 

 その店の中には一人の子供が手伝っていた。

何か、店の軒先でガタガタ言っている・同い年ぐらいの集団がいる・・。自分の目利きから言って、北海道の方・・。


 その名も、相堂茜・・。ラーメン通りの一つの店を持つせがれの新中学1年生・・。
大人の、通では有名なこの店にも、家族があり、味の勉強をするため、自宅や塾での学習以外に店を手伝うという人物だ・・。
 偶然にも、彼らとは同じ学年で同世代だ・・。
 ・・表情にまとまりがないな・・。遠方からでも、手荷物から言って、別の目的かな・・。それとも、他の4軒の家族の知り合い・・そうだ、今朝言ってたな・・。今日はもしかしたら、城田さんちのラーメン屋の親戚が北海道から来る予定になっていたんだっけ、その話の時は二階で勉強していたから、よく聞いてはいなかったけれど・・。
 
 店のドアが開く・・。

 「いらっしゃいませ。」

 茜の両親とバイトは言う。

 「あの、城田さんちのラーメンはこちらですか?」

 ・・やはり、今朝話していた客だ・・。手荷物から言って野球・・。

 中学生だな。

 店の中の様子をしっきりなしに見ている人物がいた・・。

 山口である・・。
 
 「すごいな、豚骨と醤油のラーメンか・・。」

 ホリーが言う。

 ・・やはり、北海道・・。

 「向いの右手の店です。話は聞いています・・。食べていきますか?」
 
・・親父め余計なことを・・。15名の選手を抱えてるんだ・・。用意だけでかなりの時間が掛かる・・。

 「せっかくの縁だからこっちにしようよ。」

 ホリーは言った。

 「そうだな、全国区の横浜だからな。」

 山口は全日本のグッズを持っていた・・。

 プロ野球の憧れのチームってことか・・。
 いや、待て、ストラップにjrと書いてある・・。
 そうか、小学生にも全日本があるのか・・知らなかった・・。
 「ご旅行ですか?」
 親父は尋ねる。


 「はい。北海道代表の小学生のチームだった選手をベースとした新中学生のチームです。北海道ホエールズって言うんです。是非、宣伝を・・。」

 「ああ、城田さん、こっちでラーメン食べてもらうよ、ああ、着いた、北海道ホエールズの皆さんだ、こっち来てちょうだい。」

 親父は城田の家に電話をする・・。

 15分後、城田の親父さんが来た・・。

 「でかくなったな、この一年で・・。」

 「全日本の応援ありがとうございました・・。助かりました。場所の案内までしてもらっちゃって、お礼とは何ですが、新中学生として、是非、このラーメン通りを制覇したいと思って・・。」

 「はは。正明君も成長した。さすがキャプテンだな。」

 「相堂さん、手伝いますよ。」

 「じゃあ、入口を満席に変えといて。」

 親父は言う。

 「わかりました・・。うちも家内と家族が学校見学で大変な今日なんですよ。」
   やっぱりね。
城田は今日、都内の超有名校の学校見学だ。しかも、一泊二日。
断りきれず、ラーメン通りののれんを城田さんだけ、今朝外していた。

よさそうな一行だが、今日は赤字だ。

15杯、無料なのだから。


 まあ、こんなものだろう・・。しかし、全日本、北海道ホエールズ・・。俺の役割・・。

 茜は考えていた・・。

 ・・写真だ・・。
 「皆さん、横浜記念に写真撮ってもいいですか?」

 茜は言う。
 「そうしてもらいましょう。みんな集まって。」

 そして、茜の助言もあって、集合写真を撮った・・。

 「じゃあ、焼き増ししたら店に飾りますね。」

 「ここでホエールズの皆と撮れるなんて、何て宣伝効果だ・・。」

 ・・そして、ここのラーメンの味はおいしいのか・・。

 山口とホリーはそう思っていた・・。


 
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