あのときは泣きたかった。

エピソード132

   少し、広めの店内と木の香り、厨房には親と同世代の人達、バイトとみられる人達がいた。
　・・この時期、旅行が多かったっけ・・。

　前日に接客をした茜は思っていた・・。

　しかも、女子集団でラーメン？

　・・。

　茜は３番目に入ってきた女性を見て思った・・。


　・・北海道の人だ。

　「いらっしゃいませ。」

　声を掛けながら席をバイトの人と作る・・。

   昨日と同じ光景だ・・。

　「もしかして、城田さんちの？今日は城田さんち一家で留守なんだよ。」

　「えー。」

　「連絡してみる？今日は確か都内つってたな。‥そう。何しろ、北海道の野球チームの人々と少し見学するからって・・。」

　・・北海道の野球チーム？

　店のあたりを気にする真琴・・。

　「北海道ホエールズ・・。」

　昨日展示した写真を見つけていた・・。
　・・いや、まさか・・。

　「あっこのチームのことですか？」

　一人の友達が尋ねる。


　「ああ、北海道ホエールズ、中学の硬式の野球チームで全国へ行ったチームだそうだ・・。」

　・・まさか・・。

　写真の一番前には山口康太がいた・・。

　「このチーム、いつ来たんですか？」

　真琴は尋ねる。

　「昨日だよ。」

　「どうしたの・・いや、ホエールズって？」

　顔が赤くなりながら写真を見つめる真琴・・。

　「山口君？」

　「いや、ただ、かっこいいイケメンがいるなって。」

　「ホエールズjrだっけ？山口君なの？」


　「ううん。北海道ホエールズは、自宅からでも車で一時間はかかる・・今は、電車が通り始めたけれど、そこからもだいぶ時間が掛かっている・・。別のチームの方が早く着けるわ。」

　「ただ、イケメンがいるなって思っただけよ。」

　「そう。」

　・・写真に写るのは山口康太だった・・。
    たった一日遅れで同じ店に来るとは・・。真琴は内心驚きを見せていた・・。



　「それで、結局去年６年生の全国大会を見て以来・・いや、それどころか、転校してから一度も会ってないんでしょ。」
　「ええ。」
　「どう思うの？その点について・・。」

　「会えないことの寂しさが返って、気持ちを正しくするとか？」

　「こりゃ、悪だねえ。両方とも・・。肝がすわってる。」

　「本当？普通じゃない？」

　「普通じゃない、普通じゃない。」



　「いらっしゃいませ。」

　茜は、部員に水を出す。

　・・この人は嘘をついている・・。
　茜は思った。

　・・！

　茜は真琴の腕にしてるバンドを見た・・。昨日写真を撮るときに、山口が付けていたバンドと同じだったのだ・・。

　・・すごい偶然だ。

　茜は表情を変えずに店の奥へと戻った・・。