89歳のワシが若返って、男とフラグを立てる話

あきら

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岩本大地

正確には、「一基」と数えるぞい

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 4月19日(火)晴れ

 みなさんこんにちは。辻村颯16(89)歳じゃよ。本日はなぜか、柔道部副部長の岩本宅に招待されたぞい。
 「入部してくれるなら、何でもする」などと世間の誤解を受けかねぬ発言をしておったが、仮にでも入部をしたお礼に晩ごはんを馳走してくれるのじゃと。
 く、くだらぬ…。心遣いは嬉しいが、正直心の底からどうでもいいわい。家に帰れば、100倍ほどは豪勢な晩ごはんが待っておると言うのに。まぁ、毎日毎日伊勢嶋さんのご厄介になる訳にもいかんし…。たまには余所のお宅でご馳走になるのも、いい気晴らしになろうて。
 さて、当の岩本は部長会議やら何やらで遅くなる。先に家に向かっているよう、懇切丁寧な地図を渡されたよ。こんなもの無くても、何回かご招待されことがあるので道は分かっておるのじゃが。
 ってかこれ、岩本宅で身バレしないものかの?まぁ、ワシの教え子であった彼の祖父はとうに亡くなっておられるし…。同じく教え子であった彼の父親は、本日は交番勤務。奥方に会ったことが一度だけあるが、セーフかの。ワンチャン、バレないじゃろ。
 今の姿はこんなんなってるし、万一似てるとでも言われようものなら「岡坂とも遠縁である」などと嘘八百を並べ立てておこう。
 さて岩本宅に到着すると、弟君と思しき学生服の少年に出迎えられたぞい。兄貴に似て結構な身長の高さじゃが、これはトオイも通っていた近所の市立中学校の制服。年の頃は、14と言ったところかの。後で知ったが、彼は柔道でなく空手の道で鍛錬しておるらしいぞい。
 「辻村さんですね。兄貴から、話は聞いています。どうぞ、こちらへ」
 若いに似合わず丁寧ではあるが、矢継ぎ早に言葉を重ねてくる奴じゃな。まぁ、こう言ったキャラ付けなのであろう。
 「え、えぇと。弟さんが、おったのじゃな。そのぅ…」
 「海里です。岩本海里。以後よしなに。まこと失礼ながら、およそ若者らしからぬ年寄りめいた言葉遣いをなさる方ですね」
 今のお主にだけは、言われたくないぞい!ま、まぁここは辛抱のしどころじゃ。決して悪気があって言っている訳では、ないようじゃしの。居間に招待されると、そこには一つ(正確には、「一基」と数えるぞい)の仏壇が備わっておったぞい。そこに飾られておった写真は、かつてのワシの教え子…。ここにいる、海里くんのお祖父様じゃな。そして、その奥方。それから…。
 年端も行かぬような少年の写真が、並べられてあったぞい。おそらくは親族であろうが、この家に似つかわぬ華奢な外見をしておる。そしてその髪の毛は、かつてのワシよりも真っ白い雪のような色をしておったぞい。

 「弟の、空です。岩本空。二年前、11歳でこの世を去りました」
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