33 / 43
伊勢嶋雪兎
好きの反対は、無関心だって言うでしょう
しおりを挟む
6月15日(水)雨
みなさんこんにちは。辻村颯16(89)歳じゃよ。ちょっと、ご報告に間が空きましたのう。中間考査だの、言うておったプール授業だの色々と出来事はあったのじゃよ。機会があれば、皆さんにそれらのエピソードを語りたいものじゃ。
さて、本日は朝からの雨じゃった。もともと雨の日が好きではないので、なんだか気が滅入るのと…。今の足にはない筈の傷口が、なぜか痛むような気がするぞい。ヤクザが指を詰めたのとは訳が違うじゃろうが、これも『幻痛』と言い表して差し支えはないものかな。
億劫のあまり、柔道部の練習には参加せず帰った。そろそろ、期末試験が近づいてくる頃でもあったしの。しかして真っすぐ伊勢嶋邸へと帰る気にもなれず、気づけば足は近くの公園まで向かっておった。
中に見事な日本庭園があるため、若返る前からよくここへは散歩に来ておったのじゃよ。今の季節、雨にそぼ濡れた青紅葉はなかなかに風流で嫌いではないぞい。さて雨の中を歩いて庭園内の東屋まで赴くと、先客が座っておったよ。
雪兎くんじゃった。彼は、雨の日にもレインコートをば羽織って自転車通学をしておるよ。その自転車は、庭園近くの駐輪場に停めているものと見える。
しかしこうして雨の中を佇んでいる姿を見ると、母上の沙都子さんによく似た美青年じゃな。あくまで、一言も喋らない時限定ではあるが。もし彼の性癖がストレートであったなら、世のご婦人方から引く手あまたであったろうに。あくまで、一言も喋らない時限定であるがの。目を閉じているので、最初は眠っておるのかと思ったよ。
「雨、やまんのう。いつぞやのように、沙都子さんに車で迎えに来てもらうかね?」
声をかけると、ゆっくりと目を開けて答えたぞい。
「颯くん。…誰もいないから、ソウスケさんでいいのかな。結構です。よっぽど降らない限り、自転車で帰ってますから。雨が降ると、何故かここに来てしまうんです…」
「そういや、君がこーんな小さい頃からここへは入り浸っておったのう。兄上の、楓くんの塾が終わるのを待っておったんじゃったか?」
「えぇ。最初の頃は、そうでしたね。だけど、いつだったかここである人に会って…。その人が、どんな人だか思い出せない。名前すら、思い出せない。何をしたのか、話したのか。だけど俺、きっとその人を待っているのだと思う。ここにいれば、彼に…彼女なのかな。いつかは会える気がして」
「ロマンチックじゃのう。何だか、そんな映画があった気がするぞい。その人は君の、初恋じゃったのかの?」
「恋が何かも、分からない年頃でしたから。だけどその人に会って、俺の中でケリをつけないと…。何だか自分自身の恋愛が、始まらない気がして。まぁ、始まった所ですぐに終わるのは分かってるんですけど…」
「岩本のことかの?そんなに悲観するものでも、ないぞい。彼は、君のことを…」
えぇと。どこまで、話したものじゃろ。亡くなった弟君のことは、今は話すべきではなかろうな。
「あーっと…。決して憎からず、思っておるよ」
「憎からず、ねぇ。いっそ、憎まれた方がいいんですよ。好きの反対は、無関心だって言うでしょう」
「雪兎くん?何だか、いつもの君らしくもないぞい。きっと、天気のせいで弱気になっておるんじゃな。…今日は、やっぱり沙都子さんに迎えに来てもらおう。一緒に、車で帰るとしようではないかね。それまで、しばらくの間は雨宿りじゃよ」
雪兎くんは、再び目を閉じて何も言わなくなった。飄々としてはおるが、彼もまた一人の男子高校生。様々な悩みや事情を抱えて生きておる、と言った所かな。
しかし、自分の中でのケリをつけないと恋愛が始まらない…か。何だか、思い当たるフシはあるぞい。いや、ワシが愛する人は後にも先にも女房のいづみただ一人。それは、変わらんのじゃが。
みなさんこんにちは。辻村颯16(89)歳じゃよ。ちょっと、ご報告に間が空きましたのう。中間考査だの、言うておったプール授業だの色々と出来事はあったのじゃよ。機会があれば、皆さんにそれらのエピソードを語りたいものじゃ。
さて、本日は朝からの雨じゃった。もともと雨の日が好きではないので、なんだか気が滅入るのと…。今の足にはない筈の傷口が、なぜか痛むような気がするぞい。ヤクザが指を詰めたのとは訳が違うじゃろうが、これも『幻痛』と言い表して差し支えはないものかな。
億劫のあまり、柔道部の練習には参加せず帰った。そろそろ、期末試験が近づいてくる頃でもあったしの。しかして真っすぐ伊勢嶋邸へと帰る気にもなれず、気づけば足は近くの公園まで向かっておった。
中に見事な日本庭園があるため、若返る前からよくここへは散歩に来ておったのじゃよ。今の季節、雨にそぼ濡れた青紅葉はなかなかに風流で嫌いではないぞい。さて雨の中を歩いて庭園内の東屋まで赴くと、先客が座っておったよ。
雪兎くんじゃった。彼は、雨の日にもレインコートをば羽織って自転車通学をしておるよ。その自転車は、庭園近くの駐輪場に停めているものと見える。
しかしこうして雨の中を佇んでいる姿を見ると、母上の沙都子さんによく似た美青年じゃな。あくまで、一言も喋らない時限定ではあるが。もし彼の性癖がストレートであったなら、世のご婦人方から引く手あまたであったろうに。あくまで、一言も喋らない時限定であるがの。目を閉じているので、最初は眠っておるのかと思ったよ。
「雨、やまんのう。いつぞやのように、沙都子さんに車で迎えに来てもらうかね?」
声をかけると、ゆっくりと目を開けて答えたぞい。
「颯くん。…誰もいないから、ソウスケさんでいいのかな。結構です。よっぽど降らない限り、自転車で帰ってますから。雨が降ると、何故かここに来てしまうんです…」
「そういや、君がこーんな小さい頃からここへは入り浸っておったのう。兄上の、楓くんの塾が終わるのを待っておったんじゃったか?」
「えぇ。最初の頃は、そうでしたね。だけど、いつだったかここである人に会って…。その人が、どんな人だか思い出せない。名前すら、思い出せない。何をしたのか、話したのか。だけど俺、きっとその人を待っているのだと思う。ここにいれば、彼に…彼女なのかな。いつかは会える気がして」
「ロマンチックじゃのう。何だか、そんな映画があった気がするぞい。その人は君の、初恋じゃったのかの?」
「恋が何かも、分からない年頃でしたから。だけどその人に会って、俺の中でケリをつけないと…。何だか自分自身の恋愛が、始まらない気がして。まぁ、始まった所ですぐに終わるのは分かってるんですけど…」
「岩本のことかの?そんなに悲観するものでも、ないぞい。彼は、君のことを…」
えぇと。どこまで、話したものじゃろ。亡くなった弟君のことは、今は話すべきではなかろうな。
「あーっと…。決して憎からず、思っておるよ」
「憎からず、ねぇ。いっそ、憎まれた方がいいんですよ。好きの反対は、無関心だって言うでしょう」
「雪兎くん?何だか、いつもの君らしくもないぞい。きっと、天気のせいで弱気になっておるんじゃな。…今日は、やっぱり沙都子さんに迎えに来てもらおう。一緒に、車で帰るとしようではないかね。それまで、しばらくの間は雨宿りじゃよ」
雪兎くんは、再び目を閉じて何も言わなくなった。飄々としてはおるが、彼もまた一人の男子高校生。様々な悩みや事情を抱えて生きておる、と言った所かな。
しかし、自分の中でのケリをつけないと恋愛が始まらない…か。何だか、思い当たるフシはあるぞい。いや、ワシが愛する人は後にも先にも女房のいづみただ一人。それは、変わらんのじゃが。
0
あなたにおすすめの小説
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
アイドルくん、俺の前では生活能力ゼロの甘えん坊でした。~俺の住み込みバイト先は後輩の高校生アイドルくんでした。
天音ねる(旧:えんとっぷ)
BL
家計を助けるため、住み込み家政婦バイトを始めた高校生・桜井智也。豪邸の家主は、寝癖頭によれよれTシャツの青年…と思いきや、その正体は学校の後輩でキラキラ王子様アイドル・橘圭吾だった!?
学校では完璧、家では生活能力ゼロ。そんな圭吾のギャップに振り回されながらも、世話を焼く日々にやりがいを感じる智也。
ステージの上では完璧な王子様なのに、家ではカップ麺すら作れない究極のポンコツ男子。
智也の作る温かい手料理に胃袋を掴まれた圭吾は、次第に心を許し、子犬のように懐いてくる。
「先輩、お腹すいた」「どこにも行かないで」
無防備な素顔と時折見せる寂しげな表情に、智也の心は絆されていく。
住む世界が違うはずの二人。秘密の契約から始まる、甘くて美味しい青春ラブストーリー!
バツイチ上司が、地味な僕を特別扱いしてくる
衣草 薫
BL
理性的でクールなバツイチ上司・桐原恒一は、過去の失敗から、もう誰も必要としないと決めて生きてきた。
男が好きだという事実を隠し、「期待しなければ傷つかない」と思い込んできた部下・葉山直。
すれ違いと誤解の果てに、直が職場を去ろうとしたとき、恒一は初めて“追いかける”ことを選ぶ。
選ばれないと信じてきた直と、逃げないと決めた恒一。
二人の距離が近づくことで、直は「ここにいていい」と思える場所を見つけていく。
元ノンケ上司×自己肯定感低め部下の社会人BL。※ハッピーエンド保証。
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
マネージャー~お前を甲子園に連れて行ったら……野球部のエース♥マネージャー
夏目碧央
BL
強豪校の野球部に入った相沢瀬那は、ベンチ入りを目指し、とにかくガッツを認めてもらおうと、グランド整備やボール磨きを頑張った。しかし、その結果は「マネージャーにならないか?」という監督からの言葉。瀬那は葛藤の末、マネージャーに転身する。
一方、才能溢れるピッチャーの戸田遼悠。瀬那は遼悠の才能を羨ましく思っていたが、マネージャーとして関わる内に、遼悠が文字通り血のにじむような努力をしている事を知る。
【完結】男の後輩に告白されたオレと、様子のおかしくなった幼なじみの話
須宮りんこ
BL
【あらすじ】
高校三年生の椿叶太には女子からモテまくりの幼なじみ・五十嵐青がいる。
二人は顔を合わせば絡む仲ではあるものの、叶太にとって青は生意気な幼なじみでしかない。
そんなある日、叶太は北村という一つ下の後輩・北村から告白される。
青いわく友達目線で見ても北村はいい奴らしい。しかも青とは違い、素直で礼儀正しい北村に叶太は好感を持つ。北村の希望もあって、まずは普通の先輩後輩として付き合いをはじめることに。
けれど叶太が北村に告白されたことを知った青の様子が、その日からおかしくなって――?
※本編完結済み。後日談連載中。
三ヶ月だけの恋人
perari
BL
仁野(にの)は人違いで殴ってしまった。
殴った相手は――学年の先輩で、学内で知らぬ者はいない医学部の天才。
しかも、ずっと密かに想いを寄せていた松田(まつだ)先輩だった。
罪悪感にかられた仁野は、謝罪の気持ちとして松田の提案を受け入れた。
それは「三ヶ月だけ恋人として付き合う」という、まさかの提案だった――。
闘乱世界ユルヴィクス -最弱と最強神のまったり世直し旅!?-
mao
BL
力と才能が絶対的な存在である世界ユルヴィクスに生まれながら、何の力も持たずに生まれた無能者リーヴェ。
無能であるが故に散々な人生を送ってきたリーヴェだったが、ある日、将来を誓い合った婚約者ティラに事故を装い殺されかけてしまう。崖下に落ちたところを不思議な男に拾われたが、その男は「神」を名乗るちょっとヤバそうな男で……?
天才、秀才、凡人、そして無能。
強者が弱者を力でねじ伏せ支配するユルヴィクス。周りをチート化させつつ、世界の在り方を変えるための世直し旅が、今始まる……!?
※一応はバディモノですがBL寄りなので苦手な方はご注意ください。果たして愛は芽生えるのか。
のんびりまったり更新です。カクヨム、なろうでも連載してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる