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職場で一番嫌いな奴と、なんでか付き合うことになった話

しぶき君の口内に移り住みたい

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 個室内で、鞄の中から包みを取り出しました。通販で注文していたもの。出がけにマンションのポストから取り出して、思わずそのまま持ってきてしまいました。

 「『マージナル・サーフ』しぶき君総受けアンソロ本」「しぶき君と、渚のいけないエトセトラ!」「しぶき君の口内に移り住みたい」etc、etc…。
 いわゆる一つの、薄い本たちですね。俺のバイブルです。俺は絵が描けないんで、こう言う漫画が描ける人たちは尊敬するなぁ…!しかしまぁ、もしこの本たちが職場の連中に見られたら完全に居場所なくなるわ。ここで落ち着いてきたのに、また職探しかな?なんてね、ハハハ。
 以上二点が、現在の俺の精神の支えです…。え?彼氏?知りませんね、そんなダメンズのことは。こっちから別れてやりましたよ。
 さてしぶき君(の八重歯)を見ていたら、ずいぶんと気分も落ち着いてきました。帰ってから、ゆっくりこの本たちを堪能するかぁ…!そう思って、トイレから出てエレベーターへとおもむいた所。

 「…っス」
 「…保志さん。お疲れ様です」

 出たー!こいつが現在の職場にて、俺が一番嫌いな野郎です。多分、向こうも俺のことが大嫌いだと思います。ってか、「っス」って何やねん「っス」って。ちゃんと挨拶しろや、社会人の基本やぞ!あと人がエレベーターに入る時は、「開」ボタンを押しとけ!
 保志ナントカ。名前は何つったか、忘れました。頭を茶髪に染めてピアス開けた、まぁ典型的なヤンキーですね。こいつは定時(言うて22時)ちょうどに仕事終わってた気がするけど、今の時間まで何してたんだ?
 ってか、聞かなくても分かります。エレベーターの中に充満するタバコの香り。社内の喫煙所で、つい今しがたまでヤニ吸ってやがったな?タバコ自体も、タバコ吸う奴も大嫌いなんだよ…。
 あんまり一緒に帰りたくもないんですが、例の「遅番」を入れられる人が少ないので必然的にシフトがかち合うんですよね。やっぱり実家が横浜なので、しょっちゅう終電なくなるとか騒いでるけど大丈夫なの?まぁ、大丈夫だから今こうして落ち着いてるんでしょうけどね。
 だいぶ年下だとは思いますが、社内では先輩です。だから別に、こいつに対して敬語使うことが嫌って訳ではないです。また俺に対して、どんな態度を取って頂いても構いません。

 でもまさか、俺のこと年下だと思ってる?人よりだいぶ童顔である自覚はあるけど、まさかね。
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