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職場で一番嫌いな奴と、なんでか付き合うことになった話
胸が、張り裂けそうに痛いんだ
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「いやいや。でも、感動したのは本当っスよ。流石は辻村さん。今までの豊富な経験を感じさせますねぇ」
「何それ。おだてても、何も出ないよ。まぁでも、無駄にコールセンター歴だけは長いから。その経験が活かせたなら、ちょっとは嬉しい…。あ、でも。葵くんも、ここが初めてじゃないよね?しゃべり方とか、こなれてるもん」
「…そう、思います?」
「うん。当ててみせよっか。ズバリ、営業系のアウト架電でしょ?あちこちに電話かけまくって、一日のノルマがいくらみたいな。俺も、一度だけそういうセンターに行ったことあるけど…。成績出なくて、すぐに辞めちゃった。やっぱ、俺は営業に向いてないわ」
「正解です。高校卒業後、悪友に誘われてとある詐欺グループに加担していました」
「…え?」
「毎日年寄りに電話しまくって、孫と偽って口座に入金させるのがお仕事です。いやー、オレの演技力がいいのか。善良なお年寄りを、次から次へと騙すことが出来ましたねぇ」
「…嘘、でしょ?また、いつもの冗談だよね?」
「さてねぇ。でももし本当だったら、どうします?オレがあちこちの年寄りを泣かせまくって、のうのうと生きてるとしたら。辻村さん、どう思います…?」
どう思うって…。どうも、思わないよ。他人の人生は、他人のものだし。何をしてたって、別に。彼がもし悪事に手を染めていたとしても、それは大元の詐欺グループが悪いんじゃん。彼は悪くない。だから、俺がショックを受けることもない。そう、思うのに…。
「どうして、泣くんですか…?」
「どうしてだろう…。分からない。君が…俺のことを、嫌いでいても構わない。君にどんなことをされても、言われたとしても。だけど君が、誰とも知れない他人を傷つけたと思ったら…。なんでか胸が、張り裂けそうに痛いんだ。う、うぅ…」
最後まで言えなかった。彼が俺のことを抱きしめて、唇を押し当ててきたからだ。
しかも舌、突っ込んできやがった!ヤニくせーんだよ、オイ!まぁ、うん…。思った程には、嫌な匂いじゃなかったかな。仕方ない。しばらく、このままにさせてやる…。
と思いきや、とっくの昔にエレベーターが到着して扉が開いていた。夜分にて誰もいなかったが、流石にいつまでもこのままでいる訳にもいかない。もう一度逆走して、上の階まで行くとか嫌だしね。
身体を無理やり引っぺがして外に出ると、後ろから彼が声をかけてきた。
「…年寄り連中、誰一人騙されやしないんスよね。オレ、バカだし演技力ないし。毎日、上の奴らに嫌味言われてました。ある日、素直そうな婆さん一人釣れそうになったんスけど…。その時、思い出したんスよね。うちの家庭が荒れる前、爺さん婆さんに優しくしてもらえたなぁって。そう思った瞬間に電話ブチ切って、ついでにオレも切れて部屋から飛び出してました。…そう言ったら、信じます?」
「…信じるよ」
「それから親父のツテで武市さんに拾われて、今こうして真っ当なお仕事をしております。客…お客様の言動に、多少イラっとすることもありますが。本当は、自分の対応で心の底から満足させたいと思っています」
「信じる…」
「それは良かった。ところで辻村さん」
「はい」
「終電逃しました」
「はい?」
「何それ。おだてても、何も出ないよ。まぁでも、無駄にコールセンター歴だけは長いから。その経験が活かせたなら、ちょっとは嬉しい…。あ、でも。葵くんも、ここが初めてじゃないよね?しゃべり方とか、こなれてるもん」
「…そう、思います?」
「うん。当ててみせよっか。ズバリ、営業系のアウト架電でしょ?あちこちに電話かけまくって、一日のノルマがいくらみたいな。俺も、一度だけそういうセンターに行ったことあるけど…。成績出なくて、すぐに辞めちゃった。やっぱ、俺は営業に向いてないわ」
「正解です。高校卒業後、悪友に誘われてとある詐欺グループに加担していました」
「…え?」
「毎日年寄りに電話しまくって、孫と偽って口座に入金させるのがお仕事です。いやー、オレの演技力がいいのか。善良なお年寄りを、次から次へと騙すことが出来ましたねぇ」
「…嘘、でしょ?また、いつもの冗談だよね?」
「さてねぇ。でももし本当だったら、どうします?オレがあちこちの年寄りを泣かせまくって、のうのうと生きてるとしたら。辻村さん、どう思います…?」
どう思うって…。どうも、思わないよ。他人の人生は、他人のものだし。何をしてたって、別に。彼がもし悪事に手を染めていたとしても、それは大元の詐欺グループが悪いんじゃん。彼は悪くない。だから、俺がショックを受けることもない。そう、思うのに…。
「どうして、泣くんですか…?」
「どうしてだろう…。分からない。君が…俺のことを、嫌いでいても構わない。君にどんなことをされても、言われたとしても。だけど君が、誰とも知れない他人を傷つけたと思ったら…。なんでか胸が、張り裂けそうに痛いんだ。う、うぅ…」
最後まで言えなかった。彼が俺のことを抱きしめて、唇を押し当ててきたからだ。
しかも舌、突っ込んできやがった!ヤニくせーんだよ、オイ!まぁ、うん…。思った程には、嫌な匂いじゃなかったかな。仕方ない。しばらく、このままにさせてやる…。
と思いきや、とっくの昔にエレベーターが到着して扉が開いていた。夜分にて誰もいなかったが、流石にいつまでもこのままでいる訳にもいかない。もう一度逆走して、上の階まで行くとか嫌だしね。
身体を無理やり引っぺがして外に出ると、後ろから彼が声をかけてきた。
「…年寄り連中、誰一人騙されやしないんスよね。オレ、バカだし演技力ないし。毎日、上の奴らに嫌味言われてました。ある日、素直そうな婆さん一人釣れそうになったんスけど…。その時、思い出したんスよね。うちの家庭が荒れる前、爺さん婆さんに優しくしてもらえたなぁって。そう思った瞬間に電話ブチ切って、ついでにオレも切れて部屋から飛び出してました。…そう言ったら、信じます?」
「…信じるよ」
「それから親父のツテで武市さんに拾われて、今こうして真っ当なお仕事をしております。客…お客様の言動に、多少イラっとすることもありますが。本当は、自分の対応で心の底から満足させたいと思っています」
「信じる…」
「それは良かった。ところで辻村さん」
「はい」
「終電逃しました」
「はい?」
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