職場で一番嫌いな奴と、なんでか付き合うことになった話

あきら

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おまけ2・直さんじゅっさいの時の話

迎えに来てください。いやマジで

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 みなさんこんにちは。辻村直さんじゅっさいです。

 大阪出身ですが、大学進学と同時に上京。現在は、都内の某マンションで一人暮らしをしています。
 そして、本日は横浜県神奈川市の某ショッピングモールにやって参りました。デートかって?はい、そうですね。そして、つい先程かれぴっぴと大ゲンカして別れてきた所です…。
 ケンカの理由は、思い出せません。どうせ、つまらないことだったは思いますが…。20代半ばにまとまった金が入った悪影響か、どうにもダメンズやヒモ男と付き合う率が高いんですよね。いやむしろ、そのずっと前から男運の悪さには定評が…。この話は、また今度。
 最悪の気分でエレベーターに入ると、中には小学校低学年と思しき男の子が一人だけ乗っていました。親御さんと一緒に来たとは思われますが、どこにいるんだろう?ちゃんと見とけよな、危なっかしい。
 見た目は悪くない子供ですが、頭を茶髪にして耳にはピアスを。その他服装のセンスなど、どう見ても親がヤンキーもしくは元ヤンのようです。



 ヤンキーかよ。俺の、一番嫌いなタイプだわぁ。昔付き合った男が、やっぱりヤンキーで…。この話も、また今度。この子に罪はないけど、仮に成長してイケメンになったとしても絶対に付き合う機会はないかな。
 と言うか今日は平日だけど、学校は?低学年だろうし、授業はすでに終わってるのかな。流石に、サボリとかではないだろう…。
 エレベーターの扉が閉まって、下の階に動き出した。密室で、男が二人。これ、BL小説だとエレベーター止まるパターンかなぁ?ないない、何歳差だよ。犯罪だからね!また先に述べたとおり、仮に成長したとしてもヤンキーはね…。などと、下らない妄想をしていると。
 
 …地震だ。しかも、けっこう大きいぞ!
 
 大型商業施設なので、耐震性はしっかりしていると信じたい。だけど、けっこうな揺れでとても立っていることが出来ない。
 お。俺、ここで死ぬの?マンションの自室に残してきた、大量の薄い本を始末するまでは死ねない…!あ。それと、PCのDドライブにとても人に見せられないような動画たちが。
 普段信じない神様に祈りながら、目を瞑っていると…。
 「…痛いんだけど」
 ヤンキーショタが、耳元でつぶやいていた。いつの間にか俺、彼の身体を抱きしめてしゃがんでいたらしい。
 え。俺、無意識にこの子を庇おうとした?ないない。ヤンキーもだけど、お子様は大嫌いなので…。
 「あ…あぁ、ごめんね。…地震、凄かったね。ボク、大丈夫だった?」
 それでもまぁ、嫌いな気持ちを態度に出す訳にもいかないので…。表面上は、100点満点の対応をした。ショタは何も答えず、不機嫌そうにうつむいている。無愛想なガキやなぁ。そう言うとこやぞ!
 地震そのものは収まったようだが、おそらく建物が振動を分散させているのだろう。船の上に乗っているような揺れが続いて、若干気分悪くなってきた…。お子様はもっとじゃないかと心配したが、案外平気なようでケロッとしている。
 言い忘れてたけど、照明も消えて真っ暗闇だ。スマホの明かりをつけて、エレベーターの壁に記載されていた緊急時の番号に電話を試みる。…だけど、電話そのものが発信できない。今現在、日本中で電話かけられまくってる?もしかして、けっこうな規模の地震だったのでは…。
 インターネット回線は通じたので、速報を見てみると…。どうにも、東北地方の太平洋を震源とする大規模な地震が発生したらしい。またその地震の影響で津波が発生したらしく、海水に流される大量の自動車の映像が目に入った。
 これは…けっこうな数の死者が出たのでは。改めて、いま自分たちが無事でいることを感謝した。流石にショッキングなので、この画像をお子様に見せる訳にはいかない。
 そう思ってふと彼の様子を見ると、心なし不安そうな顔で小刻みに震えている。揺れには平気そうだったので、異変に気づくのに遅れた。
 「ぼ…ボク、本当に大丈夫?具合とか、悪くなってない?」
 「…ちげーよ。そんなんじゃなくて。言うの恥ずかしいけど、その…」
 「オシッコがしたいのかな?」
 「それも、ちげーよ!でっけー声で言うな!そっちは大丈夫。それより…暗いのが…こわくて…」
 これは気づかなかった。スマホのライトを点けて、常に照らしているようにしよう。なぁに。予備の電池は、アホほど用意しておりますよ。また長丁場になりそうなので、ショタと並んでエレベーターの床に座る。なおも震える彼の肩を、軽く抱いてあげた。
 「大丈夫だよ。きっと、そのうち動き出すから。それにしても、揺れの方にはそんなに驚いてなかったよねぇ。ボク、小さいのに偉いぞ!」
 「うん。ゆうえんちのアトラクションみたいで面白かったから。あんなデカいゆれは、うまれてはじめてだったけどさ」
 「うん…。俺は、阪神大震災を思い出したかなぁ。お兄さんが、中学生の時に起こったんだけど…」
 「え?お兄さんってかおじさん、けっこうな年?今いくつよ」
 「うるせーわ!…って、つい本性出ちゃった。えぇと、声優の堀○由衣さん17歳よりは年下です。ボクは…。って、いい加減ボクだと呼びにくいね。ボク、お名前は?」
 「人に名前をたずねるときは、まずじぶんからなのれって先生がいってた」
 「はいはい、重ね重ねうるせーな!『お兄さん』は、辻村と申します」
 「…あおい」
 消え入るような声でつぶやいたので、よく聞こえなかった。今のって、名字?名前?俺が名乗ったのが名字なので、同じく名字かな。つい最近デビューした声優の蒼井○太と同じなので、蒼井くんと呼ぶようにしよう。
 「えぇと…蒼井くん。気になってたんだけど、親御さんは?一緒に、ここまで来たんだよね?」
 「…かーちゃんと食事するために、とーちゃんと来たんだけど。服とか見はじめてきょうみねーから、はなれてきた」
 おぉっと。男親って、すぐに目離すよね。お子さんに、何かあったらどうするの?これがきっかけで、夫婦仲悪くならなけりゃいいけど。
 「そ…そうなんだ。ご家族で食事とか、仲がよくてうらやましいなぁ!」
 「べつに。むしろ、ケンカばっかだからはなれてくらしてる。りこんしたあと、オレのことをどっちがひきとるかの話し合いで会うみたい」
 おぉう。これは、とんだ修羅場に出くわしてしまいました。今日初めてお会いしたショタの口から聞くには、いささか話題が重いねん!
 「どっちにひきとられようが、大してかわらない。オレ、かーちゃんの親にきらわれてるから多分とーちゃんのところに行く。どうせみんな、オレのことがきらいだ」
 「蒼井くん…。それは、違うよ。誰も、君を嫌ってなんかいないよ」
 「どうだろう。ってか、何であなたが泣くの」
 「え?俺、泣いてる?今?何でだろう…。うーん。うちの親も、しょっちゅうケンカはしてたけど。何だかんだ、別れるとかは無かったからさぁ…。君より長く生きてるのに、何か気の利いたこと言えるだけの人生経験がないなぁって」
 「そんな、気休めとかいらない。こんな世の中、好きで生まれて来たわけでもないし。オレなんか一人いなくなっても、どうせ誰も悲しまない…」
 「この、アホがー!」
 あ、ついまた本性出ちゃった。しかも、よそ様の子供を平手で叩いちゃった。だけど、いても立ってもいられなくて…。今現在、数え切れない人たちが亡くなったり行方不明になっているんだ。子供である彼に、そこまでは言えなかったけど…。
 「いってーな!今度は何だよ。とつぜん、ブチ切れやがって」
 「そりゃ、切れますよ!…蒼井くん、もう一度言うけど、誰も君のことを嫌ってなんかいないよ。お父様も、お母様も君のことが大好きだ。いや、むしろ…。彼ら同士、今もきっと好き合っているんじゃないかなぁ。みんながみんな、誰かのことを嫌いでいたい訳じゃないんだ。だけど、好きだけじゃどうしようもないことが世の中にはあるんだ…」
 「…なに言ってるか、サッパリわからない」
 「うん。俺自身も、何言ってるか良く分かってない。だけど蒼井くん、覚えておいて。君のことを大好きな人が、いつだってきっと一人は傍にいるから。俺だって、蒼井くんがいなくなったら悲しいなぁ」
 「…ほんとう?」
 「本当だよ。俺、君のこと大好きだもん」
 「…はぁー?何だよ、それ。いらないって。そう言う、子供だましは」
 「子供騙しじゃないよ。だから、もう悲しいことは言わないで。俺だって、生きていると嫌なことが山ほどあるけど…。死んじゃったら、アニメの続きとか見れないじゃん?」
 「…お兄さん、アニメとか見るんだ?」
 お。いい感じに、話題が逸れてきたぞ。ここで一発、彼の気分を明るくさせてあげたい。よし。ここはスマホに保存している、辻村さんお気に入りのアニメ達を見せてあげよう!
 年端も行かない子供なので、見せても安心な内容のものを…。それでいて、そこはかとなく♂×♂の香りがするものを!これで彼の人生狂ったら、どうしよう。もしオタクになっちゃったら、ごめんねー蒼井くん!
 さて、楽しい時間はあっという間に過ぎて…。
 「あ。やっとこさ、エレベーター動いたよ!良かったね、蒼井くん。これで、ご両親にも会え…」
 言葉を失った。隣にいた蒼井くんが、この俺にキスをしたのだ…。いやいや、頬にですよ?まだまだ、お子様ですからね?
 「オレも、お兄さんのことは嫌いじゃない…。むしろ、好き!大人になったら、むかえにきてやってもいいかな」
 「あはは、そうなんだ?蒼井くん、大人になったらきっとイケメンになるものね。期待して、待ってるよ」
 まぁ、すぐにでも忘れるだろうけどね。子供の成長って、早いから。むしろ…俺のことなんか忘れて、強く生きてほしいな。
 近くの階に止まって、エレベーターの扉が開いた。少し先に、彼のご両親がいたようで駆けつけてくる。ってか、どっちも若っか!いくつの時の子供だよ!ヤンキー同士だものね。そんなんだから、結婚に失敗するんだよ…。と、流石に蒼井くんの前では言いませんでしたが。彼は俺に別れの挨拶を言って、手を振りながら両親のもとに走って行った…。
 さよなら。俺も、君のことはきっと忘れないよ。素敵な王子様になって、俺のことを迎えに来てください。いやマジで。
 さて、いい加減電話も通じるはずだ。実家は大阪なので、多分大丈夫だろうけど…。群馬に嫁いだ、沙都子姉ちゃんのことが気になる。無事を確認するため、電話しようとした所…。
 先に、着信が来た。ついさっき別れた、元彼からだ。いや。まだ完全に別れた訳じゃないので、今彼でいいのかな…?俺のことを心配して、電話して来たんだろうか。

 ふふふ。事と次第によっては、ヨリを戻してやってもいいかな。なんて。
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