目が覚めたら、関西弁黒髪八重歯のイケメンが見下ろしていて欲しい人生でした。

あきら

文字の大きさ
4 / 7

世界がぶわーっと広がった

しおりを挟む
 拝啓、お母さん。部屋にあった大量の薄い本は、おかげさまで随分と片付いてきました。主に、クローゼット様に追いやって目につかなくしただけですけど。問題は、仕舞いきれなかった残りの本をどこに隠すかですよ。
 ベッドの下…は、悪気なく覗き込んできそうですしね。何となく。

 「みなさん初めまして、こんにちはー!桐島大雅、17歳やで!えぇなぁ。この挨拶、一回やってみたかったんや。今日は新学期に出来た友達と、何百回目か分からん海遊館にやって来たでー!」





 みなさん、こんにちは。神崎宙斗、18歳ホモです。今日は、新学期になってから初めての休日。前に約束した通り、大雅くんと一緒に海遊館にやって参りました次第です。いま僕が厄介になっているのが「弁天町」近くのマンションなので、何とたったの二駅。本気出したら、スープも冷まさずに来れそうな距離ですよ。
 そして結局、大雅くん一人で動画は撮影する事になりました。撮影してんの、この僕ですけどね。安易に投稿して、バズりでもしたらどうしよう…。顔だけはいいから、多分バズるんでしょうけどね。何だか、推しの地下アイドルが晴れて全国に認められそうな複雑な心境だ。
 まぁでも、いいです。撮影を始めてから…って言うか海遊館に来てから、いつにも増して楽しそうですから。本当に水族館が、お魚が大好きなんだなぁ。テンション高くはしゃいでる彼を見ているだけで、こちらも心がなごみます。あと、私服可愛い。アップにするとよく分かりますが、この腹チラだか背中チラは神の領域だと思うんですよ。
 本当はこの後、約束通り勉強を教えて差し上げたかった所ですが…。今日は、バイトのシフトが入っているんですって。専門学校の費用を貯めるとかで、けっこう忙しくしてるんですよ彼。だから本当に海遊館を一周するだけで、現地解散の予定となった次第です。
 「そう言えば、バイト先はどこなんですか?まさか、やっぱりそれも海遊館だったり?」
 「うぅ、それなー。実はほんの一時期、ここのグッズ売り場に勤めてたんよな。だけど気に入らん客とガチの殴り合いして、バイト先としては出禁食らってもうた。だから普通に、駅前のマ○ドナルドな」
 「何と、まぁ…。施設そのものに、出禁食らわなくて良かったですね。だけどそんな事があっても通い続けるなんて、大雅くんは本当にお魚が大好きなんですね…」
 「おうよ。たまーに内緒で、お魚さんにエサやらせてもうたりはしてるで。おっ。喋ってる間に、ジンベエザメの水槽に到着やでー!あれがつい最近(※当時)来はった、オスの海くん。もう一匹は、オレがまだガキの頃に来はったメスの遊ちゃんやね。ちなみに哺乳類でなく魚類である以上、数え方としては『匹』もしくは『尾』が正しいで」
 「勉強になります…。って、何だかこれじゃあべこべですね。子供の頃の大雅くん、何だか想像出来ちゃうなぁ。新しいサメがやって来て、さぞかし目をキラッキラさせてたんでしょうね」
 「まぁなー。実はその一ヶ月ほど前、水槽にいた二匹が相次いで亡くなってしまったんやね。海遊館にジンベエザメがいなくなるのは、開業以来の異例の事態。だから、待望の新しいサメさんがやって来た時には…。こう、冗談抜きで世界がぶわーっと広がったって言うか」
 「大雅くん…。もしかして、その時の体験が元で飼育員さんを目指すようになったとか?」
 「いやぁ?オレ、もっと昔から色んな水族館行っとるから。どこの飼育員さんも、けっこう筋肉質でイケメンさん揃いなんよな。特に昔オレに優しくしてくれた、海遊館のサンタダイバーさんなんか…ぐへへ」
 ???
 イケメン?筋肉質?何だか、話が妙な方向に転がってきたぞ。大雅くん。多少、予想しなくはなかったですけど…。もしかして、彼。
 「あれ?何か、話が合えへんな。うちゅるんに、言うてへんかったっけ?ホモやけど、オレ」
 「(呼び方、安定しねぇな…。って、それどころじゃなくて)え、ええええ?一言だって、聞いてませんよ、そんなの」
 「きっと、聞かれへんかったからやねー。でも、言わんでも分かってるんかと思ってた。隠してても、分かるで。うちゅるんも、ホモやろ?」
 「そ、それはそうなんですけど…。今は、僕の話をしてるんじゃなくってですね」
 「そうやったな、オレの話やったな。そもそも水泳を始めたのだって、着替えの時に友達のチ○コを見るのが目的やったから」
 「年齢制限を設けてないので、穏やかな表現でお願いしますね!?ってかそんな不順な動機で、よくスポーツ推薦を勝ち取るまでに上達しましたね…」
 うぅ。でも自分自身も昔、だいたい同じ理由でスイミングスクールに通っていたのであまり強くは言えません。
 「ははは。好きこそ、ものの上手なれってなー。おぉ。喋っとる間に、いつの間にかこんな時間や。そろそろ、バイト行かな。ここからは、うちゅるん一人で回ってくれへん?ごめんな、中途半端で。この埋め合わせは、いつか必ずするから。この先、哲学を極めはったみたいな顔のアザラシさんがおって可愛いで!そしたらなー」
 そう言って、これまた嵐のように慌ただしく去って行きました。すでに慣れっこになってはいましたが、今回ばかりは脳の情報処理が追いつかない…。いや、だからこそ一旦別れる事になって良かったのかも。
 ちなみに、「哲学を極めた」らしいアザラシさんはすぐに分かりました(可愛い)。そして未だ混乱覚めやらぬ頭を抱え、グッズ売り場に佇んでいた時の事です。「ここが、大雅くんの以前の仕事場かぁ…」なんて一人で考えておりますと。
 「あ、あのぉ…。チラッと、遠目で見えたんですけど。さっき、大雅く…。桐島くんと、館内を回ってはった人ですよね?お友達、とかですか…?」
 と、売り場の女店員さんから声をかけられました。一瞬、逆ナンかと身を構えましたが…。深刻そうな表情からは、どうにもそんな雰囲気を感じとれない。BL作品の常で、存在感がいやにフワッフワと稀薄な女性でしたが…。なかなかの美人さんであったと、記憶しております。
 「は、はい。彼とは、つい最近知り合ったばかりですが…。色々と、仲良くして頂いてます。今日は、バイトだって先に帰ってしまったんですけどね。以前の、同僚さんですか?」
 「えぇ、その…。あんまり、大きな声では言えないんですけど。あたし以前、ストーカーまがいのお客さんに付きまとわれてて…。帰り道でしつこく絡まれてた所に、大雅くんが助けてくれはったんです。結局そのまま、ロクにお礼も出来ない内に退職しちゃって…。ちょいちょい、館の方には来てるって聞いてました。あの…。良ければ、あたしに代わってお礼を言っていてもらえませんか?とっても、助かりましたって」

 拝啓、お母さん。新学期に出来た友達は、生き方がとっても破天荒な奴です。だけど、彼は…。誰か他人のために、動く事が出来る。怒る事が出来る。とってもいい奴だと、この僕は思うのです。
 それが友人である僕には、とっても誇らしくて鼻が高い。そして何だかこの胸までもが高鳴ってくるのは、何かの勘違いから来るときめきなんでしょうか…。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

劣等アルファは最強王子から逃げられない

BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。 ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。

お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
 本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。  僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!  「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」  知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!  だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?  ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中  二日に一度を目安に更新しております

平凡なぼくが男子校でイケメンたちに囲まれています

七瀬
BL
あらすじ 春の空の下、名門私立蒼嶺(そうれい)学園に入学した柊凛音(ひいらぎ りおん)。全寮制男子校という新しい環境で、彼の無自覚な美しさと天然な魅力が、周囲の男たちを次々と虜にしていく——。 政治家や実業家の子息が通う格式高い学園で、凛音は完璧な兄・蒼真(そうま)への憧れを胸に、新たな青春を歩み始める。しかし、彼の純粋で愛らしい存在は、学園の秩序を静かに揺るがしていく。 **** 初投稿なので優しい目で見守ってくださると助かります‼️ご指摘などございましたら、気軽にコメントよろしくお願いしますm(_ _)m

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

処理中です...