16 / 21
エーミール・クロフトの手紙
もう片方の翅を身につける人間がどこかにいるのではないかい
しおりを挟む
親愛なるハインリヒ・モーアへ
やあ、僕だよ。エーミールだよ。久しぶりだね。そちらの生活はどうだい?
こちらでは、随分と風が涼しくなってきた。スイスの気候は、こちらよりもずっと寒いのだろうから風邪など引かず健やかに暮らしてほしい。
と、ところであれからもう数カ月が経ったね。そ、その。僕たちが、愛の終着駅に到達してからさ…。
…あの後、大丈夫だったかって?ははは、大丈夫な筈がないだろう!好き放題、ガッツンガッツン突っ込んで来やがって!しばらくの間、腰を抜かして立ち上がる事も出来なかったさ!
フェンシングの的でもあるまいし、少しは手加減と言うものを知りたまえ…。ま…まあもし君がもう一度同じ事をしたいと言うならば、決してそれを止めるものではないけどね。
えへへ。この僕からも、お願いだ。
…こほん。本題から逸れたな。
すでに封筒を開けて、気がついたろう。どうだね、君の大好きな蝶々だよ…。もちろん、本物ではない。うちのお抱え職人に作らせた、装飾品さ。
君が初めて見せてくれた、コムラサキをモチーフにしてみた。気が向いたら、ペンダントトップにでもして肌身はなさず身につけていたまえ。
え。どうして、片方の翅しか無いのかって?さてねえ。広い世の中、もう片方の翅を身につける人間がどこかにいるのではないかい?
本題の二つ目だ。君の送ってくれた詩と小説を読ませて頂いたよ。
なかなかに…。いや、かなり面白いのではないか?少なくとも、蝶の標本作りよりはよっぽど才能があると見たね。
悪い悪い、冗談だ。でも、才能を感じたのは事実だよ。これを機に、本格的に文学者を目指してみては?ペンネームは、そう…。ヘルマン・ヘッセなんてどうだい?
ところで、君の随想録に出てくる「悪徳の象徴」としての小生意気な少年は一体誰だい?まさか、僕などと言うなら…。次に会った時は、覚悟したまえ。
え?次に、会う時って…?そうだな、本題の三つ目だ。
学校が、そろそろ冬休みに入るだろう。ご存知の通り、僕は模範的に学業をこなしているので父上からご褒美を頂いた。旅に出て、人生の経験を積んでこいと…。
この街でも雪の華が降り積もる頃、僕もそちらに行くよ。汽車に乗って、愛する君のもとへ…!嫌だと言っても押しかけてやるから、まあ重ねて覚悟しておきたまえ。
長くなったね。僕の手紙は、以上だよ。冬休みが来るのを、本当に楽しみにしているから…。
変わらぬ愛を込めて
エーミール・クロフト
やあ、僕だよ。エーミールだよ。久しぶりだね。そちらの生活はどうだい?
こちらでは、随分と風が涼しくなってきた。スイスの気候は、こちらよりもずっと寒いのだろうから風邪など引かず健やかに暮らしてほしい。
と、ところであれからもう数カ月が経ったね。そ、その。僕たちが、愛の終着駅に到達してからさ…。
…あの後、大丈夫だったかって?ははは、大丈夫な筈がないだろう!好き放題、ガッツンガッツン突っ込んで来やがって!しばらくの間、腰を抜かして立ち上がる事も出来なかったさ!
フェンシングの的でもあるまいし、少しは手加減と言うものを知りたまえ…。ま…まあもし君がもう一度同じ事をしたいと言うならば、決してそれを止めるものではないけどね。
えへへ。この僕からも、お願いだ。
…こほん。本題から逸れたな。
すでに封筒を開けて、気がついたろう。どうだね、君の大好きな蝶々だよ…。もちろん、本物ではない。うちのお抱え職人に作らせた、装飾品さ。
君が初めて見せてくれた、コムラサキをモチーフにしてみた。気が向いたら、ペンダントトップにでもして肌身はなさず身につけていたまえ。
え。どうして、片方の翅しか無いのかって?さてねえ。広い世の中、もう片方の翅を身につける人間がどこかにいるのではないかい?
本題の二つ目だ。君の送ってくれた詩と小説を読ませて頂いたよ。
なかなかに…。いや、かなり面白いのではないか?少なくとも、蝶の標本作りよりはよっぽど才能があると見たね。
悪い悪い、冗談だ。でも、才能を感じたのは事実だよ。これを機に、本格的に文学者を目指してみては?ペンネームは、そう…。ヘルマン・ヘッセなんてどうだい?
ところで、君の随想録に出てくる「悪徳の象徴」としての小生意気な少年は一体誰だい?まさか、僕などと言うなら…。次に会った時は、覚悟したまえ。
え?次に、会う時って…?そうだな、本題の三つ目だ。
学校が、そろそろ冬休みに入るだろう。ご存知の通り、僕は模範的に学業をこなしているので父上からご褒美を頂いた。旅に出て、人生の経験を積んでこいと…。
この街でも雪の華が降り積もる頃、僕もそちらに行くよ。汽車に乗って、愛する君のもとへ…!嫌だと言っても押しかけてやるから、まあ重ねて覚悟しておきたまえ。
長くなったね。僕の手紙は、以上だよ。冬休みが来るのを、本当に楽しみにしているから…。
変わらぬ愛を込めて
エーミール・クロフト
0
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる