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君と見る夜の宇宙(俺•age:20)
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「わあ、可愛い」
繁華街を歩いていて、横で後輩が言った。彼女の視線の先は本屋のショーウィンドウだった。夜の闇に負けないように明るく照らされたライトの下、青を基調に本や文房具がディスプレイされている。テーマは……、
「星、綺麗」
濃紺の背景にキラキラ光る銀色の星を写したみたいに、彼女も目を輝かす。
「星好きなの?」
「ちょっとだけです。写真見たりとか。どっちかというと文房具が好きなんです。ノートとかボールペンとか可愛くないですか?」
ガラスの向こうに飾ってある雑貨達がライトに光っている。
「中入る?」
「大丈夫です、行きましょう。少しお腹空いてきました」
微笑みながら彼女から歩き出す。
彼女とはバイト先で知り合った。大学の後輩でもあると分かり仲良くなり、バイト終わってから何度か一緒に皆で飯食べに行ったりしたけど、今日は二人で行くことになっている。初、やばい。何がってやばいだろ、女の子と二人、それも夜。初、だぜ……ちょっと情け無いけど。
「ねえ、先輩」
「え? え、何?」
ビビるな、俺。
「冬の大三角ってわかります?」
「大三角? え、あ、星?」
「そうそう、……シリウスとオリオン座のペテルギウスと、あと何でしたっけ? 思い出せなくて気になって」
「あー」
何だっけ
「確かこいぬ座の…………ごめん、わからん」
彼女は楽しそうだ。笑顔、可愛いいんだよなあ。
「俺の同居人なら知ってるんだろうけどなあ……」
「先輩とルームシェアしてる人ですよね、詳しいんだ」
ルームシェアなんてカタカナは妙にそぐわない気もするけど。ただの腐れ縁の幼馴染だし。
「何か妙に雑学あるヤツで」
と言いながらスマホ取り出して調べてみた。
「プロキオン、だって」
「そう、それ」と言って彼女は夜空を見上げた。俺もつられて見上げる。街の灯りで白っぽい暗闇に、小さな穴のように点がいくつか見えるだけだった。
「見えませんね」
「あー、わからん」
「ですね」
俺は視線を戻す。寒い夜だってのに、結構人が歩いている。飲み屋とかが連なる夜の街だから当たり前なんだけど。と、視界の中に見知った顔を見つけて、あれ? っと思った。何だあいつ、こんな時間に外か? 珍しい。
声をかけるには遠いので、そのままそいつーー俺の同居人から目を逸らそうとして……再び見た。
あれ、誰だ?
隣に背広を着たサラリーマン風の男がいた。そいつと楽しそうに笑っている。随分親し気だ。別にいいけど……知り合い? サラリーマンと? どんな接点?
「先輩?」
「あ、ごめん、行こうか」
言いながらもう一度見ると、ヤツはもう人混みに紛れてわからなくなっていた。
まあ、いいや。子どもじゃあるまいし、放っておけば。帰ったら聞くか、いや、関係ないし、別に気にする事でもない、よ、な? 大丈夫だよな、変な勧誘とかに引っかかってないよな。最近大学でそんな話聞いたばかりだった。でもあいつは馬鹿じゃないしありえないだろう。でもなあ、妙に脇が甘いというか人が良いところがあるからなあ、っていうか、そうじゃないとしたら、逆に誰だ? 親し気だったけど。……高校までと違って相手の友人が自分にとっても友人で全部知ってる、なんて事はもうない訳で、別にいいんだが、……何だろう、何を気にしてる? ……ただ何かウキウキして見えて……珍しいし……大丈夫、だよな?
「ねえ、先輩、あれも可愛くないですか?」
「え、何?」
彼女は今度はビルの壁面に飾ってあったパネル写真の横を歩きながら言った。クマのぬいぐるみとキラキラした洋服たち。
「クマちゃん、眼鏡可愛い」
クマのぬいぐるみが眼鏡している。可愛い、可愛いけど……わかった、違和感。あいつ眼鏡してなかった。外なのに、ど近眼のくせに。
不意に電子音がなって、慌ててスマホを見た。ただのアプリの通知だった。そのままスマホを戻そうとして……電話帳を押していた。
「先輩?」
「あ、ごめん、一本電話させて」
俺はあいつに電話する。何を話すつもりか自分でもよくわからない。ただモヤモヤが気持ち悪かった。だが幸か不幸かあいつは出ずに留守電になった。
「ごめん、行こう」
電話を切り、彼女ととりとめない話をしながら目的の店まで歩く。そのうちにヤツの事は気にならなくなる。よく笑う子で、そこが凄く可愛いと思う。あー、飯食った後どうしようかな。
考えているうちに店に着いた。地下にある店で、照明に照らされた煉瓦調の階段に手書きの黒板メニューが階下に誘う。いい感じだ。降りて行こうとして、ふと、足が止まる。
訝し気な目線で後輩が俺を見た。何やってんだ、行こう。……でも、店に入ったらしばらくは出られなくなる。いや、当たり前だし、何を……。
「どうかしたんですか、さっきから」
「………ごめん」
俺は彼女に向き合うと言った。
「ごめん、同居人が、その、ちょっと……何かあったみたいで……」
「え、大丈夫ですか?」
「え、うん」
何言ってんだ、俺。
「大丈夫、ごめん、行こう」
「あ、よかったら行ってあげてくださいね、私は平気ですから」
「でも……」
「あ、本当に気にしないで下さい」
凄く良い子だな、と改めて思いながら俺は頭を下げた。
「ごめん、本当。今度絶対、埋め合わせするから」
彼女は「はいっ」と言って笑った。やっぱりその笑顔が可愛くて、俺の心は重かった。
帰ってみるとアパートは真っ暗だった。やっぱり見かけたのはあいつだったのだろう。俺は何故か出ようとするため息を飲み込むと、鍵を開けようとして……、
「あれ、ない」
鍵が見つからない。鞄やらポケットやら探す。ない。冷たいドアノブを回す。もちろん開かない。ない。どこかで落とした? どこでだ?
今日の行動を思い出す。バイト先まではあった。キーケースにバイト先のロッカーの鍵もついてるから使った筈だ。……ああ、多分、ロッカーの中にそのまま忘れたんだ。時間押して慌ててたし、浮かれてたし……。
俺は今度こそため息をつくと、アパートの廊下に座り込んだ。鉄の柵が背中にあたる。どうする、バイト先に戻るか?
……何やってんだ、俺。何もかも何やってんだ。
立ち上がる気力も湧かない。戻るのはかなり面倒だ。あいつが戻るの待つか、でも遅いと嫌だしな、寒いし。
迷った挙句、俺は再びあいつに電話した。今度は、幸か不幸か、すぐに繋がった。
『もしもし、どうしたの?』
「あー、お前いつ帰る?」
あちら側の音が悪い。ざわついている。
『え? お前、今日ご飯食べてくるって』
「あー、ちょっと無くなったんだけど……家の鍵忘れて、お前帰ってくるなら待つし……」
喋ってて自分で何言ってんだろう、という気になる。
「……やっぱりいいわ、ごめん、取りに戻るわ」
『戻るってどこ』
「バイト先」
『え? バイト先? あ、待って』
声が離れて、誰かに話しかけているのが伝わってきた。が、すぐに、
『すぐ帰るから待ってて。30分くらいかな』
「え、いいよ、別に。帰って来るところならって思っただけで」
『そこから鍵取りに行ってまた戻るより、僕が帰ったほうが早いよ。寒いから最寄りのコンビニにでもいて。じゃあね』
反論を許さず電話は切れた。俺は鉄柵にもたれかかると、再び大きくため息をついた。
何やってんだろう、俺。正直、自分でもわからない。彼女との約束を反故にして、あんなに楽しみだった筈なのに、で、鍵忘れて、あいつ呼び戻して。何やってるか、理解できない。理解できないのに……何故かほっとしている。何でか、何にか、わかんないけど、ほっとしている。……待っていれば鍵が開くしさ。
俺は上を向いた。アパートの廊下の簡素な蛍光灯と、くすんだコンクリートが目に入るばかりだった。蛍光灯にはいつかの名残りのように、ちぎれた蛾の翅がひっついていた。
暫くそうしていたが、
「寒いな」
と呟いて立ち上がった。階下に降りる。言われたようにコンビニで立ち読みでもして待つか。でも、面倒だった。暗闇にうかぶ煌々とした明るいコンビニの店舗が脳裏に浮かぶ。どうにもやっぱり面倒くさい。行きたいと思えない、寒いのに。
俺はアパート出てすぐにある自販機でホットコーヒーを二つ買った。一つはポケットに入れて、もう一つを開けた。熱すぎるくらいの缶で手を温めながら、暗い路上でゆっくりと口にする。上を見ると、さっきより星がよく見えた。冬の大三角……なんだっけ、シリウス、ペテルギウス、それから……。
電話がなった。
『今コンビニに着いたけど、どこにいる? 』
「家の前」
『何で⁈』
それから程なくあいつが帰ってきた。走って来る。吐く息が白い。
「コンビニにいないから慌てたよ。何でこんな所で待ってるかな」
「なあ、冬の大三角ってわかるか?」
「え、何の話?」
俺は無言で上を見た。
「……ああ、星か、えっと……」
話し出す幼馴染にポケットに入っていたコーヒーを押し付ける。
「何?」
「暖とってた。……悪かったな、帰って来てもらって」
「いいよ、別に」
そう言った眼鏡の奥が微笑んでいて、俺も自然と口角が上がった。
「冬の大三角は……オリオン、ほらあそこの三点星」
指さされた方を見る。
「わかるよ」
「あの肩にある赤い星がペテルギウス、それからシリウス、明るい白い星ね、左のプロキオンはわかる? 一等星だよ、三角形作ってみて」
「ああ、あれかな、わかった」
今度こそ覚えていよう。いや、また忘れたら聞けばいいか。
俺たちはすっかり温くなった缶コーヒーを手に、しばらく宙を見上げていた。
繁華街を歩いていて、横で後輩が言った。彼女の視線の先は本屋のショーウィンドウだった。夜の闇に負けないように明るく照らされたライトの下、青を基調に本や文房具がディスプレイされている。テーマは……、
「星、綺麗」
濃紺の背景にキラキラ光る銀色の星を写したみたいに、彼女も目を輝かす。
「星好きなの?」
「ちょっとだけです。写真見たりとか。どっちかというと文房具が好きなんです。ノートとかボールペンとか可愛くないですか?」
ガラスの向こうに飾ってある雑貨達がライトに光っている。
「中入る?」
「大丈夫です、行きましょう。少しお腹空いてきました」
微笑みながら彼女から歩き出す。
彼女とはバイト先で知り合った。大学の後輩でもあると分かり仲良くなり、バイト終わってから何度か一緒に皆で飯食べに行ったりしたけど、今日は二人で行くことになっている。初、やばい。何がってやばいだろ、女の子と二人、それも夜。初、だぜ……ちょっと情け無いけど。
「ねえ、先輩」
「え? え、何?」
ビビるな、俺。
「冬の大三角ってわかります?」
「大三角? え、あ、星?」
「そうそう、……シリウスとオリオン座のペテルギウスと、あと何でしたっけ? 思い出せなくて気になって」
「あー」
何だっけ
「確かこいぬ座の…………ごめん、わからん」
彼女は楽しそうだ。笑顔、可愛いいんだよなあ。
「俺の同居人なら知ってるんだろうけどなあ……」
「先輩とルームシェアしてる人ですよね、詳しいんだ」
ルームシェアなんてカタカナは妙にそぐわない気もするけど。ただの腐れ縁の幼馴染だし。
「何か妙に雑学あるヤツで」
と言いながらスマホ取り出して調べてみた。
「プロキオン、だって」
「そう、それ」と言って彼女は夜空を見上げた。俺もつられて見上げる。街の灯りで白っぽい暗闇に、小さな穴のように点がいくつか見えるだけだった。
「見えませんね」
「あー、わからん」
「ですね」
俺は視線を戻す。寒い夜だってのに、結構人が歩いている。飲み屋とかが連なる夜の街だから当たり前なんだけど。と、視界の中に見知った顔を見つけて、あれ? っと思った。何だあいつ、こんな時間に外か? 珍しい。
声をかけるには遠いので、そのままそいつーー俺の同居人から目を逸らそうとして……再び見た。
あれ、誰だ?
隣に背広を着たサラリーマン風の男がいた。そいつと楽しそうに笑っている。随分親し気だ。別にいいけど……知り合い? サラリーマンと? どんな接点?
「先輩?」
「あ、ごめん、行こうか」
言いながらもう一度見ると、ヤツはもう人混みに紛れてわからなくなっていた。
まあ、いいや。子どもじゃあるまいし、放っておけば。帰ったら聞くか、いや、関係ないし、別に気にする事でもない、よ、な? 大丈夫だよな、変な勧誘とかに引っかかってないよな。最近大学でそんな話聞いたばかりだった。でもあいつは馬鹿じゃないしありえないだろう。でもなあ、妙に脇が甘いというか人が良いところがあるからなあ、っていうか、そうじゃないとしたら、逆に誰だ? 親し気だったけど。……高校までと違って相手の友人が自分にとっても友人で全部知ってる、なんて事はもうない訳で、別にいいんだが、……何だろう、何を気にしてる? ……ただ何かウキウキして見えて……珍しいし……大丈夫、だよな?
「ねえ、先輩、あれも可愛くないですか?」
「え、何?」
彼女は今度はビルの壁面に飾ってあったパネル写真の横を歩きながら言った。クマのぬいぐるみとキラキラした洋服たち。
「クマちゃん、眼鏡可愛い」
クマのぬいぐるみが眼鏡している。可愛い、可愛いけど……わかった、違和感。あいつ眼鏡してなかった。外なのに、ど近眼のくせに。
不意に電子音がなって、慌ててスマホを見た。ただのアプリの通知だった。そのままスマホを戻そうとして……電話帳を押していた。
「先輩?」
「あ、ごめん、一本電話させて」
俺はあいつに電話する。何を話すつもりか自分でもよくわからない。ただモヤモヤが気持ち悪かった。だが幸か不幸かあいつは出ずに留守電になった。
「ごめん、行こう」
電話を切り、彼女ととりとめない話をしながら目的の店まで歩く。そのうちにヤツの事は気にならなくなる。よく笑う子で、そこが凄く可愛いと思う。あー、飯食った後どうしようかな。
考えているうちに店に着いた。地下にある店で、照明に照らされた煉瓦調の階段に手書きの黒板メニューが階下に誘う。いい感じだ。降りて行こうとして、ふと、足が止まる。
訝し気な目線で後輩が俺を見た。何やってんだ、行こう。……でも、店に入ったらしばらくは出られなくなる。いや、当たり前だし、何を……。
「どうかしたんですか、さっきから」
「………ごめん」
俺は彼女に向き合うと言った。
「ごめん、同居人が、その、ちょっと……何かあったみたいで……」
「え、大丈夫ですか?」
「え、うん」
何言ってんだ、俺。
「大丈夫、ごめん、行こう」
「あ、よかったら行ってあげてくださいね、私は平気ですから」
「でも……」
「あ、本当に気にしないで下さい」
凄く良い子だな、と改めて思いながら俺は頭を下げた。
「ごめん、本当。今度絶対、埋め合わせするから」
彼女は「はいっ」と言って笑った。やっぱりその笑顔が可愛くて、俺の心は重かった。
帰ってみるとアパートは真っ暗だった。やっぱり見かけたのはあいつだったのだろう。俺は何故か出ようとするため息を飲み込むと、鍵を開けようとして……、
「あれ、ない」
鍵が見つからない。鞄やらポケットやら探す。ない。冷たいドアノブを回す。もちろん開かない。ない。どこかで落とした? どこでだ?
今日の行動を思い出す。バイト先まではあった。キーケースにバイト先のロッカーの鍵もついてるから使った筈だ。……ああ、多分、ロッカーの中にそのまま忘れたんだ。時間押して慌ててたし、浮かれてたし……。
俺は今度こそため息をつくと、アパートの廊下に座り込んだ。鉄の柵が背中にあたる。どうする、バイト先に戻るか?
……何やってんだ、俺。何もかも何やってんだ。
立ち上がる気力も湧かない。戻るのはかなり面倒だ。あいつが戻るの待つか、でも遅いと嫌だしな、寒いし。
迷った挙句、俺は再びあいつに電話した。今度は、幸か不幸か、すぐに繋がった。
『もしもし、どうしたの?』
「あー、お前いつ帰る?」
あちら側の音が悪い。ざわついている。
『え? お前、今日ご飯食べてくるって』
「あー、ちょっと無くなったんだけど……家の鍵忘れて、お前帰ってくるなら待つし……」
喋ってて自分で何言ってんだろう、という気になる。
「……やっぱりいいわ、ごめん、取りに戻るわ」
『戻るってどこ』
「バイト先」
『え? バイト先? あ、待って』
声が離れて、誰かに話しかけているのが伝わってきた。が、すぐに、
『すぐ帰るから待ってて。30分くらいかな』
「え、いいよ、別に。帰って来るところならって思っただけで」
『そこから鍵取りに行ってまた戻るより、僕が帰ったほうが早いよ。寒いから最寄りのコンビニにでもいて。じゃあね』
反論を許さず電話は切れた。俺は鉄柵にもたれかかると、再び大きくため息をついた。
何やってんだろう、俺。正直、自分でもわからない。彼女との約束を反故にして、あんなに楽しみだった筈なのに、で、鍵忘れて、あいつ呼び戻して。何やってるか、理解できない。理解できないのに……何故かほっとしている。何でか、何にか、わかんないけど、ほっとしている。……待っていれば鍵が開くしさ。
俺は上を向いた。アパートの廊下の簡素な蛍光灯と、くすんだコンクリートが目に入るばかりだった。蛍光灯にはいつかの名残りのように、ちぎれた蛾の翅がひっついていた。
暫くそうしていたが、
「寒いな」
と呟いて立ち上がった。階下に降りる。言われたようにコンビニで立ち読みでもして待つか。でも、面倒だった。暗闇にうかぶ煌々とした明るいコンビニの店舗が脳裏に浮かぶ。どうにもやっぱり面倒くさい。行きたいと思えない、寒いのに。
俺はアパート出てすぐにある自販機でホットコーヒーを二つ買った。一つはポケットに入れて、もう一つを開けた。熱すぎるくらいの缶で手を温めながら、暗い路上でゆっくりと口にする。上を見ると、さっきより星がよく見えた。冬の大三角……なんだっけ、シリウス、ペテルギウス、それから……。
電話がなった。
『今コンビニに着いたけど、どこにいる? 』
「家の前」
『何で⁈』
それから程なくあいつが帰ってきた。走って来る。吐く息が白い。
「コンビニにいないから慌てたよ。何でこんな所で待ってるかな」
「なあ、冬の大三角ってわかるか?」
「え、何の話?」
俺は無言で上を見た。
「……ああ、星か、えっと……」
話し出す幼馴染にポケットに入っていたコーヒーを押し付ける。
「何?」
「暖とってた。……悪かったな、帰って来てもらって」
「いいよ、別に」
そう言った眼鏡の奥が微笑んでいて、俺も自然と口角が上がった。
「冬の大三角は……オリオン、ほらあそこの三点星」
指さされた方を見る。
「わかるよ」
「あの肩にある赤い星がペテルギウス、それからシリウス、明るい白い星ね、左のプロキオンはわかる? 一等星だよ、三角形作ってみて」
「ああ、あれかな、わかった」
今度こそ覚えていよう。いや、また忘れたら聞けばいいか。
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