18 / 20
お正月
四日(ⅱ)董也
しおりを挟む
董也は部屋のドアが閉まる音を聞いてやっと体を起こすと、壁にもたれかかって座った。腰から下にはまだ毛布がまとわりついている。
「この状態で出て歩けないでしょう……」
ボソッと言うと、そのまま暫くもたれたまま呼吸する。そして大きく一息すると、立てた膝に腕を置いて前髪をかき揚げながら頭を抱えた。
「ってさ、僕の自制心褒めてよね。そこだよ?! だいたい何にも考えてなさ過ぎなんだよ!」
それから深くため息をついた。
「……自業自得なんだけどさあ……」
咲歩がパタパタと動く音が聞こえてくる。足音さえ可愛らしく思える。
しばらくは戻れないけど、なんとか頻繁にコンタクトを取ろう。そうじゃないと忘れられかねない。あんまりやりすぎると逆に相手にされなくなるとか弟化する危険もあるけど、言ってられない。
咲歩ちゃんは全く結婚願望ないと思って油断してたら今回の件だもんなあ。まあ、出会いなんて動き出すとすぐだから。
……そういえば、今回の脚本に似たようなシーンがあったっけ。僕の役じゃないけど……。
そのまま董也は思考が脚本の中に入っていく。セリフとシーンが立ち上がって他のことが遮断された。と、階下からの扉が閉まるバタンという音で、ふっと我に返った。そしてまた軽いため息をついた。
わかりはするんだよ、何となく。僕じゃ嫌だと、特に今の僕じゃ嫌だと思うのはね。昔からこんなだけど、今はもっとこんなだし。こんな仕事でいつまで食えるのかもわからないし。わからなくもないんだけどさ。
……でも、僕には咲歩ちゃんが必要だ。咲歩ちゃんが僕を必要でなくても。彼女のあの、僕を見る視線が欲しい。僕が演り続けるためにも、いるんだ。
あーあ、そばにいてくれたら、めちゃくちゃ大事にするんだけどなあ。僕は咲歩ちゃんを幸せにしてあげられないのかもしれないけれど、でも、咲歩ちゃんは僕を幸せにするよ。だから、そばにいてよ。
「ねえ、咲歩ちゃん」
董也はベットに座ったまま上をむいて声を張り上げた。木造の静かな家は声をよく通す。
「なにー?」
下から小さいながらも咲歩の声が戻ってきた。
「結婚しよー?」
「寝ぼけてるの?」
躊躇なく戻ってきた答えに董也は一人笑った。
まあいいや、今はそれで。正直言って今はあまり時間もない。今年はしっかりした足跡を残したいし、仕事がしたいし、それ以外したくない。それで上手くいく保証はもちろんないんだけど、でもまだ、数年は集中したい。その間なんとか一人でフラフラしててくれないかな、咲歩ちゃん。まあ、いざとなれば相手が誰であろうと奪い返すつもりだけど、傷つけちゃうし手間だし嫌なんだよね。
そういう意味では、咲歩ちゃんにとって今回は普通に破局するより辛かっただろうけど、僕にとってはむしろ良かったのか?
失恋してメンタル弱って慰めてくれた人にすぐ行っちゃう女の子もいるけど、どっちかというと彼女はガチガチに鎧作って寄せ付けなくなるタイプだし、それに実は引きずる人だって知ってる。何? 相手に感謝?……いや、流石にない。どんなヤツか知らないけど、僕の中で殴られまくってるから、そいつ。
遠くで寺の鐘がなった。誰かが詣でて鳴らしたのだろう。年末年始は世の中が願い事で一杯だ。僕も例に漏れずだ。毎年、初詣に行っては咲歩ちゃんと結ばれるように祈ってる。だから、きっと、そう、いつか叶うだろう。うん、きっと、絶対。彼女は僕の最後の願いだから。
でもとりあえずは咲歩ちゃんが毎日、できるだけ笑っていられますように。
あ、そういえば昨日、神社にお参りに行って咲歩ちゃんにもお守り買ってきたんだった。忘れるところだった。
「咲歩ちゃん、あのさ、昨日……」
言いながら董也は立ち上がるとコーヒーと咲歩を求めて部屋を出た。
「この状態で出て歩けないでしょう……」
ボソッと言うと、そのまま暫くもたれたまま呼吸する。そして大きく一息すると、立てた膝に腕を置いて前髪をかき揚げながら頭を抱えた。
「ってさ、僕の自制心褒めてよね。そこだよ?! だいたい何にも考えてなさ過ぎなんだよ!」
それから深くため息をついた。
「……自業自得なんだけどさあ……」
咲歩がパタパタと動く音が聞こえてくる。足音さえ可愛らしく思える。
しばらくは戻れないけど、なんとか頻繁にコンタクトを取ろう。そうじゃないと忘れられかねない。あんまりやりすぎると逆に相手にされなくなるとか弟化する危険もあるけど、言ってられない。
咲歩ちゃんは全く結婚願望ないと思って油断してたら今回の件だもんなあ。まあ、出会いなんて動き出すとすぐだから。
……そういえば、今回の脚本に似たようなシーンがあったっけ。僕の役じゃないけど……。
そのまま董也は思考が脚本の中に入っていく。セリフとシーンが立ち上がって他のことが遮断された。と、階下からの扉が閉まるバタンという音で、ふっと我に返った。そしてまた軽いため息をついた。
わかりはするんだよ、何となく。僕じゃ嫌だと、特に今の僕じゃ嫌だと思うのはね。昔からこんなだけど、今はもっとこんなだし。こんな仕事でいつまで食えるのかもわからないし。わからなくもないんだけどさ。
……でも、僕には咲歩ちゃんが必要だ。咲歩ちゃんが僕を必要でなくても。彼女のあの、僕を見る視線が欲しい。僕が演り続けるためにも、いるんだ。
あーあ、そばにいてくれたら、めちゃくちゃ大事にするんだけどなあ。僕は咲歩ちゃんを幸せにしてあげられないのかもしれないけれど、でも、咲歩ちゃんは僕を幸せにするよ。だから、そばにいてよ。
「ねえ、咲歩ちゃん」
董也はベットに座ったまま上をむいて声を張り上げた。木造の静かな家は声をよく通す。
「なにー?」
下から小さいながらも咲歩の声が戻ってきた。
「結婚しよー?」
「寝ぼけてるの?」
躊躇なく戻ってきた答えに董也は一人笑った。
まあいいや、今はそれで。正直言って今はあまり時間もない。今年はしっかりした足跡を残したいし、仕事がしたいし、それ以外したくない。それで上手くいく保証はもちろんないんだけど、でもまだ、数年は集中したい。その間なんとか一人でフラフラしててくれないかな、咲歩ちゃん。まあ、いざとなれば相手が誰であろうと奪い返すつもりだけど、傷つけちゃうし手間だし嫌なんだよね。
そういう意味では、咲歩ちゃんにとって今回は普通に破局するより辛かっただろうけど、僕にとってはむしろ良かったのか?
失恋してメンタル弱って慰めてくれた人にすぐ行っちゃう女の子もいるけど、どっちかというと彼女はガチガチに鎧作って寄せ付けなくなるタイプだし、それに実は引きずる人だって知ってる。何? 相手に感謝?……いや、流石にない。どんなヤツか知らないけど、僕の中で殴られまくってるから、そいつ。
遠くで寺の鐘がなった。誰かが詣でて鳴らしたのだろう。年末年始は世の中が願い事で一杯だ。僕も例に漏れずだ。毎年、初詣に行っては咲歩ちゃんと結ばれるように祈ってる。だから、きっと、そう、いつか叶うだろう。うん、きっと、絶対。彼女は僕の最後の願いだから。
でもとりあえずは咲歩ちゃんが毎日、できるだけ笑っていられますように。
あ、そういえば昨日、神社にお参りに行って咲歩ちゃんにもお守り買ってきたんだった。忘れるところだった。
「咲歩ちゃん、あのさ、昨日……」
言いながら董也は立ち上がるとコーヒーと咲歩を求めて部屋を出た。
10
あなたにおすすめの小説
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
隣人の幼馴染にご飯を作るのは今日で終わり
鳥花風星
恋愛
高校二年生のひよりは、隣の家に住む幼馴染の高校三年生の蒼に片思いをしていた。蒼の両親が海外出張でいないため、ひよりは蒼のために毎日ご飯を作りに来ている。
でも、蒼とひよりにはもう一人、みさ姉という大学生の幼馴染がいた。蒼が好きなのはみさ姉だと思い、身を引くためにひよりはもうご飯を作りにこないと伝えるが……。
大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話
家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。
高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。
全く勝ち目がないこの恋。
潔く諦めることにした。
迷子を助けたら生徒会長の婚約者兼女の子のパパになったけど別れたはずの彼女もなぜか近づいてくる
九戸政景
恋愛
新年に初詣に来た父川冬矢は、迷子になっていた頼母木茉莉を助け、従姉妹の田母神真夏と知り合う。その後、真夏と再会した冬矢は真夏の婚約者兼茉莉の父親になってほしいと頼まれる。
※こちらは、カクヨムやエブリスタでも公開している作品です。
Emerald
藍沢咲良
恋愛
教師という仕事に嫌気が差した結城美咲(ゆうき みさき)は、叔母の住む自然豊かな郊外で時々アルバイトをして生活していた。
叔母の勧めで再び教員業に戻ってみようと人材バンクに登録すると、すぐに話が来る。
自分にとっては完全に新しい場所。
しかし仕事は一度投げ出した教員業。嫌だと言っても他に出来る仕事は無い。
仕方無しに仕事復帰をする美咲。仕事帰りにカフェに寄るとそこには…。
〜main cast〜
結城美咲(Yuki Misaki)
黒瀬 悠(Kurose Haruka)
※作中の地名、団体名は架空のものです。
※この作品はエブリスタ、小説家になろうでも連載されています。
※素敵な表紙をポリン先生に描いて頂きました。
ポリン先生の作品はこちら↓
https://manga.line.me/indies/product/detail?id=8911
https://www.comico.jp/challenge/comic/33031
幼馴染の許嫁
山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。
彼は、私の許嫁だ。
___あの日までは
その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった
連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった
連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった
女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース
誰が見ても、愛らしいと思う子だった。
それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡
どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服
どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう
「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」
可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる
「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」
例のってことは、前から私のことを話していたのか。
それだけでも、ショックだった。
その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした
「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」
頭を殴られた感覚だった。
いや、それ以上だったかもしれない。
「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」
受け入れたくない。
けど、これが連の本心なんだ。
受け入れるしかない
一つだけ、わかったことがある
私は、連に
「許嫁、やめますっ」
選ばれなかったんだ…
八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる