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第一章
3.
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私は必死に男の後についていった。とにかく歩き続けることだけに集中した。
たまに視線を上げて、男の背を確認する。
彼は相変わらず軽い足取りだった。そればかりか楽しそうでさえあった。歩くの好きなんだ……って言うのが疲れ切った私の感想。
そいつが「そろそろ休むか」と明るい声で言った頃には、太陽は空の一番高いところを通り過ぎていた。
「やっと……」
つい、本音が声にでる。
私は腰掛けるのに良さそうな木の根元を見つけると、そこにへたり込んだ。
「疲れたか?」
「……」
「まだまだ、だからな」
ため息をつく私に、大きな木の実をくり抜いて水筒にしたものが渡された。
早速飲むと、さわやかな香りとほんのり甘い液体が口の中に広がった。ハーブで香りをつけて、たぶん、ハチミツが少し入っている。美味しくて疲れた体に染み渡るようで、ごくごく飲みたくなってしまう。
「あんまり飲み過ぎるなよ」
そう言う彼は革製の入れ物から水を飲んでいた。あれ、水筒が違うんだ、となんとなくぼんやり見ていると言われた。
「こっちはただの水だ。変えるか?」
「いえ、いいです」
私は慌てて答えた。
荷物は全部、彼が持っていた。逃亡防止かな?ともちらっと思ったけど、たぶん、私の負担を軽くするためだ。
続けて朝と同じ食事が出されて、黙って食べる。疲れたせいか、食欲が落ちている。
「疲れてるな」
「……」
「まあ、そうだよな。お姫様だもんな」
あら、知っていたのね、と思ったが声に出すのが面倒。彼は少し休憩時間をとる、と言った。
私は食べ終わるとふくらはぎを揉んでみた。少しは楽にならないかな。
「痛むのか?」
「凄く痛いってほどではないけれど……」
「辛くなったらすぐ言えよ」
いや、少なくとも精神的にはもう辛いですが?
「無理すると後々大変だからな、歩けなくなってからだと遅い」
いや、もう結構、無理してますが?
黒男はこちらの心の声が聞こえたかのように続けた。どこか笑いを含んだ声で。
「もう、十分無理してると言いたそうな顔してるな」
「……ねえ、あなた」
「あなたは、止めろ。気持ち悪い」
「……なんて呼べば?」
「カルでいい」
「ではカル、さっきも言いましたけど、まず先に、その言葉使いなんとかならないかしら? いくら王の従兄弟とはいえ、あまりじゃなくて?」
そうなのだ、この男、従兄弟らしい。そう言ってヴィデル陛下が謝っていた。なんで陛下が謝って、コイツがなんとも思わないのかわからない。
「プライドの高いお姫様だな」
普通だと思う。
「馬鹿にされる事を楽しむ人はいないと思うわ」
「別に馬鹿にはしてない」
「そうなの?」
「ああ」
「じゃあ、ただ単に失礼なんだ」
「かもな。でも、あんたのとこの王様も似たようなもんだろ? 」
だから余計にイヤなんだけど。
「兄を……我が国の王のこと知ってるの?」
「帝都で一緒だった。ヴィデル王もな」
「ああ……」
彼が口にしたのは、この国の南にある広大なドーテリア帝国のことだ。南海に面したこの広大な帝国とその周りの小国でこの大陸の大半は成り立っている。
たまに視線を上げて、男の背を確認する。
彼は相変わらず軽い足取りだった。そればかりか楽しそうでさえあった。歩くの好きなんだ……って言うのが疲れ切った私の感想。
そいつが「そろそろ休むか」と明るい声で言った頃には、太陽は空の一番高いところを通り過ぎていた。
「やっと……」
つい、本音が声にでる。
私は腰掛けるのに良さそうな木の根元を見つけると、そこにへたり込んだ。
「疲れたか?」
「……」
「まだまだ、だからな」
ため息をつく私に、大きな木の実をくり抜いて水筒にしたものが渡された。
早速飲むと、さわやかな香りとほんのり甘い液体が口の中に広がった。ハーブで香りをつけて、たぶん、ハチミツが少し入っている。美味しくて疲れた体に染み渡るようで、ごくごく飲みたくなってしまう。
「あんまり飲み過ぎるなよ」
そう言う彼は革製の入れ物から水を飲んでいた。あれ、水筒が違うんだ、となんとなくぼんやり見ていると言われた。
「こっちはただの水だ。変えるか?」
「いえ、いいです」
私は慌てて答えた。
荷物は全部、彼が持っていた。逃亡防止かな?ともちらっと思ったけど、たぶん、私の負担を軽くするためだ。
続けて朝と同じ食事が出されて、黙って食べる。疲れたせいか、食欲が落ちている。
「疲れてるな」
「……」
「まあ、そうだよな。お姫様だもんな」
あら、知っていたのね、と思ったが声に出すのが面倒。彼は少し休憩時間をとる、と言った。
私は食べ終わるとふくらはぎを揉んでみた。少しは楽にならないかな。
「痛むのか?」
「凄く痛いってほどではないけれど……」
「辛くなったらすぐ言えよ」
いや、少なくとも精神的にはもう辛いですが?
「無理すると後々大変だからな、歩けなくなってからだと遅い」
いや、もう結構、無理してますが?
黒男はこちらの心の声が聞こえたかのように続けた。どこか笑いを含んだ声で。
「もう、十分無理してると言いたそうな顔してるな」
「……ねえ、あなた」
「あなたは、止めろ。気持ち悪い」
「……なんて呼べば?」
「カルでいい」
「ではカル、さっきも言いましたけど、まず先に、その言葉使いなんとかならないかしら? いくら王の従兄弟とはいえ、あまりじゃなくて?」
そうなのだ、この男、従兄弟らしい。そう言ってヴィデル陛下が謝っていた。なんで陛下が謝って、コイツがなんとも思わないのかわからない。
「プライドの高いお姫様だな」
普通だと思う。
「馬鹿にされる事を楽しむ人はいないと思うわ」
「別に馬鹿にはしてない」
「そうなの?」
「ああ」
「じゃあ、ただ単に失礼なんだ」
「かもな。でも、あんたのとこの王様も似たようなもんだろ? 」
だから余計にイヤなんだけど。
「兄を……我が国の王のこと知ってるの?」
「帝都で一緒だった。ヴィデル王もな」
「ああ……」
彼が口にしたのは、この国の南にある広大なドーテリア帝国のことだ。南海に面したこの広大な帝国とその周りの小国でこの大陸の大半は成り立っている。
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