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第ニ章
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なんなのか問う間もなく、いきなり抱きしめられた。最初の時ほどの動揺はない。でも、何でそうなるかは全くわからない。
え? いちいちわからないんですけど! 何なの⁈
混乱しているとカルが離れた。というか、ひき剥がされて、尻餅をついていた。ヴィルマが首根っこ掴んで引っ張ったのだ。
「いってーな、この、馬鹿力女!」
「姫様に対しての無礼な行いは、例え貴方でも許しません」
ヴィルマは私を守るように立つときっぱり言う。
そうだよ、その通りです。彼は態度を少し……。
と、カルはため息をついて、あさっての方角を見た。そしてまたため息を小さくついた。
あれ、なんだか様子がおかしい、気がする。ため息なんて。怪我したとかそんな事でもないだろうし、どうしたんだろう。
私はカルに近寄って、まだ座り込んでいる彼の横に跪いた。
「どうかしたの?大丈夫?」
カルは再び私をじっと見た。それから私ではなくヴィルマに向かって言った。
「こいつ、ちょい無防備過ぎない? 大丈夫か?」
「ちょっと、何よ。人が心配したのに! だいたいこいつって言い方……」
私はカルに文句を言いながら、同意を求めてヴィルマを見た。だけど彼女は額に手を当てて小さくため息をついていた。その仕草は私の期待に反してカルに同意する事を示していた。
「え、どうして。何で⁉︎」
どうしてよ、私が何をしたと……。
そんな私の言葉を無視してカルが立ち上がる。
「さて、遊んでないで行くか」
遊んでたの……?
むっとしたが、彼はそんな私に気を払うわけでもなく、再びヴィルマに言う。
「馬、交換するぞ。ここまで連れてきてくれてありがとうな」
そして、ヴィルマの乗っていた馬に近づくと鼻先を優しく撫でた。だが、馬はいななくと鼻面を思いっきり振った。
「怒るなよ、お前を連れて行けない時もあるんだって。悪かったってば」
カルは緑の瞳を細めて笑いながら話しかけた。凄く楽しそうに。私は自分が、まだ道半ばなのにずっとこうしていたいな、と感じていることに気づく。
「姫様はこちらへ」
ヴィルマが今しがたカルが乗ってきたほうの馬に即した。私がそれに従おうとしたらカルが引き留めた。
え? いちいちわからないんですけど! 何なの⁈
混乱しているとカルが離れた。というか、ひき剥がされて、尻餅をついていた。ヴィルマが首根っこ掴んで引っ張ったのだ。
「いってーな、この、馬鹿力女!」
「姫様に対しての無礼な行いは、例え貴方でも許しません」
ヴィルマは私を守るように立つときっぱり言う。
そうだよ、その通りです。彼は態度を少し……。
と、カルはため息をついて、あさっての方角を見た。そしてまたため息を小さくついた。
あれ、なんだか様子がおかしい、気がする。ため息なんて。怪我したとかそんな事でもないだろうし、どうしたんだろう。
私はカルに近寄って、まだ座り込んでいる彼の横に跪いた。
「どうかしたの?大丈夫?」
カルは再び私をじっと見た。それから私ではなくヴィルマに向かって言った。
「こいつ、ちょい無防備過ぎない? 大丈夫か?」
「ちょっと、何よ。人が心配したのに! だいたいこいつって言い方……」
私はカルに文句を言いながら、同意を求めてヴィルマを見た。だけど彼女は額に手を当てて小さくため息をついていた。その仕草は私の期待に反してカルに同意する事を示していた。
「え、どうして。何で⁉︎」
どうしてよ、私が何をしたと……。
そんな私の言葉を無視してカルが立ち上がる。
「さて、遊んでないで行くか」
遊んでたの……?
むっとしたが、彼はそんな私に気を払うわけでもなく、再びヴィルマに言う。
「馬、交換するぞ。ここまで連れてきてくれてありがとうな」
そして、ヴィルマの乗っていた馬に近づくと鼻先を優しく撫でた。だが、馬はいななくと鼻面を思いっきり振った。
「怒るなよ、お前を連れて行けない時もあるんだって。悪かったってば」
カルは緑の瞳を細めて笑いながら話しかけた。凄く楽しそうに。私は自分が、まだ道半ばなのにずっとこうしていたいな、と感じていることに気づく。
「姫様はこちらへ」
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