仮面の王と風吹く国の姫君

藤野ひま

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第ニ章

10.

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「あ、お前はこっち」
「え?なんで?」
「俺の馬の方が力あるから」
「もしかしてあなたと二人乗り?」
「それ以外どうするんだよ。また歩くか、一人で。まさか乗れないのか?」

「……よろしくお願いします」
 って言うしかないじゃない。

 カルは、よし、とか言って手綱を握って私に乗るように指示した。彼の馬は確かにもう一頭より大きくて力強く見える。とりあえず私は馬によろしくね、と言って騎乗した。

「馬に乗れないって言われたらどうしようかと思ったぞ」

 カルが言いながら背後にまたがって手綱を握った。当たり前だけど体が密着する。居心地が悪いなあ、ともぞもぞしていたら、彼の左腕が背後から抱きしめるように腰にまわされて危うく声が出そうになって、思わず手で口を覆ってしまった。

「行くぞ」

 後ろの人は冷静な声で言うと馬を走らせた。私たちの後方にヴィルマがついて来る。すぐに小道に行き当たった。カルは片手なのに手綱捌きに迷いがなく、そして彼の馬はそれに力強く従順に応えていた。賢い子ね。

 そんなわけで乗り心地は思ったよりずっとよかった。ただ、右脇腹に添えられた左手が気になって仕方ないだけで。

「う、馬が手に入ってよかったわね。予定より早く着きそうじゃない?」

 緊張が伝わらない事を願って、とりあえず話しかけてみる。

「ああ……」

 カルはたいして興味もないといいたげな力のない相槌をした。

 どうした?

 私は彼を見る事は出来なかったが、どことなく、考え事をしている顔が浮かんできた。

「どうかした?」

 私の問いに被るようにカルが言葉を発した。

「もし、捕まりそうになったら下手に抵抗せずに捕まっとけよ。そうすれば死にはしない、多分」
「え?」

 その言葉に納得できない。最初と話が違うんじゃないかな。

「どういうこと?私が死んだ方が好都合って話じゃなかった?」
「そうだと思ってた。ていうか、俺ならそうする」

 ……もしかしてこの人、好戦的?

「だが違うらしい。殺すより手に入れる事を目論んでいるみたいだ」

 それ、いったい誰情報よ。

「待って。凄く今更だけど、私たちの敵はそもそも誰なの?」

 カルは僅かな間ではあったが、確実に言い淀んだ。

「……元王太子だ」

 別にさして驚きはしない。むしろ他にいたらびっくりする。ただ……。

「ご本人が関わっていらっしゃるの?」
「わからない」

 にべもなく言う。
 
 
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