49 / 89
第ニ章
11.
しおりを挟む
「これさ」
カルはそう言いながらマントを脱いだ。びっくりする私にそれを預けると、そのまま上衣を脱ぎだした。
ええっ。今度は何??
視線をおよがせながら固まって立っていると、マントと交換に今度はずっしり重いものが……帷子が渡された。
「頑丈だから着てろよ。場合によってはその辺の騎士より役に立つぜ」
「え、そうなの? そう……」
き、着るの? え? 今? この人の目の前で?え? 服脱いで?
カルはさっさと服を着直してマントを再び羽織ると、私のマントの留め金に手を伸ばして外した。
え、いや、わ、え、ちょっと待って、わああ!!!
目が回りそう。何が起こっているの、さっきから。
彼は私からマントを外す。雨と冷たい風が直接体に当たる。と、止んだ。カルがマントを私の頭の上に広げて掲げていてくれて、それが雨を塞いでいた。
「このマントも本当に優秀だよな。量産できりゃあいいのに。あ、その帷子、あんたには大きいからそのまま上から被っちゃえばいいぞ」
言われて上衣の上から半ば無理やり被ってみた。こんなもの初めて身につけた。重い。そしてほんのり温かい。これはカルの体温だ。そう気づいた時なんだか恥ずかしくって顔が赤くなるのが自分でわかった。
もう嫌。なんなの。
そんな私の気持ちなんてまるで慮られることもなく、乱暴なくらいのそっけなさで再びマントを被せられた。私は慌てて自分でマントを着直しながら誤魔化すように言った。
「あなたのマントも同じ仕様なの?ユニハの?」
「ああ。あいつしか作れないんだ、今となっては。ちゃんと被っとけよ、体温とられないようにな」
そう言って私のフードを被せ直してくれる。この人もしかして意外に世話焼きなの? どうでもいいけど無闇に触るな! 屈託ないにも程がある! ああ、何でこんなに苛つかなくちゃいけないの!
「ヴィルマを見つけたらここから離脱する。もう時間稼ぎも要らないしな。前にも言ったが、もし俺らより先に敵に見つかったら変に抵抗せずに名を名乗れ。その方が安全だ。むしろ村娘なんかと誤解されるほうがやばい」
「わかった。そうするわ」
「ちゃんと堂々としろよ。あ、名乗るって素直に名前だけ言うなよ。どこの誰かをつけてな」
この人、本当に私の事を馬鹿な娘と思ってるわね。わかっているに決まってるでしょう。そもそもカル自身が私の名前を覚えていないくらいでしょうに。必要なのは、私の身分。
「わかってます。ちゃんとラヴェイラ国王の妹姫だって名乗るから」
「それだけじゃ足りないな」
「え?」
「この国の国王ヴィデル2世の妃になる者だと言わないと」
あ、そうよね。
「わかったわ、そう言うわ。国王の結婚相手だと……」
そこまで口にして言葉が自然と止まり、目を伏せた。何? この胸が押しつぶされるような感覚は。
その時、空に稲光が走った。反射的に顔を上げると、カルと目があった。また空が光る。
不穏な暗さと光の中、彼の変わらぬ明るい緑の瞳はどことなく楽しそうに、そして優しさを湛えて私を見ていた。
カルはそう言いながらマントを脱いだ。びっくりする私にそれを預けると、そのまま上衣を脱ぎだした。
ええっ。今度は何??
視線をおよがせながら固まって立っていると、マントと交換に今度はずっしり重いものが……帷子が渡された。
「頑丈だから着てろよ。場合によってはその辺の騎士より役に立つぜ」
「え、そうなの? そう……」
き、着るの? え? 今? この人の目の前で?え? 服脱いで?
カルはさっさと服を着直してマントを再び羽織ると、私のマントの留め金に手を伸ばして外した。
え、いや、わ、え、ちょっと待って、わああ!!!
目が回りそう。何が起こっているの、さっきから。
彼は私からマントを外す。雨と冷たい風が直接体に当たる。と、止んだ。カルがマントを私の頭の上に広げて掲げていてくれて、それが雨を塞いでいた。
「このマントも本当に優秀だよな。量産できりゃあいいのに。あ、その帷子、あんたには大きいからそのまま上から被っちゃえばいいぞ」
言われて上衣の上から半ば無理やり被ってみた。こんなもの初めて身につけた。重い。そしてほんのり温かい。これはカルの体温だ。そう気づいた時なんだか恥ずかしくって顔が赤くなるのが自分でわかった。
もう嫌。なんなの。
そんな私の気持ちなんてまるで慮られることもなく、乱暴なくらいのそっけなさで再びマントを被せられた。私は慌てて自分でマントを着直しながら誤魔化すように言った。
「あなたのマントも同じ仕様なの?ユニハの?」
「ああ。あいつしか作れないんだ、今となっては。ちゃんと被っとけよ、体温とられないようにな」
そう言って私のフードを被せ直してくれる。この人もしかして意外に世話焼きなの? どうでもいいけど無闇に触るな! 屈託ないにも程がある! ああ、何でこんなに苛つかなくちゃいけないの!
「ヴィルマを見つけたらここから離脱する。もう時間稼ぎも要らないしな。前にも言ったが、もし俺らより先に敵に見つかったら変に抵抗せずに名を名乗れ。その方が安全だ。むしろ村娘なんかと誤解されるほうがやばい」
「わかった。そうするわ」
「ちゃんと堂々としろよ。あ、名乗るって素直に名前だけ言うなよ。どこの誰かをつけてな」
この人、本当に私の事を馬鹿な娘と思ってるわね。わかっているに決まってるでしょう。そもそもカル自身が私の名前を覚えていないくらいでしょうに。必要なのは、私の身分。
「わかってます。ちゃんとラヴェイラ国王の妹姫だって名乗るから」
「それだけじゃ足りないな」
「え?」
「この国の国王ヴィデル2世の妃になる者だと言わないと」
あ、そうよね。
「わかったわ、そう言うわ。国王の結婚相手だと……」
そこまで口にして言葉が自然と止まり、目を伏せた。何? この胸が押しつぶされるような感覚は。
その時、空に稲光が走った。反射的に顔を上げると、カルと目があった。また空が光る。
不穏な暗さと光の中、彼の変わらぬ明るい緑の瞳はどことなく楽しそうに、そして優しさを湛えて私を見ていた。
6
あなたにおすすめの小説
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
ひめさまはおうちにかえりたい
あかね
ファンタジー
政略結婚と言えど、これはない。帰ろう。とヴァージニアは決めた。故郷の兄に気に入らなかったら潰して帰ってこいと言われ嫁いだお姫様が、王冠を手にするまでのお話。(おうちにかえりたい編)
王冠を手に入れたあとは、魔王退治!? 因縁の女神を殴るための策とは。(聖女と魔王と魔女編)
平和な女王様生活にやってきた手紙。いまさら、迎えに来たといわれても……。お帰りはあちらです、では済まないので撃退します(幼馴染襲来編)
騎士団の繕い係
あかね
ファンタジー
クレアは城のお針子だ。そこそこ腕はあると自負しているが、ある日やらかしてしまった。その結果の罰則として針子部屋を出て色々なところの繕い物をすることになった。あちこちをめぐって最終的に行きついたのは騎士団。花形を譲って久しいが消えることもないもの。クレアはそこで繕い物をしている人に出会うのだが。
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシェリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
【書籍化決定】愛など初めからありませんが。
ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。
お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。
「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」
「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」
「……何を言っている?」
仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに?
✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……
タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。
【コミカライズ決定】愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
【コミカライズ決定の情報が解禁されました】
※レーベル名、漫画家様はのちほどお知らせいたします。
※配信後は引き下げとなりますので、ご注意くださいませ。
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる