仮面の王と風吹く国の姫君

藤野ひま

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第ニ章

11.

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「これさ」

 カルはそう言いながらマントを脱いだ。びっくりする私にそれを預けると、そのまま上衣を脱ぎだした。

 ええっ。今度は何??

 視線をおよがせながら固まって立っていると、マントと交換に今度はずっしり重いものが……帷子が渡された。

「頑丈だから着てろよ。場合によってはその辺の騎士より役に立つぜ」
「え、そうなの? そう……」

 き、着るの? え? 今? この人の目の前で?え? 服脱いで?

 カルはさっさと服を着直してマントを再び羽織ると、私のマントの留め金に手を伸ばして外した。

 え、いや、わ、え、ちょっと待って、わああ!!!

 目が回りそう。何が起こっているの、さっきから。

 彼は私からマントを外す。雨と冷たい風が直接体に当たる。と、止んだ。カルがマントを私の頭の上に広げて掲げていてくれて、それが雨を塞いでいた。

「このマントも本当に優秀だよな。量産できりゃあいいのに。あ、その帷子、あんたには大きいからそのまま上から被っちゃえばいいぞ」

 言われて上衣の上から半ば無理やり被ってみた。こんなもの初めて身につけた。重い。そしてほんのり温かい。これはカルの体温だ。そう気づいた時なんだか恥ずかしくって顔が赤くなるのが自分でわかった。

 もう嫌。なんなの。

 そんな私の気持ちなんてまるで慮られることもなく、乱暴なくらいのそっけなさで再びマントを被せられた。私は慌てて自分でマントを着直しながら誤魔化すように言った。

「あなたのマントも同じ仕様なの?ユニハの?」
「ああ。あいつしか作れないんだ、今となっては。ちゃんと被っとけよ、体温とられないようにな」

 そう言って私のフードを被せ直してくれる。この人もしかして意外に世話焼きなの? どうでもいいけど無闇に触るな! 屈託ないにも程がある! ああ、何でこんなに苛つかなくちゃいけないの!

「ヴィルマを見つけたらここから離脱する。もう時間稼ぎも要らないしな。前にも言ったが、もし俺らより先に敵に見つかったら変に抵抗せずに名を名乗れ。その方が安全だ。むしろ村娘なんかと誤解されるほうがやばい」
「わかった。そうするわ」
「ちゃんと堂々としろよ。あ、名乗るって素直に名前だけ言うなよ。どこの誰かをつけてな」

 この人、本当に私の事を馬鹿な娘と思ってるわね。わかっているに決まってるでしょう。そもそもカル自身が私の名前を覚えていないくらいでしょうに。必要なのは、私の身分。

「わかってます。ちゃんとラヴェイラ国王の妹姫だって名乗るから」
「それだけじゃ足りないな」
「え?」
「この国の国王ヴィデル2世の妃になる者だと言わないと」

 あ、そうよね。

「わかったわ、そう言うわ。国王の結婚相手だと……」

 そこまで口にして言葉が自然と止まり、目を伏せた。何? この胸が押しつぶされるような感覚は。

 その時、空に稲光が走った。反射的に顔を上げると、カルと目があった。また空が光る。
 不穏な暗さと光の中、彼の変わらぬ明るい緑の瞳はどことなく楽しそうに、そして優しさを湛えて私を見ていた。

 
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