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回復術士を仲間にしよう

12話

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 クレアは懸命に剣を振る。しかし、数が多すぎた為次第にクリスタを守るのがやっとになってしまった。
「クレアさん結構丈夫なのですね」
ボコボコにされているクレアの後ろでクリスタが楽しそうに言う。
「こいつ、自分には来ないからと……! クリスタ、貴様回復術士なのだろ? 私を回復してくれないか? そろそろ限界になりそうだ……」
「いえ、私まだ免許を取得していませんので」
「だが回復魔法は使えるのだろう? 頼む! 早く使ってくれ!!」
「あなた、クレア・バンガードさんですよね? 仮にもバンガード家の人ですし、もっとお強い方だと思っておりましたのに」
クリスタはクレアを挑発する。
「なんだと?」
「まさかこれくらいで限界だなんて……嘆かわしい」
「や、やってやろうじゃねぇかこのヤロォ!!!!!」
クレアはまんまと挑発に乗り、マジ切れした。
「こなくそ! こなくそ! こなくそ!!」
明らかに剣を振るペースが上がり、みるみる触手を切り伏せていく。そして、
「これで最後じゃい!!」
最後の触手を切り殺した。
「お見事です」
クリスタは拍手で褒め称えた。
「ハァ……ハァ……貴様、先ほどの言葉取り消せ」
「クレアさんて怒ると口調が汚くなるのですね。それよりも、触手をすべて倒せてよかったじゃないですか」
「いや、まあそれはよかったのだが。そうではなくだな」
「一件落着ということで。さ、お望み通り回復魔法をかけてあげますよ」
クリスタは詠唱を始める。
「もっと早くやってほしかったものだ」
「ヒール」
クレアは淡い光に包まれ、みるみる打撲跡や内出血が収まっていく。
「これはすごいな。だがやはりもっと早くかけて」
「はい、終わりました」
クリスタは話をさえぎるように言った。
「なぜ私はこんなやつを守っていたのだ……」
クレアはクリスタのあまりの態度に頭を抱える。
「あなたってからかうと面白いですね」
「うるさいぞ!!」
二人は言い合いをしながらさらに詩音たちの場所から距離をとるため歩き出した。

 そのころ、詩音はもう一度フェイロンに攻撃を仕掛けようと間合いを見極めていた。
「何度やっても無駄ですよ」
「それはどうかな!」
詩音が間合いを詰める。そしてまた突きを繰り出す。先ほどと違うのはその突きの速さが上がっていた。
しかし、同じように拳がからめとられてしまう。詩音は更に踏み出し拳を押し込む。フェイロンは詩音の踏み出した威力を利用し受流そうとする。
「顔面ががら空きだぜ」
詩音は踏み出した足が着地すると同時に反対の拳を繰り出す。
「島原流、閃拳せんけん
両足で踏ん張り、拳を放つ。足、腰、肩、腕の順に力を伝え、相手に向かい腕を伸ばしていく。そして相手まで5センチもないくらいに近づいたところで、異変が起きた。魔法が発動したのだ。拳がさらに加する。まるで時が止まったかのようだった。なぜなら気が付けばフェイロンが後方に吹っ飛ばされていたからだ。おそらくはフェイロン自身、顔面に直撃したパンチは見えなかっただろう。
「グォア……」
フェイロンは殴られた頬をかばいながら立ち上がる。周りに何本か落ちている歯が先ほどのパンチの威力を物語っている。
「あなた、殴るとき魔法を使用しましたね? でなければあのパンチの速さは説明できない」
「それは分かんねぇが、これで強いって証明できたろ」
「いいえ、まだです。私の技は魔法があってこそ。マンティス・フィストの本領をお見せしましょう!!」
そういうとフェイロンは構え直した。フェイロンの周りに風が集まっていた。
「キエァ!!」
フェイロンは詩音にラッシュを繰り出した。変則的な動きで詩音を翻弄した。そしてラッシュの最後の一撃を決めたとき、フェイロンの両腕から竜巻が出現した。
「完成しました! ヘルズ・サイクロン!!」
「なに!?」
巨大な竜巻がフェイロンから放出された。それもラッシュ直後故に、詩音の腹部の至近距離からの放出である。詩音もこの至近距離では躱すことは出来なかった。
「ウオアッ!!!」
詩音は渦に巻き込まれながら後方に吹き飛ばされた。竜巻は落ちているがれきや砂などを一緒に巻き込んでいたため、それらが詩音に突き刺さった。
「なるほど、さっきのラッシュは魔法の予備動作ってことか。結構厄介だ」
詩音は体制を立て直し、構えた。
「あなたを殺す準備が完全にできました。これであなたを切り刻んであげましょう!!」
フェイロンの両手にはかまいたちの刃が握られており、本当に蟷螂の鎌のようであった。
「蟷螂人間みたいだな、お前。だが、蟷螂の真似ばっかりやってても俺には勝てないぜ!!」
詩音はもう一度距離を詰めた。それに呼応する様にフェイロンも走り出した。
「キエィ!!!」
フェイロンは両手のかまいたちを振り下ろした。詩音は振り下ろされる瞬間にフェイロンの右側面に移動した。そのまま顔面に後方回し蹴りを繰り出した。蹴りはクリーンヒットした。が、フェイロンは怯まずかまいたちを振る。詩音は回し蹴りの体制から少し右に飛び、寸でのところで回避する。
「掴んでくる技が無くなればお前は敵じゃねえ!」
詩音は的確に打撃を当てる。フェイロンは懸命にラッシュを繰り出すが、躱すか受け止められてしまっている。
「これは勝てる!」
詩音は勝利を確信した。しかし、
「何かお忘れでは?」
フェイロンのラッシュが突然止まった。
「エターナル・ホワールウウィンド!」
詩音に無数の真空の刃が降り注ぐ。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
詩音は避けようと試みた。が、よけきれず切り刻まれていく。十数秒の後、魔法は止まった。
「終わったか」
詩音は全身傷だらけになっていた。しかし、どれも筋肉までは届いておらず、皮膚を切るにとどまっていた。
「なぜです! なぜ粉微塵になっていなのですか!!」
フェイロンは思っていた効果を詩音に与えられていなかった。
「島原流、金剛の構えこんごうのかまえさ」
島原流、金剛の構え。それは日々の修行で鍛え上げた肉体を硬直させ、打撃どころか、刃も通さぬ鉄壁の体を作り出す構えだ。この技を習得するには並々ならぬ修行が必要だった。だがそれだけに島原流でも屈指の防御技で、一説によれば、火縄銃の銃弾すら通さなかったという。さて、そんな金剛の構えであるが、フェイロンの魔法も強力な物であり、本来ならば粉微塵にはならずとも致命傷は免れなかった。詩音が皮膚を切る程度で済んだのは、やはり技に魔力が反応したからだ。詩音の体を高質化魔法が覆い、守ったのだ。
「この技を使うことになるとは、やっぱ魔王軍の幹部ってだけはある」
「くっ……こうなれば更に上位の魔法を使うしかありませんね」
「そうこなくっちゃ。俺はいま自分の覚えてきた技を全力で振るえて楽しいんだ。これで終わりなんてつまんねぇからな」
「楽しいですか……そうですね。私も本気を出さなければならないこの状況を楽しんでしまっているようです。あなた、名前を聞いてもよろしいですか?」
「詩音だ」
「詩音さんですか。覚えましたよ。では詩音さんに頼みごとがあります」
フェイロンは今まで見たことのない構えを取り、言った。
「簡単に死なないでくださいね」

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