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第一章★
012:天才芹澤恭二のデビュー戦。
しおりを挟む――開戦から数分後
■大凶高校_上空
(芹澤 恭二)
俺達、攻撃組B班は上杉さんの指輪が変化してできた魔法の絨毯みたいなものに乗っている。
色々な武器があるんだなあ。皆に平等に武器は支給されている。だけど当たり外れもあることに今更ながら気づく。
上空を俺たちは移動し、大凶高校が眼下に見えてくる。爆発が起きていたり銃声も聞こえる。
だいたい20人ぐらいだろうか。夜空に浮かんでいて、下の様子がよく見える。
上杉さんとはずっと大凶高校で起きている戦闘を観察している。下ではまさに合戦のように多くの生徒が色々な場所で好き勝手に戦闘をしている。まじで戦争は起きていた。あの大凶高校のどこかで真も戦っているんだろうな。頼むから生き残ってくれよ。
夜風に前髪が揺れる。
月明かりがいつもより近く強く感じる。
俺達は絨毯の上で待機をする。少し暇だったので俺はB班メンバーを観察する。クラスメイトが1人いることにそこで初めて気づく。
植村 柚子という女の子だ。大人しく可愛らしい顔立ちをしている。ツインテールが特徴でそれがめちゃくちゃ似合っている。クラスでは沙也加と並んで男子生徒に人気。
植村は金色の革靴を履いている。
多分支給品だろうな。
周りを観察しながら俺は物思いにふけているとどうも集中力が切れてくる。欠伸が出そうになっていたそんな時だった。
周りがざわつく。
「………!!!!!!!」
目の前に不意に敵と思われる人物が現れたからだ。でかいハンマーを持っている。性別は男で肩まで伸びたさらさらの金髪とピアス。頬には大きな傷跡がある。そして、彼からは異様な雰囲気を感じる。俺達と同じ高校生のはずなのに。
「やあ。こんな場所で何をしてんだぃ」
同時にハンマーを振り上げた。
まずいと思い、俺は咄嗟に右手にに力を込める。右手が青白く発光すると同時に鉄球が2つ現れる。鎖が付いていてる。
「あぁああああァァァぁぁぁあっ!!!!」
ハンマーを振り下ろそうとしている敵に目掛けて俺は鉄球をコントロールする。
鎖でするコントロールが難しい。
「遅いな」
男は呟き、ハンマーで俺の放った鉄球を弾く。俺達の乗る魔法の絨毯に衝撃を与える。
「や、やばい!この魔法の絨毯はダメージに強くない!解除するぞ!」
上杉さんが叫び、生徒達に言うがどうしようもない。
「ははは、落ちろ!落ちろ!」
ハンマーを何度も魔法の絨毯に叩きつける。負荷がかかり過ぎたのか魔法の絨毯が音を立てて消えてしまう。
「……ぐっ!」
内臓が浮く感触がした。
ジェットコースターで落ちてる感覚だ。
夜空を俺ら約20名が落下していく。風が身体中を駆け巡り、真下にあった大凶高校がどんどん迫ってくる。やばい。対処の方法が全く浮かばないぞ。地面はどんどん近づいてくる。横で上杉さんも魔法の絨毯を創り出そうとしているがまだ発動できないみたいだ。皆がどうにかしようと焦っている中、クラスメイトの植村が大きな声で言う。
「う、ウチの能力なら、もしかしたら怪我なしに乗りきれるかもしれません!」
植村は金色の革靴を履いている。
その革靴がまるで夕日のような茜色の輝きを見せた。
あまりの幻想的な光景にやや目を奪われる。植村は身体が金色になり、いかにも固そうな身体になる。
けど、それって……
「ご、ごめんなさい!皆さんの身体まで硬質化させるのは無理みたいです!」
「――! 」
そう思った。
植村の言葉に全員の顔色が真っ青になる。
本人は助かるみたいだが俺らは助からない。
おいおい、どうするんだ?
もう見えてきている大凶高校の屋上まで30メートルくらいだぞ。
不意に俺の横顔に青白い光が当たる。
「上杉さん!?」
俺達の落ちるであろう屋上の少し上辺りにまたあの魔法の絨毯が浮かんでいた。
「間に合ったっぽいな」
――ボスッ…ボスッボスッ
上杉さんはそう呟き、俺らは魔法の絨毯に落下した。
他の生徒も無事にドスドスと音を立てて落ちてくる。
俺達はなんとか大凶高校の屋上に降り立つ。
上杉さんは魔法の絨毯を右手から消す。
「来るぞ!!」
上杉さんの声に全員が上を見上げる。
さっきのハンマー男がゆっくりと降りてきていた。
そして屋上に降り立ち、俺らに言う。
「よく、無事に降りれたな。褒めてやるよ」
男は笑っている。ハンマーをよいしょと持ち上げている。
なんだろう…。すごくわくわくしている自分がいる。俺は生唾を飲み込む。
こいつと戦ってみたい。
そんなことを俺は考えていた。
判断に悩んでいる上杉さんに言う。
「上杉さんここは俺が戦いたい」
「おいおい正気か!?」
「正気ですよ。ここは俺に任せてほしい」
「…まだこの戦争の勝手が分からない状況だ。集団で戦う方が安全だ。死ぬぞお前…」
「俺達は元々学校代表に奇襲をかけるために上空にいたんだろ? なら、俺がコイツの相手をして上杉さん達が任務遂行するほうがいい。こんなところで時間食ってる場合じゃないと思いますよ 」
「…行けるのか?お前に足止めする力はあるのか?」
「…ある」
俺は自信過剰なのだろうか。殺し合いをこれからするのに何故こんなに落ち着いているのだろう。俺はおかしいのだろうか。いずれにせよ戦うんだ。なら今、戦っちゃえば良い。俺は本当にそう思っていた。
「分かった…そうしよう」
きっと納得はいってないだろうし俺のことを変な奴に思っているだろう。自殺志願者と思われているかもしれない。でも、死ぬ奴はどうせ死ぬぜ。生き残るためには強引に己で切り開き何かを掴んでいかないといけない。
上杉さんは生徒皆を誘導し、屋上から出て行く。足音が遠ざかって行く。俺はハンマーを持ち上げている男と向き合う。その時、何故か俺は笑っていた。不思議な感情だった。
「さっきの鉄球ぶん投げてきたやつか。足止め役なんで物好きもいたもんだ。死にたがりやっすか?」
楽しそうにケラケラと笑う。
同時だった。一気に俺に向かって駆け出してくる。
俺は横に飛ぶ。ハンマーは俺のさっきまでいた場所のコンクリートを軽々と破壊する。
コンクリの破片が腕に当たる。
俺は手に力を込め、腕輪が青白く光る。
鎖のついた鉄球が姿を現す。
俺はハンマー男に鉄球を投げつけると奴はハンマーで弾き飛ばす。
簡単に防がれてしまう。
「俺はこの学校の生徒の一人ヒガシっす。ちなみに現実世界では走り屋やってんで以後お見知りおきを」
ヒガシは楽しそうにハンマーを持ち上げながら言う。いかにもな風貌をしている。金髪ピアス。この学校って噂通り相当ガラが悪いな。
俺は鉄球を鎖で引っ張り上げる。鎖を持ちながら振り下ろす。鉄球はやはりハンマーで塞がれてしまう。
同じような攻撃じゃダメだな。相手が圧倒的な力の差があり、目的は時間稼ぎ。
なら、戦い方を変えるしかない。相手の出方を見るか。
「ははは!!!武器はなかなかだが俺には全く通じないな」
ヒガシは跳躍し月を背に俺にハンマーを降り下ろしてくる。
俺は鉄球を鎖で手繰り寄せ、盾にしようとする。
「甘いんだよ。俺のハンマーはただのハンマーじゃない」
「…!! 」
予想外のことが起きる。
ハンマーは俺の鉄球に塞がれることなく通り抜け、俺に迫る。
「ははは!このハンマーは物をすり抜けることもできるんだよ!
生身だけ攻撃できるのさ!!」
説明どうも。…だがやばい…これは予想外だ。
俺は横に飛ぶが足がハンマーに当たってしまう。足から鈍い音がする。俺は弾き飛ばされ屋上のフェンスにぶつかり倒れ込む。やばい骨が折れたみたいだ。あまりの痛みに胃液が込み上げてくる。
「レベルは99ね。なかなか高いけどやはり俺の敵じゃないなー。参考までに俺は108ね」
相手は余裕の表情でMSPを俺に向けている。
まだ負けてはいない。足の骨は折れ、身体はがたついてはいるがまだ勝機はある。
やっぱ初の殺し合い…不慣れなことが多い……。だが、勝てない相手じゃないと俺は思っていた。
問題はタイミング…。まだ駄目だ。相手が油断してくれないとこれは成功しない。
「くっ…! 」
まずは出来る限りの時間を稼がないといけない。
「お前らは本当に戦争はあると確信してたのか?」
俺はヒガシに聞いてみた。
「まあな。てか、戦争とか普通にウェルカムだったぜ」
「変わってるんだな」
「お前もだろ。普通に殺し合いをしている。命をかけてな」
言われてみて妙に納得してしまう。普段の俺なら逃げ出してるだろうな。
だが、俺はいつの間にか好戦的になり、こうやってヒガシとの戦いを純粋に楽しんでいる。まるでどこかのファンタジー小説の主人公のようだ。
そう。上杉さん達を先に行かせたのは目的遂行のためじゃない。俺自身がただ戦いたかった。
「かもな」
俺は吐き捨てるように言う。
準備はできた…。
「ははは。そろそろ殺しにかかるか。いやー初体験ドキドキするわー。…!?なんだ…お前の腕輪……?」
俺の腕輪は強く青白く発光していた。屋上が光に包まれる。
屋上の風の流れが少し変わる。
どこからかヒュオォっと音がする。ヒガシは頭上に強大な鉄球が落下してきているのに気づく。
「な、なんだこりゃ?」
ヒガシは必死にハンマーで耐えようとする。鉄球とハンマーがぶつかる。
もう遅い。
この鉄球腕輪は鎖つき鉄球を召喚させるだけではなく鎖の長さ球の大きさを調整できるみたいだ。
「あがががぁぁァァァぁあァァァあァァァぁぁあァァァぁぁあァァァぁあァァァぁあァァァぁあァァァぁあァァァぁあァァァぁあァァァぁあァァァぁあァァァぁぁ亜あぁぁぁっ!!!!」
ヒガシの足がコンクリートにめり込んでいく。俺は止めにもう一つの鉄球を巨大化させた。ヒガシが耐えている鉄球の上から叩きつける。
ヒガシでもさすがに耐えられなかったようで、やがて、プチっと音がする。
屋上には巨大な鉄球がめり込み、辺りには粉塵と静寂が訪れる。
勝ったのか?
実際にヒガシは気絶もしくは死んでいるわけだ。
「ふぅ…何とか勝てたな」
俺は一人呟き屋上から去ろうとする。手負いだがまだ動ける。
しかしこの戦いはお互いまだ戦闘の経験値がないから勝てたようなものだ。レベル的にも武器の性能的にも負けていた。
俺は屋上から重い身体を動かし出て行こうとする。
でも、その殺那…
俺の体に異変が起こる。
視界が揺らぐ。意識が遠くなって行く。あれ?
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
Level99→102に上がりました★
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
唐突に俺の意識は消えた。
意識の消える寸前にMSPからランクアップが発せられていた。
……………
……
…
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