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オルガド一家
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サロメが非常に嬉しげに弾んだようになっている隣で、僕が遠い目をしているとノックの音が聞こえる。
「なんです?」
「サロメ様、只今旦那様達がお帰りになられました」
「わかりました。ロビ-でお待ちいただくように。それとこの部屋の前に兵士を配備しなさい」
「はい、それでは」
「兵士、って?」
僕の言葉に返事をすること無く、ドアに向いていた顔をくるりとこちらに向けたサロメは、僕の手を握り、決意に満ちた目を向けてきた。
「本番です。まぁ、基本的に何も知らない状態ですし、演ずる必要はあまりないので心配はしておりません。が、ご両親とお兄様方は非常にお嬢様を可愛がっていらっしゃいます。それはもうアホかというくらいに。とりあえず、私が説明をしてまいりますので、今暫くお待ち下さい」
「……、もしかして兵士って」
「私は非力なメイドです。万一、突撃されるようなことがあれば、私一人で止めるのは無理ですので」
「あ、……なるほど」
非力なメイドが非力な一般人にナイフを向けてヘッドロックをかましてきたのだが? と思ったが敢えて口に出さずに頷く。
非常に可愛がっている、つまりは溺愛ということだろう。
事前の説明無しで入ってこられて混乱するのは僕としても避けたい。
「察しがよろしくて助かります。では私は準備がありますのでベッドでぼんやりしていてください」
「了解です」
サロメが出ていき、僕は背中からベッドに倒れ込んで、いそいそと掛け布団を体にかけながらベッドの中央へと移動する。
まぁね、お嬢様なのにあの口調が許されてる時点で溺愛だよ。
僕の両親だったら言葉使いが悪い! って怒鳴り散らされてるわ。まぁ、もう居ないけど。
天蓋を見つめ、少々センチメンタルな気分になってしまった。
暫くして、布団の柔らかさと温かさにウトウトしかかっていると、いきなりドアが勢いよく開く音がして驚く。
「な、何事?!」
「エマ! 目が覚めたんだね!」
ものすごい勢いで開かれたドアから、ものすごい勢いでこちらに向かってくる男と男と男と女。
いや、いくらなんでも怖いって!
逃げの体勢で掛け布団を握りしめ、飛び出でようとした瞬間、福引の大当たりでも当てたかのような鐘の音が響き渡った。
「静粛に!!」
サロメのよく通る声が響けば、急ブレーキをかけたように4人は立ち止まり、私と4人の間にサロメが割って入る。
「皆様、先程簡単にではございますが、ご説明いたしましたように、お嬢様は記憶をなくされております。さらに、今までのお嬢様と違い、全てにおいてギアがローに入った状態です。御覧ください、お嬢様が怯えていらっしゃいます。くれぐれもいつも通りではなく、お嬢様の様子を伺いながらでお願い致します」
サロメの言葉に、まずは唯一の女性、おそらく母親であろう人がそろそろ近づいて、涙目のまま手を握ってきた。
「エマ、わかるかしら?」
「えっと、お母様ですよね?」
「覚えているのね!」
「えっと、申し訳ないです。覚えては居ませんが、先程サロメからお母様だと教わりましたのでそうかな? と」
「教わった!」
母親であるマルグリットさんはそう叫んでその場にがっくりと膝を折る。
意を決したように、あとの三人が近づいてきた。
「エマ、私のことは覚えているだろう?」
「僕のことはどう?」
「俺は大丈夫だよな?」
はじめが父親、次が長兄、そして最後が次兄、サロメに姿絵を見せてもらっていたので、なんとなくわかる。グッジョブサロメ。
「お父様、ジャンお兄様、ロジェお兄様ですよね」
「わかるのかい?!」
「……いえ、あの、本当に申し訳ございませんが、サロメに教わったからわかるだけで、それ以上のことはわからないです。すみません」
「「「他人行儀!」」」
三人が同時に同じことを言って、その場に崩れるもんだから思わずビクッとしてしまった。
「なんです?」
「サロメ様、只今旦那様達がお帰りになられました」
「わかりました。ロビ-でお待ちいただくように。それとこの部屋の前に兵士を配備しなさい」
「はい、それでは」
「兵士、って?」
僕の言葉に返事をすること無く、ドアに向いていた顔をくるりとこちらに向けたサロメは、僕の手を握り、決意に満ちた目を向けてきた。
「本番です。まぁ、基本的に何も知らない状態ですし、演ずる必要はあまりないので心配はしておりません。が、ご両親とお兄様方は非常にお嬢様を可愛がっていらっしゃいます。それはもうアホかというくらいに。とりあえず、私が説明をしてまいりますので、今暫くお待ち下さい」
「……、もしかして兵士って」
「私は非力なメイドです。万一、突撃されるようなことがあれば、私一人で止めるのは無理ですので」
「あ、……なるほど」
非力なメイドが非力な一般人にナイフを向けてヘッドロックをかましてきたのだが? と思ったが敢えて口に出さずに頷く。
非常に可愛がっている、つまりは溺愛ということだろう。
事前の説明無しで入ってこられて混乱するのは僕としても避けたい。
「察しがよろしくて助かります。では私は準備がありますのでベッドでぼんやりしていてください」
「了解です」
サロメが出ていき、僕は背中からベッドに倒れ込んで、いそいそと掛け布団を体にかけながらベッドの中央へと移動する。
まぁね、お嬢様なのにあの口調が許されてる時点で溺愛だよ。
僕の両親だったら言葉使いが悪い! って怒鳴り散らされてるわ。まぁ、もう居ないけど。
天蓋を見つめ、少々センチメンタルな気分になってしまった。
暫くして、布団の柔らかさと温かさにウトウトしかかっていると、いきなりドアが勢いよく開く音がして驚く。
「な、何事?!」
「エマ! 目が覚めたんだね!」
ものすごい勢いで開かれたドアから、ものすごい勢いでこちらに向かってくる男と男と男と女。
いや、いくらなんでも怖いって!
逃げの体勢で掛け布団を握りしめ、飛び出でようとした瞬間、福引の大当たりでも当てたかのような鐘の音が響き渡った。
「静粛に!!」
サロメのよく通る声が響けば、急ブレーキをかけたように4人は立ち止まり、私と4人の間にサロメが割って入る。
「皆様、先程簡単にではございますが、ご説明いたしましたように、お嬢様は記憶をなくされております。さらに、今までのお嬢様と違い、全てにおいてギアがローに入った状態です。御覧ください、お嬢様が怯えていらっしゃいます。くれぐれもいつも通りではなく、お嬢様の様子を伺いながらでお願い致します」
サロメの言葉に、まずは唯一の女性、おそらく母親であろう人がそろそろ近づいて、涙目のまま手を握ってきた。
「エマ、わかるかしら?」
「えっと、お母様ですよね?」
「覚えているのね!」
「えっと、申し訳ないです。覚えては居ませんが、先程サロメからお母様だと教わりましたのでそうかな? と」
「教わった!」
母親であるマルグリットさんはそう叫んでその場にがっくりと膝を折る。
意を決したように、あとの三人が近づいてきた。
「エマ、私のことは覚えているだろう?」
「僕のことはどう?」
「俺は大丈夫だよな?」
はじめが父親、次が長兄、そして最後が次兄、サロメに姿絵を見せてもらっていたので、なんとなくわかる。グッジョブサロメ。
「お父様、ジャンお兄様、ロジェお兄様ですよね」
「わかるのかい?!」
「……いえ、あの、本当に申し訳ございませんが、サロメに教わったからわかるだけで、それ以上のことはわからないです。すみません」
「「「他人行儀!」」」
三人が同時に同じことを言って、その場に崩れるもんだから思わずビクッとしてしまった。
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