妖の嫁になりまして。俺、男だけどな!

佐伯ふじ

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第一章

第二話

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 けたたましいアラーム音に起こされて、目が覚める。ベッドから起き上がって、眠気眼を擦った。ぼんやりとした頭で、そういや昨日変な夢見たなぁなんて掠れた声で呟く。
 何だっけ。友人から貰った勾玉にお祈りしたら、イケメンの妖が出てきたんだっけか。んで、番になるとかならないとか。
 いやぁ、我ながら彼女欲しすぎじゃね? と思わざるえない内容だった。いくら何でも、俺が嫁って。妖が嫁っていうならまだしも……ラノベとか漫画によくあるやつな。押しかけ女房的な、な? 何にせよありえない事だもんな。夢だ夢。

 のそのそと服を着替えようとして、トレーナーを脱ぎ捨てた。後で拾うからいいや。

「こらこら、衣服は脱ぎ捨てるものでは無いぞ」
「へいへい。後でまとめて拾うからいーの」
「そう言って、何時も脱ぎ散らかしたままと母上殿は言っておったが? それに、返事はちゃんとせねばならん」
「俺の母さんかよ……ん?」

 全く、と呆れた様に脱ぎ散らかしたトレーナーを拾い上げる見慣れない男。いや、見たことはある。凄くある。
 頭の上にある大きな獣の耳、そして銀色の長い髪に和服の男……いや、待て。昨日の妖って奴じゃなかったか?! 何?! あれ、夢じゃねぇの?!あえ……?

 視線を向けたまま男を凝視していると、ぱちりと視線が合った。すると、困った様に笑いながら「仕方ない嫁だなぁ」と言うのだ。
 朝から眩しっ! 太陽を直視出来ないのと同じくらい眩しいわ! いや、そうではなくて。

「な、な、なんでここに?!」
「? はて。昨晩、俺の番となったでは無いか」

 もう忘れてしまったのか? なんて、からからと笑うが、そういうことではなく!! 忘れてねぇし、出来れば忘れたかったし、夢であって欲しかったんだなぁ!!!
 唇を噛みながら言いたいことを飲み込んだ。そうでもしないと、叫び倒しそう。

「あぁ、そんなに噛むと血が出てしまうぞ?」

 そう言って俺の頬に手を添える妖。
 いや、誰のせいだと思ってんの?!?! もうやだ、この顔のいい妖!!

「もしや、どこか不調か? それはいかん……!」
「えっ」

 さすが妖。動きが見えなかったな。気がつけば、視界は妖の綺麗で心配そうな顔で一杯になってるし、浮遊感が俺を襲う。数秒遅れて理解した。そう、自分が所謂お姫様抱っこされてるってな!
 そして、そのまま物凄い速さで部屋を出て階段を駆け降りていった。勢いよくリビングに入り、妖は叫ぶ。

「母上殿! 嫁の体調が悪い様だ! 人の子は医者に罹るものであろう?! 呼んではくれぬか……!」

 朝ごはんを用意していた家族は呆けていた。すぐに母さんはあらあらと笑みを浮かべ、妹は大爆笑し、父さんは味噌汁を吹き出した。
 今、自分の状況を把握したくなくて手で顔を覆った。そら、コスプレみたいな格好をした美青年にお姫様抱っこされた、上半身裸の俺。しかも、その美青年は血相を変えて、至って真面目な顔をしているんだ。これ、どんな顔すればいいの? もう笑えばいいんじゃないかな。いっそ殺せ。

「朝から元気ねぇ。泉は体調悪いの?」
「うむ……顔色が優れぬよ。先ほども顔色が悪くてなぁ……」
「そうなの?」

 手で顔を覆ったまま、くぐもった声で「違う」しか絞り出せなかった。体調は悪く無いけど、これなんて羞恥プレイ???
 しかし、指の隙間からちらりと除けば、心底安心した様に短く息を吐く妖の姿が見えた。え、まじで心配してくれてたやつ? 昨日の今日なのに? 優しくない?? 流石、自称してただけあるわ。
 会ったばかりなのに、ここまで心配してくれるのは、少し照れてしまうものがある。有難い事だ。でも、でもね。そろそろ下ろしてくれないかなぁ!!!

「本当に大丈夫なんだな?」
「ああ、うん。何とも無い、です。はい……あの、だから下ろしてくれませんかね」
「……あいわかった」

 そう言って、すんなりとその場に下ろしてくれた。そして、そっと俺の肩にふわりと上着を掛けられる。ふと見ると、どうやら妖の羽織ってたものらしく、着慣れないが肌触りが良く、上質なものである事が分かった。
 改めて妖を見ると、俺よりも頭ひとつ分は大きく、見上げる形になってしまう。ばちりと視線が合うと、表情を緩めたが、キラキラとしたエフェクトが掛かってるんじゃね? と思う位やはり輝いていた。
 うわ、眩しっ。

「すまぬな。急いでいたもので、上が裸のまま連れてきてしまった……寒いだろう? それに、お主の家族といえど、あまり晒し続けてるのも、俺がいい気はせぬからなぁ」

 俺のですまぬが、と続ける妖。す、スパダリじゃん!!! さりげなく上着かけてくれるし、俺の体を心配しつつちょっとした独占欲。なんなの!! 俺、同じ男なのに自信無くしそう。

 なお、その間も妹は笑い転げてるし、母さんは和かに笑ってるし、父さんは固まったままである。
 いや、カオスすぎん???

 ◆

「落ち着いたかしら」

 にこにことしている母さんと、その横でお茶を飲む父親。そして、ようやく笑い止んだ妹。
 家族に向き合う形で俺と、隣に座る妖がいる。

 ちなみに、ちゃんと着替えてきましたよ。えぇ、流石にあの格好のままは俺が居た堪れないわ。
 妖は「すまんが、もう少しそのままでも」と言っていたが、無視だ無視。何が悲しくて裸に羽織りを着なきゃいけないんだちくしょう。これが美少女だったら話は変わるけどな。
 そんな事より、何で俺の家族はみんなこんなに普通なの? おかしくない?

「えぇっと、何で皆は妖の事に突っ込まないの?」
「泉が起きるまでの間に挨拶してもらったもの」
「え、そうなの?」

 妖を交互に見ると、頷いていた。挨拶は大切だからな、と胸を張って言っているが、そうじゃない。

「ちなみになんて?」
「彼が妖って事と、泉の旦那になる事かしらね」

 かしらね、じゃ無いんだよ母さん。何で違和感なく受け入れてんの? 父さんと妹はどうなのよ。
 チラリと見れば、2人とも頷いて受け入れている様子だった。いや、だから何で普通に受け入れられるの? おかしいだろ、どう考えても。

「適応能力高くない?!」
「だってねぇ? 母さん、ファンタジーもの大好きだし……それに、こんなに良い人……妖が泉の旦那になるなら鼻が高いわぁ」

 父さんの方を見れば「こんなに早く婿……いや、嫁にもらわれるなんてなぁ」としみじみした様子で頷いていた。
 最後の望みで妹へ視線を向ける。望みは薄すぎてほぼ水みたいなものだけど。

「人外と人間のカップリング好きだし、イケメンの義兄が出来るなら文句つけるわけがないよね」

 何でだよ!!!!!
 というか、妹の趣向をここで知りたくなかったわ!! 今日からどんな顔して妹と接すれば良いんだよふざけんな。一生知らなくてよかったわ。
 頭を抱えてる俺の肩に手を置きながら、妖は優しい顔で笑う。これ絶対「反対されなくて良かったな」って思ってるだろ。顔に書いてあるんだよぉ!! 俺、彼女が欲しいって言っただけなのに、彼氏飛び越えて旦那(人外)が出来るなんて聞いてない。

 押しかけ女房ならぬ、押しかけ旦那ってか! しかも妖で人間ですら無い。

「俺は!! 認めてないからなぁ!!!」
「あら、照れ隠し?」
「愛らしいやつだなぁ」

 和やかな空気に包まれながら、俺は心の中で泣いた。誰も俺の気持ちを察してくれない! ってちょっとめんどくさい感じで叫んだ。もちろん、心の中で。
 遠い目をしていると、妹の焦った声が聞こえてくる。

「あ、やっば! 遅刻しちゃう!」

 時計を見ると、確かにそろそろ家を出ないと間に合わない時間だった。そういや、朝ごはん食べてない。いやでも食べてたら遅刻する。
 仕方ない。慌てて行く準備をして、玄関へと向かった。その様子を不思議そうに眺めている妖がいる。

「? 何か約束事か?」
「いや、違う。学校へ……って言ってわかるか?」
「ふむ……」

 少し悩んでいる妖に「学舎か寺子屋って言えばわかるか?」と聞けば、手を叩いて成程なぁと呟いた。
 現代にも寺子屋があるとはなぁ、と感心した様に呟いているが、今はそれどころでは無い。マジで遅刻する。

「お兄ちゃん、置いてくよ?!」
「悪い! 今行く! とりあえず、妖はあまり外に出るなよ? 帰ったら一回話そう」
「あいわかった。頑張ってくるのだぞ」

 ほけほけと笑いながら手を振っている妖に、毒気を抜かれた。
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