妖の嫁になりまして。俺、男だけどな!

佐伯ふじ

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第一章

第六話

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 朝起きたら家に、俺と神月しかいなかった。どこ行ったのかと思っていれば、神月に「皆、それぞれ何処かに出かけて行ったぞ」と聞かされる。
 へぇ、予定が重なるもんなだなぁ。なんて思っていたのが間違いだったと直ぐにわかる。
 ふと視線を移したテーブルの上には『新婚なんだから、ゆっくり健全な時間を一緒に過ごすのよ』と置き手紙がされていたので、思わず握り潰した。そのままゴミ箱へ投げ捨てた俺は悪くない。
 もしかしなくとも、両親と妹は口裏あわせて出掛けて行ったのか? 家族に変な気をまわされる俺の気持ち考えて???

 思わず出る舌打ちを隠す事もなくすれば、台所の方から笑い声が聞こえてきた。

「今日は一段と機嫌が麗しくなさそうだなぁ」
「……寝起きなもんで」
「そうかそうか。俺は嫌いではないがな、怒っている顔も」

 そんな言葉を無視して視線を移すと、そこにはエプロンを身につけた神月がいる。それ、妹が実習で作ってた女子力高めデザインのやつじゃね。いつもの着物をたすき掛けにして、腕を露わにしたまま、それをつけている姿は何とも言えなかった。
 はっきりいってアンバランスだし、それ動きにくくないの? とさえ思える格好である。
 つい、神月に「着替えないの?」と聞いてしまった。

「ふむ。別に不便ではないしなぁ……」

 そんな回答が来た。いや、それならまぁ、うん。良いんだけどさ。
 つーかさっきから何作ってんだ? なんか香ばしい通り越して焦げ臭い様な……と、顔顰めた瞬間、ぼうっと勢いよく火柱が上が上がった。
 綺麗な火柱だなぁなんて現実逃避してる場合ではない。火事になるわ!! 慌てて神月の元へと走って、水をかける。しかし、余計にぶわっと火が広がってしまい、この時焼け石に水という言葉を思い出した。
 まぁ、そんな場合ではないよな。

「あっっっつ!!」
「! これはいかん」

 火から庇う様に俺を抱き寄せた神月。いや、これだと危ないのはそっちだろ!? という叫びを喉の奥まで出かかった時だ。
 ぱちんと一つ指を神月が鳴らすと、勢いの良い火柱はその指先へと球体となって集まる。え、何事? と状況を見つめていると、直ぐに火の玉は小さくなって、ぽしゅっと音を立てながら消えてしまう。
 神月とその指先を交互に見つめて、はぇ? としか言葉を発せなかった。

「大丈夫か?」
「いや、うん、まっ、えっ、今の、なに?」
「あぁ、泉が怪我をしたら大事だからなぁ。消した」

 消したって……なんて事ないことかの様に言うけどな。俺にとっては、充分に驚く事なわけで。
 口を開けたまま神月を見上げれば、そんなに見つめられると照れる、なんて言いながらはにかんでいた。

「じゃ、なくて! 何、どうやったの!! 今!!」
「そうさな。俺は九尾というのを忘れてしまったのか? 火に関するモノは得意中の得意分野ではないか」
「し、しらねぇよ?!」

 俺が叫べば、きょとんとした顔を見せて、直ぐにあぁと納得した。

「泉だからなぁ」
「どういう意味だちくしょう」
「疎い事を忘れておっただけの事。説明不足ですまなかった」
「あ、いや、ごめん……助けてくれたんだもんな……ありがとう」

 素直にお礼を言うと、抱きしめたまま頭を撫でられる。そののほほんとした笑顔よ。
 段々と気恥ずかしくなって、腕を剥がそうとした。やはり力が強くてびくともしない。それが癪に触って、押してダメなら飛べと何かのお告げがきて、神月の顎に頭突きした。
 驚いた拍子に力が緩んで、そこから抜け出す。残念そうな顔をしているだけで、痛がってる素振りは微塵もない。

「全く……」
「すまんな、つい」
「つい、じゃねぇよ。それに悪かったな、世間知らずで」
「はて? 人の子が我らの事を理解している方が稀ではないか? 妹殿はそれに部類されると思っておったが……なぁに、急ぐ必要はなし。ゆるりと一つずつ教えていこう」

 そうかよ。なんて素っ気なく言ったけれど、神月の言葉は少し嬉しかった。誰かのためというわけではないけれど、知らない世界を理解していくのは、少なからず楽しい。
 多分、いつもより緩んでる顔なんだろう。神月が3割増してにこにことしていたから。

「さて、問題はこれをどうするかだなぁ」
「それはそうなんだけど、そもそも何作ってたんだ?」
「おぉ! よくぞ聞いてくれた! ぱんけぇきとやらを食してみたくてな!」
「あ、これパンケーキだったんだ」

 悲惨な事になっているフライパンを見つめて、心の中で合唱した。ただパンケーキを焼くだけなのに、どうしてこうなるんだか。
 神月って偶におっちょこちょいだよなぁ、なんて笑ってしまう。しょもんと肩を落としている姿が、何度目か分からない仔犬のように見えた。
 ……仕方ないなぁ。

「よし、ここ片付けたらパンケーキ食べに行くか?」
「! よ、良いのか」
「あぁ。それに、ずっと家の中なんて退屈だろ?」

 俺がそう言うと、打って変わって目を輝かせた。いや、どんだけ食いたかったんだよ、パンケーキ。
 少し呆れながら、可哀想なパンケーキの残骸を片付け始める。パリッパリに消し炭になるってるんだけど、どうやったらここまでなるの? 家庭用のコンロなのに。
 チラリと神月を見て、もしかして妖術とやらを使ったんじゃなかろうか。あり得るんだよなぁ、天然ぽい所があるし。
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