6 / 7
第一章
第五話
しおりを挟む
あれから数日。すっかり我が家に馴染んだ様で、俺の事をバックハグしながらテレビを堪能している様子だ。俺の事クッションか何かだと勘違いしてないか?
初めてテレビを観た時なんて「人が箱の中に入っているなんて面妖な……妖術の類か?」と怪しんで居たのになぁ。今じゃ慣れた手つきで操作しているんだから、妖って臨機応変能力が高いな。と、しみじみ思う。
テレビに釘付けになっている妖のを呼ぼうとして、ふと思った。そういえば、妖って呼んでるけど名前何?と。
「……妖」
「何だ?」
「今更で悪いんだけどな。名前なんて言うんだ?」
ぱちぱちと目を瞬かせながら首を傾げた。もう一度、同じ事を繰り返せば、そういう事ではないと言われる。じゃ何なんだよ。
顎に手を当てて、ふむと考えている様子だ。あれ、なんか聞いちゃいけない感じ? そう、少しの不安を感じながら妖の顔を見た。
「……教えたつもりだったんだが……言ってなかったか」
思わず転けそうになった。忘れてたんかい! 名前を聞くのはタブーかと思ったじゃん。
すまんすまんと笑う妖に毒気が抜かれた。いや、そういう奴だったよ、妖は。
「俺の名前だったな。そうだなぁ……白稲荷という」
「しろいなり?」
「あぁ、そうだ」
「なんか人っぽくない名前だな」
「人ではないからなぁ」
それもそうかと納得した。もう少し、人名みたいなものだと思っていたけれど、妖なんだから人に近い名前なはずがないよな。
ただ、何処かで聞いた様な名前なんだけど……なんだっけ? どうしても思い出せなくて、首を傾げていると、上から声が降ってくる。
「そういえば、今日は学校とやらに行かなくても良いのか?」
「今更じゃね? いや、今日は土曜日だから休み。ついでに明日も休みだけど、明後日からまた学校」
「そうだったのか! で、あれば今日明日はお主と共に過ごせるのだな」
「まぁ、そんなとこ」
すごく嬉しそうだな。確か狐の妖だったはずなのに、何だか犬に見えてきた。不思議だなぁ。
あれ、そういえば。
ふと気がついたが、妖は俺の名前を知ってる筈なのに一度も読んだことが無かった。妖って呼んでる俺が言えた義理ではないんだけど。
俺としては別に呼んでも構わないんだけどな。嫁っていうのを否定していたから、遠慮して呼ばないとか……は、ないと思うけど。
「なぁ、別に名前で呼んだっていいんだぞ」
「うん?」
「一応、もう家族みたいなもんなんだし……」
嫁っていう事は置いておいて、ここまで我が家に馴染んでるなら家族も同然じゃないかな。そんな相手に気を使う必要はないし、名前くらい呼んだって良いと思う。
妖の事を旦那だとは思えないけど、歳の離れた兄位には思えてきているわけで。本人には言えないけど。
「……名を、か」
「何か引っ掛かる事でもあんの?」
「そういった事も知らぬとはなぁ……少し、いやかなり心配だ、俺は」
深刻そうに眉を顰める妖に、俺は意味がわからなくて首を捻った。
「名前というのは大切で、妖にとっては人よりも重要なものよ」
「え、そうなの?」
「あぁ。良いか? 我が嫁よ。名前というのは、その者を縛る事ができるのだ」
「縛る? 何を?」
そう聞き返せば、困った様に笑った。
子供に言い聞かせる様に、優しい声色で妖は説明を始める。
「名前というのは、魂を縛れる。ようは、知られてしまうと、呼ばれれば抗うことも出来ず、いってしまう事もあろうて。人の世では、先立った伴侶の後を追ってしまう、という話は聞いた事があるだろう? あれも、呼ばれてしまったから起きた事よな……名を知っているからこそ、呼ぶ力は強くもなろうて」
それなら聞いた事がある。他にも心霊番組で、そういう場所は事故は多いし、悲しい事件だって起こるものだとみた記憶がある。
とどのつまり、名前がバレると持っていかれるわけだな。ははーん、なるほどな。
いや、名前教えるリスク高いな!! 気をつけよ。気軽に名前を教える、ダメ絶対。
俺の様子を見て、理解してくれた様で何より、と笑っていた。しかしながら、それは悪いモノの場合なんじゃ無いのか。
別に、悪用されない相手なら問題無いわけで。
「いやでも、妖なら呼ばれても良いと思うけどな」
「それはまたどうして」
「だって、悪い事には使わないだろ?」
妖は目を丸くしたが、構わず俺は続ける。
「別に無理に呼べとは言わないけど、呼びたいなら好きにしたら良いよ。妖……いや、白稲荷って俺も呼ぶしさ」
「……いいのか? その気になれば、すぐに隠せるぞ」
「だから、そんな事しないだろって。前にも無理やり隠そうとはしないっつってただろ」
小さく、そうかと呟いて俺の腹に回っている腕に力を込めた。痛くは無い程度だけど。
その腕を軽くぽんぽんと叩いた。
「本当に良いのか?」
「だから、良いっていってるだろ」
「……泉」
一際、優しい声色だった。見上げれば、とろりと甘い顔をしているもんだから、ほんの少しだけ心臓が鳴った。流石に、こんな顔をされたら誰だってきゅんするだろ? そういうこと。
何だよ、と聞けば呼んだだけだと言う。嬉しそうな顔しちゃってまぁ。ここまで来ると、あまり邪険にして嫁じゃねぇよと否定するのは心が痛いよなぁ。
俺も随分と、この数日で絆されてしまった様で。
「なぁ、泉」
「どした?」
「……かづき」
「え? かづき?」
「あぁ。神の月と書いて神月と言う」
それが何だ、と聞き返せば目を伏せながら妖は言う。
「これが、俺の本当の名前だ」
本当の名前、とは。白稲荷っていうのが名前なんじゃなかったのかと首を傾げる。
すると、緩く被りを振りながら「真の名前では無い」と言うのだ。え、名前二つあるの? 偽名ってことか?
思った事を察したのか、それはなと続けた。
「俺の名前である事には変わらん。要は通りなみたいなものだな。しかし、真名は神月なんだ」
「よく分からんけど……そうなの? でも教えるつもりなさそうだったけど、何で急に?」
「礼には礼を、信頼には信頼で返さねばならんだろう?」
あぁ、俺が名前を悪用しないだろって話か。え、なに、俺って悪用する様に見えた? 嘘だろ。
しかし、妖は笑うだけだった。いや、まぁ、そんなに嬉しそうな顔をされると、俺も問い詰められない。ずるいよなって思うよ、俺は。
「とりあえず、改めてよろくしな。神月」
「あぁ、末長くよろしく頼む……泉よ」
よくわらかんけど、妖もとい神月が嬉しそうだしいっかな。通りかかった妹に「何いちゃついてんの?」とにんまりした顔で言われたから、それだけは否定しておいた。
いちゃつき、違う。
初めてテレビを観た時なんて「人が箱の中に入っているなんて面妖な……妖術の類か?」と怪しんで居たのになぁ。今じゃ慣れた手つきで操作しているんだから、妖って臨機応変能力が高いな。と、しみじみ思う。
テレビに釘付けになっている妖のを呼ぼうとして、ふと思った。そういえば、妖って呼んでるけど名前何?と。
「……妖」
「何だ?」
「今更で悪いんだけどな。名前なんて言うんだ?」
ぱちぱちと目を瞬かせながら首を傾げた。もう一度、同じ事を繰り返せば、そういう事ではないと言われる。じゃ何なんだよ。
顎に手を当てて、ふむと考えている様子だ。あれ、なんか聞いちゃいけない感じ? そう、少しの不安を感じながら妖の顔を見た。
「……教えたつもりだったんだが……言ってなかったか」
思わず転けそうになった。忘れてたんかい! 名前を聞くのはタブーかと思ったじゃん。
すまんすまんと笑う妖に毒気が抜かれた。いや、そういう奴だったよ、妖は。
「俺の名前だったな。そうだなぁ……白稲荷という」
「しろいなり?」
「あぁ、そうだ」
「なんか人っぽくない名前だな」
「人ではないからなぁ」
それもそうかと納得した。もう少し、人名みたいなものだと思っていたけれど、妖なんだから人に近い名前なはずがないよな。
ただ、何処かで聞いた様な名前なんだけど……なんだっけ? どうしても思い出せなくて、首を傾げていると、上から声が降ってくる。
「そういえば、今日は学校とやらに行かなくても良いのか?」
「今更じゃね? いや、今日は土曜日だから休み。ついでに明日も休みだけど、明後日からまた学校」
「そうだったのか! で、あれば今日明日はお主と共に過ごせるのだな」
「まぁ、そんなとこ」
すごく嬉しそうだな。確か狐の妖だったはずなのに、何だか犬に見えてきた。不思議だなぁ。
あれ、そういえば。
ふと気がついたが、妖は俺の名前を知ってる筈なのに一度も読んだことが無かった。妖って呼んでる俺が言えた義理ではないんだけど。
俺としては別に呼んでも構わないんだけどな。嫁っていうのを否定していたから、遠慮して呼ばないとか……は、ないと思うけど。
「なぁ、別に名前で呼んだっていいんだぞ」
「うん?」
「一応、もう家族みたいなもんなんだし……」
嫁っていう事は置いておいて、ここまで我が家に馴染んでるなら家族も同然じゃないかな。そんな相手に気を使う必要はないし、名前くらい呼んだって良いと思う。
妖の事を旦那だとは思えないけど、歳の離れた兄位には思えてきているわけで。本人には言えないけど。
「……名を、か」
「何か引っ掛かる事でもあんの?」
「そういった事も知らぬとはなぁ……少し、いやかなり心配だ、俺は」
深刻そうに眉を顰める妖に、俺は意味がわからなくて首を捻った。
「名前というのは大切で、妖にとっては人よりも重要なものよ」
「え、そうなの?」
「あぁ。良いか? 我が嫁よ。名前というのは、その者を縛る事ができるのだ」
「縛る? 何を?」
そう聞き返せば、困った様に笑った。
子供に言い聞かせる様に、優しい声色で妖は説明を始める。
「名前というのは、魂を縛れる。ようは、知られてしまうと、呼ばれれば抗うことも出来ず、いってしまう事もあろうて。人の世では、先立った伴侶の後を追ってしまう、という話は聞いた事があるだろう? あれも、呼ばれてしまったから起きた事よな……名を知っているからこそ、呼ぶ力は強くもなろうて」
それなら聞いた事がある。他にも心霊番組で、そういう場所は事故は多いし、悲しい事件だって起こるものだとみた記憶がある。
とどのつまり、名前がバレると持っていかれるわけだな。ははーん、なるほどな。
いや、名前教えるリスク高いな!! 気をつけよ。気軽に名前を教える、ダメ絶対。
俺の様子を見て、理解してくれた様で何より、と笑っていた。しかしながら、それは悪いモノの場合なんじゃ無いのか。
別に、悪用されない相手なら問題無いわけで。
「いやでも、妖なら呼ばれても良いと思うけどな」
「それはまたどうして」
「だって、悪い事には使わないだろ?」
妖は目を丸くしたが、構わず俺は続ける。
「別に無理に呼べとは言わないけど、呼びたいなら好きにしたら良いよ。妖……いや、白稲荷って俺も呼ぶしさ」
「……いいのか? その気になれば、すぐに隠せるぞ」
「だから、そんな事しないだろって。前にも無理やり隠そうとはしないっつってただろ」
小さく、そうかと呟いて俺の腹に回っている腕に力を込めた。痛くは無い程度だけど。
その腕を軽くぽんぽんと叩いた。
「本当に良いのか?」
「だから、良いっていってるだろ」
「……泉」
一際、優しい声色だった。見上げれば、とろりと甘い顔をしているもんだから、ほんの少しだけ心臓が鳴った。流石に、こんな顔をされたら誰だってきゅんするだろ? そういうこと。
何だよ、と聞けば呼んだだけだと言う。嬉しそうな顔しちゃってまぁ。ここまで来ると、あまり邪険にして嫁じゃねぇよと否定するのは心が痛いよなぁ。
俺も随分と、この数日で絆されてしまった様で。
「なぁ、泉」
「どした?」
「……かづき」
「え? かづき?」
「あぁ。神の月と書いて神月と言う」
それが何だ、と聞き返せば目を伏せながら妖は言う。
「これが、俺の本当の名前だ」
本当の名前、とは。白稲荷っていうのが名前なんじゃなかったのかと首を傾げる。
すると、緩く被りを振りながら「真の名前では無い」と言うのだ。え、名前二つあるの? 偽名ってことか?
思った事を察したのか、それはなと続けた。
「俺の名前である事には変わらん。要は通りなみたいなものだな。しかし、真名は神月なんだ」
「よく分からんけど……そうなの? でも教えるつもりなさそうだったけど、何で急に?」
「礼には礼を、信頼には信頼で返さねばならんだろう?」
あぁ、俺が名前を悪用しないだろって話か。え、なに、俺って悪用する様に見えた? 嘘だろ。
しかし、妖は笑うだけだった。いや、まぁ、そんなに嬉しそうな顔をされると、俺も問い詰められない。ずるいよなって思うよ、俺は。
「とりあえず、改めてよろくしな。神月」
「あぁ、末長くよろしく頼む……泉よ」
よくわらかんけど、妖もとい神月が嬉しそうだしいっかな。通りかかった妹に「何いちゃついてんの?」とにんまりした顔で言われたから、それだけは否定しておいた。
いちゃつき、違う。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】ハーレムラブコメの主人公が最後に選んだのは友人キャラのオレだった。
或波夏
BL
ハーレムラブコメが大好きな男子高校生、有真 瑛。
自分は、主人公の背中を押す友人キャラになって、特等席で恋模様を見たい!
そんな瑛には、様々なラブコメテンプレ展開に巻き込まれている酒神 昴という友人がいる。
瑛は昴に《友人》として、自分を取り巻く恋愛事情について相談を持ちかけられる。
圧倒的主人公感を持つ昴からの提案に、『友人キャラになれるチャンス』を見出した瑛は、二つ返事で承諾するが、昴には別の思惑があって……
̶ラ̶ブ̶コ̶メ̶の̶主̶人̶公̶×̶友̶人̶キ̶ャ̶ラ̶
【一途な不器用オタク×ラブコメ大好き陽キャ】が織り成す勘違いすれ違いラブ
番外編、牛歩更新です🙇♀️
※物語の特性上、女性キャラクターが数人出てきますが、主CPに挟まることはありません。
少しですが百合要素があります。
☆第1回 青春BLカップ30位、応援ありがとうございました!
第13回BL大賞にエントリーさせていただいています!もし良ければ投票していただけると大変嬉しいです!
藤崎さんに告白したら藤崎くんに告白してた件
三宅スズ
BL
大学3年生の鈴原純(すずはらじゅん)は、同じ学部内ではアイドル的存在でかつ憧れの藤崎葵(ふじさきあおい)に、酒に酔った勢いに任せてLINEで告白をするが、同じ名字の藤崎遥人(ふじさきはると)に告白のメッセージを誤爆してしまう。
誤爆から始まるBL物語。
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
【8話完結】帰ってきた勇者様が褒美に私を所望している件について。
キノア9g
BL
異世界召喚されたのは、
ブラック企業で心身ボロボロになった陰キャ勇者。
国王が用意した褒美は、金、地位、そして姫との結婚――
だが、彼が望んだのは「何の能力もない第三王子」だった。
顔だけ王子と蔑まれ、周囲から期待されなかったリュシアン。
過労で倒れた勇者に、ただ優しく手を伸ばしただけの彼は、
気づかぬうちに勇者の心を奪っていた。
「それでも俺は、あなたがいいんです」
だけど――勇者は彼を「姫」だと誤解していた。
切なさとすれ違い、
それでも惹かれ合う二人の、
優しくて不器用な恋の物語。
全8話。
とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~
無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。
自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。
帝に囲われていることなど知らない俺は今日も一人草を刈る。
志子
BL
ノリと勢いで書いたBL転生中華ファンタジー。
美形×平凡。
乱文失礼します。誤字脱字あったらすみません。
崖から落ちて顔に大傷を負い高熱で三日三晩魘された俺は前世を思い出した。どうやら農村の子どもに転生したようだ。
転生小説のようにチート能力で無双したり、前世の知識を使ってバンバン改革を起こしたり……なんてことはない。
そんな平々凡々の俺は今、帝の花園と呼ばれる後宮で下っ端として働いてる。
え? 男の俺が後宮に? って思ったろ? 実はこの後宮、ちょーーと変わっていて…‥。
今日もBL営業カフェで働いています!?
卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とスタッフ達とBL営業をして腐女子や腐男子たまに普通のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ
※ 不定期更新です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる