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3章 大学入学編

雨宮桃華との仕事 3

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 少し席を外した雨宮さんが戻ってくる。

「お待たせしてしまい申し訳ありません」

 そう言って丁寧に頭を下げる。

「いえ。確認したいことと小休憩はできましたか?」
「はい。お時間をいただいたおかげで」

 そう言って雨宮さんが笑う。

「っ!」

 その笑顔に“ドキっ”と心臓が跳ねる。

(な、何気ない笑顔でドキッとするぞ。年上だからか?露出の多い服を着ているからか?)

 そんなことを考えてしまう。
 すると、雨宮さんが首を傾げながら口を開く。

「あら?先程とは違う服を着ておりますね」
「そ、そうなんです。雨宮さんが席を外している間に撮影用の服に着替えました」

 雨宮さんの言葉通り、今の俺は雨宮さんが挨拶した時とは違う服を着ている。

 デニムテーラードジャケットと、ベージュの夏専用テーパードパンツを合わせたコーディネートで、デニム×ベージュがポイントらしい。

「ど、どうでしょうか?似合ってるといいのですが……」

 俺が不安そうに問いかけると、屈託のない笑顔で雨宮さんが言う。

「とてもお似合いでカッコ良いですよ!」
「……あ、ありがとうございます」

 雨宮さんの笑顔と褒め言葉に照れた俺は、頬を掻きながら返答する。

(落ち着け、仕事のパートナーである雨宮さんにドキドキしてどうする。雨宮さんは俺のことなんて何とも思ってなさそうだぞ)

 落ち着いた物腰で俺と会話する様子から、雨宮さんは俺のことを仕事のパートナーとしか見ていない様子。
 対する俺は雨宮さんの仕草や言葉全てにドキドキしている。

(今から仕事なんだ。雨宮さんの仕草にドキドキしないようにしないと)

 俺は一度“パンっ!”と両頬を叩く。
 すると、その様子を見た雨宮さんが心配そうな顔をする。

「だ、大丈夫ですか?頬を叩かれて……どこか調子が悪いのですか?」

 そう言って雨宮さんが俺の顔に近付いてくる。

「っ!だ、大丈夫です!」

 俺は慌てて距離を取り、雨宮さんから離れる。

「それなら良いのですが……気分が優れない場合はすぐに言ってくださいね」

 そして再び屈託のない笑顔で俺に言う。

(やめてっ!雨宮さんの仕草に俺の心臓が持たないからっ!)

 寧々や真奈美からは感じることのない年上の色気から、そんなことを思う。
 すると「2人とも、撮影を始めるぞ」という社長の声が聞こえてくる。

「さ、撮影が始まるらしいです!は、はやく行きましょう!」

 この空気を変えるべく、俺は急いで社長のもとへと向かった。



~雨宮桃華視点~

 夏目様が急ぎ足で内山監督のもとへ向かう。
 その様子を眺めつつ私は一息つく。

(ふぅ、なんとか夏目様と普通に会話できましたが……もう無理ですっ!夏目様がカッコ良すぎて私の心は限界です!)

 美柑との電話で精神状態が回復した私は夏目様と普通に接することはできたが、もう既に私の心は瀕死状態だ。
 それくらい、夏目様がカッコいい。

 そんな私に急ぎ足で移動していた夏目様が足を止めて振り返る。

「雨宮さん!撮影が始まりますよ!」

 そして笑顔で声をかける。
 先程まで急ぎ足で内山監督のもとへ行っていたというのに、私のことを気遣って足を止める。
 その心遣いに心が温まる。

「うぅ……カッコ良すぎです……」

 私は誰にも聞こえない声でそう呟く。
 今日の目標は夏目様を年上の色気でメロメロにすることだったが、私の方がどんどん好きになってしまう。
 だが、今のところ夏目様が私にメロメロになっている様子はない。

(いつもなら男性からアプローチをされるはずですが……夏目様から全くアプローチをされませんね)

 私は容姿やスタイルが良いため、普段なら男性から様々なアプローチや、舐めまわすような視線を感じるが、夏目様からは一切なく、それどころか私の衣装をできるだけ見ないようにしている。

(自信をなくしそうですが……こんなことで弱音を吐いてはダメです!私のことしか考えられないくらいメロメロにしてみせます!)

 そう決意しつつ私はポケットからフォトホルダーを取り出し、私と夏目様、そして亡き母が写っている写真を見る。

(雨宮財閥の長女という肩書きによって友達ができず、人間不信で引っ込み思案だった私を変えてくれたのは夏目様です。アナタに出会わなければ今の私は居ません)

 雨宮財閥の長女という肩書きから、教師や同級生、その他全員が私のことを雨宮財閥の長女として接し、誰も私個人を見ようとはしなかった。

 そんな私が人間不信になるのは必然で、夏目様と出会うまでの私は家族以外、誰も信頼できなかった。
 そんな私に夏目様は言ってくれた。

『雨宮財閥?なにそれ。ってそんなことより次の収録まで時間あるんだ!俺と一緒に遊ぼうよ!』

 女優であるお母様の収録を見学してた私に夏目様は声をかけ、外へ引っ張ってくれた。

 その日以降、私の見える景色に色が付いたように感じた。
 今までの日々とは何もかもが違って見え、何気ないことでも自然と笑みが出るようになった。
 そんな私を見たお父様とお母様が、自分のことのように喜んだことを今でも覚えている。

(夏目様と関わったのはお母様と夏目様が共演した数日間だけ。ですが、その数日間が私を変えました)

 私は取り出したフォトホルダーをポケットに入れる。

(絶対、夏目様をメロメロにしてみせます!もう、夏目様のカッコ良さにあたふたしません!)

 私は心の中でそう決意し、返事をしてから夏目様の後を追った。
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