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6章 ドラマ撮影編

立花香帆の過去 1

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~立花香帆視点~

 私は小学1年生の頃から子役として活動している。
 全然、名前の売れた子役ではなかったが、演じることが楽しくて子役の頃から夢があった。
 それは日本アカデミー賞で優秀主演女優賞を受賞すること。
 私はそれを目標に日々頑張ってきた。



 私と夏目凛が出会ったのは小学5年生の頃。
 『マルモのおきてだよ』の撮影で一緒に仕事をした時だ。
 当時の私は子役として活動していたが全く名前は売れておらず、『マルモのおきてだよ』は真奈美のクラスメイトとして数回出演した程度だった。

 そんなある日のこと。
 お母さんから将来ライバルになるであろう真奈美の演技は見ておいた方がいいと言われ、真奈美の演技を見学することとなった。
 その時、私は夏目凛と出会った。
 当時、夏目レンとして活動していた彼は、この業界で長年活躍されている大人たちが息を呑むほどの演技を披露し、私も呼吸を忘れるほど彼の演技に見惚れてしまった。

(すごい。同い年とは思えないほどの演技力)

 私は一目で凛の演技に魅了された。
 それから私は自分の撮影がなくても撮影現場に向かい、凛の演技を見学した。
 同い年の子ができるんだから私にもできるはずと思い、見学しては凛の技術を盗もうとした。
 だが、どれだけ練習しても凛の演技には届かなかった。
 その時、私は夏目凛が天才であることを理解した。

(やっぱり夏目くんほどの天才じゃないと女優として活躍なんてできないよね。ましてや優秀主演女優賞の受賞なんて……)

 そう思い私は子役を引退しようと思ったが、ふと真奈美のことが気になった。

(なぜ愛甲さんは夏目くんの演技を目の当たりにしても頑張ってるんだろうか?)

 真奈美は凛と一緒に演技をすることが多いため、必然的に凛と比べられる。
 私が女優としての道を諦めたように、真奈美も女優としての道を諦めてもおかしくない。
 にも関わらず、真奈美は凛との演技を楽しそうに行い、日々演技力が上昇していた。
 当時の私はそのことが気になって真奈美に聞いてみた。

「愛甲さん。何で夏目くんのような天才と一緒に演技できるの?私なら夏目くんとの演技力の差に絶望して諦めるのに」
「ふふっ、それはね。凛くんがものすごくカッコいいからだよ!」
「………?」

 全く理解できない返答が返ってきた。

(ルックスのことを言ってるの?確かにルックスはすごくカッコいいけど……)

 将来はイケメン俳優となり、数々の女性たちを虜にすると思われるが、私の質問に対しての返答としてはおかしい。

「どういうこと?夏目くんがカッコいいから頑張ってるってこと?」
「うんっ!だってね凛くんは……」

 そう言って真奈美が1時間くらい惚気話をし始めた。
 その時、話の流れから本名が夏目レンではなく夏目凛であることを知った。

「でねでね!その時、凛くんが……」
「わ、わかった!夏目くんがカッコいいことは分かったから!」

 延々と惚気話が続きそうだったため、途中で遮る。

「つまり愛甲さんは好きな人に追いつくために頑張ってるということね?」
「す、好きな人ってわけじゃないけど……」
「えぇ……」

 あれだけ惚気てて好きじゃないは無理がある。

「うっ……そ、そうだよ!大好きな凛くんと肩を並べることができるように頑張ってるの!凛くんは天才だから肩を並べることなんてできないかもしれないけど、努力すれば肩を並べることができるかもしれない!だから私は頑張ってるの!」
「っ!」

 それを聞いて私は引退しようと思った自分が恥ずかしくなった。

(そうよね。努力し続ければいずれ夏目くんのような演技力を手に入れることができるかもしれない)

 その日から私は引退という考えをやめ、今まで以上に努力した。
 凛と同等レベルの演技力を手に入れるため、凛を目標に頑張り続けた。
 それと同時に凛の演技が大好きなファンとなった。
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