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6章 ドラマ撮影編

『生徒会長は告らせたい』の撮影 3

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 森野監督から指示をもらい、俺と立花さんが準備された生徒会室へ入る。
 そこで原作第2話に掲載されていた黒川くんと藤崎さんのやり取りが始まる。

――生徒会書記である藤崎は生徒会室で毎日のように頭脳戦という名のイチャイチャを繰り広げる2人に飽き飽きしており、2人が付き合うことができるよう陰ながらサポートしていた。しかし2人がヘタレすぎるので全く効果はない。

 俺と立花さんが演技をする前にナレーションを挟み、立花さんが演じる藤崎さんの紹介と現在の状況を説明してくれる。

『会長って二宮さんのことが大好きよね?』
『っ!ごほっ!ごほっ!』

 会長席に座って優雅にコーヒーを飲んでいた俺に、書類作業をしながら立花さんが聞いてきた。
 そのため、俺はコーヒーでむせ込む。

『な、何を言ってるんだ、藤崎。お、俺は二宮のことなんか好きじゃないぞ』

 そう言いつつも手に持っているコーヒーカップを揺らし、内心ではかなり動揺しているところを演じてみせる。

『ふーん』

 そんな俺にジト目を向けた立花さん。
 まるで「本当かよ」とでも訴えるように。

(すごい、ここまでは俺が想像した藤崎さんを完璧に演じてくれてる)

 藤崎さんは二宮さんの親友で二宮さんの恋を応援する優しい女の子だが、会長に対してはヘタレ過ぎて『顔しか取り柄のない男』と心の中で思っている。

 その心境を立花さんは全身で表しており、今のジト目なんか黒川くんのことを『顔しか取り柄のない男』としか見てないことが伝わってくる。
 そう思うのは俺だけではないようで、監督も撮影のストップをかけない。
 立花さんの演技が監督の想像した藤崎さんと一致しているのだろう。

 そんなことを思っていると『あ、そうだ』と思い出したかのように立花さんが声を上げる。

『そういえば、さっき二宮さんが体育館裏で告白されているところを見たわ』
『へ、へー。そうなんだ』

 俺は顔を引き攣りながら返答する。

『会長。いつにも増して醜い顔になってるわよ。いつにも増してね』
『……俺の顔を馬鹿にできるのは藤崎くらいだよ』

 藤崎さんは黒川くんの超絶イケメンなルックスでメロメロにならない数少ない女の子。
 そのため、こんな感じで普通に黒川くんのルックスをイジってくる。

(でも今の言葉、気持ちがこもってた気がするぞ?もしかして俺の顔面に言ってる?黒川くんへの暴言と見せかけて俺の顔を貶してる?)

 結構マジトーンで言われたので黒川くんに対してではなく、俺の顔面に対して言っている気がした。

『そ、それで二宮はその告白にOKしたのか?』
『あら、気になるの?』
『そ、そりゃ、同じ生徒会メンバーだからな。当然気になるさ』
『ふーん』

 またしてもジトーっとした目を立花さんが向ける。

『あ、そういえば会長と同じ生徒会メンバーである私もさっき告白されたわ』
『へー。それで二宮は告白に対して何て返事をしたんだ?』
『………』

 藤崎さんの告白に対しては一切興味のない俺に“ひゅっ!”と立花さんが消しゴムを投げつける。
 事前に立花さんが俺に当たらないよう消しゴムを投げてくることは知っていたため、動かず消しゴムが通り過ぎるのを待つが…

(速っ!全力で投げやがったぞ!しかも顔に当たりそうっ!)

 事前に聞いていたものと全然違うスピードで消しゴムが飛んできた。

「っ!」

 ものすごいスピードで飛んできた消しゴムを完全に視認することはできず、気がつけば後ろの方で“ごんっ!”と消しゴムが窓ガラスに当たる音が聞こえてきた。

『うぉっ!なんだよいきなり!』
『ごめん、手が滑ったわ』
『その言い訳はおかしいだろ!』

(なんならめっちゃ悔しそうな顔をしてるぞ。迫真の演技だから何もいえないが!)

『会長から告白の返答を気にされても嬉しくはないのだけど、全く気にされないのは乙女として嫌よ。だから消しゴムを投げたわ。全力で』
『この距離で全力を出すな!』

(確かに原作の藤崎さんは全力で投げてたよ!?でもリアルの世界じゃ全力で投げちゃダメだから!)

 そう声に出して言いたいところをグッと堪える。

『仕方ない。で、藤崎は告白に対してなんて返事をしたんだ?』
『もちろん断ったわ』
『へー。それで二宮はなんて返事をしたんだ?』
『だから少しは興味を持ちなさいよ!』
『あーもうっ!めんどくせぇなぁっ!』

――その後、黒川と藤崎の痴話喧嘩のような口論が数分続き、二宮が告白を断ったことを知ったのはそれから10分後だった。

「カットぉぉーっ!」

 そこで森野監督の声が響き渡った。
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