104 / 169
6章 ドラマ撮影編
『生徒会長は告らせたい』の撮影 5
しおりを挟む
~立花香帆視点~
凛との演技を終えた私は、凛と真奈美の演技を見学するため、少し離れた場所に移動する。
「あのぉ、隣いいですか?」
すると私の隣に凛の妹である寧々さんが現れた。
「えぇ、構わないわ」
「ありがとうございます!」
そう言って嬉しそうに寧々さんが笑う。
(すごく綺麗な女性ね)
遠目からしか見てなかったが、近くで見るとより一層可愛く見える。
なぜ芸能界で活動してないかが謎なくらいの美少女だ。
「知ってるとは思いますが私は夏目凛の妹の寧々です」
そう言って寧々さんが自己紹介を始める。
その流れで私も自己紹介を行い、お互いに同い年ということで敬語など使わない約束をする。
その後、簡単に雑談をした後、寧々が私に聞きたかったであろう内容へと話題が移る。
「やっぱり香帆ちゃんはお兄ちゃんの事が嫌いなの?」
「えぇ。凛のことは嫌いよ」
私が昨日凛に話したことは全て寧々の耳に入っていると思い、嫌いな理由は説明しない。
「でも役者としては尊敬してるわ。6年間のブランクがあるにも関わらず、休業せずに頑張ってきた私や真奈美と同等以上の演技力を披露してるのだから。やっぱ凛は天才だと改めて思ったわ」
「天才……かぁ」
私が凛のことを天才と言うと、寧々が微妙な顔をする。
「私、お兄ちゃんは天才じゃないと思ってるんだ」
「どうして?小学5年生にして優秀主演男優賞を受賞し、今日も6年間のブランクなんか感じさせないほど、素晴らしい演技を披露したわ。これを天才と呼ばずなんて呼ぶのよ?」
私が仮に6年間休業し、6年ぶりに役者として演技を披露したら、絶対凛のような演技を披露できない。
だから凛のことを天才だと評価した。
でも寧々は違うらしく首を横に振る。
「ううん、お兄ちゃんは天才じゃないよ。私……というかお兄ちゃんもだけど、私たちは天才じゃなく才能のある人、『才人』だと思ってるんだ」
「才人?」
「うん。才能のある人。お兄ちゃんは並々ならぬ努力と才能で優秀主演男優賞を受賞したんだ」
そう寧々は言うが、凛が努力している所なんて見たことない。
特に『マルモのおきてだよ』の撮影時は私がストーカーの如く凛の行く先々について行ったため、凛が私たちの目の前で努力してないことは確認済み。
もちろん、影で努力している可能性はあるが、凛はドラマの撮影に加え、バラエティー番組の収録等々もあり多忙な日々を送っていた。
そのため、私よりも影での練習時間は圧倒的に少ないはず。
にも関わらず子役時代は私以上の演技を披露し、優秀主演男優賞を受賞した。
もはや『天才』としか言い表せないだろう。
そう思い、私は思っていたことを寧々に告げる。
すると「香帆ちゃんはお兄ちゃんを甘く見てるね」と笑いながら言われた。
「確かに当時のお兄ちゃんは『マルモのおきてだよ』の撮影に加え、バラエティー番組の出演等々で大忙しだった。でも、お兄ちゃんはそれ以外の時間を全て演技の練習に当ててたよ。それこそ『真奈美が頑張ってるんだ。俺が怠けるわけにはいかない』って言いながらね」
「そ、そうだったんだ……」
ある程度は努力してるとは思っていたが、私が想像していた何倍も凛は頑張っていたようだ。
「それに香帆ちゃんはお兄ちゃんが天才だから簡単に6年間のブランクを埋めたって思ってるみたいだけど、全然そんなことないよ。見てる私が心配しそうになるくらい6年間を埋めるために頑張ってた。多分、本心では6年間の引退を後悔してると思う」
そう言って寧々が凛のハードスケジュールを語る。
寧々の語った内容はまるで部活生ではないかと勘違いするほどの内容で、ものすごい時間を演技の練習に費やしていたことが分かる。
それに加え、私や真奈美が出演するドラマのチェックや原作の読み直し等々、演技の練習以外にも時間を費やしていた。
「お兄ちゃん、最近は大学を休んでまで今回のドラマ撮影に向けて頑張ってた。だからお兄ちゃんが天才に見えるのは努力の賜物なんだ」
「………」
どうやら私は凛という男を少し勘違いしていたようだ。
(天才だからと思い込み、凛が私以上に影で努力しているとは考えなかった。いや、考えたくもなかった。でも彼が6年間のブランクなんか感じさせないくらいの演技を披露できたのは天才だからではなく影で頑張ったから)
そう思った時、私はとあることを口にしていた。
「人は自分が理解できないほどの才能を目の当たりにすると、その人間に対して『天才』という言葉で片付けようとする。なぜなら桁違いの才能には必ず桁違いの努力が潜んでいることを想像できないから」
これは私が昔思ったこと。
もしかして凛は天才ではなく、私以上の努力家なのではないかと思った時、ふと脳裏をよぎった時の言葉だ。
「寧々は葛飾北斎という天才浮世絵師は知ってるよね?」
「うん」
「彼はね。生涯を通して約3万点もの作品を世に残しているわ」
「さ、3万も!?」
寧々が驚きの声を上げる。
「えぇ。彼は約90年間で3万点もの作品を世に残した。でもこれは確認された枚数の話よ。実際はその何倍、何十倍も描き続けたと思うわ。つまり、天才と呼ばれた人間も影ではかなりの努力をしている。そのことに気づいた時期もあったわ。でも私は頑なに認めなかった。凛は努力なんてほとんどしない天才であると思い続けた」
そう思い込んだからこそ凛への幻滅が強くなり、大好きから大嫌いへと変わってしまった。
「ほんとバカな話よね。凛の努力を否定し、『天才』という言葉で片付けたのだから」
ポツリと呟きながら私は肩を落とした。
凛との演技を終えた私は、凛と真奈美の演技を見学するため、少し離れた場所に移動する。
「あのぉ、隣いいですか?」
すると私の隣に凛の妹である寧々さんが現れた。
「えぇ、構わないわ」
「ありがとうございます!」
そう言って嬉しそうに寧々さんが笑う。
(すごく綺麗な女性ね)
遠目からしか見てなかったが、近くで見るとより一層可愛く見える。
なぜ芸能界で活動してないかが謎なくらいの美少女だ。
「知ってるとは思いますが私は夏目凛の妹の寧々です」
そう言って寧々さんが自己紹介を始める。
その流れで私も自己紹介を行い、お互いに同い年ということで敬語など使わない約束をする。
その後、簡単に雑談をした後、寧々が私に聞きたかったであろう内容へと話題が移る。
「やっぱり香帆ちゃんはお兄ちゃんの事が嫌いなの?」
「えぇ。凛のことは嫌いよ」
私が昨日凛に話したことは全て寧々の耳に入っていると思い、嫌いな理由は説明しない。
「でも役者としては尊敬してるわ。6年間のブランクがあるにも関わらず、休業せずに頑張ってきた私や真奈美と同等以上の演技力を披露してるのだから。やっぱ凛は天才だと改めて思ったわ」
「天才……かぁ」
私が凛のことを天才と言うと、寧々が微妙な顔をする。
「私、お兄ちゃんは天才じゃないと思ってるんだ」
「どうして?小学5年生にして優秀主演男優賞を受賞し、今日も6年間のブランクなんか感じさせないほど、素晴らしい演技を披露したわ。これを天才と呼ばずなんて呼ぶのよ?」
私が仮に6年間休業し、6年ぶりに役者として演技を披露したら、絶対凛のような演技を披露できない。
だから凛のことを天才だと評価した。
でも寧々は違うらしく首を横に振る。
「ううん、お兄ちゃんは天才じゃないよ。私……というかお兄ちゃんもだけど、私たちは天才じゃなく才能のある人、『才人』だと思ってるんだ」
「才人?」
「うん。才能のある人。お兄ちゃんは並々ならぬ努力と才能で優秀主演男優賞を受賞したんだ」
そう寧々は言うが、凛が努力している所なんて見たことない。
特に『マルモのおきてだよ』の撮影時は私がストーカーの如く凛の行く先々について行ったため、凛が私たちの目の前で努力してないことは確認済み。
もちろん、影で努力している可能性はあるが、凛はドラマの撮影に加え、バラエティー番組の収録等々もあり多忙な日々を送っていた。
そのため、私よりも影での練習時間は圧倒的に少ないはず。
にも関わらず子役時代は私以上の演技を披露し、優秀主演男優賞を受賞した。
もはや『天才』としか言い表せないだろう。
そう思い、私は思っていたことを寧々に告げる。
すると「香帆ちゃんはお兄ちゃんを甘く見てるね」と笑いながら言われた。
「確かに当時のお兄ちゃんは『マルモのおきてだよ』の撮影に加え、バラエティー番組の出演等々で大忙しだった。でも、お兄ちゃんはそれ以外の時間を全て演技の練習に当ててたよ。それこそ『真奈美が頑張ってるんだ。俺が怠けるわけにはいかない』って言いながらね」
「そ、そうだったんだ……」
ある程度は努力してるとは思っていたが、私が想像していた何倍も凛は頑張っていたようだ。
「それに香帆ちゃんはお兄ちゃんが天才だから簡単に6年間のブランクを埋めたって思ってるみたいだけど、全然そんなことないよ。見てる私が心配しそうになるくらい6年間を埋めるために頑張ってた。多分、本心では6年間の引退を後悔してると思う」
そう言って寧々が凛のハードスケジュールを語る。
寧々の語った内容はまるで部活生ではないかと勘違いするほどの内容で、ものすごい時間を演技の練習に費やしていたことが分かる。
それに加え、私や真奈美が出演するドラマのチェックや原作の読み直し等々、演技の練習以外にも時間を費やしていた。
「お兄ちゃん、最近は大学を休んでまで今回のドラマ撮影に向けて頑張ってた。だからお兄ちゃんが天才に見えるのは努力の賜物なんだ」
「………」
どうやら私は凛という男を少し勘違いしていたようだ。
(天才だからと思い込み、凛が私以上に影で努力しているとは考えなかった。いや、考えたくもなかった。でも彼が6年間のブランクなんか感じさせないくらいの演技を披露できたのは天才だからではなく影で頑張ったから)
そう思った時、私はとあることを口にしていた。
「人は自分が理解できないほどの才能を目の当たりにすると、その人間に対して『天才』という言葉で片付けようとする。なぜなら桁違いの才能には必ず桁違いの努力が潜んでいることを想像できないから」
これは私が昔思ったこと。
もしかして凛は天才ではなく、私以上の努力家なのではないかと思った時、ふと脳裏をよぎった時の言葉だ。
「寧々は葛飾北斎という天才浮世絵師は知ってるよね?」
「うん」
「彼はね。生涯を通して約3万点もの作品を世に残しているわ」
「さ、3万も!?」
寧々が驚きの声を上げる。
「えぇ。彼は約90年間で3万点もの作品を世に残した。でもこれは確認された枚数の話よ。実際はその何倍、何十倍も描き続けたと思うわ。つまり、天才と呼ばれた人間も影ではかなりの努力をしている。そのことに気づいた時期もあったわ。でも私は頑なに認めなかった。凛は努力なんてほとんどしない天才であると思い続けた」
そう思い込んだからこそ凛への幻滅が強くなり、大好きから大嫌いへと変わってしまった。
「ほんとバカな話よね。凛の努力を否定し、『天才』という言葉で片付けたのだから」
ポツリと呟きながら私は肩を落とした。
21
あなたにおすすめの小説
少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。
昼寝部
キャラ文芸
俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。
その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。
とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。
まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。
これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる