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6章 ドラマ撮影編

『生徒会長は告らせたい』の撮影 7

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~立花香帆視点~

 私は寧々の返答を固唾を飲んで待つ。

「お兄ちゃんが子役を辞めた理由はお母さんが亡くなったからなんだ」
「っ!」

 想像もしてなかった発言が飛び出したため、心の中で驚く。

「お兄ちゃんは1番近くで応援してくれたお母さんが亡くなったから引退した。頑張る理由を見失ったから引退したんだ」

 身近な人、それも母親となれば小学6年生の子供には何らかの影響を与える。
 それが凛の場合は子役の引退だったのだろう。

「お兄ちゃんが子役として頑張ってた理由は幾つもあるけど、1番はお母さんが応援してたから。それを失ったお兄ちゃんは優秀主演男優賞を受賞した頃の演技ができなくなったの」

 そう言って凛の苦悩を寧々が語る。

「お兄ちゃんだって引退はしたくなかったよ。だからお母さんが亡くなっても必死に演技の練習をした。でも、あの頃の演技ができなくなった。いくら練習を積み重ねても優秀主演男優賞を受賞した頃の演技に届かなくなった。だからお兄ちゃんは引退という決断をした」

 当時のことを思い出しているのか、寧々の表情が徐々に暗くなる。

「もちろん、私はお兄ちゃんが子役として頑張るところを見るのが好きだったから引退を止めようとしたよ。でも、お兄ちゃんが過去の自分より劣った事実を知り、影で泣いているところを見たら何も言えなかった」
「そうだったんだ……」

 先日、「どんなことがあっても私は引退しない」と凛に向けて言ったが、母親の死に加え頑張る理由を失い、過去の自分よりも劣ったことに気づいたとなれば引退の決断をしても仕方がない。
 私も凛と同じ状況となれば引退を決断したかもしれないと思ってしまった。

「凛は生半可な気持ちで引退を決断したわけじゃなかったんだ」
「そうだよ。引退に至るまでものすごく悩み抜いた。だから私やお父さん、お婆ちゃんはお兄ちゃんの引退を引き止めることができなかった」

 寧々の話を聞いて、先日の私を殴ってやりたいと思った。
 どんな事情があったか聞いてから宣戦布告すべきだった。

「でもお兄ちゃんは復帰してくれた。ブランクがあるから過去の自分に演技力で追いつけないことは理解しつつも復帰を決断し、役者として戻ってきた。私はそのことがすごく嬉しいんだ。香帆ちゃんはどうかな?」

 寧々が私に問いかける。
 その表情は私の返答をすでに知っているようだった。

「そうね。すごく嬉しいわ。また私たちに演技を見せてくれるのだから」

 私はそう言って笑顔を見せる。
 その表情から私が凛に対しての怒りが消えたことを感じ取ったのだろう。
 寧々が満面の笑みで「だよね!」と答えてくれた。

 そのタイミングで「カットぉぉーっ!」との声が響き渡り、凛と真奈美の演技が終了した。
 結局、話に夢中で2人の演技をしっかりと見ることはできなかったが、凛の演技ならこれから何度でも見れると思い後悔しないようにする。

「ちょっと凛に言いたいことがあるから凛のところに行ってくるわ。話してくれてありがとう」
「うんっ!どういたしまして!」

 そう言って寧々が笑う。
 私は可愛らしい笑顔に見送られ、凛のもとへ向かった。
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