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その男は、暗いくらい部屋でぶつぶつと呟く。
「……!凄い、これほどまでのちからの持ち主が居るとは……。鹿児島かぁ、遠いな……」
「会いに行くの?璃空様」
暗い部屋に明かりを照らすように入ってきた女は南国鹿児島県と聞いて呆れた。
「ああ、彼のような存在があのような田舎に居る訳が分からない。すぐに話し合いの場を」
「……」
意思を変える気の無さそうな主君に女は「はぁ」とため息をついた。
「……お供します」
「頼むぞ」
男と女はそれだけ言うと立ち上がったのであった。
「ふんふふーん」
「おはよう、お母さん。ご機嫌だね」
今日も桃色のエプロンを身につけ、いそいそと家事に励んでいる母親を朝イチで見た。
母は、朝一番に起き、夜一番に寝る、そういう人である。
「分かる~?あ、あなた。おはよう」
「おはよう、結花」
ふぁ~と大きなあくびをしながら、父修斗がやって来る。
母はにこにことしたまま父に質問を投げ掛けた。
「さて、修斗くん。ここで問題です。今日はなんの日?」
「……っ!」
父はびくっとみじろいだ。
それを見た私は理解した『あー……、分からないのですね父よ』と。
毎年カレンダーに意味深に丸やらハートやらが付いているというのに、父は気がつけないらしい。
このままいけば、母がいじけて朝食がなくなる可能性が高いので、仕方ないと可愛く見えるように笑った。
「お付き合い記念日ですよね!お父さん」
「あ、あぁ!付き合った日だな!覚えているぞっ!」
「まぁ、結菜ちゃんったら、ママは修斗くんに答えてほしかったのにぃ」
「あっ、ごめんねお母さん」
わざとらしくならないよう、答える。
母はにっこりと笑って頭を撫でた。
「いいのよ?修斗くんもちゃんと覚えているみたいだし、ね?」
「あ、ああ」
そこはもっと自信を持っている風に言って欲しい。
絶対に母にはバレるなと確信した私は、鬼が目覚める前に、早く一人で料理が作れるようになろうと決心するのであった。
朝御飯を食べ終えた私は、弟のもとへ向かう。
寝顔がとてもプリチーな弟修司は、今日もすやすやと寝ている。
必要最低限しか鳴かない、夜鳴きが無い、素晴らしい弟だ。
最近はあーうーとクーイングをよく発し、そろそろ寝返りをクリアしそうで目の離せぬ可愛さをその身に宿している。
潔く言おう、私は弟にメロメロだ。
「修司、今日も可愛いな。ねぇねは保育園だから、いいこにしているんだぞ」
ベビーベッドの側に置いてある、私用の踏み台に上り、柵をつかみながら語りかける。
『結菜、結菜。弟、可愛い?』
ふと、声がする。
それらは幼児のように声の高い笑い混じりの声だった。
『可愛い?好き?』
「可愛いし、大好きですよ。余り煩くしないで下さい、修司が起きてしまいます」
『だいじょーぶ、その時は私たちがあやしてあげるから』
あるものは柵の上に座り、あるものは布団で丸まって眠り、あるものは私の周りをくるくると回る。
「結菜ー、保育園行くぞ」
「はーい」
丁度、父が私を呼ぶ。
私はふにふにと修司の頬をつついて、fairy……日本では神と呼ばれる森羅万象の物から生まれてくるものたちに声かけをした。
「お守り、お願いしますね」
『うん、結菜の望みなら』
『結菜のお願いだから』
『結菜の大切なものは何からも守ってあげる』
ふわふわと当たり障りがなく、一瞬心配したが、大丈夫かと思い直した。
世界の全てを制する彼らならなんということはないのだろうと。
それこそ、全生物が恐々とするほどに。
私は鞄をからい、帽子を被る。
「お、来た。忘れ物は無いか?」
「確認したよ、ダイジョブ」
親指を立てながら言うと、帽子の上から撫で回された。
きっと母が結んでくれたツインテールはぐしゃぐしゃだろう。
そこへとてとてと母がお弁当を持ち、現れる。
私には白ご飯の入ったカンカンのやつを、父にはその日の期限によって内容が変わる愛妻弁当が渡される。
今日のやつは多分、可哀想な弁当だろう。
「それじゃ、行ってきます」
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
『『行ってらっしゃーい』』
最後に視界の端に映ったのは、愛する母ではなく、嗤うfairyだった。
「おはようございます、直子先生」
「おはよう、結菜ちゃん」
保育園の入園門前で今日のお迎え係、直子先生と挨拶を交わす。
直子先生は古参の先生で、すみれ組(三才~四才児)の担任。
オレンジのエプロンを身につける先生だ。
父は私が園内に入るところを見届けると、「よろしくお願いします」と会釈して車に戻っていった。
なんとなく、パスワード式の誘拐や迷子防止のための柵が牢屋のように見えた。
「それじゃ、みんなのところに行こうか」
「はい」
直子先生に手を繋がれる。
私は仕方ないわなぁと教室に向かうのであった。
「……!凄い、これほどまでのちからの持ち主が居るとは……。鹿児島かぁ、遠いな……」
「会いに行くの?璃空様」
暗い部屋に明かりを照らすように入ってきた女は南国鹿児島県と聞いて呆れた。
「ああ、彼のような存在があのような田舎に居る訳が分からない。すぐに話し合いの場を」
「……」
意思を変える気の無さそうな主君に女は「はぁ」とため息をついた。
「……お供します」
「頼むぞ」
男と女はそれだけ言うと立ち上がったのであった。
「ふんふふーん」
「おはよう、お母さん。ご機嫌だね」
今日も桃色のエプロンを身につけ、いそいそと家事に励んでいる母親を朝イチで見た。
母は、朝一番に起き、夜一番に寝る、そういう人である。
「分かる~?あ、あなた。おはよう」
「おはよう、結花」
ふぁ~と大きなあくびをしながら、父修斗がやって来る。
母はにこにことしたまま父に質問を投げ掛けた。
「さて、修斗くん。ここで問題です。今日はなんの日?」
「……っ!」
父はびくっとみじろいだ。
それを見た私は理解した『あー……、分からないのですね父よ』と。
毎年カレンダーに意味深に丸やらハートやらが付いているというのに、父は気がつけないらしい。
このままいけば、母がいじけて朝食がなくなる可能性が高いので、仕方ないと可愛く見えるように笑った。
「お付き合い記念日ですよね!お父さん」
「あ、あぁ!付き合った日だな!覚えているぞっ!」
「まぁ、結菜ちゃんったら、ママは修斗くんに答えてほしかったのにぃ」
「あっ、ごめんねお母さん」
わざとらしくならないよう、答える。
母はにっこりと笑って頭を撫でた。
「いいのよ?修斗くんもちゃんと覚えているみたいだし、ね?」
「あ、ああ」
そこはもっと自信を持っている風に言って欲しい。
絶対に母にはバレるなと確信した私は、鬼が目覚める前に、早く一人で料理が作れるようになろうと決心するのであった。
朝御飯を食べ終えた私は、弟のもとへ向かう。
寝顔がとてもプリチーな弟修司は、今日もすやすやと寝ている。
必要最低限しか鳴かない、夜鳴きが無い、素晴らしい弟だ。
最近はあーうーとクーイングをよく発し、そろそろ寝返りをクリアしそうで目の離せぬ可愛さをその身に宿している。
潔く言おう、私は弟にメロメロだ。
「修司、今日も可愛いな。ねぇねは保育園だから、いいこにしているんだぞ」
ベビーベッドの側に置いてある、私用の踏み台に上り、柵をつかみながら語りかける。
『結菜、結菜。弟、可愛い?』
ふと、声がする。
それらは幼児のように声の高い笑い混じりの声だった。
『可愛い?好き?』
「可愛いし、大好きですよ。余り煩くしないで下さい、修司が起きてしまいます」
『だいじょーぶ、その時は私たちがあやしてあげるから』
あるものは柵の上に座り、あるものは布団で丸まって眠り、あるものは私の周りをくるくると回る。
「結菜ー、保育園行くぞ」
「はーい」
丁度、父が私を呼ぶ。
私はふにふにと修司の頬をつついて、fairy……日本では神と呼ばれる森羅万象の物から生まれてくるものたちに声かけをした。
「お守り、お願いしますね」
『うん、結菜の望みなら』
『結菜のお願いだから』
『結菜の大切なものは何からも守ってあげる』
ふわふわと当たり障りがなく、一瞬心配したが、大丈夫かと思い直した。
世界の全てを制する彼らならなんということはないのだろうと。
それこそ、全生物が恐々とするほどに。
私は鞄をからい、帽子を被る。
「お、来た。忘れ物は無いか?」
「確認したよ、ダイジョブ」
親指を立てながら言うと、帽子の上から撫で回された。
きっと母が結んでくれたツインテールはぐしゃぐしゃだろう。
そこへとてとてと母がお弁当を持ち、現れる。
私には白ご飯の入ったカンカンのやつを、父にはその日の期限によって内容が変わる愛妻弁当が渡される。
今日のやつは多分、可哀想な弁当だろう。
「それじゃ、行ってきます」
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
『『行ってらっしゃーい』』
最後に視界の端に映ったのは、愛する母ではなく、嗤うfairyだった。
「おはようございます、直子先生」
「おはよう、結菜ちゃん」
保育園の入園門前で今日のお迎え係、直子先生と挨拶を交わす。
直子先生は古参の先生で、すみれ組(三才~四才児)の担任。
オレンジのエプロンを身につける先生だ。
父は私が園内に入るところを見届けると、「よろしくお願いします」と会釈して車に戻っていった。
なんとなく、パスワード式の誘拐や迷子防止のための柵が牢屋のように見えた。
「それじゃ、みんなのところに行こうか」
「はい」
直子先生に手を繋がれる。
私は仕方ないわなぁと教室に向かうのであった。
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