その悪役令嬢、今日から世界を救う勇者になる

ごーぐる

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幼少期編

6 兄と剣

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『今日』という日が廻ってまた、今日になる。
私は肌寒い春の中、ほんの少しだけの勇気を出して、布団を除けて、ベッドの上から降りる。
床は大理石のフローリングだが、ここでは靴を履いたままなので、冷たくない。
私はベッドから少し離れた窓まで寄って、その重そうなカーテンを勢いよくシャッと開く。
すると、辺りはまだ霧でおおわれて白く濁っていた。
窓の近くにいるからかひんやりと冷気を感じる。
ああ、ここで小鳥たちがさえずり、朝の訪れを告げるんだ。
―――うちは違うけど…。
その時コンコンとノックが聞こえて、私が返事をするまでもなくバンッと乱雑に扉が開かれた。
「おはよう!サァラ!!!」
「にいに、勝手に扉を開けて入ってくるの、やめてください」
家の場合、朝のさえずりというより雑音はお兄様が常だ。
毎朝毎朝、ご苦労なこってと思いつつも兄を窘める。
兄は頬が少し赤く染まっていて、いつになく上機嫌な様子だ、まぁ理由は知ってるけど…。
「今日はサァラも一緒に授業を受けるんだって?!」
お母様と取引して得た報酬「お兄様の授業・鍛錬を見学する権利」を手に入れた私だったが、まさか昨日の今日でそれがかなうと思わ何だ。
お母様は優秀すぎるな、私の中でお母様の評価が著しく上がったのを感じた。
「はい、にいに。お母様におねだりしましたの。…にいにとお勉強したいなって思って。………駄目でしたか?」
私は自分で自分を「お前誰だよ」と心の中で叫ぶ様子を悟られないように、表面上にこやかな顔を作った。
そんなことはつゆ知らず、兄は感動したように私の手を取り、涙ぐんでいるようだ。
「駄目なわけないだろう?にいにはかわいい妹と一緒に勉強できるなんてとてもうれしいよ」
お兄様は「さあ、一緒に行こうか」と言って恭しく手を引いてくれる。
まったく、エスコートできるなら、私(妹)じゃなくて、他の女性にしてやればいいものを。
足取りも私に合わせていつもよりかなり遅めで歩いてくれている。
こういうところは感心なのになぁ…。
その相手が私なのが、ものすごくもったいない気がする。
そう思っても口にしないのは絶対拗ねられて、面倒なことになるとわかっているからだ。
子供は、案外、そういうところにうるさい。
私は完ぺきに兄のことを息子か何かに思っていた。
そんなこんなで、私たちは一棟と二棟をつなぐ廊下から庭に出た。
「今朝は剣の稽古があるんだ。夕食前には魔法の鍛錬があるよ。どっちも毎日しないといけないから、大変だよ」
ふーん、確か朝食の後から家庭教師が来て授業が始まるのだっけ?
その後は、昼食、授業、鍛錬、夕食………あれ?自由時間なくね?
「にいに………」
私は本当にぼそりとつぶやいた。
なんだ、君も私と同種(社畜)だったんだね…。
私はお兄様を初めて兄だと感じたした気がした(親近感)。
「?なんだい」
「いや、なんでも」
適当に誤魔化して、花に囲まれた庭を過ぎると、草原のようにだだっ広い野原にでた。
どうやら、ここもうちの敷地内らしい。
そよそよと吹く風が心地よく、日差しがよく、寝転んでお昼寝をしたくなるような場所だ。
そのど真ん中に一本の大きめな木の木陰で涼むガタイのよろしい男の人が見えた。
あちらもこっちに気がついたみたいで手を振っている。
「おー、来たな坊っちゃん!」
紅の髪と武人のように厳つい顔が印象的な剣士だった。
兄はそれに礼儀よく受け答えする。
「こんにちは、お久しぶりです」
男は「おうっ!」と元気のよい返事の後に私のことをニヤニヤとしながら見てくる。
お兄様は目線がおきに召さなかったようで男から見えないように私の前に移動した。
「…俺の妹をあんまり見ないで欲しい」
「はははっ、これが噂の坊っちゃんの天使か!!」
………#噂の天使_・_#?
私はお兄様をジロリと見た。
「ーーーああ、天使だ!」
お兄様は私に抱きつき、高らかに宣言した。
ーーーあ、隠す気ないんですね。
私は内心ため息をつきつつ兄の前に出て、自己紹介を始める。
「初めまして、サラ・デューク・ニコラスです。いつもお兄様がお世話になっています。今日はよろしく私共々よろしくお願い致します」
ペコリと淑女の礼をとった。
「これはこれは、ご丁寧にどうも。アデルだ。一応、この国の将軍をやっている。…なんか、はじめて会うって気がしねぇな。ま、いつもタファから話は聞いてたしな」
「…その、話とは?」
アデルはジョリジョリと短くて固そうな髭を擦って「ああ」と言う。
「それはだな、こいつの妹語りのことだよ。こいつ、親しいもの中に妹がすごいだの可愛いだの触れ回ってんだ。ま、社交のときゃ真面目にしてるから別に構わないんだけどな…」
アデルはとても遠い目になる。
一体なにをいい回ってるんだろうか…。
「まぁ…。お兄様が御迷惑をお掛けしております…」
「………なぁ、さっきから思ってたんだけどよ…。サラは本当にお前の妹か?」
「その目は節穴なのか、どう見たって僕の可愛い妹だろう、なあサァラ?」
お兄様は優しい手つきで私の頭を撫でる。
「はい、そうですね。節穴かどうかは置いて私はにいにの妹です」
お兄様のなでなでは結構気持ちがいいので好きだ。
私はニッコリと微笑んで、撫でかえしてあげる。
お兄様の髪はサラサラでちょっと羨ましいくらいだ。
「うわぁ………」
その様子をアデルは微妙な表情で見ていた。
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