その悪役令嬢、今日から世界を救う勇者になる

ごーぐる

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幼少期編

39 お母様が大変です

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部屋に入ると同時に手早くマスクを着けて横たわるお母様に近づく。
そのそばには涙ぐんだお父様がいた。
お父様は私を見るなりすぐにその涙を引っ込ませる。
すごわざだなぁ……。
親の意地なのだろうが、可愛いところもある父だ。

まぁわざわざ傷口に塩を塗る趣味はないので、スルーして横たわるお母様に近づく。
口元には血を拭った後があり、私は顔をしかめた。

「……お父様。お父様は知ってましたね?」
この病気は突然起こるものではない。
確実に最近体調が悪かっただろう。
一番近くにいるお父様が愛妻の不調に気がつかないわけがない。
「……すまない、ロゼに内緒にしてほしいと頼まれてしまったんだ。内密で医者を呼んでいたのだが、不治の病と診断されたのが数日前。ロゼは忙しいお前たちに心配をかけたくなくて黙っていたかったみたいで、私も同じだったからその意を汲んでやった」

「……はぁ、まあ大体そういう理由だとは思っていましたよ。それにしても不治の病、ですか……」
とりあえず、私は答え合わせのためにお母様に『透明』の魔法をかける。
透明化指定をすることで、エコーと同じ働きができるのだ。

探していたものは丁度食道にあった。
かなり大きい。
吐血もしているってことは大分ステージが進んでいるのではなかろうか。
他にも胃や肺などにチラホラと見られるが、おそらく転移したものだろう。
食道がんは体重が減ったり、声が掠れたり、咳が出たりとこれほど進んでいれば見てわかる症状もあるのだが、おそらく体重は服で隠して、声や咳は気合いでなんとかしていたのだろう。
そういえば、最近はお母様とご飯を食べていないことを思い出した。
こんな死ぬ間際まで演技が完璧だったなんて、末恐ろしい母である。

しかし、病名がわかったのはいいのだが、困ったことがあった。
「……お父様」
「なにかわかったのか!?」
お父様はいつにもなく慌てるような声をあげる。
「お母様は、ガンという病を患っていますわ。このままにしておけば一週間以内に亡くなるかもしれません。そして、この領地にその治療薬はありません」

そもそも、薬でも直せる格率の低い病気だ。
前世じゃガンを切って対処していた。
ここには、その技術はない。
もう少し小さければ私の魔法で切ることが出来たかもしれないが、すでに他の器官に侵入している。
じゃあ、どうすればいい?

お父様は「知っている」と寂しそうに言ってお母様の手を強く握った。
苦し紛れに私は前にエアゥが言っていたことを思い出した。

『この世界の魔法は君の世界の魔法と違うみたいだね』

魔法の、魔力そのもの妖精たち。
その妖精王は世界の人類始まりから生き続け、現代で暇潰しのようにこちらを覗いている。
彼らはこの世界で一番の物知りではなかろうか?
そう考えて、一瞬止まって、お父様とお母様とお兄様の方を流し見た。

ーーー大丈夫、だよね。

止まっている隙はない。
私はそれに背中を押されてまだ秘密にしていたことをお父様たちに伝えることにした。
「チェニー、下がりなさい。部屋には誰も近づけさせないように」
「畏まりました」
戸惑うことなくチェニーは部屋から出ていき、人払いをしに行った。

「お父様、お兄様。私、秘密にしていることがありますの」
妖精と話をしていることがバレてから、妖精王たちは私の部屋以外はめったに現れることはなかった。
そうでなくても、家で妖精が見えるのはおばあさまだけだから、話すこともないだろうと思っていたこと。
現在、お兄様は妖精が見えるようになったらしいから、注意していたのだけれども。
あのときは、リバートとフェルしか居なかったし。

「皆様に、聞きたいことがございますの。ここに呼んでくださいませんか?」
ちびちゃんずに頼んで妖精王たちを呼んでもらうことに。
どの道、お兄様には早々にばれるであろうことなので、早めにネタバラシをしてしまおうと思った。

「お兄様、最近、妖精が見えるようになったそうですわね」
「……そうだね」
それが?という感じでお兄様は首を捻る。

『はぁーい、呼んだかしらぁ?』
一番手はプロンだった、見てたんだろうなぁ……。
着々と他の妖精王たちも集まってくる。
『うむ、久しぶりの全員集結だな』
ルスピニーが満足そうに呟いて私の頭を撫でた。
なんか、機嫌いいなぁ。

総揃いした妖精王たちにお兄様の開いた口が動かない。
お父様は見えないからどうしたんだという表情だ。
「お父様、時間がないので、お兄様に聞いてくださいね」

『うんうん、サラちゃんのお母様を助ける方法よね?任せてちょうだいっ!』
状況のわかるプロンが先走った。
『あ、本当だ。サラちゃんのお母さん、病気になっちゃんったんだね。痛そうだ。ねぇルミリア、痛み止してあげてよ』
エアゥに頼まれたルミリアはさっとお母様のおでこに触れて魔法を使った。
光に包まれたお母様の表情が和らいでいく。

『ありがとうございます』
お母様が穏やかに寝ているのを確認できた私は二人に感謝した。
『当然のことをしたまでだ、ハンカチのお礼だとでも思っておけ』
みんな、相当あの刺繍ハンカチを気に入ってくれたらしい。
今日も持っているようだ。

『どれで、お母様の病気を治す方法ってありますか?』
『あるわよ~。私とルリミアとルスピニーの力を使えば一瞬ね』
いわく、プロンは命を司っていて、ルミリアとルスピニーは生物の体を治すことに特化しているからだそう。
だから光と闇の魔法は催眠系や治療系が多いらしい。
さっきのは脳に痛みをなくすよう仕向けたのだとか。
効果は麻酔と同じで一時間で抜けるらしい。

『ふふふ、私たちと契約しているあなたなら大体のことは出来るのよぉ。あなたはなかなか私たちに頼ってくれないけれどね』
あはは、じゃあこれからはいつでも好きなときに国会を爆破できるね。
ーーーじゃないわ。
私は間違っても権力を一人だけが握る世界とか反対なので、あまり強い力に頼りたくないだけである。

『私は、自分で出来ることはなるべく自分でしたい派なので』
『それ分かるわ』
フェルが深く頷いた。

『でも今回は無理そうなので頼んでもいいですか?』
『もちろん』
『そのための我らである』
『うんうん』
皆がルミリアの言葉にしきりに頷く。
心なしか表情が嬉しそうなのは気のせいなのだろうか。
『では始めるぞ』
ルリミアの掛け声とともに、ルスピニーとプロンは一斉に動き始めた。
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