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学園編

124 戻ってきたら

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そして二日後。
私は魔界から戻ってきた。

クロには『予定が合わなかったが次は遊びに行こう』と、ヒルベルトからは『連絡をしてから来い』と言われた。
確かに、この忙しそうな時期によく受け入れてくれたなと感じる程に彼らは忙しくしていた。
次はしっかりとアポイントメントを取らなければと心に刻む。

アルフィーのことは心残りだが、今の領地に連れ帰るべきではないと確信しているし、あんまり彼方の事情に関わるべきでもないと分かっているから、今回は置いていく。
きっとクロなら大丈夫だろう。
……いや、ヒルベルト辺りが教育を施してこき使う未来が見えるが。

彼にとってこれが人生の転機となれば、行幸だ。



さてと学園の寮に戻ってきた私は、目の前で寝ていた分身を解いた。
私が連絡していたため、待っていたらしいチェニーが紅茶をスタンバイして、たたずんでいる。

「お帰りなさいませ、お嬢様。ご旅行はいかがでしたか?」
「楽しかったわよ。話し合いもできたし、魔界のことも知れたし、満足ね」
「……それはようございました」

若干、不満げなのは何故なのか?
ちなみに、ルイは寝ているそうである。
朝は強いが、夜が弱い子なので。

「分身はちゃんとしていたかしら?」
カモミールの香りがする紅茶を一口飲んで、ほっとしたので報告をさせる。
チェニー曰く、大方は大丈夫だったが、会話をしないためにルイが疲弊したそうだ。
なんでやねんと思うかもしれないが、彼女は極度のコミュ症なので、会話に対して返事がないことに不安を感じてしまうのだ。

それは失念だったと、次の参考にする。

チェニーから明日の教科と、授業内容を粗方聞いて、その日は熟睡した。

次の日。

私は久方ぶりの学校へ来ている。
まるで不登校児のようだが、学園は高校というより、大学なので決して不登校ではない。
良くも悪くも実力主義とでも言おうか。
まあ、おかげで自由にやれている。

登校してみると、周りがいつもよりざわついているのがわかった。
イベントなんかでざわついているという感じではない、なんというか噂が流れている、そういった雰囲気だ。
良い噂ではないだろう。

けれど、公爵令嬢として視線は落とせない。
昨晩、チェニーが眉を寄せたのはそういうわけだったのか。
いや、いつものことかもしれないが。

教室に入ると、先程とは比べられないほどの悪意を向けられる。
筆頭は懐かしいかなピンク髪が目に痛いメロディと、まだ解決していなかった前にバケツを降らせてきた女子生徒の一人である。
その威圧でひとが殺せるんじゃないかと思うが、周りが違和感を覚えることはない。

なかなかにおかしな現象である。
席につくと、こちらも久しぶり見るサウラスがいた。
「ごきげんよう」
「……」

一応、挨拶は必要かなと思ってしてみたが、返事がない。
むしろゴミを見る目で見返された。

どうやら私がいない間になにかあったらしい。
チェニーからの報告が正しければ、授業が終わった後は定時で寮に戻っているはずなので、私が原因であるとは考えにくい。
となると、噂をばら蒔くタイプのやつだろう。

一体どんな噂なのか、貴族生徒たちは警戒心が強くて聞き出すことが出来ない。
私が高位貴族であるために、注意しているのだろう。
そして私には信頼できるような友達はいない。
こうなると、頼みの綱は被害が及んでいても関係ないロナルディか、噂とかどうでもいいわと思っていそうなジーク、そしてお兄様のみ。

あ、メロディも意外といけそうだな……。
彼女は貴族世界がなにもわかっていない様子なので、怒らせればあっさり言ってくれそうである。

今回の件、なぜ放っておけないのかというと、私がニコラス公爵令嬢だからだ。
国で一二を争う上位貴族の令嬢に悪い噂が流れて、遠巻きにされているとしたらお父様は親バカ関係なしに叩き潰しに来るだろう。

私も同じ立場だったらそうするし、お父様は間違っているとも思わない。
しかし、それには多くの貴族が潰れる可能性がある。
相手が伯爵位だとしよう、その人を社交界から追放すれば一体どれくらいの平民が苦しむのか。

逆で考えても同じだ。
公爵家が遠巻きにされることで、多人数を抱える我が領に被害が起こる。
貿易などをしてくれないなんて事態になったら最悪だ、平民たちに謝っても謝りきれない。

私は早くも頭痛を感じていた。
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