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5章 八重紬
5_②
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扉を入ってすぐの所は、昔からの建物に増築した新しい部分。十台あまりの機が並び、職人達が働いている。真結の機はもっと奥だ。布の出来映えを見て格付けする部屋を通ると、商人が機場長と話をしていた。
「少し来ない間に、そんなことに。残念ですね、彼女ほどの職人は滅多にいないのに」
「まあ……この機場がここまで大きくなったのは、ある意味では彼女のおかげですからね。職人としては、非常に残念です」
話題は真結のことのようだ。職人としては、なんてわざわざ強く言うのは、人としては惜しくないという意味に聞こえた。
(ふん、最高の褒め言葉だよ。扱いにくい奴だったことくらい、わかってる)
正面奥、経験の長い職人の機が置かれた部屋へと扉を通過する。今日は真結の葬儀に出て、誰もいない。後ろから機の音がするはずなのに、いやに静まり返って感じる。部屋に入ってすぐ左、いつもの機は静かにたたずんでいた。生地はもう巻き取って倉庫に入れたのか、ここにはない。
八重紬の木には礼を言ってまわったが、相棒と言うべき機にはまだ挨拶していなかった。
「ありがとう」
触れるように手をかざしても機の感触はない。
「ありがとう……」
長年使い込んだ風合い、すべすべの木の肌触り。踏木の重さ、梭をくぐらせる音。よく覚えている。道具には道具の癖があり、使ううちに職人の癖もつく。相棒というより、これは真結の分身に近いものなのかもしれない。
しばらく座り込み、他の言葉が浮かばず礼をくり返した。それから、共に作り上げた最後の作品を見るため、真結は倉庫を目指した。格付けの部屋に戻って、左の奥だ。
たくさんの木箱が並ぶ中、織られて間もない上物から探す。織り方は紋並八重紬、冬夏の紋を地模様としてうっすら浮かび上がらせた、難しい生地だ。
(……あった。等級は二番め、だけど手間のかかる紋並なんて、私以外に織れる人はほとんどいないもの)
本来は箱の蓋裏に職人が記名する。これに関しては機場長の代筆か無記名になっているはずだ。
(最上級じゃないのは残念ね。でもきっと、これが最後の作品)
死ぬ間際に何をしていたか。添花に聞かれてから、記憶がどんどん鮮明になった。
始まりは、ただの風邪。それが医者にかかる頃には随分と悪くなっていた。仕事に打ち込むあまり、休むことを忘れた体はぼろぼろだったのだ。治療を受けて大人しくしていても、持ち直すかどうか。病院で養生するよう言われたが、断った。ゆっくり寝ていて三日くらい寿命が伸びるより、六日寿命が縮んでも布を織る方が、真結にとっては価値があった。最後ならば、技術の粋を。そうして、紋並を織ることにした。
(箱に入っているなら、完成はしたのね。納得……したくなくてもこれが現実)
掌に目を落とすと、向こうに床が透けて見える。この世に留まっても布は織れないのに、成仏はまだらしい。
(ほら。壁だってすり抜ける、生きている人間には見えない幽霊なのよ。他にも何か心残りがあるっていうの?)
倉庫の外に出ると、少し離れて添花が立っていた。なんとなく、彼女の方に足が向く。
「後悔しないように生きるって、難しいのね」
「そうみたいだね」
選んだ言葉が淡白でも、添花の言い方に少し優しさを感じた。沢山の幽霊と関わっているから、真結の気持ちに理解があるのかもしれない。
「私、八重紬の職人だから。布を織って死ぬなら、本望と思ってた。人にも、そう言ったことがある」
八重紬の蕾が、晴れた空と爽やかに調和している。あの花は、ひとつの木にたくさん仲良く咲く。
「いいよね、花は。咲いても散ってもきれいで。思ったように死んだくせに、この世に残ってる自分が嫌になるよ」
自嘲気味に言った時、ぱさ、と微かな音がした。蕾のひとつが、咲くのを待たずに落ちたらしい。
一瞬、添花の様子が変わる。素早く辺りを見回して、表情を引き締めた。
「どうかした?」
「いや、別に……」
首を横に振る割に、顔色が悪い。冬夏を訪れた当初に探していた、悪霊のなりかけを見つけたのだろうか。
少し張りつめた空気の中、真結は他に思い残したことを考えてみた。八重紬の新しい紋様や、最適な糸の張り具合、頭の中はきめ細かく美しい布のことで一杯だった。とことん仕事人間だ。何が引っかかるのか、さっぱりわからない。
「真結、あんた家族はいないの?」
「いないよ。あの世に行けば、会えるかもね」
静かな間、添花も真結の未練を考えていたようだ。しかし、真結に兄弟姉妹はいないし、両親は向こうで待っている。彼女のあとに残るのは、八重紬だけだ。
「添花は?」
なんとなく、質問を返してみる。
「いないよ」
簡潔に答える横顔に、親近感がわいてきた。商人に護衛として雇われている所を見ると、添花は普段ひとり旅をしている。家族がいないというなら、結婚もしていない。真結と同じくひとりなのだ。もしかしたら、友人はいるのかもしれないが。
「……俺の声が、聞こえるか?」
穏やかになった真結の心に、水を差す声が聞こえた。膜が張ったような、耳にまとわりつく冷たい音だった。
添花は呆れた呟きをこぼし、僅かに眉を寄せる。
「間の悪い奴……ごめん真結、ちょっと待ってて」
霊の身であるからか、真結も直感的にわかった。あの声は悪霊になりかけた霊のものだ。辺りに姿がないか見回すが、いない。代わりに機場から出てきた商人が、添花に手を振る姿をみつけた。町の入り口の方に集まって、道中お世話になりました、いえいえそんな、と尋常のやりとりをしている。そのうち、添花の後ろに濃紺のもやが現れた。
「なに……あれ」
嫌な感じがして、真結は目を細めた。徐々に、もやが人の形を成していくように見える。そっと近付くと、色は違えど向こうの景色が透けている。金色に光る双眸は不気味だが、男の霊だ。
「俺達は、このまま隣の秋桜に行く。本音を言うと、付いて来てもらいたいんだが……姉ちゃんにも旅の目的があるんだろう?」
「ええ、まあ」
添花と商人の会話などおかまいなしに、男の霊は浅葱色の袖に手を伸ばした。
「なあ、声が聞こえるんだよな」
「知人に会いに行こうと思っているんです」
霊の声を無視して商人との話を続けながら、添花は揺すられる左肩に力を込め、平静を装った。体の向きを変えて、妙に皺の寄った袖を商人から隠す。
「秋桜はどちらの方角ですか」
よく声色を変えずにいる。霊の指は肩に食い込んでいた。ただ待ってはいられず、真結は男の霊を止めに入った。もう自分は死んでいると思うと、悪霊もさほど怖くない。
「ねえ、話の終わりくらい待ちなさいよ」
「お前、も……聞こえるのか」
男の霊は真結に目線を移し、添花の肩から手を離す。生きた人間に触れられる程、この男の念は強いのだろう。まともに向き合うと、背筋がぞくりとした。真結よりも、ずっと遠くにある何かを睨むような目は虚ろだ。
「そりゃ聞こえるわよ。私、幽霊だもの」
こうしている間に、早く添花が商人との話を終わらせてくれればいい。頑張って喋るという経験を、まさか死んだ後に積むとは。真結は怯むまいと背筋を伸ばした。
「幽霊……誰かに、殺されたのか」
「なんでそうなるの? 病気よ。その言葉からすると、あんたは殺されたみたいね」
「ゥウ……」
まずい言い方をしたのか、悪霊は低く唸って身を震わせた。目の光が強まる。瞬間、添花はその様子を横目に見て、次の言葉を選んだ。
「では、一度水仙の町に戻って行く道になりますね。それだと、間に合わないかな……」
もう一度添花が悪霊に向ける目は、何か言えと催促していた。
「白扇……し、しらおおぎ、シラオオギ!」
人物か町の名が出れば具体的に行き先を示せるから、護衛の続きを断るのも自然だ。思惑を汲み取ったのかはわからないが、悪霊は隣町の名を連呼した。
「私は白扇に行く予定なんです」
「ああ、逆方向になっちまうな。それじゃあ仕方ない、また道中で護衛を雇うとするよ。今なら仕入れが済んで、金もないしな。これで……恐らく水仙までは、盗賊に狙われんだろう」
商人の懐から出てきた紙包みは、添花の手に渡る。ここまでの護衛の報酬だ。八重紬の流通経路は昔から決まっているから、盗品はさばけない。言葉の通り、次の町までは安全だ。彼らと添花の旅はここまでとなる。商人と別れて、冬夏の町にひとりとなった余所者に向く町人の目は、厳しいものに変わるだろう。
報酬を荷物に加えると肩を回して、添花は小さく息をついた。
「真結、ありがとう……それにしても、あんた。間の悪い時に出てこないでよ」
礼を言って歩き出し、今度は悪霊に言葉を向ける。町中でひとり立っているのは、端から見ると不審だ。人の耳を避ける意味もあると気付き、真結は添花を追いかけた。少し遅れて悪霊も付いてくる。
「盗賊……トウゾク、は、この辺りにも、いるのか」
添花の文句を聞いているのかどうか、目の光を揺らす悪霊はぶつぶつ言った。
「屑め……」
さっぱり会話にならないが、盗賊を憎んでいる事はよくわかった。傾き始めた陽を見つめる横顔は影そのもので、霊である真結からも表情を隠している。
「うーん、宿でぶつぶつ言ってたら怪しまれそう、かな」
会話を半ば諦めた添花の呟きは、真結を気にしてのものに聞こえた。
(生きてる間は、誰かが気にしてくれてるなんて思ったことなかったけど。添花、私を放って行くの悪いなって顔してる……たぶん)
旅人なら野宿の心得もあるだろう。町の外なら霊との話もしやすい。ついでに、真結は幼い夢を思い出して、添花に提案してみることにした。
「町は居心地悪いだろうから、野宿はどう? そういえば私、昔は町から出るのが夢だったのよ」
「そっか。じゃあ、話は道々聞くことにするよ。町から出よう」
頷きあう真結と添花をよそに、悪霊はまだ夕日を睨んでいた。
「もうすぐ……俺が殺された時間だ」
「少し来ない間に、そんなことに。残念ですね、彼女ほどの職人は滅多にいないのに」
「まあ……この機場がここまで大きくなったのは、ある意味では彼女のおかげですからね。職人としては、非常に残念です」
話題は真結のことのようだ。職人としては、なんてわざわざ強く言うのは、人としては惜しくないという意味に聞こえた。
(ふん、最高の褒め言葉だよ。扱いにくい奴だったことくらい、わかってる)
正面奥、経験の長い職人の機が置かれた部屋へと扉を通過する。今日は真結の葬儀に出て、誰もいない。後ろから機の音がするはずなのに、いやに静まり返って感じる。部屋に入ってすぐ左、いつもの機は静かにたたずんでいた。生地はもう巻き取って倉庫に入れたのか、ここにはない。
八重紬の木には礼を言ってまわったが、相棒と言うべき機にはまだ挨拶していなかった。
「ありがとう」
触れるように手をかざしても機の感触はない。
「ありがとう……」
長年使い込んだ風合い、すべすべの木の肌触り。踏木の重さ、梭をくぐらせる音。よく覚えている。道具には道具の癖があり、使ううちに職人の癖もつく。相棒というより、これは真結の分身に近いものなのかもしれない。
しばらく座り込み、他の言葉が浮かばず礼をくり返した。それから、共に作り上げた最後の作品を見るため、真結は倉庫を目指した。格付けの部屋に戻って、左の奥だ。
たくさんの木箱が並ぶ中、織られて間もない上物から探す。織り方は紋並八重紬、冬夏の紋を地模様としてうっすら浮かび上がらせた、難しい生地だ。
(……あった。等級は二番め、だけど手間のかかる紋並なんて、私以外に織れる人はほとんどいないもの)
本来は箱の蓋裏に職人が記名する。これに関しては機場長の代筆か無記名になっているはずだ。
(最上級じゃないのは残念ね。でもきっと、これが最後の作品)
死ぬ間際に何をしていたか。添花に聞かれてから、記憶がどんどん鮮明になった。
始まりは、ただの風邪。それが医者にかかる頃には随分と悪くなっていた。仕事に打ち込むあまり、休むことを忘れた体はぼろぼろだったのだ。治療を受けて大人しくしていても、持ち直すかどうか。病院で養生するよう言われたが、断った。ゆっくり寝ていて三日くらい寿命が伸びるより、六日寿命が縮んでも布を織る方が、真結にとっては価値があった。最後ならば、技術の粋を。そうして、紋並を織ることにした。
(箱に入っているなら、完成はしたのね。納得……したくなくてもこれが現実)
掌に目を落とすと、向こうに床が透けて見える。この世に留まっても布は織れないのに、成仏はまだらしい。
(ほら。壁だってすり抜ける、生きている人間には見えない幽霊なのよ。他にも何か心残りがあるっていうの?)
倉庫の外に出ると、少し離れて添花が立っていた。なんとなく、彼女の方に足が向く。
「後悔しないように生きるって、難しいのね」
「そうみたいだね」
選んだ言葉が淡白でも、添花の言い方に少し優しさを感じた。沢山の幽霊と関わっているから、真結の気持ちに理解があるのかもしれない。
「私、八重紬の職人だから。布を織って死ぬなら、本望と思ってた。人にも、そう言ったことがある」
八重紬の蕾が、晴れた空と爽やかに調和している。あの花は、ひとつの木にたくさん仲良く咲く。
「いいよね、花は。咲いても散ってもきれいで。思ったように死んだくせに、この世に残ってる自分が嫌になるよ」
自嘲気味に言った時、ぱさ、と微かな音がした。蕾のひとつが、咲くのを待たずに落ちたらしい。
一瞬、添花の様子が変わる。素早く辺りを見回して、表情を引き締めた。
「どうかした?」
「いや、別に……」
首を横に振る割に、顔色が悪い。冬夏を訪れた当初に探していた、悪霊のなりかけを見つけたのだろうか。
少し張りつめた空気の中、真結は他に思い残したことを考えてみた。八重紬の新しい紋様や、最適な糸の張り具合、頭の中はきめ細かく美しい布のことで一杯だった。とことん仕事人間だ。何が引っかかるのか、さっぱりわからない。
「真結、あんた家族はいないの?」
「いないよ。あの世に行けば、会えるかもね」
静かな間、添花も真結の未練を考えていたようだ。しかし、真結に兄弟姉妹はいないし、両親は向こうで待っている。彼女のあとに残るのは、八重紬だけだ。
「添花は?」
なんとなく、質問を返してみる。
「いないよ」
簡潔に答える横顔に、親近感がわいてきた。商人に護衛として雇われている所を見ると、添花は普段ひとり旅をしている。家族がいないというなら、結婚もしていない。真結と同じくひとりなのだ。もしかしたら、友人はいるのかもしれないが。
「……俺の声が、聞こえるか?」
穏やかになった真結の心に、水を差す声が聞こえた。膜が張ったような、耳にまとわりつく冷たい音だった。
添花は呆れた呟きをこぼし、僅かに眉を寄せる。
「間の悪い奴……ごめん真結、ちょっと待ってて」
霊の身であるからか、真結も直感的にわかった。あの声は悪霊になりかけた霊のものだ。辺りに姿がないか見回すが、いない。代わりに機場から出てきた商人が、添花に手を振る姿をみつけた。町の入り口の方に集まって、道中お世話になりました、いえいえそんな、と尋常のやりとりをしている。そのうち、添花の後ろに濃紺のもやが現れた。
「なに……あれ」
嫌な感じがして、真結は目を細めた。徐々に、もやが人の形を成していくように見える。そっと近付くと、色は違えど向こうの景色が透けている。金色に光る双眸は不気味だが、男の霊だ。
「俺達は、このまま隣の秋桜に行く。本音を言うと、付いて来てもらいたいんだが……姉ちゃんにも旅の目的があるんだろう?」
「ええ、まあ」
添花と商人の会話などおかまいなしに、男の霊は浅葱色の袖に手を伸ばした。
「なあ、声が聞こえるんだよな」
「知人に会いに行こうと思っているんです」
霊の声を無視して商人との話を続けながら、添花は揺すられる左肩に力を込め、平静を装った。体の向きを変えて、妙に皺の寄った袖を商人から隠す。
「秋桜はどちらの方角ですか」
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「ねえ、話の終わりくらい待ちなさいよ」
「お前、も……聞こえるのか」
男の霊は真結に目線を移し、添花の肩から手を離す。生きた人間に触れられる程、この男の念は強いのだろう。まともに向き合うと、背筋がぞくりとした。真結よりも、ずっと遠くにある何かを睨むような目は虚ろだ。
「そりゃ聞こえるわよ。私、幽霊だもの」
こうしている間に、早く添花が商人との話を終わらせてくれればいい。頑張って喋るという経験を、まさか死んだ後に積むとは。真結は怯むまいと背筋を伸ばした。
「幽霊……誰かに、殺されたのか」
「なんでそうなるの? 病気よ。その言葉からすると、あんたは殺されたみたいね」
「ゥウ……」
まずい言い方をしたのか、悪霊は低く唸って身を震わせた。目の光が強まる。瞬間、添花はその様子を横目に見て、次の言葉を選んだ。
「では、一度水仙の町に戻って行く道になりますね。それだと、間に合わないかな……」
もう一度添花が悪霊に向ける目は、何か言えと催促していた。
「白扇……し、しらおおぎ、シラオオギ!」
人物か町の名が出れば具体的に行き先を示せるから、護衛の続きを断るのも自然だ。思惑を汲み取ったのかはわからないが、悪霊は隣町の名を連呼した。
「私は白扇に行く予定なんです」
「ああ、逆方向になっちまうな。それじゃあ仕方ない、また道中で護衛を雇うとするよ。今なら仕入れが済んで、金もないしな。これで……恐らく水仙までは、盗賊に狙われんだろう」
商人の懐から出てきた紙包みは、添花の手に渡る。ここまでの護衛の報酬だ。八重紬の流通経路は昔から決まっているから、盗品はさばけない。言葉の通り、次の町までは安全だ。彼らと添花の旅はここまでとなる。商人と別れて、冬夏の町にひとりとなった余所者に向く町人の目は、厳しいものに変わるだろう。
報酬を荷物に加えると肩を回して、添花は小さく息をついた。
「真結、ありがとう……それにしても、あんた。間の悪い時に出てこないでよ」
礼を言って歩き出し、今度は悪霊に言葉を向ける。町中でひとり立っているのは、端から見ると不審だ。人の耳を避ける意味もあると気付き、真結は添花を追いかけた。少し遅れて悪霊も付いてくる。
「盗賊……トウゾク、は、この辺りにも、いるのか」
添花の文句を聞いているのかどうか、目の光を揺らす悪霊はぶつぶつ言った。
「屑め……」
さっぱり会話にならないが、盗賊を憎んでいる事はよくわかった。傾き始めた陽を見つめる横顔は影そのもので、霊である真結からも表情を隠している。
「うーん、宿でぶつぶつ言ってたら怪しまれそう、かな」
会話を半ば諦めた添花の呟きは、真結を気にしてのものに聞こえた。
(生きてる間は、誰かが気にしてくれてるなんて思ったことなかったけど。添花、私を放って行くの悪いなって顔してる……たぶん)
旅人なら野宿の心得もあるだろう。町の外なら霊との話もしやすい。ついでに、真結は幼い夢を思い出して、添花に提案してみることにした。
「町は居心地悪いだろうから、野宿はどう? そういえば私、昔は町から出るのが夢だったのよ」
「そっか。じゃあ、話は道々聞くことにするよ。町から出よう」
頷きあう真結と添花をよそに、悪霊はまだ夕日を睨んでいた。
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