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【本編後】蓮が咲いたら
ちっちゃいおじさん 1
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おかえり参りに合わせた紅龍の帰郷は、竜の紅蓮の訓練も兼ねている。数日は我慢していてくれたが、やはり地元より湿度のある気候に馴染まないようだ。添花を墓参りに行った翌日、紅龍を乗せて赤暁龍の道場へと帰って行った。
天気が良かったので、添花はざっと家の掃除をしたら埃が落ち着くまで外出する。青藍龍の道場へ挨拶に行き、旅のことを報告した。
「白緑龍の大師範から手紙を預かりました。奇しくもはっきりした繋がりが出来たのだから、本格的に仲直りしようと思って……ですって」
伝言を淡々と述べるから、向こうの大師範の口調とさっぱり似ていない。こちらの大師範はつい笑って、添花に怪訝な顔をさせた。
「奇しくも……か。確かにな。手紙は受け取るから安心しろ、お前の言い方が面白いだけだ」
「普通に言っただけなのに」
口を尖らせそうな準師範の前で、大師範は早速手紙を開封する。時候の挨拶などが書かれているだろう冒頭を過ぎると、すぐに目が飛び出しそうなほど見開いた。
「添花……岩龍地区に行くというのは、これまでの足跡を辿る一例だとばかり」
「あれ? 言ってませんでしたっけ。半分は門下生だったんですよ」
「そこじゃない! 助かったからいいようなものの。全く、お前たちは家族揃って心臓に悪い」
魂割れと、そこからの生還と研究への協力。協力の理由として、添花が白緑龍の掟を破ったこと。自分でも話す気があった諸々が手紙に綴られていたようだ。
「やっぱり、母のようには上手にとぼけられませんね。発つ前に話したら心配されるし、私も大丈夫だと言う自信がありませんでした。魂のあれこれに詳しいのは、白緑龍ですから」
肩をすくめる添花の前で、大師範は片手で顔を覆うと見せかけて目頭を抑えている。父と同じ時期に師範を務めていたはずだし、一家との関わりは深い。睦まじい夫婦、幼くして親を亡くし支え合ってきた兄妹、町を守って息絶えた青士をずっと見てきた。
「俺を大きいおじちゃんとか言ってた子が、大きくなったもんだなあ。いや、もう子ども扱いする時期じゃないわけだ」
顔を覆っていた手で膝を叩いて、大師範はにやりと笑う。
「添花準師範。しばらく道場で様子を見たら、お前にも外部からの依頼を預けてみようと思う」
「はい。規模の大きい商人の護衛とか、害獣の駆除ですよね」
「そうだ。遠方の仕事でも、〈用〉があれば行ってくれるだろ?」
これまで成仏を助けた霊がいた場所は、いくつもの地区にある。添花と道場の双方に益がある提案だし、変な心配をかけずに済む。当然はきはきと返事をした。
「なくても行きますよ。その責任があります」
久しぶりに故郷で暮らしながら、懐かしい道場で鍛錬を重ねる。指南役をつけて近場の依頼を少しこなしたら、やけに小慣れていると首を傾げられた。
「路銀稼ぎに、雇われ護衛のようなことをしていたか」
「ええ。でもここの門下だって触れ回ってはないですよ。帯章持ってませんし」
帯章とは、本来は準師範あたりの力を付けたら依頼を受ける責任者として持つものだ。添花は若かったし、準師範になったのは町を飛び出す少し前。今のような研修をする間もなかった。指南役は口をへの字に曲げる。
「真面目か屁理屈か判断に困るが。次の依頼は翔雲と行ってもらうから、今日は帯章はお預けだな。あとで大師範から詳しい話がある」
つまり、ある程度大きな案件ということ。翔雲は師範だから、添花は補佐として同行して依頼を預かることができる。彼と一緒に大師範の部屋に入る時、添花は少し緊張した。
「おお、待っていた。笹熊から入った依頼が少し妙なものでな、添花に行ってほしいんだ」
「私に?」
なるほど、緊張したのは予感のせいだ。添花の霊能力を知っている者は大師範と他数名の師範だけ。翔雲はその中のひとり。妙な依頼の方向性が見えてくる。
「隣町は震え上がっているようですが、本当にそういう案件なんですか? 俺はどうも人が仕掛けたものに思えます」
「その可能性もある。真偽が見える目があれば話が早いだろう」
依頼主は笹熊に拠点がある商人だ。価値の高い鉱石を扱うので、悪い輩に警戒する必要があった。雇われ護衛をして食っている腕っ節自慢を雇うこともあるが、今回は事情が違うらしい。
隣の地区へ向かう道の途中、左右が森になっている。薄暗いその場所では怪奇現象が相次いで、怪我をする人や消える人が後をたたない。
「怪我人はだいたい荷物を落としているし、消えたのは商人だ。人はおろか、金品もそっくり消えるときた。木立が手形だらけだって話で、それが何だか確かめようにも霊媒師はいない」
「では、盗賊なんかが小芝居で脅かしていると分かればそれなりの対応。本当に怪奇だったら……添花、何とかなるもんか?」
「話が通じないほどの悪霊や、妖の類じゃ無理ですね。私ほとんど見えるだけで、お払いが出来るわけじゃないですから」
「ふむ。その場合は分かる限りの情報を集めて土器地区にでも相談するか」
現象を霊によるものではないと確かめるにも、この力は役に立つのか。出来ることの幅が広がった気がして、添花は少し肩が軽くなった。
天気が良かったので、添花はざっと家の掃除をしたら埃が落ち着くまで外出する。青藍龍の道場へ挨拶に行き、旅のことを報告した。
「白緑龍の大師範から手紙を預かりました。奇しくもはっきりした繋がりが出来たのだから、本格的に仲直りしようと思って……ですって」
伝言を淡々と述べるから、向こうの大師範の口調とさっぱり似ていない。こちらの大師範はつい笑って、添花に怪訝な顔をさせた。
「奇しくも……か。確かにな。手紙は受け取るから安心しろ、お前の言い方が面白いだけだ」
「普通に言っただけなのに」
口を尖らせそうな準師範の前で、大師範は早速手紙を開封する。時候の挨拶などが書かれているだろう冒頭を過ぎると、すぐに目が飛び出しそうなほど見開いた。
「添花……岩龍地区に行くというのは、これまでの足跡を辿る一例だとばかり」
「あれ? 言ってませんでしたっけ。半分は門下生だったんですよ」
「そこじゃない! 助かったからいいようなものの。全く、お前たちは家族揃って心臓に悪い」
魂割れと、そこからの生還と研究への協力。協力の理由として、添花が白緑龍の掟を破ったこと。自分でも話す気があった諸々が手紙に綴られていたようだ。
「やっぱり、母のようには上手にとぼけられませんね。発つ前に話したら心配されるし、私も大丈夫だと言う自信がありませんでした。魂のあれこれに詳しいのは、白緑龍ですから」
肩をすくめる添花の前で、大師範は片手で顔を覆うと見せかけて目頭を抑えている。父と同じ時期に師範を務めていたはずだし、一家との関わりは深い。睦まじい夫婦、幼くして親を亡くし支え合ってきた兄妹、町を守って息絶えた青士をずっと見てきた。
「俺を大きいおじちゃんとか言ってた子が、大きくなったもんだなあ。いや、もう子ども扱いする時期じゃないわけだ」
顔を覆っていた手で膝を叩いて、大師範はにやりと笑う。
「添花準師範。しばらく道場で様子を見たら、お前にも外部からの依頼を預けてみようと思う」
「はい。規模の大きい商人の護衛とか、害獣の駆除ですよね」
「そうだ。遠方の仕事でも、〈用〉があれば行ってくれるだろ?」
これまで成仏を助けた霊がいた場所は、いくつもの地区にある。添花と道場の双方に益がある提案だし、変な心配をかけずに済む。当然はきはきと返事をした。
「なくても行きますよ。その責任があります」
久しぶりに故郷で暮らしながら、懐かしい道場で鍛錬を重ねる。指南役をつけて近場の依頼を少しこなしたら、やけに小慣れていると首を傾げられた。
「路銀稼ぎに、雇われ護衛のようなことをしていたか」
「ええ。でもここの門下だって触れ回ってはないですよ。帯章持ってませんし」
帯章とは、本来は準師範あたりの力を付けたら依頼を受ける責任者として持つものだ。添花は若かったし、準師範になったのは町を飛び出す少し前。今のような研修をする間もなかった。指南役は口をへの字に曲げる。
「真面目か屁理屈か判断に困るが。次の依頼は翔雲と行ってもらうから、今日は帯章はお預けだな。あとで大師範から詳しい話がある」
つまり、ある程度大きな案件ということ。翔雲は師範だから、添花は補佐として同行して依頼を預かることができる。彼と一緒に大師範の部屋に入る時、添花は少し緊張した。
「おお、待っていた。笹熊から入った依頼が少し妙なものでな、添花に行ってほしいんだ」
「私に?」
なるほど、緊張したのは予感のせいだ。添花の霊能力を知っている者は大師範と他数名の師範だけ。翔雲はその中のひとり。妙な依頼の方向性が見えてくる。
「隣町は震え上がっているようですが、本当にそういう案件なんですか? 俺はどうも人が仕掛けたものに思えます」
「その可能性もある。真偽が見える目があれば話が早いだろう」
依頼主は笹熊に拠点がある商人だ。価値の高い鉱石を扱うので、悪い輩に警戒する必要があった。雇われ護衛をして食っている腕っ節自慢を雇うこともあるが、今回は事情が違うらしい。
隣の地区へ向かう道の途中、左右が森になっている。薄暗いその場所では怪奇現象が相次いで、怪我をする人や消える人が後をたたない。
「怪我人はだいたい荷物を落としているし、消えたのは商人だ。人はおろか、金品もそっくり消えるときた。木立が手形だらけだって話で、それが何だか確かめようにも霊媒師はいない」
「では、盗賊なんかが小芝居で脅かしていると分かればそれなりの対応。本当に怪奇だったら……添花、何とかなるもんか?」
「話が通じないほどの悪霊や、妖の類じゃ無理ですね。私ほとんど見えるだけで、お払いが出来るわけじゃないですから」
「ふむ。その場合は分かる限りの情報を集めて土器地区にでも相談するか」
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