蓮の呼び声

こま

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【本編後】蓮が咲いたら

赤と青と緑と 2

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 紅龍と紅蓮が蓮橋に着いた時、添花は道場に入る依頼を振り分けられて不在だった。自然と、前は頑なに帰郷しなかった己を振り返る。きっと彼女がいない故郷に帰りたくなかったのだ。今は添花も戻って来ると確信があるから、不在を知っても心は揺れない。
 前に紅蓮を連れてきた時から、道場脇に簡易的な竜舎がある。場所を借りるし、師範達に挨拶をしたい。顔を出したら、今度は手合わせよりも色々聞かれる羽目になった。
「添花さんと一緒に、すげぇでかい竜と戦ったって本当?」
「びゅんびゅん飛んですごかったって聞いたの、あの紅蓮って竜がびゅんびゅん?」
 ちびっこの聞くことは可愛いものだ。答えられる範囲で事実だけを話す。霊能のことを言いふらしてはないだろうし、変な尾鰭がついたら後で怒られる。
 面倒なのは十代のませた子ども達で、紅龍と添花の関係をあれこれ勘繰る。中には、ふたりが一緒にひとつの傘に入っているのを見た子もいた。
「相合傘なんて、親子じゃなければコイビトがすることでしょ?」
「そりゃ親子ではないけど。添花とは兄弟みたいなもんだからなぁ、傘くらい。みんな兄弟となら同じ傘に入るだろ」
 同年代から色恋方面で突かれると照れてしまうが、子どもの目線はどこか的外れだから平気な振りが出来る。
「でも紅龍さん、添花さんに勝ったことないって聞いたぞ。オヨメさんの方が強いって変じゃねえ?」
「うん、お嫁さんじゃないからな。それにお嫁さんが強い家もあるんだぞ」
「それ知ってる! かかあでんかっていうやつ」
「そういう言葉があるくらいだから、お嫁さんが強い家も変ではないよ。家族みんな幸せならいいと思う」
 柔らかい言葉を選んで子ども達と向き合う紅龍が、ある師範の目には特別に映る。添花の兄とも兄弟のように育ったからこそ、紅龍には青士の面影があった。
「紅龍、今回も大師範に用があるんだろ」
「翔雲師範。ここにいるってことは、大師範は今お手隙ですか」
「おう、行ってこい」
 紅龍を送り出してからにやりと笑って、翔雲はこそこそ子ども達と輪になる。
「ほらな、添花とだいたい同じこと言ってたろ。あいつら惚れたはれたとか何も考えてないよ」
 人当たりは悪くないが、打ち解けるには時間がかかる性格の添花。交わせる言葉の増えて来た子達が冷やかしはじめたこの頃、話の意図を理解できずに困っていた。あの準師範は色恋に鈍感だし、ませた子の言い回しは簡潔さに欠ける。子ども達は淡白な受け答えから気持ちが見えず、じりじりしていた。
 そこで翔雲の提案に乗って、紅龍にもだいたい同じ問いをかけてみたのだ。似たような答えが返って来ても、彼の声や表情にはきちんと心が見える。
「とりあえず、仲はいいけどコイビトじゃないのは分かった」
「な。お似合いだと思うんだけどなあ」
 いちばん冷やかしたくてじりじりしているのは翔雲だとはつゆ知らず、紅龍は赤暁龍の大師範から預かった手紙を届けに行った。

 道場での用事が片づけば、実家でゆっくりする時間が出来る。紅龍は早速、父親に自分の思いつきを話してみる。
「今、三大龍派で名実共に和解しようって流れだろ。それで例えばさ、竜鱗の他の町にも飛竜が住めたらいいなと思ったんだ」
「話が飛ぶなぁ、どういうことだ?」
「飛竜便の拠点を増やすってこと。利益を共有すれば道場同士の繋がりになるし、拠点まわりの短距離の届け物が早くなる。それに」
 利便の話は後から考えたことだ。赤の大師範に将来像のひとつを見せられ、紅龍がいちばんに浮かべたのは紅蓮の顔だった。
「孤児竜の保護が人間の奢りなのは分かってる。それでも紅蓮みたいな子が生きる道を作りたい」
「なるほど……でかくなる種類の奴は、竜鱗の岩窟じゃ限界がある。木材で自由に建屋を作れる町にも住めるならってことか。気性が大人しいって条件付きだろうが」
「やっぱりそれも心配な所か。あと、俺は蓮橋生まれだから慣れてるけど、親父の感覚だとここの気候はどう? 竜が暮らしていけるかな」
 蓮橋と竜鱗は直線距離では近いが、深い渓谷を挟んでいるし山も境目になる。空気が違うのは肌で感じられた。
 地域によって棲息する動物は違う。蓮橋が属する駆竜地区には地走り竜しかおらず、飛竜がいない理由が地形か気候かで思い付きは頓挫する。道場に提案する前に見込みが知りたい。
「短い滞在で見切るのは難しいぞ。紅蓮も最初は嫌がってたし、気候に慣れても土地によって流行る病が違う。人も竜もそこは同じだ。しかし、分からねぇってことは協力して調べていけるってこった。白緑龍を巻き込むには良い提案なんじゃねえか? やれ、賢いこと考えるなぁ」
「大師範達はもう考えてるかもしれないよ。立場のためにいつまでも機を見てるなら、俺みたいな奴が言い出せば……言えるかな」
 赤暁龍へ修行に出る前の紅龍では、こういうことを思い付いても頭の中にしまっておいただろう。進める道を模索して、家族の前だけでも言葉にできるのは大きな成長だ。親としては、もう一歩のために背中を押したい。
「俺はもう聞いたからな。うっかり俺の口が滑らないうちに自分で言えよ」
 こういう脅かし文句は何度も聞いているが、いつも言いそうな振りをするだけ。今度は振りすらさせないつもりだ。
「ああ。そろそろ歳は一人前だもんな」
 年が明けたら、青の大師範から返事の手紙を預かって竜鱗へ戻る。飛竜便の拠点を増やす提案はまだ添花には内緒。背中を押されず、退路を断たずで進めてこそ、自分の歩みと胸を張れる。
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